イースタン・アーカイブ ~ファンタズム・ロータス~   作:hh9528

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第2話「田舎というのは」

 静かな散歩だった。

少女は相変わらず微笑みを浮かべたまま余裕をもって歩いていたが、これといった言葉はなかった。

人見知りな子なのだろうか? 先に何か話しかけようともしたが、その度に少女の白いレトリバーが草むらやあぜ道のような場所に鼻を突っ込んでクンクンと嗅ぎ回るのを、少女はただ静かに待ってあげるだけだった。

 

どこかその姿が一枚の絵のようで、先生はなかなか声をかけることができなかった。

 

果てしなく広がるような田畑の道だったが、気がつけばいつの間にか光がすっかり色褪せた森の道に入っていた。

険しくはないが管理が行き届いておらず、辛うじて人の手が加えられているという感じだけを与える苔むした石段。そこを踏みしめて登っていくと、ツルが絡まった鳥居と小さな分校サイズの学校が目に入り始めた。ほとんど崩れかけの廃墟ではないかと、先生は内心感嘆した。

 

いつ崩れてもおかしくないほど古びていたが、正門にはピカピカに磨かれた表札が、確かにここが「遠野極東学園」であることを知らせていた。

 

「あ、本当にありがとう。ええっと…私はシャーレの…」

 

先生は少女に感謝の挨拶をしようとした。

道に迷うという感覚が錯覚に思えるほど短い距離に感じたが、どういうわけかあのままなら自分は必ず道に迷っていただろうと確信した。しかし犬も、少女もすでにどこにも姿がなかった。

 

生温かい風が一度吹き荒れ、先生はどこか狐につままれたような気分で瞬きだけを繰り返し、頭の中の混乱を落ち着かせた。

 

先生は間抜けな表情を完全に取り繕えないまま、のそのそと正門へと近づいた。

木陰の下、かなり暗くなった学校はロウソクなのか電球なのか分からない黄色い照明が一つ二つと点灯し始めており、正門の近くで地団駄を踏んでいる一人の子供の姿が照らされ始めた。

 

「うぅ…私ってば、バカ…! 一番大事な連絡先を残さないでどうするのよ…! バカバカ…! 先生がもし道に迷ったりでもしたら…いや、そもそもいつ来るのか知る術もないし…。今からでもターミナルに居座ろうかな? ううん、それじゃ残りの仕事が片付かないじゃない…!」

 

他のウサギに比べて細長いウサギの耳が、薄いピンク色の髪の上にシワシワに折り畳まれており、不安そうにあちこち動く瞳は真っ赤に光っていた。

平均より高い身長に、教科書でしか見たことがないような古い様式の改良着物。

その上には防弾プレートを入れられる戦術ベストを着込んでいた。プラスチックのような黒地にポップな赤色で装飾されたアサルトライフルは、崩れかけのこの学校とは違い、D.U.シラトリ区コウサギタウンにあるSRT特殊学園の『RABBIT小隊』を見ているような気分になる装備の様式だった。

 

きっと彼女がレイセンなのだろう。先生はジャケットと鞄を肩にかけたまま大股で近づいた。

 

「やあ」

 

そして愛想よく声をかけた。同時に、予想もしていなかった見知らぬ声に、レイセンは「ピギャッ!」と悲鳴を上げてピョーンと跳び上がった。

耳からはバネでもついているかのように「ビヨーン!」と耳が広がり、レイセンはバタバタと駆け寄ってきた。

 

「も、もしかしてシャーレから来られた先生ですか?!」

 

その声は非常に高揚していた。目を輝かせ、地獄で蜘蛛の糸でも見つけたかのように感激に満ちていた。

 

「あ、うん。初めまして。シャーレの先生です」

 

先生は軽く挨拶をして手を差し出した。握手のサインだった。

 

「あっ、はい! 私は…! コホン、私は遠野極東学園の生徒副会長、レイセンと申します!」

 

レイセンは恭しく両手で先生の手を握り、軽く振った。そして少し不思議そうに首を傾げて尋ねた。

 

「初めて来る人は大抵道に迷うことが多いんですけど、無事に到着されたようでよかったです。やはりシャーレの先生は噂通りですね?」

 

「ある親切な住民が道を教えてくれたんだ。なんとか到着することに成功したみたいだね」

 

「住…民、ですか?」

 

レイセンは妙な表情で何かを思い出そうとしたが、先生の登場にすぐさま好奇心旺盛な生徒たちが集まり始め、周囲が騒がしくなり始めた。

先生を案内した少女とは違って、よりファンシーな金髪に赤いリボンが目を引く赤い目の生徒。そしてピンク色の髪がふくらはぎまで伸びるロングヘアの、しかし表情の変化が全く読み取れない生徒。二人の子供がレイセンにトコトコと近づいてきた。

 

「レイセン。この大人は?」

 

そのうちのピンク髪の無表情な生徒が、レイセンの背中に隠れるように立ち、顔だけをひょっこり出して尋ねた。

レイセンに話しかけていたが、視線は明確に先生を向いていた。レイセンは「ふぅ」と息を一度整え、落ち着いた表情で彼女たちを紹介した。

 

「こちらは同じ生徒会所属。書記の秦ココロです」

 

