神の側にいたいと心の底から望み。
その為ならば、毎秒毎にすり(つぶ)され、砕かれ、ありとあらゆる悪意と怨念(おんねん)賛美(さんび)歌となり、二度と故郷(こきょう)の惑星の地を踏むことは叶わなくなっても。


それらに対し、平静でありたいのだと言う。
そうなっても人間であると言い切る精神を保ち、相手の涙を見たくないと言う。


──ソレは最早人ではない。
だが彼は言うのだ。ぼくは人間だよ。


あっけらかんと。



自分として共に在れるために。強く、強く、(こいねが)う。

……愛でないのなら、この想いを何と呼ぼうか(端的に言って、気が狂っている)

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※本作は、
ゆっくりゲーム実況者グループ『めめ村』の皆様による
クトゥルフ神話TRPGプレイ動画『Good mourning All』を元にした二次創作です。
 
※本編の重大なネタバレを含みます。

※本来チラシの裏は、ネタと習作のみとの事ですが、原作の特性上、こちらに投稿いたします。

【リプレイ動画】
https://youtu.be/LKAAOTvlHr0?si=kJ2oAMhoIc_Es7OA


ハロー、インフィニティ

 

 

 

 夢を見ていた。

 夢の中でその人は、にこにこと顔を(ほころ)ばせたり、何か思うようにいかなかったのか頭を掻きむしってみたり、あくせくと動き回って小さな、そう、目に見えない小さな小さな生命の誕生を飛び上がって全身で喜んだり。

 そして時に、無表情になる。

 いきなりじゃない。ゆっくり、ゆっくり。きらきらしていた瞳がぼんやりと翳ってくるんだ。

 口数も少なくなる。

 おれは、そんな彼女を見ているのが辛くて、手を伸ばそうとするんだけど、身体が動かない。

 その頃になると、近くでざくざく、小石や岩を踏む音がして、柔らかい何かがおれに触れ。

 その度に、呼び掛ける。

 

 めめさん、見えましたよ。

 星の位置、動きましたね。宇宙には、あんなにはっきり水の跡があるんですね。

 先日は、海に生命が生まれていましたね。

 単細胞生物から多細胞生物になる経緯を、夢現とはいえ、眺められるとは思わなかったです。

 ねえ、めめさん。聞こえますか、めめさん。

 ……ああ、笑ってくれた。

 

 

「…………え。今なんて言ったの」

「いえだから、地球を出ませんか、って」

 愕然(がくぜん)、という言葉がぴったりなほど、目の前の女性は見事に固まった。

 目覚めてからまず真っ先に、めめんともりさんは、おれを日本に連れてきてくれた。正確には、かつて日本があった場所に作られた島国に、だけど。

 他にも、付近の常夏の島国で海水浴をして思い切り日焼けをしたり、見覚えのあるような無いような様式の建築物にある、立入禁止区域にこっそり入り込んでみたり。

 因みに今はそうして忍び込んだ先で、一度背骨を締め折られた後再生しためめんともりさんは、自分を殺した巨大蛇を「あら貴方イケメンね」と言いながら撫でていたりする。

 不老不死って……。

「……まだ、見て回っていない所。沢山あるわよ」

「そうなんですよね、めちゃめちゃ気になる。以前は世界一周旅行とか夢のまた夢だったし」

「じゃあ、どうして?」

 そういやこの人の美的感覚って個性的だったなぁ。いまだに巨大蛇抱き締めてるし。

 あれ、でも。

「私が(よみがえ)らせた世界に、魅力(みりょく)を感じない、とか」

「え。なんでそうなるんですかってめめさん!めめさん蛇!蛇が窒息(ちっそく)しかけてる!」

 怪奇(かいき)。夜間、爬虫類(はちゅうるい)公園の希少(きしょう)種、何者かにチョークスリーパーをかけられ、死亡。そんな新聞の記事が、頭に浮かぶ。

 いやこの首周りの太さ、めめんともりさんの腕じゃ回りきらないから、仮に監視(かんし)カメラに映っていたとしても、しらばっくれればいけるだろうか。

「だって。それって地球にもう興味がないってことでしょ」

「あー、まあ勉学的な意味では、科学や天文学方面に、興味あっても理解できるほどの頭はないですけど」

 悲しいかな自分の頭の悪さは、四十六億年前に思い知っている。

「私、頑張ったのよ。すごく、すごく頑張ったんだから」

「うん、生命がなかなか水中から陸に上がっていかないのにじりじりしてたよね。

……そういえば、めめさん。金星から引いた水に垂らしてたあれ、何?おれが以前飲んだあの樹の水に似た乳白色だったけど、()んできてた様子なかったような」

「私の母乳よ」

「へえ、ぼにゅう。……母乳!?」

 思わずめめんともりさんの胸部に視線がいく。

 は、え、母乳?

