お待たせしました(誰も待ってないとは思いますが)
時は少し遡り、「中将」と呼ばれていた海兵が少女と別れた頃。
「……そろそろ出てきな。居るのはわかってるんだよ、そこの二人」
木陰に隠れている人物に呼びかける。すると一人の人影が現れる。
「……おつる中将」
「お前か、ナトレ」
現れたのはシルドの治療をした女海兵だった。彼女はどこか気落ちした様子だった。そしておつると呼ばれた中将はナトレに近づく。
「なぜあの子を行かせた?気づいてたんだろう、抜け出そうとしていたことに」
「……子どもが受け入れるにはつらい悲劇でした。整理する時間が必要だと判断しました。」
「……それでも一人で行かせることはなかったろう。あとで始末書だよ」
「はい、申し訳ありませんでした。」
やれやれと一息つくおつる。しかしその表情はいまだ厳しいままだった。
「……二人って言っただろう。そっちのやつもとっとと出てきな。」
おつるは再び呼びかける。その声には先ほどと違い怒りが含まれていた。呼びかけられたその人物はようやくその姿を現す。
「おぉ怖い怖い。相変わらずお前は怒らせるとおっかない。」
「そっちこそちっとも変わってないじゃないか、ナガト」
現れたその人物は黒絹のような髪を腰まで伸ばした背の高い女性だった。髪と同じ黒を基調とした和服と袴を履き、まるで武人のそれを思わせる外見だった。
「あの子が例の弟子かい?お前にはもったいないほどいい子じゃないか。」
「そうだろうそうだろう。もったいないほどは余計だがとにかくかわいくて仕方がない。」
「ナガト」と呼ばれた女性はシルドの師匠だった。愛弟子を褒められて上機嫌な様子だ。一方おつるはそんなナガトの様子に怪訝な顔を崩さない。
「あの、中将。この方は一体……?」
「あぁ、若いのは知らないか。こいつは……」
「おっと悪いがこっちの話を済ませてからでいいかな。すまんね海兵さん。」
「……まぁただの腐れ縁とでも思ってくれ。」
おつるとナガトは知り合いのようだった。ナガトは気心の知れた仲のように接するが、おつるの方はそんなナガトに辟易しているといったところだ。
「それで?さっさと話してもらおうじゃないか。うちらをわざわざ部隊ごとこんなところまで呼びつけた理由を。」
おつるは不機嫌な様子を隠すことなく問い詰める。
「理由もなにも私のかわりにこの町を守ってほしかっただけだよ。」
「そういうことを聞いてるんじゃないよ。今までこの町を守ってきたお前がこの大海賊時代に留守にしないといけない用事ってのはなんだい」
「いやなに、弟子の修行の準備のためにちょっと遠出する必要があってね。」
「その弟子が殺されそうになってりゃ世話ないだろう。今回のことであの子の父親も他にも大勢死んだんだ。一体なに考えてんだい。」
「いやそれに関してはこっちも想定外だった。出かける前に近くにいた海賊はあらかた片付けていたんだが、思っていたより海賊が湧いてくるペースが早かった。今までの間隔なら間に合っていたはずだったんだ。」
「言い訳にしか聞こえないよ。お前ともあろうものがらしくない。あの頃のお前はどこいったんだい。」
今度はナガトが暗い顔を浮かべた
「おつる、もう私は引退したんだ。いくら私だって平和ボケくらいするさ」
「……まだここに残るつもりかい?」
「当然だ。ここで投げ出してしまえば、ここの人たちを裏切ってしまう。今回のことは私にすべての責任がある。元から離れるつもりなどなかったが、これからは贖罪のためにもこの町を守っていくつもりだ。」
もう手遅れになってしまったが、とつけ加えながら気落ちした様子を見せる。その姿を見ておつるはようやく表情を柔らかくした。
「そうかい……まだ言いたいことはいろいろあるが、ここらで勘弁しといてやるよ。ナトレ、町の復興にはあとどれぐらいかかりそうかい?」
「あっ、はい。完全に復興するにはあと一ヶ月は見たほうがいいですが、主要な建物や被害の大きい建物だけに絞れば1週間もあれば修復できる見込みだそうです。」
「全部含めて1週間で終わらすよ。あいつにも手伝わせればそれくらいで終わるはずさ。」
「もちろん力を貸そう。そこの海兵さん明日からよろしくな。」
