イースタン・アーカイブ ~ファンタズム・ロータス~ 作:hh9528
新しき地と、新しき空。
一日の終わりが暮れゆく、神妙な黄金色の黄昏の果て。
随分と長いものね。私はため息交じりの呟きと共に、拾ってきた犬のリードを軽く引いた。
ここに流れ着いてからどれくらい経ったのかしら? 全く思い出せなかった。
シャーレの先生は噂以上に非凡であり、平凡だった。それ自体が偉業に近いのではないかしら。
長い年月を生きてきたけれど、ここキヴォトスのように実に特異な環境は初めて経験するような気がした。
その中で平凡な人間としてここまで名声を築き上げたということが、非凡なのだと思う。
キヴォトスでの時間がそれなりに流れても、霞がかった感覚の中でこの世界の真意は未だに分からない。
私がこのキヴォトスという見知らぬ土地に漂流することになった理由を、依然として世界は何も説明してはくれなかった。
他の世界と同じく世界は未だに沈黙しており、真意を読み解くことは暗号文を解くように疲れることだった。
私はため息をつき、レトリバーを撫でていた手を止めて立ち上がった。
この賢い犬は時間ごとに自分がすべき行動をうっすらとでも理解している。
いくらか可哀想な表情を浮かべながらも、生徒会室を出て行く私を追いかけてはこなかった。
ただその表情のままソファにうつ伏せになり、目で私を見送るだけ。
夜が降りてくる。
遠野の夕暮れは短い。異常なほど長い夕焼けのせいか、あっという間に夜になる。
同時に、私の頭は急速に冴え渡っていった。ここからは私の時間。妖怪の時間。そのはずだったのに。
見知らぬ土地へ逃げるように流れ着いたここ、遠野には妖怪ではなく夜の住人がいる。
妖怪を模倣する異形。「クズノハ」はそれを怪談、あるいは怪異と呼んでいた。
私はこれが、粗末な恐怖をツギハギにして丸めた安っぽいマネキンを見ているようで、不快に感じられた。
さらに暗い場所へと足を踏み入れると、虫たちの鳴き声も遠い木霊のように曖昧になっていく。
人間の幼い生徒なら怯えるであろう安っぽい恐怖装置に、鼻で笑う気にもなれない。
事実、心に余裕がないというのもあるわね。
私の心はすっかり幻想郷に向かっていた。
少しずつ落ち着きを取り戻し、周囲を見渡す時間ができているとはいえ、私のいない幻想郷がどうなっているのか心配になるのはどうしようもないことだった。
藍は…私の式神である藍は、私の指示がなければ危険な目に遭うかもしれない。
幸いにもこの偽物たちが溢れる場所に藍はいないというのが慰めだけれど、心配なものは仕方がない。
「偽物。」 思考が自然と転がっていく。
ここは偽物の世界だ。最初はそう思っていた。
しかし、情報を得る過程で必ずしもそうではないということを知った。
数千の学園があり、生徒たちが自主的に世界を動かす学園都市キヴォトス。多様な学園、多様な生徒…そして青春の物語。
しかし、遠野は違った。私の知る顔、私の知る名前を持った「生徒」。
彼女たちは妖怪ですらなかった。ただ、構成物質が少しだけ「恐怖」に偏っているキヴォトスの原住民。
このアイロニーに、私は行き場のない怒りを感じていた。
ここは息苦しいことこの上ない鳥籠のようだった。少なくとも、私にとっては。
誰かが意図したのなら反吐が出るほどの悪趣味だと言えるし、
ただの偶然の産物であるなら、そんな場所に落ちてしまった自分の不運を嘆くしかない。
私は当たり前の知識たち、結界術、陰陽術、私の能力――境界を操る程度の能力――は、しばらくの間使うことを微塵も試みなかった。
初めてここに流れ着いた日、自分の手で裂いた境界の隙間から吹き出す恐ろしい直感。それは明確に、この世界がその力を使うことを望んでいないという、意思に近い警告を聞いたからだった。
実際、代償もあった。推測するに、能力を使うこと以前に「妖怪としての私」を維持すること自体に支払わなければならない代償。
