聖女はやがて魔女になる   作:北上 楓

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3話 門出と出会い

 

 あれから小一時間が経ち町から最も近い海軍基がある島に到着した。道すがら師匠からそもそもなぜ急に出発したのか聞いてみた。

 

「道場に戻る前軽く基地の様子を見てみたんだが、どうやら今ちょうどいいやつが居るみたいでな。そいつが離れる前にお前を海軍に入らせたかったんだ」

「ちょうどいいやつとは?」

「私の知り合いなんだが少しいろいろあって今顔を合わせづらいんだ。だから送り届けたら私はすぐに立ち去るつもりだ」

 

 よくわからなかったが師匠にも事情があるらしい。

 上陸したとき師匠から書類を手渡された。曰く士官学校への推薦状らしい。

 

「元中将の推薦がどこまで効果があるかわからないが、無いよりはマシなはずだ。海兵に見せればわかってくれるだろう」

「ありがとうございます師匠、最後まで……」

「気にするなこれくらい。っとそうだ忘れるところだった」

 師匠は今度は懐から髪紐を取り出した。青を基調として白の差し色がしてある、華美すぎずしかし確かに上等品だとわかるほどに綺麗なものだった。

 

「これは?」

「餞別にと思ってな。シルドの綺麗な黒髪に似合うと思ったんだ。せっかく女として生まれたんだ、修行だけじゃなくこういう洒落っ気も身に着けねば損だぞ」

 

 師匠から手渡されるそれを丁寧に受け取り懐にしまい込む。それを見た師匠はポカンとしたような顔していた。

 

「……今つけてくれないのか?こういうのってもらってすぐ着けて見せてくれるもんだと思っていたんだが」

「そうなのですか?ですがやはりまだ大切にして保管しておこうと思います。いつかこの髪紐が似合うような女性になれたら見てもらえますか」

「……!そういうことか。ああ、もちろんだ」

 

 いつか成長した私を見せる、その約束を最後に師匠は町へ帰っていった。

 そして私も海軍基地の方へ歩き出す。今日ここから私の夢への道が始まるんだ……!応援してくれた母と師匠のためにも立派な海兵になってみせる!そんな思いで胸をいっぱいにしながらこの果てしない道を歩いていった。

 

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

 

 海軍基地まで着いた私は最初の思いとは裏腹にいきなりトラブルに見舞われてしまった。

 

「士官学校へ入学希望?…………君いくつ?14?そんな歳で?へぇ……」

「……何か問題があるのでしょうか?」

 

 士官学校へ入学の意思を示すと門番をしていた海兵の人たちから疑いの目を隠さずにじーっと見られてしまった。

 

「えっと確か士官学校への入学に年齢の条件は無かったと思いますが…………」

「うん……まぁ……そうなんだけどね…………」

 

 さっきからどこか煮え切らない態度の海兵に少しイライラしてしまう。するともう一人、門番の海兵が会話に参加してきた。

 

「君の言う通り士官学校の入学には年齢の制限はない。極端な話10歳以下の子どもでも入学希望を出すことができる。だがそれを海軍が許可することはないだろう。なぜならそんな子どもが海軍の訓練についていけるはずがないからだ」

「海軍も暇じゃない。ついてこれもしない奴に使う時間も人も金もないんだ。最初から無駄になるとわかっている入学希望者など、受け入れる必要はない」

 

 その海兵は私から目を離さずにそうバッサリと言い切った。

 

「しかしそれでは…………」

「君もしつこいねぇ。つまり君は見込みなさそうだから帰ってくれってこと。あともう2年くらいしたらまた来なよ」

 

 私が食いつこうとすると、今度はさっきの煮え切らない海兵がはっきりと拒絶する。正直ここまで言われるとは思ってなくてかなりショックだった。でもここで帰ったら応援してくれた師匠や母上に申し訳が立たない。私はダメ元で師匠の推薦状を出してみた。