「えっ、あっはい。よろしくお願いします。」
訳あり2人の会話についていけていなかったナトレは急な話に戸惑いつつも、一礼を忘れることなくおつるとともに自分らの船に帰っていった。
「中将、一つよろしいでしょうか。」
集会所までの道すがらナトレはおつるに尋ねる。
「あいつのことだろう?」
「はい」
内容は当然、少女の師匠を名乗る先程の女性。おつるとも親しげな様子で気にならないわけがない。しかしナトレが聞きたいのはそれだけではない。
「あの人は一体何なのですか?おつる中将ともお知り合いのようでしたし、なにより彼女が私達の部隊に接触したときです。」
「………」
「私はその時は医務室にいて他の方から話を聞いただけですが、彼女は航海中の我が艦に海上でコンタクトしてきたと。」
「こちらの情報は一切与えていないのに我々の位置を特定し直行できる航海技術も謎ですが、それよりも彼女は船も使わずにこちらに接触してきました。」
「何らかの能力者であることは確かです。しかし皆わからないのです。」
今まで抑えていた疑問をこの機にいっぺんに浴びせかけるナトレ。そして一息おいて一番の疑問を投げかける。
「海上に立ち、滑走するかのように海を渡ったというあの人は一体何者なんですか。」
「………」
おつるはナトレの疑問にすぐには答えなかった。いや、その様子はどう答えるか悩んでいるようだった。
「……あいつのことは私もよくわかっちゃいないんだ。あまり自分のことを話すやつじゃなかったからね。私が言えるのは私が知っていることまでだよ。」
そう言っておつるは謎の多い女、ナガトについて語り始める。
「あいつの能力については私も知らない。聞いても教えちゃくれなかったからね。」
「あいつは私等と同期で元海兵さ。それも一介のもんじゃない。当時のガープ、センゴク、ゼファーと並ぶほどの活躍をしてきたような奴だ。」
「!?それって……!」
「ああ、あいつはその能力と怪力、そして艦隊戦の指揮もこなせる頭脳をもって、中将まで上り詰めた海兵だ。」
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次の日の朝、誰にも気づかれずこっそり戻れた私は目覚めて一番に驚かされることになった。
「おや、起きたかシルド」
「………ししょう?………師匠!?」
師匠が帰ってきていてベッドのすぐそばにいるなんて思ってもみなかった。寝ぼけた頭で状況を整理しようとしているとお母さんも後からやってきた。お母さんは私の様子を見に来ただけですぐに町の復興の手伝いに行くみたいだけど、本題は師匠の話だった。
普段は町の防衛と漁のちょっとした手伝いをしている師匠の長期的な外出。その理由は私の修行の準備をするためだったと聞かされた。ただそのせいで今回の悲劇が起こってしまった、申し訳なかった、と師匠は土下座をしてまで謝った。聞けば私の前にも町の人みんなに同じように謝りまわっていたらしい。
師匠は今回の出来事は全て自分のせいだと言っていたけど、やっぱり私はそう思わない。悪いのは自分たちのことしか考えていないあの海賊たちだ。そもそもあいつらがこの町に来なければ、いや世界にこんなにも海賊があふれていなければこんな理不尽なことは起きなかった。悪いのは全部海賊だ。だから師匠は悪くないと師匠に伝えると、一言ありがとうとだけ言った。お母さんも師匠を責めるつもりはないらしくこれで一件落着だ。
「さて、ここからは町の防衛者としてではなくお前の師匠として話をさせてもらおうか。」
あ、いま空気が変わった。この感じ昨日イヤというほど味わったやつだ。しかも今回はあの師匠だ。私はこれから自分の身に起こることがわかってしまい、あの日とは別の恐怖に身体が震える。
「あ…あの、師匠待って……反省してます。反省してるから待って……」
「私は教えたはずだな。お前の力はまだ未熟で戦闘で使い物にはならないと。そしてこうも言ったな、その力はいたずらに振るうものではないと。」
予想していた通りやっぱりお説教がきた。でも師匠のそれはレベルが違う。文字通り痛いほど身にしみている。
