イースタン・アーカイブ ~ファンタズム・ロータス~ 作:hh9528
先生の下ろした腕と同時に、最初に閃光を放ったのは紫だった。
質の悪い黒色火薬が燃焼し、濃い煙を吐き出す。
『煙幕……!?』
ナグサは素早く踏み込みながら、白蓮を素早く速射する。
「おい、あれ……!」
「あっ……!」
レンゲとユカリは驚愕した。
ナグサの電光石火の強襲も目を見張るものだったが、その隣のコクリコも全く同じ手札を切っていた。
姿勢も、射撃の間隔も。ほぼ一致する百花繚乱式強襲術。
白と黒、今の百花繚乱の頂点と過去の頂点が一対の蝶のように躍り出て、重い弾丸をかすめながら疾走する。
煙の中からまた一つの閃光。二丁目のフリントロックから火花が噴き出る。
『二発とも外れた、旧式の銃なら装填に時間がかかる! このチャンスを逃せば……!』
ナグサの祈りに近い判断と決意で、白蓮に意識を集中させると、冷たい冷気が集まり始め青い光を放ち始めた。
その瞬間コクリコが叫ぶ。
「背後にも目を向けよ!」
え?
カァン!
ナグサは鈍い一撃が、背中の真ん中に直撃する感覚に、息をすることも忘れて体が固まった。
弾は幾何学的な方向に跳ね飛び、跳ね飛び、正確にナグサの背後で炸裂した。
普通、弾は一度跳ねればほとんど勢いを失うのが常識だった。
しかし紫の弾は常識を打ち破る一撃となり、完璧な奇襲を成功させた。
ナグサが重心を失い、地面に薙ぎ倒された。コクリコは装填の問題までナグサと同じ判断を下したのか、体をひねりながら背筋の凍るような暗黒を宿した弾を素早く吐き出した。
命中したかどうかは不気味なほど断言できなかった。
煙幕のように広がる濃い硝煙の中で、当たったかどうかが見えなかった。それでもコクリコはナグサより速い速度で疾走しながら装填を終えた。
ドン、ドン。
霧の中から再び二発の銃声。今度はコクリコを正直に狙って直進するフリントロックの弾丸。一発は妙な方向へ跳ね、もう一発は頬をかすめた。
『ゴム弾……!』
最悪だ。人の情けを期待したわけではなかったが、痛みは予想できる。
そもそも弾丸には大した意味がない。ならば、制圧力と破壊力を捨てて痛みだけを追求するその戦い方に、いまだに床をついてなかなか体を起こせないナグサの理由を察した。
だがこれで……我の勝ちだ……!
コクリコが銃を水平に合わせ、閃光の根源へ、自分のすべての技量を注ぎ込む。不吉で、粘ついた影のような神秘をーー
コクリコは息を呑んだ。目を閉じるしかなかった。吐き出したいほどの痛みが大きすぎて、喉に引っかかる感じだった。
煙の果てに、紫は二丁のフリントロックを手にしていた。
床には、四丁のフリントロックが転がっていた。
足の甲に命中した弾。そして、跳弾して脇腹と太ももの内側に食い込む二つの弾丸。
コクリコが痛みを無視して引き金を引いた。
ドスッ、弾丸が紫に命中した。
しかし弾丸はまるで粘度の高い泥に吸い込まれるように、何の余韻も残せないまま、紫の体の中へと吸収された。まるで、白蓮でない武器で怪談を攻撃するように。
これまでの攻撃を、紫は一発も避けていなかったということだ。
コクリコはそのままへたり込んだ。覚悟はしていたが、意志を超える痛みに本能的に体が固まったのだった。
紫は次の銃二丁を抜く。どこから?
残念ながらその一つ一つの行為が、今はコクリコだけがかろうじて見えていた。外野の見物人たちは皆、濃い硝煙の中で火花が散るのを見ているだけだろうから。
二丁のフリントロックがコクリコを狙う。
引き金にかかった指がじわじわと縮まる。
その瞬間、煙を突き抜けて青い冷気をまとった弾が紫の頭に直撃し、紫の体がよろめいた。
しかしよろめきながら、二発のうち一発がナグサへ正確に発射され、肩に直撃した。
起き上がれず、うつ伏せの姿勢から全力を尽くした一撃だったが……ナグサはコクリコと同様に、悲鳴一つあげられず目をぎゅっと閉じたまま痛みを噛み殺していた。
「そこまで!」
先生が急いで手を振りながら戦場に割り込んだ。
硝煙が少しずつ晴れ、へたり込んだまま首の下にフリントロックを突きつけられているコクリコと、うつ伏せのまま肩を押さえているナグサ。
そして愉快そうな笑みを満面に浮かべている八雲紫の額には、わずかな血が滲んで一筋の線を頬に引いていた。
「……勝者は……遠野の生徒会長。八雲紫」
「そんな……! コクリコ様!」
「ナグサ先輩……!」
先生は皆が大きな怪我をしていないか心配しながらも、ナグサを支えながら八雲紫をまっすぐ見据えて、
「でも勝者として、この状況を明快に説明してほしい」
八雲紫は軽く頷き、二丁のフリントロックを懐にしまった。
コクリコの視線が、床に転がっているはずの自分の銃へと向いたが、そこには何もなかった。
―
皆が沈黙に沈んでいた。ナグサを支える百花繚乱の子たち。敵意を収めた遠野の子たちは花鳥風月部を気にかける。
紫だけが離れたところで着物を払いながら山麓を見据えている。額に滲んだ血はとうに止まっていた。
一連の百花繚乱と花鳥風月部の確執は、この状況では大して意味がなかった。互いに気まずそうに様子を見ながら紫を見つめていた。