 

「あの、実は推薦状があって……こちらなんですが」

「推薦状?」

 

 

 

 海兵達は怪訝な顔をしながら推薦状を読み進めていく。読み終わったと思われるときにどちらかがつぶやく声が聞こえた。

 

「ナガトって誰だ?そんな中将いたか?」

 

 あ、なんかダメそうだ。まさか師匠がここまで認識されてないとは。でも考えてみれば7年前の時点で海軍辞めてしばらく経ってるって言ってたから、覚えてなくて当たり前か。仕方ないここは諦めて帰るとしよう、そう考えて声をかけようとしたとき……

 

「あの、お手数かけてすみません。私……」

「いったいなんだ、なにを騒いでいる?」

 

 基地から出てきた男性が声をかける。その声につられるようにしてそちらを向いたとき、声の主であるその人から目を離せなくなった。

 高い身長に無駄なく鍛え上げられた筋肉。特徴的な紫の髪とその髪色と同じ色のスーツを着て、海軍のコートを羽織っている人物。その人が鋭い眼光でこちらを見据えながら近づいてくる。私は直感的にこの人が強い人だと感じた。

 

「きょ、教官!?」

「もうお前たちの教官ではない。何の騒ぎだ」

「はっ!実はこの者が士官学校へ入学希望だと……」

「この者?」

 

 その人は私に目を向けた。私は必死で目をそらさないように答える。

 

「イアン・シルドです!海軍士官学校へ入学希望です!」

「ふむ……こんな子どもがか……」

「それと推薦状を持っていると主張してきており……」

 

 海兵の一人が推薦状を渡す。しばらく読み込んでいると突然動きを止めた。

 

「嬢ちゃん、この推薦状は本人からもらったのか?」

「え?あ、はいそうです」

「出身は?」

「ここから近い、クレ島の港町です」

 

 質問の意図がわからないまま答え続ける。でも向こうはなにかわかったようにニヤリと笑う。

 

「なるほどな。いいだろう入学を許可しよう」

「!!」

「よろしいのですか!?」

 

 まさかの入学許可に声も出なかった。門番の海兵達も驚きのあまり声を上げる。

 

「ただし、お前さんがどれだけやれるか少しテストしておきたい」

「テスト、ですか?」

「そう身構えなくてもいい。難しいことをするわけではないからな」

 

 いきなりテストと言われてドキドキしている私をよそに、その教官と呼ばれた人は門の前に立つ。私はそんな中将さんと向かい合うようにして立つように言われた。

 

「やることは簡単だ。俺に向かって全力の一撃を食らわせるだけだ」

「全力の一撃、ですか?」

「そうだ。遠慮などいらん、なるべく派手に来てくれ」

 

 テストの内容は教官さんに自分の力を見せること。でも全力か……。教官さんのことを見くびっているわけじゃない。この人なら私の全力ぐらい軽く受け止めてみせるだろう。だけど、私は師匠の言葉を思い出していた。

 

「いいかシルド、士官学校に入るなら最初は力を抑えておくんだ」

「なぜですか師匠?」

「お前には対人戦の心得を最低限しか教えられなかったからな。今のお前の力では普通の人間相手だと殺してしまいかねない。常に力をコントロールすることはもちろん続けてもらうが、それとは別に力は抑えておくべきだ」

「必要以上に傷つけないよう力をコントロールしたうえでさらに抑えるのですか?」

「そうなるな。必要なことは周りにお前の力を知られないことだ」

「というと?」

「いやこれは単純にスタートが下からならあとは上るだけだし成長を続けたほうが教官の覚えが良い。もしかしたらなにかしら優遇してくれるかもしれないぞ」

「師匠、考えが安直なうえにどこか姑息です」

 

 力のコントロール……。かなりしっかり特訓したから不安には思ってないけど、テストに合格するようにとなると話が違う。弱くなりすぎないように出力を上げつつ、私の全力を悟られないよう力を抑える……。調整が難しすぎる。ていうかそもそも抑える必要あるのか?私の全力くらいバレたところでどうにかなるもんでもないだろうし……。