「無論私がいなかったためにお前がそのような行動をとったことは理解している。お前にも言いたいことはあるだろう。だがそれらをすべて棚に上げて、私は言わなくてはならないことがある。」
「あ……あぁ……」
そういいながら師匠は右手の拳を握り構える。私はその姿から目を離すことができなかった。そしてゆっくりと拳が振り上げられ……
「この大馬鹿もんがーーー!!!」
「ヒギャン!!?」
ゴッ!!という鈍い音が響き渡る。そう、師匠のはレベルが違う。絶対に師匠を怒らせてはいけない。身にしみてわかっていたことだった。
そこから始まる長い長いお説教。たっぷり1時間は絞られたように感じた。いつの間にかお母さんはいなくなってた。でも私が師匠に叱られるのは珍しいことじゃないから心配しなくてもいいと思ったんだろう。お説教が終わったら師匠は「今はとにかくその傷を治すことに専念しろ」と言って町の復興の手伝いに行った。長いお説教が終わってヘロヘロだった私は他にやることもないしおとなしく眠ることにした。
それから1週間が経った。町はもうすっかり元通りの姿になった。途中からとはいえ師匠が手伝っていたし、海軍の人たちも協力してくれたからあっという間だった。私の怪我もすでに治り今では飛んだり跳ねたりもできるほどだ。完治したときナトレさんに異常な回復の早さに驚かれた。その海軍の人たちもすでに町を出てしまった。出航の前に中将とナトレさんに一言だけでもあいさつしたかったけど結局会えなくて、しかたなく手紙で渡すことにした。手紙自体は海兵さんに渡せたから二人とも読んでくれると嬉しいな。
そんなこんながありながらいよいよ師匠との修行が始まる。今いるのは師匠のお家兼道場、の門前。いつもなら中で集合だけど今日は外だった。
「ではこれより修行を始める。ついて来い!」
「はい!よろしくお願いします!」
「海兵になるために必要なことを叩き込む。手加減はしないからな!」
歩き出す師匠のあとについていく。
海兵になりたいっていうのは私がまだベッドの上にいたときに師匠とお母さんに話していた。師匠の方は何も言わずに応援してくれたけど、お母さんの方は少し印象に残ってる。私が海兵になりたいと聞いたとき、お母さんは今まで見たこともないくらい真剣な顔で「本気なの?」と聞いてきた。その凄みに思わず気圧されてしまったけど、それと同時にお母さんと同じくらいしっかり答えないといけないと思った。
「うん、本気だよ。誰に何と言われようと私は海兵になる。」
そう言うとお母さんはしばらく考え込んで、やがて
「………わかった。ならお母さんもこれから厳しくするから。簡単にあきらめたりしないこと。いい?」
こうしてお母さんも私の修行を手伝ってくれることになった。お母さんからは一般的な勉強と海兵になっても恥ずかしくない所作、振る舞いを教えてもらうことになった。
そんなことを思い出していると目的地と思われる場所が見えてきた。目の前に山が見えはじめる。その山は近づくごとにどんどん大きくなってより詳細に見えてくる。岩の山だった。
………別に間違いじゃない。『岩山』じゃなくて『岩の山』だ。そもそもこんなところに山なんてなかったはずだ。私の数十倍は絶対にあるほどバカデカい岩が山のように積み上がっている。
「さてシルド、お前には今までその常人離れした力の使い方や制御の仕方を教えてきた。そしてこれからはその力を使った戦い方を教えていく。」
山の前で立ち止まりこちらに振り返って話し始める師匠。そしてついに教えてもらえる力を使った本格的な戦い方…!
「今から教えるこの技は、お前や私のような力を持った者こそ使いこなすことができる。名付けて『鉄甲拳』!!」
「てっこうけん…!!いったいどんなものなのですか!?」
「気になるか…?では教えてやろう。鉄甲拳の真髄とは……!」
さっきからドキドキが止まらない…!いったい鉄甲拳とは…!
「全力で相手をぶん殴ることだ!!」
えぇ〜〜〜………雑ぅ〜〜〜………
「でもそういうの大好きです!!」
「そうだろうそうだろう!さすが我が愛弟子だ!」
あまりにも雑な戦い方だと思うけどそういうシンプルなやり方のほうが私好みだ。俄然ワクワクしてきた…!
