ロマリア城の北方に位置するカザーブの村。
今の刻は人々が寝静まっている時間。
その村の東に建つ道具屋の奥の一室でブラウンのローブを着た人物が宝箱を開けた。
中には毒針と呼ばれるアイテムが入っている。
頭からフードをすっぽりと被った人物だが口元だけはボンヤリと窓から入り込む月明かりで照らされ、照らされた口は少し微笑んでいるのが判る。
道具屋の主人はベッドの上でいびきをかいてぐっすりだ。
ラリホーで眠らせているので朝までは起きる事はない。
ただそれでも大きな音を耳元で鳴らせば飛び起きる可能性もある。
起きられると厄介だ。
泥棒と間違われ…というか黙って宝箱から盗んでいるのだから泥棒ではある。
『かつて』はどうしても毒針が欲しくてやってしまった小さな悪事を思い出しローブの人物は苦笑する。
当時は暫く罪悪感で夜も眠れなかった。
しかし今はもうそんな些細な小さな事には動じなくなってしまった。
再びここに来たのは当時の自分とその時代が懐かしくてその苦い思い出に浸りたかっただけ。
「…懐かしい…」
そうあの頃。
仲間たちと共に旅をしたあの頃。
苦しい戦いの日々。
過酷な旅。
それらはもう過去の思い出にしか過ぎない。
「さて…と」
毒針を宝箱に戻して蓋を閉める。
今この毒針は必要ない。
敵の急所を突いて一撃で倒せる毒針。
かつてメタルスライムやはぐれメタルを倒す為に毒針を使って戦ったのは良い思い出だ。
しかし今は必要ない。
仮にメタル系スライムを倒す必要があってもドラゴラムの魔法で竜に変身して火炎を吐けば全て片付く。
毒針は必要ない。
「私の悪い癖ね」
過去に浸る癖は抜けない。
だって楽しかったから。
そして彼との思い出。
その昔、愛の思い出というアイテムがあり奴隷船で死んだ男性と岬から身を投げた女性を再び引き合わせ天国へ旅立たせた事を思い出す。
「さて、行きましょうか」
カザーブの東の広大な土地に集結しつつある数百のモンスター群。
魔王の命によりカザーブの村を襲う為に集結した。
かつてはカザーブ村を拠点に勇者や仲間やカザーブの人々、武道家が団結しモンスター群と激闘を繰り広げた。
そして犠牲を出しながらも私達はモンスター達を全滅させた。
その戦いは明日始まる。
「犠牲を出さない…よね?」
彼が望むのは犠牲を出さない戦い。
ならば方法は一つ。
自分一人がモンスターの群れと戦い全滅させる事。
かつては数百のモンスターは怖い相手であり一人で倒すなど不可能だった。
そう、あの当時の自分には。
高い魔力と上級魔法、そして七つの杖を所持している今、負ける要素は何もない。