「まず、百鬼夜行からいらしたお客様方、うちの子たちの最初のお友達の方々。少々乱暴な手段を使ったことをお詫び申し上げます」
八雲紫は顔を向けて丁寧に頭を下げた。
「そして、生意気な子どもたちを守るために尽力してくださった私のお客様方。同様に、状況を鎮めるために強引な手段を取ったことをお詫び申し上げます」
重ねて、花鳥風月部の方向へ頭を下げる。
「遠野という地で起きていること。そして私どもが直面している問題について……」
紫は頭を下げたまま厳かに言う。
「皆さまのお力が必要です」
その姿に、勝者として堂々とすべき、しかし重ねて丁寧に協力を請う紫の低い態度に、皆が驚いた。
「遠野の地はもともと、少々『忘れられたもの』たちが集まる場所なのです。日常から離れたと誤解されているもの。おどろおどろしい話の主人公たち」
紫はゆっくりと体を山へと向けた。
「日常の中で無邪気ないたずら者から、ただ悪意と殺意の塊である荒々しいあやかしまで。今では理性によって否定されたものたち」
「目を塞いでも、あるものをないとは言えぬように。着実に、ここに積み重なっています」
紫は顔を向けてコクリコとシュロ、そしてアザミを見据えた。顔には笑みが浮かんでいたが、その笑みに好意だけが込められているわけではなかった。
「そうしているうちに誰かが、彼らが内包している恐怖を借り使い始めました。象徴性を借り、名前を変えて自分のものであるかのように」
怪談。
ただ出回っている怪談ではなく、怪奇を引き連れる彼らの怪談。
「自分のものが無断で使われていると気づいたなら、当然然るべき行動を取るでしょう。ここ最近、バザーを境に彼らの行動が一層激しくなりました。もともと派閥の多い彼らですが、一つにまとまるとなると、遠野だけでは防ぎきれないでしょうね」
ナグサはまだずきずきする肩を押さえる。襟元が乱れると同時に表情も歪んだ。
「でも……あなたも人間じゃないって白蓮が……」
冷や汗を流しながらそう言うナグサ。先ほどまでの説明なら、八雲紫もまたその多くの派閥の一つであるというには十分に合理的な判断になり得た。その言葉に紫は肩をすくめて、
「クズノハのおもちゃはさておき、私は『今は』遠野の生徒会長、八雲紫ですので」
とぼける。
その様子にコクリコは、シュロとアザミを傍から離さないまま、
「……確かに我たちの行いが引き金だというなら、お前の立場からすれば、ただ徴収して終わりにすれば済む話。なにゆえ、この崩れかけた廃墟を守ろうというかえ?」
「はあ。やっぱり、厄介な子の保護者ですね」
紫は気にも留めず手のひらを広げて口元を隠しながらほほほと笑う。しかし真剣な瞳で、
「子どもを守ることの、どこがおかしいというのかしら?」
先生はその表情に。疑い、憂い、疑問を手放した。
「……紫の言葉に嘘はないと思う。十分な説明ではないかもしれないけど。私は紫を信じる。私たちは何をすればいい?」
その態度に皆が、とりあえず溢れ出る疑問をひとまず脇へ置いた。
「二人の勘解由小路の血筋に提案をしましょう」
「え?」
「……」
突然の指名に驚くユカリと、憎むべき家名で呼ばれたことに一瞬頭が真っ白になって煮え立ったコクリコ。
「怪異を制御し、宥め、封じる方法はいくつかありますが。お二人にも馴染みのあることではないかと思いまして」
「提案はこうです。遠野と共に戦ってくださるなら、学校として正式に恩を受けたものと受け取ります。『巫女』としてもお力を貸してくださるなら、なお一層。個人的な恩として受け取りましょう」
紫は再び山の稜線の向こうを見据えながら、
「百鬼夜行には、大きな借りを作ることになり」
「花鳥風月には、その借りを白紙に戻す方法をお教えすると提案します」
何より八雲紫はコクリコをより鋭く見据えた。
勘解由小路ユカリはさておき、あなただけは選択肢がないとでも言うように。
「身共は……え……、先生とナグサ先輩がよければ力を……でも巫女としてなんて、身共はもう巫女では……」
「ふふ。他がのための巫女ではありませんよ」
「!」
「今回は見せ場も、期待に応えなければならないというようなことでもありません。怪異を浄化し、調伏し、退治する。いわゆるスピリチュアルでステレオタイプな領域ですから。」
紫はユカリを見つめながら周りの様子を窺った。
残るはコクリコだ。
最も切実だが、最も非協力的な。
彼女の心を知ってか知らずか、山の稜線の向こうから突然振動が激しくなる。
急激に黄昏が差し込む空。
金属を引き裂くような怪声が天地を揺らす。
「彼らが狙っているのはあなたでもありますが、あの子たちも同じです」
紫の生臭い笑みに、コクリコは目をぎゅっと閉じて同意した。
「では、先生。私どもは準備をしてまいりますので、指揮よろしくお願いいたします」
八雲紫はそう言って、カデノコウジ・ユカリとコクリコを連れて生徒会室へと上がっていった。
残された子たちは目をぱちくりさせていたが、もう一度炸裂する大きな咆哮にぎょっとして現実へと引き戻された。先生も同様だった。
「やるしかないね」
先生はシッテムの箱を持ち上げ、文字通り。学籍に関わりなく、この場にいるすべての生徒たちを集結させた。