「とは言ったがただ殴ればいいというものではない。力を乗せる向きと腕の動きを完全に一致させないといけない。」
「向きと動きを一致……?」
師匠の言うことを咀嚼しようとする私をよそに、師匠は岩の山の中から一つを軽々と持ち上げ私の前に置いた。置いたときにズドォォンと大きな音がして、その衝撃で私の体が少し飛び上がった。私も大概だと思うけど師匠もかなりの馬鹿(力)だと思う。
「力と体を一体としないとインパクトの前に力が分散してしまうんだ。そうならないように力を一点に集中させ押し出すようにたたきつける。イメージとしては自分の体を大砲に、力を弾として撃ち出し炸裂させる感じだ。」
師匠は岩の前に立ち構えを取る。左手を前にかざし右手を腰の後ろあたりに置く正拳の構えだ。ふぅ……、と大きく呼吸してから体を捻り、勢いよく拳が放たれる!
ドッゴォォォォン!!!
豪快でえげつない音が響き渡る。その衝撃の余波だけで周りの木がへし折れそうだった。そんなとんでもないものを受けた岩はというと見事なまでに粉砕されていた。
「エグゥ……」
「これが鉄甲拳だ。普通の正拳と比べて数倍の破壊力はある。今はまっすぐの向きでやってみせたが、別に曲線を描いても構わない。力と体の向きさえ一致していればな。」
そう言ってまた岩を一個取り出し今度は岩に背中を向けるように立った。その姿勢のまま右手を後ろに振り抜く!
ドッバァァァァン!!!
さっきと同じようにとんでもない音が響き、すごい衝撃が走る。岩も当然のように跡形もなくなってしまった。
「お前にはこれができるようになってもらう。最終的にはここにある岩全部破壊できたら修行の7割方が完了だ。」
無茶苦茶なことを言い出した師匠。普通の人だったらこんな修行考えても実行しようなんてまず思わないだろう。師匠はそれをやってしまうんだからいつも困惑させられる。でも………
「…押忍!!ご指導よろしくお願いします!」
不思議と私は見栄でも驕りでもなく、ただシンプルにできないことではないとそう思った。
こうして私の修行の日々が始まった。二人の師匠から教えを受ける日々はなかなか過酷だった。
まず師匠からは鉄甲拳の稽古。鉄甲拳には基礎となる型があって、「殴撃」「砲撃」「重撃」の3つらしい。他にも破壊力特化の「数式」っていうのがあるらしいけど、今は基礎の3つができればいいんだとか。それから鉄甲拳の習得と並行して、基礎体力向上のトレーニングや偉大なる航路の航海法、海戦指揮の勉強まで仕込まれた。どうせ海兵になるのなら、雑用から始めるより士官学校に入ったほうがいいというのは師匠の言葉だ。どれもキツイものだったけど、なかでも特にしんどかったのは泳ぎの特訓だった。泳ぐのは苦手ってほどじゃないけど、それでも海上を滑走する師匠に追いつけなんてまず無理だ。速度も疲労も段違いなんだから。
そういえば修行の合間に師匠のことについて少し聞いてみた。なんで師匠は海の上を走れるのかとか、なんで私だけに修行をつけてくれるのかとか。そしたら師匠はいろんな事を話してくれた。海の上を走るのはやっぱり悪魔の実の能力らしい。実の名前も聞いてみたけど図鑑に載ってなかったからもしかしたら聞き間違えたのかもしれない。そして私に修行をつけてくれるのは師匠と似てるかららしい。師匠も人よりもはるかに力が強くて昔は制御できてなかったみたい。それで私を見て懐かしく思って目をかけるようになったというのが一番の理由だと言っていた。あと私の前にもう一人弟子を取ったことがあることも聞いた。もうその人は亡くなってしまったそうだけど、師匠はその人と私が少し似てたからかもとも言っていた。いろいろ聞いたけど一番驚いたのは師匠が元海軍中将だったことだ。それが衝撃すぎてほかのことが忘れかけそうになったほどだ。どおりで海軍の訓練に詳しいわけだ。
そしてお母さんの方の稽古はいろいろとすごかった。まずお母さんの気合の入り方が違った。普段は優しくて穏やかなお母さんが稽古の時だけピシッとして厳しくなる。お母さんからは敬語の使い方とか淑女らしい振る舞い、普通のお勉強なんかも教えてもらってる。ただ少しでも間違えたりすると叩かれる。別に師匠に比べたら痛くもないんだけど、お母さんに叩かれるっていうのは痛さよりも心にくる。いつものお母さんじゃないみたいで少し悲しかった。でもそれはお母さんがそれだけ本気で私のことを鍛えてくれてるってことだ。その期待に私も応えたかった。
お勉強とかは割とできる方だったけど、敬語とか所作の稽古がかなり苦戦した。普段の言葉とかしぐさを全部矯正していくレベルでしごかれてよく叩かれてしまった。常に正しい敬語を使えなければ一発、大声で笑ったり跳んだり走ったりしたらまた一発。友達と話すときも敬語だしとにかくやりづらかった記憶しかない。友達とのごっこ遊びでお嬢様っぽい話し方や歩き方をしてみたことがあるけど、それと同じことを本気で真面目にやり抜かないと怒られるっていう状況に何度か笑いそうになってしまった。
二人の修行はとても大変なものだったけど私はその修行の日々を過ごしていった。
そして7年後 イアン・シルド14歳
「ふぅ………」
あの巨岩を前にして大きく息を吐く。いつものように、あの日の師匠のように力を拳の一点に集中させ振り抜く。
ドッガァァァァン!!!