「え、ちょっと待って。

母乳って、お乳だよね。赤ちゃんに飲ませる為に、お母さんが出す」

「そうね、山羊乳や牛乳とかと同じね」

「……めめさん、子供、いるの……?」

「いるわよ」

 威力最大のボディブローをまともに食らった。

 思いたいことと真逆の返答で、覚醒(かくせい)して間もないというのに、(すで)にもうあの世に召されそうだ。

 かなりのショックを受け、立ち直るのに時間がかかっていたおれは、彼女が「地球が嫌なわけじゃないのなら……私、だわね」等と、明後日の方向に向かっているのに気付くのが遅れた。

 

「……不老不死なのが、悪いのかしら」

「そう、ですよね。不老不死。長生きしてますもんね。ご結婚経験の一度くらい……ハハ……」

 そうだ。それって、喜ばしい事じゃん。めめんともりさんが神様として永劫(えいごう)の時を過ごしてきた中で、ずっと孤独だったわけではないって証明だ。

 人間にだって、死別での再婚とかあるんだから、神様にだって……。

(ちな)みに今は、旦那さんとお子さんってどうしてるんですか?」

「さあ、知らないわ。でもまあここに蛇がいるんだから、旦那のうち一人は、地球が復活した後にもまた何処(どこ)かで地球に寄ったか、誰かに招来されたかしたみたいね」

「うち、ひと……り」

 あ、追撃。ノックダウン秒読み開始。

 そうかぁ、蛇がいるから旦那さんも。…………うんどういうことだ。

「めめさん、爬虫類(はちゅうるい)がお好きなんじゃなくて、蛇限定で好きなんですか?」

「別にそういうわけじゃないけど。ギョロっとした目とか、チロチロ延びる触手みたいな器官の舌とか、まあ、悪くはないわね」

 そういえばこの人の(けん)族って、最終的にウッチャン……思考力と言語能力のない、完全異形になるんだった。

 え、これ。おれも角生やして爪伸ばさないと、対抗無理なやつか。

「めめさんて結構ゴツいのが趣味ですよね……」

「そうでもないわよ。触覚のある粘液状の奴も旦那だし。一見玉虫色のただの玉な上に、引きこもりだから、滅多(めった)に会うこともないんだけど」

 ストライクゾーン広いな。

「そんなことはどうでもいいのよ。

ぜんくんが不老不死が嫌なのは知ってるわ。

でも、私が不老不死ではなくなるのは無理なのよ。だって神なんですもの。

だから、私が嫌なら離れるから。私の息吹(いぶき)が残っているのが嫌なら、出来るだけ私の痕跡(こんせき)を残さず別の神にツテで連絡をとって、そっちの力を肥大化(ひだいか)させるから。

だから、だからっ……」

「へ、ちょ、えええええ!?何でそんな話に!??」

 ぼろぼろと、大粒の涙を流しはじめてしまっためめんともりさんの目元を拭うべくポケットを(あさ)り、ハンカチがなかったため、仕方なく袖口(そでぐち)で雫を受け止める。

 止まれ止まれ。めめさんはもう泣かなくていい。一生分寂しい思いをしてきてるんだから。

 もう、泣かせない。

「じゃ、じゃあ、どうして。どうして地球から出ていこうなんて、そんなこと言うの」

 ぜんくんに見せたかった世界なのに。貴方の為に張り切ったのに。私が隣に居なくてもいいから、世界を見て回って、喜んで欲しいだけなのに。

 そう(なげ)豊穣(ほうじょう)の女神様は、とても人を生贄(いけにえ)()ばれたとは思えないほどに、慈愛(じあい)に満ちた目をしていて。

 おれはもう何度目か分からない感謝を、彼女に抱く。

 

