はじまりの錬金術士のアトリエ ~ 神様の贈り物 ~ 作:遊佐
ルルアは……どうしよ?
ロロライナ・フリクセルは錬金術士である。とはいえ、まだまだ駆け出しだが。
そんな彼女はぐうたらな師匠に代わり、王国からのアトリエ閉鎖に立ち向かうため、3年間の課題を課せられていた。
そして2年目になった時に、ステルクから王国祭で演劇を披露してはどうかと提案を受ける。
それに面白いと乗っかったのは師匠アストリッドで、彼女の監修した脚本を王国祭で演じることになった。
題名は、〈偉大な錬金術士〉のアトリエ。
落ちこぼれの錬金術士の少女の成長物語である。
いろいろな出来事の末、何とか劇をやり遂げ物語の中のマリーに自分を重ねたロロナは、「みんなを幸せにしたい」という自分自身の願いを見いだす。
そうして劇を終えて帰ろうとした矢先に、一人の女の子と出会った。
彼女の名前はマリー。
劇で演じた女の子と同じ名前を持つ女の子であった。
そして今、ロロナたちは王城にてステルクに事情を説明しているのである。
「……劇の後で迷子の子を拾うとは。君はあれか? 何か騒動を起こさないと気が済まないのか?」
「そ、そんなことないもん! 困っている子がいたから助けただけです!」
「こーら、ステルク君。騎士がトラブルを面倒くさがっちゃダメでしょ」
「い、いや、エスティ先輩。そういうわけではなく、単にさっき終わったばかりですぐにトラブルの元を持ってくる彼女に辟易しただけで……」
「それを面倒くさがってるって言うのよ。はあ……ごめんね。君、マリーちゃん、だっけ?」
「はい」
「お父さんとお母さんの名前は言えるかなぁ?」
エスティと呼ばれた女性の言葉に首をかしげる。
マリーとしてはとっくに鬼籍に入っている両親がここにいるとも思えず、とはいえ幼児化した体をどう説明したらいいかを迷っていた。
そんな様子にエスティがため息をつく。
「駄目かぁ……となると時間がかかるかもね。どうしようかしら……」
「王国には孤児院がありませんしね」
「さすがに城に泊めるわけにも……」
エスティとステルクが頭を悩ませる。
と――
「あ、あの!」
「ん? 何、ロロナちゃん」
「この子、行く当てがないんですよね? だったらうちで保護してもいいですか?」
「ろ、ロロナ!?」
ロロナの言葉にクーデリアがぎょっとする。
「えっと……いいの?」
「はい。見つけたのは私だし、この子の親が見つかるまでアトリエで面倒見ます。幸い、今は師匠もホムちゃんたちもいますし」
「それは助かるけど……」
「それに……この子の名前がマリーって言うのは、なんか他人じゃない気がして……」
「ああ……」
エスティは先程迄演じていた劇を思い出して頷く。
「そうねえ。今は捕らえた賊の取り調べとかもあって騎士団は動けないし……しばらくでいいから、お願いしようかしら」
「い、いいんですか、エスティ先輩!?」
「しょうがないでしょう? 手が足りないのよ。この子の親を探すのだって手間がかかるし、もしかしたら探しに来るかもしれないし」
「それは……そうですが」
「居場所が確定している方が助かるしね……お願いできるかしら?」
「はい、任せてください!」
ロロナは胸を叩いた。
そうして……マリーはロロナの家に向かうことになったのである。
―――― ★ 神さまの贈り物 ★ ――――
マリーの手を握って、家に案内するロロナ。
その後ろからイクセルとクーデリアも同行した。
「マリーちゃん。私はロロライナ・フリクセル。ロロナって呼んでね」
「俺はイクセル・ヤーンだ!」
「えっと……私はクーデリア・フォン・フォイエルバッハ。貴族よ」
「えっと、ロロナ、イクセくん、くーちゃん……?」
「んなっ!」
「あははははは! ロロナの呼び方がうつっちまったか! いいぜ! イクセくんと呼びな!」
「む、むぅ~……ま、まあ、子供にフルネームは難しいし、しょうがないわよね!」
「お前だって子供だろうが」
「うっさい!」
「あはは……マリーちゃんはマリーちゃんでいいのかな?」
「うん……はい」
「あはは。無理しないでいいよ。気軽にしてね。うちにはほかに大人の女性と私と同じくらいの男の子と女の子もいるから」
ロロナの言葉にさてどうしようと頭を悩ませるマリー。
このまま子供の振りもいいんだけど、だからといって本当のことを伝えるべきだろうか?
正直、自身の身に起きたこともわかっていないのである。
このまま話したところで頭のおかしい子と思われる可能性が大きい。
とはいえ、彼女も錬金術士なら可能性として受け入れてもくれるかも……
「さあ、ついたよー」
考えていたマリーが顔を上げると、そこは一軒の家だった。
なんとなく薬効の匂いがして懐かしさに目を細める。
(そういやあたしのアトリエもこんな感じだったなぁ)
エリーと過ごしたアトリエの日々を思い出して郷愁にとらわれるマリー。
「師匠ー! ホムちゃんー! ただいまー!」
「「 お、おじゃましますー…… 」」
3人が入っていくと、そこにはソファーの上で寝そべる大人の女性と、箒で部屋を掃除する男女がいた、
「「 おかえりなさいませ、マスター 」」
「遅いぞ、ロロナ! 私は腹が空いたぞー」
「もー! 師匠は劇でも客席で食べていたでしょ!」
「何を言う! あんなもの腹の足しになるか」
そう言って起き上がる。
「しかし遅かったな。遊び歩いていたのか? 感心せんなぁ」
「違うわよ。迷子の女の子を保護したのよ」
「迷子?」
クーデリアの言葉にアストリッドの視線がマリーに向かう。
と、途端に驚愕する。
「なっ……」
「師匠……?」
「………………」
マリーをガン見した後思案する。
その様子に3人が目を見合わせた。
「これは……」
「もしかして……」
「またこの人の悪い癖が……?」
アストリッドが特殊な性癖を持ってるのを、この2年間で知っている3人が目を見合わせて頷く。
そしてロロナとクーデリアがマリーを守るように庇い、その前にイクセルが3人を隠すように前に立った。
「し、師匠……?」
「ん、ああ……」
ロロナが声をかけると思いだしたかのように顔を上げるアストリッド。
その眼は興奮して血走って――はいなかった。理知的な目をしている。
「その子は迷子ということだが、この家に泊まるのか?」
「あ、はい。騎士団が親を探す間、とりあえず預かったんです」
「そうか……わかった」
アストリッドはそう言って立ち上がった。
「彼女についてはロロナに任せる。私は奥で寝る」
「え、あ、はい!」
「お前たちも今日はもう遅い。家に帰りたまえ。ホム、適当に飯を作って持ってこい」
「はい、グランマスター」
「お前も今日は疲れただろう。さっさと寝ろよ」
そう言って奥の部屋に去っていった。
「……師匠?」
「なんか……」
「拍子抜けね……」
とりあえず何事もないことにほっとする3人。
だがマルローネだけはなんとなくわかった。
――これは……
とはいえ、今はもう夜である。
二人と別れたロロナとマリーは、ホムの用意した軽食を食べて、ソファーを倒して眠りについた。
そして深夜――
のそりと起きだしたマリーは奥の部屋への扉へ向かう。
トントンと扉を叩くとホムが扉を開けてきた。
そして中に入ると――アストリッドが座って待っていた。
「ようこそ。偉大な錬金術士殿」
アストリッドはそう言って笑ったのである。