 

「どうした、早く来い。こっちはいつでもいいぞ」

「っ!はい!」

 

 あれこれ考えてたら急かされてしまった。とりあえず師匠の言う通りやってみることにした。

 

 構えを取り完全停止。その後力強く右足で踏み切り突進。それを見て教官さんは左手を前にかざす。ここに打ち込んでこいということだろう。私はそこに目掛けて調整した拳を打ち込む。

 バシン!という私の拳から出る音としては弱い音が鳴る。しまった、弱めすぎたかもしれない。 

 

「おお……」

「速いな……」

 

 でも門番の二人の反応から好感触だと判断する。肝心の教官の反応は…………

 

「ふっ……あいつが教えそうなことだ」

「?」

「悪くないな……!」

「……!ありがとうございます!」

 

 よし!これはあるかもしれない!

 最初につぶやいたことは小声すぎて聞き取れなかったけど、とにかく希望が見えてきた。

 

「次はこれだ」

 

 そう言って教官さんが取り出したのは黒い鉄球だった。なんでそんなものを?と思う間もなく教官さんはその鉄球をホイッと放り投げる。すかさず鉄球をキャッチすると、思ったよりズシッときて驚く。今の最低限の力の調整しかしていない私でもかなり重く感じる。向こうが片手で放ってきたからこっちも片手で取りにいったのがいけなかったかもしれない。

 

「ふむ……なるほどな……。よし、イアン・シルド!合格だ!君の海軍士官学校への入学を学長ゼファーの名において正式に許可する!」

「え!?えぇ!?」

 

 怒涛の情報量に二度驚いてしまった。いきなり合格を言い渡されたことに一度驚き、今まで話していた人が士官学校の学長だったことにもう一度驚いた。

 ま、まさかそんなに偉い人だとは……。それにゼファーって名前どこかで聞いたような気が……。

 

「俺もこれから士官学校へ向かうところだったんだ。ついて来い!シルド」

「あっ……はい!」

「士官学校へは船で向かう。今期の入学生はすでに集まっているぞ」 

 

 戸惑う私をよそにゼファーさんはスタスタ行ってしまう。逸る気持ちを抑えながら私はゼファーさんについていく。最初はどうなるかと思ったけどいよいよ私もスタートラインに立てるんだ……!

 

「そうだゼファーさん、ひとつ聞いてもよろしいでしょうか」

「なんだ?」

「合格した理由を知りたくて。どこで私を認めてくださったのですか?」 

 

 実はさっきから聞いてみたかったことだ。それと手を抜いた事がバレてないかの確認もあった。冷静になって考えたら学長であるゼファーさんに手抜きなんてとんでもない失礼をしてしまった。師匠め余計なことを言って惑わすとは。 

 

「ふむ、そうだな」

 

 ゼファーさんはそうつぶやくと歩きながら私の前に手を差し出す。それを見て私はまだゼファーさんから受け取った鉄球を持ったままだったことを思い出す。慌ててゼファーさんに返そうと鉄球を手の上に持っていき放す。するとゼファーさんはスッと手を引っ込めてしまう。行き場の失った鉄球は当然地面に激突する。

 

 ドズゥン!

 

 片手で収まるサイズの鉄球から出たとは思えない音が響く。下に目を向けると鉄球が地面に半分まで埋まってしまっていた。重いとは思ったけどここまでとは……

 

「この鉄球は特別に作らせたもので、重量は300kgを超える。一般の海兵でも持ち上げることは困難だ。テストのときお前が手を抜いていたことはわかっていた。だからお前の本当の力が知りたくてこれを取ってもらったのだが、まさか片手で取られるとは思ってなかったぞ」

 

 その瞬間自分の血の気が引いていくのを感じた。自分の喉からヒュッと空気の通り抜ける音もした。手を抜いていたことも気づかれていて実力もバレてしまっていたなんて……。これではただのバカではないか。というかやばい大失礼やらかしたの謝らないと……!