けたたましい音と激しい衝撃が周囲を轟かす。拳を受けた岩は跡形もないほど粉々になって吹き飛ぶ。
「見事だ。鉄甲拳のすべての型、しっかりと習得したな。そして……」
「今の岩で最後だ。よくやったなシルド。これで私からの修行は終了だ。」
「ありがとうございました。師匠」
「早いものだな。お前の修行を始めてから7年か。お前が小さかったのがまだ昨日のことのように感じているよ。」
「師匠、私ももう14ですよ。子供扱いしないでください。」
頭を撫でながらそんなことを言う師匠にこちらも不服な表情を隠さずに返す。この7年で言葉も振る舞いもだいぶ身についた。今では誰にでも敬語じゃないとこっちが違和感を覚えるほどに。
「メイさんの方の修行はもう終わったのか?」
「はい。すでに母から修行終了の認定を受けています。」
「そうか、ではあとは旅立ちの準備をするだけか。………さみしくなるな。」
笑顔を見せながらその雰囲気はどこか沈み気味な師匠。もしかすると私もいま同じような表情をしているかもしれない。
「師匠のおかげでここまで来ることができました。本当にありがとうございました。」
「まだそれを言うのは早いぞ。海軍で一番を取ってからもう一度言いに来い。」
お互いにフフッとどちらからともなく笑い合う。
「今日のところは祝宴だな。私の道場で派手にやるぞ。実はメイさんとももう話はつけてあるんだ。」
そう言って歩き出す師匠のあとに私もついて行った。
道場に着くとすでに母上が祝いの準備を済ませて待っていた。師匠は一度寄るところがあると言って途中で別れたので、母上と二人でこの修行期間のことを話しながら待っていた。
しばらく待っているとドタドタと騒がしい足音が近づいてきた。
「シルド!」
「師匠?どうしたのですか、そんなに慌てて」
「すまない少し状況が変わった。急いで切り上げて海軍基地に向かうぞ!」
「え!?それは一体…?」
「説明は一旦あとだとにかく急ぐぞ。」
珍しく要領を得ない師匠の様子に戸惑いつつも言われた通り準備を進める。早食いも修行だと言って無理やりにでも料理を詰め込まれながらも師匠とともに船着き場まで向かう。
「慌ただしい出発になってしまいましたね。」
「すまんメイさん。料理おいしかったよ。」
見送りのために私たちと一緒についてきた母上。すでに出発用のボートに乗った私は振り返って母上と向き合う。母上もすぐに私と目があったことに気づく。
「シルド……」
「母上………ここまで育てていただきありがとうございました。必ずあなたの期待に応えられる海兵となってみせます。」
「………怪我のないようにとは言いません。しっかり励みなさい。そしていつか必ず帰ってくるのですよ。」
母上はそう涙ぐみながら激励する。私はそれを涙を堪えながら受け止める。もう泣かないって決めたから。
「行ってきます!」
「よし、では出すぞ!行きは私が送ろう。そのほうが早い。」
こうして師匠の引くボートから小さくなっていく街を見ながら、故郷の町に別れを告げた。
ちなみに主人公のお母さんはイアン・メイさん。
お父さんはイアン・ソドさんといいます。