そして金髪にリボンを結んだ可愛い生徒を見つめながら言葉を継ぐ。

 

「あちらは生徒会所属。会計のルミアですし」

 

先生は少し驚いた。キヴォトスではよくある名前の様式ではない。

百鬼夜行の「フィーナ」を思い浮かべた先生は、彼女たちもどこか遠い場所から転校してきた生徒ではないだろうかという純粋な好奇心が湧いた。

ルミアはその姿を真っ直ぐに立って後ろ手に組んだまま、上半身を左右に揺らして見つめ、にっこりと笑ってみせた。

 

「やあ。シャーレの先生だよ。レイセンのお願いを受けてやって来たんだ」

 

先生の挨拶が終わると、二人の周囲にまるで花が咲いたようにパッと明るくなった。

ルミアはピョンピョン飛び跳ねて「わあーっ!」と声を上げ、ココロは無表情だが鼻息を「フンス、フンス」と吹き出しながらバタバタと足踏みをし、ポンポンとレイセンの背中を弱く叩いた。

 

レイセンは「もう、仕事を押し付けようとして喜んでるのが見え見えだからね。

先生は本当に重要な仕事をするために来られたんだから、押し付けようとなんてしないで、自分にできる仕事は責任を持ってやるのよ」と前髪をかき上げながら脅しをかけた。

 

「先生、先生! シャーレって大きいところなんですよね?」

 

ピョンピョン跳ねていたルミアはいつの間にか先生の腕にピタッとくっつき、顔を上げてキラキラした視線を送った。

レイセンの言葉は半分聞き流しているようだった。先生は「一人で使うにはちょっと大きいのは確かだね」と優しく答えた。

 

ルミアはテンションの上がったレトリバーのように先生の腕を引っ張りながら「じゃあ、お菓子とかも種類がすっごくたくさんあるんですね?」と笑った。

 

ココロもいつの間にか先生のそばに立ち、「フンス、フンス!」と次の質問は自分だと言わんばかりに無表情で腕をブンブンと振った。

先生はその純粋な笑顔に、自分が思い描いていた田舎の少女たちの素朴さに心が和むようだった。

 

「先生。騙されちゃダメですよ」

 

レイセンが真剣な表情でハッキリと言い、足元の錆びた工具箱を持ち上げた。

そしてすぐさまルミアとココロに「仕事は終わったの?!」という威圧的な視線を送ると、明らかに二人はがっかりした素振りを見せた。

 

「絶対に仕事を押し付けたり、自分たちが楽をしようと企んだりしますからね。さあ、シッシッ。私はこれから先生に学校を案内しなきゃいけないから戻って」

 

ジト目になったレイセンは背を向けて先生を見つめた。

もうすっかり暮れて真っ暗になった遠野の夜に、赤い瞳がツヤツヤと光っていた。

 

「今日は遅いので、先生の客室から案内しますね。遠くから来られたのだから、ゆっくり休んだ方がいいと思いまして。遠野の夜は危険ですから」

 

その言葉。「遠野の夜」という言葉に他の二人も納得したように先生から少し離れた。

ココロがルミアの頭を撫でながら「言葉の通り。もっと遅くなる前に休むのが正解。先生、質問は明日するね」と言い、ルミアは素朴な笑顔で「また明日~」と大げさに手を振った。

 

先生はレイセンの案内に従って校舎の裏手へと歩いていった。途中の自然のまま放置された道を渡り、今にも崩れそうな小さな部屋に到着した。

湿気に濡れ、ほのかな土の匂いに近い部屋の中の匂い。本当に廃墟も同然のこれが現役の建物であるということに、先生は最初は悪質なイタズラか、部外者に向けられた試練のようなものではないかと疑い始めた。

 

「あの…先生。信じてもらえないかもしれませんが、これが残っている部屋の中で一番状態が良い部屋なんです。うぅ…こんなに早く来られるとは思ってなくて…」

 

しかし、レイセンの本当に申し訳なさそうな謝罪に疑いをすっかり収め、先生は愛想よく笑って「ううん。連絡もなしに突然来たのも私だし。

部屋があるだけでもありがたいよ」と答えた。

 

レイセンは深々とお辞儀をしてから出て行った。

先生は鞄を下ろし、部屋の電気をつけた。黄色い電球がジジッとついたが、寿命が残り少ないのかチカチカと点滅した。静かになった部屋の中には、外の音がさらに鮮明に聞こえてきた。敷かれている寝具に横たわり、静かに電球を見つめながら明日からどんな一日が始まるのかを思い描いた。

 

しかしすぐに天井から「ガタッ」というおかしな気配と、窓枠の隙間から吹き込む風が「キィィィ…」と人の悲鳴に似た音を出しているのを感じ、次第に田舎の現実が鮮明に迫り始めた。

 

簡単にリンへ到着と明日の予定を送ろうとスマートフォンをいじったが、忙しなくWi-Fiの接続が切れてはアンテナ一本を辛うじて維持するのを繰り返していた。

明日から楽しい学校生活が始まるはずなのに。先生はスマートフォンをポイッと枕元に置き、徐々に消えていく自信の中で呟いた。

 

「たぶん…?」

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