頭の中の記憶に少しずつズレが生じた。断片化され、霧のように消えていく感覚。違和感を覚えた後、様々な試みを経て私はこの事実を確信することになった。
この世界は、「私である私」を蝕もうとしているということを。
そして、「生徒のフリ」をしていれば大人しく騙されてくれるということを。
私は苛立ちを心の中で引きずりながら引き金を引く。むせ返るような火薬の煙と鈍い音が影を貫く。視線もくれずに歩きながら、思考を再び巡らせる。
なぜ先生を呼ぶよう仕向けたのか。
そして、なぜ直接先生に会話しなかったのか。
短い散歩の間で彼を十分に読み解くことができなかったことは、認めざるを得ない。
しかし、直感というものも、経験からくる貫禄も健在だった。この世界はそういうものまでは奪っていかない。
先生は間違いなく「いい人」だった。むしろ近頃では見られない自己犠牲の塊。「使命を楽しむ求道者」。理想的な青少年の伴侶。
率直に言って、私には不要な存在だった。
例えを出そう。飢えて倒れる寸前に、飲むことのできないオアシスの蜃気楼。むしろ絶望を感じる幻視でしかない。
ただし、全くの無意味というわけではなかった。
私に余裕があったなら、じっくりと解体し、解剖し、耽溺するに値する眩しい魂を持った美味しそうな人間…いわば、生きていくための可能性の道標でもあるのだ。
しかし、認めたくない部分を受け入れなければならない。
ここ、遠野極東学園を完全に存続させるためには、彼の力がなければ不可能だ。
そしてその動機こそが、認めたくない、私の知らない私の心なのだ。なぜ? たかが偽物を守るために借りを満ちるのか?
あの顔たちが。あの名前からくる全く違う行動が。もしかすると、違う環境に生まれた彼女たちの「もしも」を描いたものを眺めているような…どこかくすぐったい楽しさが心の中に居座っているのだ。
このアンビバレンスも、私の機嫌を逆撫でし続けている。理由もなく排出できない苛立ちだけが積もっていると冷徹に自己診断しながら、引き金をもう一度引く。
この異質な闇の終わりは、おそらくないと見た方がいいだろう。しかし少なくとも出口の周辺を整理しておくのは、あの子たちの安全面において重要だ。
だから、なぜ?
感情を整理する時間が必要だ。使っても使っても足りない時間が…。胸に満ちたこの息苦しさだけが、絶えず尾を噛む蛇のように頭の中を巡る。
私は先生を呼ぶようレイセンに仕事を投げた時から、一つの事実を肯定してやり過ごした。
未だにこのキヴォトスの核心は何なのか、キヴォトスの真意と秘密たち。
そして帰郷のための必要条件を未だに知らないということを。
そして、あの先生がいてこそ時間を稼げるということだ。
彼の「人としての深み」を知るまでにはもう少し時間が必要だが、計画の第一歩が順調そうに見えることに慰めを得て、この息苦しさを晴らそう。
そう結論が出た頃には、私は闇の出口の前に立っていた。一周回って、入ってきた出口の入り口へ。その隙間からは、夏の早い夜明けが急速に白み始めていた。
私は足元に転がっている無数の影たちを見下ろす。
殻だけでできている空っぽの恐怖の象徴。何の感傷も浮かばないまま、前へと進む。
虫と鳥たちの声が次第に大きくなり、キヴォトスの現実に抜け出したと感じた私は生徒会室へと足を踏み入れる。
訪れる人間の時間。私は押し寄せる睡魔を噛み殺しながら、古いソファに身を横たえた。
こむぎこが尻尾を振りながらのそのそと歩いてくる。鼻をヒクヒクさせ、私の手の匂いを嗅いではふぅとため息をついた。
私の手が届く場所に背を向けて座り、その鈍重な尻尾で床を掃いていた。
そうして疲労を溶かし、記憶を辿りながら時間を過ごしていると、レイセンが目を擦りながら入ってくる。
だらんと横たわった私の姿を見るなり、何か言おうとモゴモゴしているのを感じた。
「レイセン。先生を呼んでいらっしゃい」
レイセンの返事も反応も、深く沈み込んだソファに遮られた。
…煩くなる前に。少し眠ることにした。