 

「す、すみませんでした!それは、なんといいますか……えっと……」

 

 入学取消も覚悟で必死に謝罪しようとする。でもゼファーさんの表情はどこか笑ったような表情をしていた。

 

「フッ、どうせあいつになにか吹き込まれたんだろう?相変わらずのようだな、ナガトは」

「えっと……。怒ってないのですか?合格取消とか……」

「愉快なものではなかったが、まあ俺が相手でよかったな」

 

 よかった……!なんとか首の皮一枚つながった……!

 そして思い出した。ゼファーってたしか師匠といっしょに海軍で活躍した人だ。

 

「それに士官学校へ行けば手を抜く余裕など無いほど過酷な訓練が待っているぞ」

 

 そう言ってどんどん先に進むゼファーさん。自分に対しての無礼を軽く流し、人の本質を見抜く目を持つ偉大な海兵。師匠が自分の弟子を任せるに値すると考えた人物。私はゼファーさんの背中が背丈以上に大きく見えた。

 そして私はゼファーさんの後を追って士官学校へ向かう船に乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

 

 船に乗ってから丸一日。私達は海軍の士官学校のある島へ到着した。上陸したらまずは荷物を施設内の部屋においてくるよう言われる。部屋に着いたら置いてある制服に着替えて外の演習場に集合するらしい。急いで着替えて演習場に向かう。

 演習場にはすでに多くの候補生たちが整列していて私もその列に加わる。やがて全員がそろったときに正面の台上に教官と思われる人が見えた。よく見るとその周りには教官らしき人たちが並んでおり、その中にはゼファーさんもいた。

 

「これより海軍兵学校第159期候補生の入校式を執り行う!一同、礼!」 

 

 号令とともに一斉に敬礼をする。ここに来るまでの船のなかでゼファーさんから入校式の手順については説明されてあったから対応できた。

 それから粛々と入校式は進んでいく。学校の理念、教官の紹介、施設の説明ときて次は校長からの言葉。校長とはもちろんゼファーさんのことだ。 

 

「諸君、私が海軍兵学校の校長ゼファーだ。君達は各々が正義のために意を決し戦うこと志した勇敢な人間だ。まずはその勇気ある選択に兵学校を代表して敬意を表したい」 

 

 周りが「ゼファーさんだ……」「本物だ……」とざわつき始める。みんなゼファーさんのこと知ってるんだ。私は師匠の同期の海兵ということくらいしか知らないな。

 

「海軍で求められるのは正しくあれるための強さと覚悟だ。そこで君達にはこの兵学校で厳しい訓練にも耐え、正義を貫く強さを必ず身につけるという覚悟を見せてもらう。ここにいる君達は君達それぞれが信じる正義に基づきこの場にいることだろう。反対にその正義が悪によって蹂躙されたものもいるだろう。私は君達が信じる正義がどんなものなのかを見たい。なぜ海兵となるのか、海兵となって何を為すのか。それをここで宣言してもらおう」

 

 つまり海兵になる理由とか意気込みを話せばいいと。教官に当てられ候補生が次々と答えていく。その多くが「海賊から家族や市民を守るため」とか「正義を行うため」といった理由だった。私が海軍に入ろうと思った理由と同じみたいで少し安心した。 

 

「次!」 

 

 とうとう私の番になった。私が海兵になりたい理由……。あの日の悲劇を繰り返させないように、理不尽に誰かの命を奪わせないように。私は海兵になってそんな世界にしたい……、いやするんだ。私の手で平和な世界にしてみせる。だからここはこう言うべきだと思った。 

 

「私は海兵になって理不尽のない世界を作ります」 

 