「だってね、めめさん。おれ、人間に戻ったんだ」

「そうよ、それが貴方の望みだったじゃ」

「『だった』んだよ、めめさん」

 めめんともりさんの手を握り、欲望を語る。

「人としての精神のまま、人としての寿命(じゅみょう)のまま。人としての姿形のまま。色々な経験をしたい。退屈とは無縁(むえん)の日々を歩いてみたい。

──貴女と、一緒に」

 ぱちぱち。()んだ瞳が瞬いて、不思議そうにおれを見ている。

「その為には、強靭(きょうじん)な肉体と、ちょっとやそっとじゃへこたれない精神が必要なんだ。すり(つぶ)されて破壊されて、ミンチにされても(そく)、けろっと再生できる身体が要るんだ。でも残念ながら、地球上には、そんな便利な魔法も技術もない。

……だから、探しに行きたいんだよ。それが、外宇宙だとしても」

 

 何しろめめさんの旦那さんやお子さんにばったりあった時、おれ。「初めましてこんにちはそしてすっこんでろ過去の男」、って挨拶させてもらうでしょう?

 

 (しばら)くその意味を咀嚼(そしゃく)するように沈黙していためめんともりさんは、やがてそわそわと視線をあちこちに彷徨(さまよ)わせ……耳まで顔を赤く染め、小さく、問いを投げかけてきた。

「ぜんくん。……私のこと好きなの?」

「恋愛的な意味ではこれっぽっちも」

 

 みしっ。

 

「ぅあだだだだだだ!!!」

 頭蓋骨(ずがいこつ)!今頭蓋骨から変な音が!!!めめんともりさんのあの細腕の一体どこから人間の頭を握りつぶせる怪力が!?

「私のこと、好きよね?」

「好きですけど!種類が違うというか!」

 聞いてやろうじゃないの、と仁王立(におうだ)ちするめめんともりさんの前に、正座させられた。

 あれおれ何も悪いことしていないはずなんだけどな、おかしいな。大蛇すらすっかり(おび)えて、最早こちらを見ようともしないんですけど。

「えーとですね。地球外に行くと、イソグサだかガタノソアだか知りませんけど、まあ何かしらの神性との厄介(やっかい)事はつきものですよね」

「そうでしょうね。複数の神性が領域を侵されたり同時に存在したりしていながら、争いになっていない、この地球がむしろ珍しいのよ」

 「別にお互いに敵意があるわけではないんだけど……例えるなら、私道を日常道路として利用されている感覚、とでも言えばいいのかしら」だそう。まあそりゃそうか。ごった煮の地球がどうして見逃されているのか、なんて、神々にアンケートしたことがあるわけもなし。

「で、まあ仮にその時、めめさんがご家族と再会して、一緒にいたとします」

 めめんともりさんは、あからさまに、こちらが何を言っているのか分からない、という顔になりつつも、ひとまずはおれの話の続きを促した。

「そこで定番の会話が繰り広げられますよね。

駄目よ、あなたと子供を危険な場所に行かせるわけにはいかないわ。何を言う、お前こそここにいろ子供たちを頼む」

「……アレとかアレとかあの子たちが絶対に言わなさそうな台詞上位だけどまあ、シチュエーションはとりあえず理解したわ」

 人間の定番は不可解ね。言いつつ(まゆ)を寄せるめめんともりさんの定番を逆に知りたい気もするけれど、知ったら後悔する気しかしない。

「で、めめさんは、くるりとこっちを振り向いてこう言うんです。

『さ、善くん行きましょう』」

 

 おれは、めめんともりさんをどうこうしようとは思わないし、なりたいとも思っていない。彼女への想いは、そういう感情とは違う。

 じゃあ何かと問われても……何て呼べばいいんだろう。

 ただ、これだけは約束できるんだ。

 側にいるよ。

 君の隣に、おれはいる。

 おれがそうしたいから、そのために努力する。

 

 最後の台詞を聞いためめんともりさんが、静かにしゃがみこんで、おれと視線を合わせてくる。

 細い腕がおれの首に回され──。

 次の瞬間には、おれ達はその場から消えていた。

 

 

 Iä Shub-Niggurath!!

 強大な神々を差し置き、脆弱(ぜいじゃく)で貧弱で虚弱(きょじゃく)(もろ)くてすぐ壊れる、たかだか人間のおれだけが、彼女から共に行こう、と手を伸ばされるその(よろこ)びよ!!!!


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