この世の中には人智を超える力が存在している。
アリアハンの城から北西に位置するのどかな村レーベ。
その村の東南にある一角で村の若者が必死に岩を押していた。
そう必死に。
しかし岩はビクともしない。
どんなに頑張っても動かない岩。
スライムや大ガラスなんて一撃で倒せる。
一角ウサギも多少は手こずるが倒せる。
フロッガーや大アリクイは苦戦はするが倒せる。
バブルスライムも倒した事はある。
毒を受けて大変だったが。
スライムのくせに毒を持っているなんてあり得ない。
何なんだ一体。
サソリバチも何とか倒せる。
問題なのは魔法を使えるモンスター達だ。
これは勝てない。
人面蝶とかいうモンスターはマヌーサとかいう魔法を使って幻を見せてくる。
こちらの攻撃は当たらずむこうからの攻撃で一方的だ。
これは勝てない。
まほうつかいとかいうモンスターはメラを撃ってくる。
火の玉を受けると相当のダメージになる。
これは勝てない。
アルミラージとかいうモンスターはラリホーとかいう魔法を使って眠らせてくる。
眠らされたら終わりだ。
これも勝てない。
ホイミスライムはホイミを唱えて傷を回復させる。
スライムのくせに回復魔法を使うなよとは思う。
何なんだ一体。
ホイミばかり使ってくるので負けはしないが攻撃してもすぐに傷を回復させてしまうので勝てもしない。
要するにモンスターというのは理不尽であり狡猾であり凶暴だ。
とても人間の勝てる相手ではない。
遥か向こうの大陸ではアリアハンよりも強いモンスターがうじゃうじゃ居るという。
とても人間の勝てる相手ではない。
しかし押してビクともしない岩を見ながら若者は考える。
世の中には恐ろしいモンスターもいるが驚異的な力を持つ人間も存在すると。
数日前の事だ。
邪魔な岩をどけようと必死に押していた側で若い四人組がやってきた。
自分よりは少し年下だろう子達。
そのリーダーの子は岩を軽々と動かしたのだ。
驚くべき事だった。
自分がいくら頑張って押しても全く動かなかった岩が簡単に動いたのだ。
一体どんな力の持ち主なのか?。
「あ、小さなメダルだ」
偶然にも動かされた岩の下から小さなメダルが出てきた。
これは世界中に散らばるとされるアイテムでアリアハン城下でこれを集めているおじさん、通称メダルおじさんが居る事はこのレーベでも比較的知られている。
こんなモノに何の価値があるのかは知らないが、集めて持っていくと貴重なアイテムと交換してくれるという。
何やら宣伝しまくっていてアリアハンに住む人間なら名前ぐらいは知っている筈だ。
しかしリーダーの子は知らないという。
メダルの事もメダルおじさんの事も。
連れの仲間達は知っているようだがリーダーの子は知らないのだ。
これは一体どういう事だろう?。
情報の乏しい集落から来たならともかくメダルおじさんが居るアリアハン城下から来てメダルおじさんの事を知らないなんて。
いや、興味がなければそんなものか?。
そう言えば自分も興味はない。
そうメダルなんてどうでも良い事だ。
問題なのは岩を軽く動かせる事。
まてよ、この子達の姿は…。
冒険者の格好。
魔王退治の為に勇者達がアリアハンを出発したという。
つまりはこのリーダーの子はあの英雄オルテガの子供という事だ。
勇者オルテガの伝説は名高い。
アリアハン中で知らないモノはそれこそいない。
小さなメダルを知らなくてもオルテガの名前を知らない人間は絶対にいない。
小さなメダルなんて知らなくてもオルテガが魔王配下のモンスターと戦い火山の火口から落ちて死んだ事を知らない人間は絶対にいない。
「おお凄い、その力がやがて役に立つ時がくるでしょう」
オルテガの意思を継ぎ魔王退治に行こうとしている勇者に会えた感動から咄嗟に言ってしまったが後悔はない。
役に立たなかったらどうするのか?なんて考える必要もない。
魔王討伐の旅なのだ。
役に立たない訳がない。
そう、あのオルテガの子に会えて実際にその人間離れした力を目の当たりにできた事に感謝である。
この子は絶対に魔王を倒せるだろう。
それはそれとして…もしかしたら鍛えれば自分も同じ事が出来るんじゃないかという淡い期待を持って今日も岩を押し続ける