 あの日の決意をもう一度大きく宣言する。これが私の覚悟だと自分にも刻み込む。 

 

「…………」

「…………」

「…………」

 

 でも帰ってきたのは奇妙な雰囲気の沈黙だった。えっ、なんだろ…………。なにか変なこと言ったかな?周りのみんなこっちを見てはいないけど、何か含みのあるような感じで黙っていた。何言ってるんだこいつとか思われちゃったかな……。でも私が海兵になると決めた根本の理由だし他に言いようもないんだけど……

 

「…………次」

 

 とかなんとか考えていたら呆れた声で次の人が呼ばれてしまった。…………どうしようものすごくいたたまれない。なによりこんな雰囲気にしちゃったあとにしゃべらせてしまうことが本当に申し訳ない。ちらりと目だけ動かして私の隣に立つ次の人を見る。わずかに緑がかった白髪に鍛え上げられた体。そしてなによりとてもカタギの人とは思えないほど厳つい顔をしていた。そんな強面の人が何も反応を見せず私の後に控えている。さすがの私も少し怖いと思った。

 

「俺は……」

 

 そしてその人は口を開く。

 

「この海にいる海賊をすべて叩き潰します」

 

 周りがざわつく。出来るわけがない、さっきの世迷言といい勝負だといった声が聞こえてくる。私の決意がどういうふうに取られていたかを知りつつ、一方私もすごいことを言うなと思った。そして当の本人はそんなざわめきも知らぬ顔で堂々としている。私は変な空気にしたことに動揺したというのに。改めてこの人のことをすごいと思った。

 

「…………次……」 

 

 私のときと同じように、けれどどこか呆気にとられたような雰囲気とともに進行されていく。やがて全員の決意表明が終了したときゼファーさんが話し始める。

 

「君達の覚悟はよく伝わった。どうか今日のその覚悟と気持ちを忘れることなくこれから日々に励んでほしい。君達とともに戦える日が来るのを楽しみにしている」

 

 そしてゼファーさんの話が終わる。それからいくつかの話も終わり入校式は閉会した。解散となりみんなが自由に部屋に戻っていくなか私はあの人のことが気になっていた。私のあとに決意表明をした白髪の男の人。彼を探しながら部屋に戻ろうとすると不意に声をかけられた。

 

「ねぇ、あなたイアン・シルドさん?」

「?はい、そうですけど……」

「あ、突然ごめんなさい私あなたと同室のヒナっていうの」 

 

 声をかけてきた女性はヒナさんというらしい。曰く私以外の同室メンバーとは自己紹介を済ませたけど、私がまだ来ていなかったから探していたのだとか。私の名前は部屋にメンバーの名前が書いてあったからそれで知ったそう。それからヒナさんと軽く自己紹介しながら一緒に部屋に向かった。道中あの人を探してみたけど見つけられなかった。

 部屋に着くと二人の女性が雑談していた。

 

「あ、ヒナ。おかえりー」

「ヒナさんそちらがイアン・シルドさんですか?」

 

 私たちが入ったことで二人は雑談をきり上げこちらに興味を移す。 

 

「ええ。ほら入って」

「イアン・シルドと申します!よろしくお願いします!」

 

 ピシッと姿勢を正し元気よくあいさつ。これから長い間このメンバーで過ごすのだ。悪い印象を与えて嫌な雰囲気にはしたくなかった。

 

「あはは!もっとリラックスしていいよ。あたしレミっていうの」

「カミラです。よろしくお願いしますね」 

 

 赤みががった茶髪をポニーテールにしたレミさんが笑いながら名乗る。長髪の似合うおしとやかな振る舞いのカミラさんがそれに続く。その後夕食の時間まで私を含めた四人で談笑する。本格的な訓練は明日からで今日は一日自由に過ごしていいらしい。そして私はあの人のことについて聞いてみることにした。

 

「ところで皆さんはあの白髪の男性についてなにか知っていますか?」

「白髪の男性?」

「スモーカーさんのことかしら」

 

