イシスを統べる女王パトラ。
絶世の美女と呼ばれ魔王ですらその美しさの前では平伏すだろうとまで言われている。
しかしパトラからすれば美しさは一時のものであり褒め称えられたところで何にもならず、ただ無意味なモノにしか過ぎない。
「……」
パトラは薄っすらと目を開ける。
ベッドの周りには侍女達が床で眠っている。
玉座の間から階段を上りその城の一番高いところにある女王の寝室。
階段は魔法の扉によって閉ざされており魔法の鍵か解除魔法を使わなければ侵入はできないようになっている。
あるいは城の城壁を登ってくるか飛んで上空からくるか。
城壁をよじ登ってくるのは余程凄腕の盗賊でも不可能だろう。
空を飛行してくるのは翼のあるモンスターでもなければ無理であり、今のところ空飛ぶモンスターが侵入してきた事はない。
「パトラよ…」
不意にパトラの耳元に男の声が聞こえた。
その声には聞き覚えがある。
そう、侵入してこれるのは他にもいた。
肉体を持たない霊である。
「久しぶりですね、ファラオ」
「うむ」
古代イシスの王だった亡霊。
亡霊というのは語弊がある。
イシスの守護神という呼び方もある。
パトラが知っているのは二人。
一人はイシスの城の地下に存在している王の霊。
もう一人はピラミッドの地下深くに眠る王の霊。
パトラに語りかけてきたのはイシスの城の地下に眠っている王の亡霊だ。
パトラはイシスの地下にいる霊を守護ファラオと呼んでいる。
これはイシスを建国した初代の王がファラオという名前だったが、その個人名はやがて王を指す名称となり何代目ファラオとかという言われ方になっていった。
このイシスの地下に眠るファラオは七代目のファラオだろう。
だろうというのは本人がそう語った訳ではないからだ。
しかしイシス城の地下に祀られているイシスの三大秘宝と呼ばれる星降る腕輪を守っている辺り、その秘宝に因む伝説を持つ王は七代目のファラオだ。
「貴方が眠りから醒められるとは珍しいですね、何かございましたか?」
「うむ、この王城に魔物が侵入しておる」
「魔物?…またそれも実に珍しい事ですね」
「ピラミッドにも魔物が侵入しておるぞ」
「ピラミッドですか?」
ピラミッドが魔物の巣窟になっているのは今に始まった事ではない。
しかしピラミッドには王家の墓を守る呪いの王がいる。
ピラミッドに無断で入った者は呪いの洗礼を受ける。
ミイラ男やマミーは呪いの王の配下であり、魔王配下のモンスター達も呪いの王の影響でピラミッド内では王の支配下に置かれている。
ピラミッドに入って無事に出られるのは王家の血を引く者か、その王家の血を継ぎし者の許可を得た者のみだ。
呪いの王の力は凄まじく宝目当てに侵入した者は発狂するか呪いを受けて変死するかして終わる。
パトラはその恐るべき王の亡霊を呪いのファラオと呼んでいる。
魔物が侵入していると伝えてきたという事は、その呪いのファラオの力に屈しない強力なモンスターが侵入してきた事を表しているのだろう。
「気をつけよ……」
そう言ってファラオの亡霊は目の前から消え去った。
亡霊は多くは語らない、ただ要点だけ伝えにくるのみだ。
「城中に魔物です…か…」
ピラミッドも気になるが今は城中に入っているという魔物を見つけるのが先決だ。