うつらうつら…。
老人は椅子に座りながら浅い眠りの中にあった。
年のせいか最近は日中でも眠る事が多い。
その中で夢を見る。
大抵はただの夢だが時として何か未来に起こる出来事を夢で見たりする。
予知夢に近い…いや、予知夢そのものだ。
最近よく見る夢は勇者と呼ばれる若者に盗賊の鍵を渡す事。
勇者と呼ばれる若者、それが誰なのかはハッキリしている。
勇者オルテガの子だ。
アリアハン城下で育っているオルテガの意思を継ぐ者。
16歳の誕生日にアリアハンを旅立つと聞いている。
つまりは今年だ。
アリアハンは四方を海に囲まれた島であり脱出するには船を使うしかない。
あるいは島の東方に位置するいざないの洞窟から旅の扉を使って遥か北西に位置する大国ロマリアに行くパターンもある。
しかしそのいざないの洞窟の入り口は巨大な壁によって遮られ入る者を拒む。
その壁を壊すには魔法の玉が必要だ。
レーベの村には魔法の玉を作れる職人がいる。
だが家の扉には盗賊の鍵を使わなければ侵入は出来ないようになっている。
その盗賊の鍵はこの老人が所有している。
つまり勇者は船を手に入れない限りこのナジミの塔の頂上まで来て鍵を受け取るしかない。
「ぐぅぐぅ…」
近年は勇者に鍵を渡す夢、それが多かった。
ただこの数日は違う夢を見る。
勇者、戦士、魔法使い、そしてそのシルエットは恐らく賢者であろう女性。
何せ賢者は老人も実際に見た事はなく文献や人聞き程度でしか知らない。
だから恐らく賢者であろう。
その若者四人が戦っている相手は魔王…と思われる。
これまた魔王は見た事がないので「だろう」としか形容できない。
夢の中での大戦闘、そして長い戦いの末に勇者の一撃で魔王は倒された。
「ふが…」
老人が眠りから覚めて目を開けた時に、目の前に若者が立っていた。
まさしく今しがた魔王を倒した勇者だ。
オルテガの子。
しかし他の三人は老人が夢の中で見た勇者の仲間とは違っていた。
戦士、魔法使い、賢者ではなく盗賊、商人、そして遊び人…?。
「来たか勇者よ」
「はい」
「儂は幾度も夢を見た、この鍵をお主に渡す夢をな、だからこの盗賊の鍵をお前に渡そう」
勇者は静かに鍵を受け取った。
まるでこの事を知っていたかのように堂々としている。
その落ち着きのある姿はオルテガそのものだ。
老人はオルテガを知っているし魔王討伐の際にアリアハン大陸からロマリアまで行くのを手伝ったこともある、
ロマリアに旅立っていく颯爽としたオルテガの姿は未だにハッキリと覚えている。
だからその父の意思を継いで魔王討伐に出ようという子を見ると目頭が熱くなってくる。
鍵を受け取り勇者は階段を降りていった。
老人は夢の続きを見る為に再び眠りにつこうとしたが何か違和感を感じた。
「はて?」
遥か昔に夢ではなく実際に勇者に鍵を渡した事がある気がするからだ。
そう、何か同じ事があった気がする。
「気のせいか…?」
余りにも多くの予知夢を見ているせいだろう…と老人は思い再び夢の中に沈んでいった。