 ヒナさんがその人の名前らしきことをつぶやく。

 

「ああ、あの人ですか。ええ知っていますよ」

「なんせ有名人だからね。即戦力ってウワサの」

「即戦力?」 

 

 

 

 聞き慣れない言葉に思わず繰り返して問い返す。それに反応してヒナさんが説明をしてくれた。

 

「即戦力っていうのは士官学校に入る前から海兵としての活躍が期待されるくらいの実力を持った人のことなの。もちろんそれだけの強さがないとそう呼ばれることはないんだけど、ここではもう一つの意味で使われることが多いかな」

「もう一つの意味ですか?」

「ウワサだと悪魔の実の能力者らしいんだよね」

 

 レミさんが興奮気味に割り込んでくる。こういう噂話が好きみたいだ。 

 

「悪魔の実の能力は希少だし強力なものが多いから、候補生の段階だと持っているだけでそれぐらい期待されるのよ」

「なるほど……。ですがそこまで期待されているのなら士官学校に入る必要はないのでは?」

「そこまではわからないけど何か理由があるんじゃないかしら」

「はいはーい!私ゼファーさんがスモーカーさんのこと見つけて士官学校に推薦したってウワサで聞いたよ!」

「あら、私はスモーカーさん自ら士官学校への入学を希望したと聞きましたが……」

 

 スモーカーさんについていろんな噂が流れているようだ。

 

 それから夕食の時間まで自由に過ごした。夕食後スモーカーさんは喫煙所にいることが多いと聞き、見に行ってみることにした。喫煙所を覗くと見覚えのある人影が見えた。スモーカーさんだ。私は思い切って声をかけてみることにした。

 

「こんばんは。少々よろしいでしょうか?」

「…………誰だ」

「……申し遅れました。私イアン・シルドと申します」

「…………また興味半分で見に来た奴か。見せもんじゃねえぞ……」

 

 私の前にも見物に来た人が結構いたらしい。ちょっと同情する。だけど私にはスモーカーさんに聞きたいことがある。

 

「不快な気分させたのなら申し訳ございません。少し聞きたいことがあるのです」

「答える義理はねぇな」

「であれば答えなくても構いません。私が満足したいだけですので」

「……海賊をすべて殲滅するという言葉は本気なのでしょうか」

「……理不尽のない世界とか妄言言った奴からそんな事言われるとは思っていなかったな」

 

 スモーカーさんにも妄言と思われてたようだ。けれど私は本気だ。

 

「私は本気です。この世界は罪のない人が一方的に奪われ、蹂躙されることが多すぎます。そんな理不尽をなくしたいと思い行動することは愚かな行為なのでしょうか」

「……俺も冗談で言ったつもりはねぇよ。……俺より小さいガキが俺より先に死ぬのをもう見たくないだけだ」

「……!そうですか……」

 

 その言葉でスモーカーさんの覚悟がわかった。この人も本気なんだ。

 

「ありがとうございました。お手数おかけしました。失礼します」

 

 聞きたかったことは聞けた。私はスモーカーさんに敬礼をしてから立ち去る。

 

「勝手に言うこと言って勝手に行きやがって……。おい」

 

 スモーカーさんに呼びかけられ振り向く。

 

「俺は理不尽をなくすことを馬鹿なこととは思わない。命をかけておせっかいやんのが海兵だろ」

 

 それを聞いた私はなんだか少し救われた感じがした。スモーカーさんがこれ以上会話するつもりがないのを理解し、私は小さく微笑み頷く。自分の部屋に戻ろうとしたとき、煙が辺りを包む。見るともうすでにスモーカーさんの姿はなかった。そういえば能力のことを聞き忘れた。けどもしかしたら…………

 私は今度こそ歩き始める。明日から訓練が始まるんだ。しっかり備えておいていかれないようにしないと。

 

 

 

 

 

 

 

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