はじまりの錬金術士のアトリエ ~ 神様の贈り物 ~ 作:遊佐
ザールブルクの大きな家で、一人の女性がその生涯を終えようとしていた。
彼女の名はエルフィール。
世界最強の錬金術師の弟子であり、ザールブルグ工房の主人として数々の偉業を成し遂げた人である。
一時期は金の量産で大富豪となったことすらある。
だが、その偉大な錬金術士も死の淵にいた。
「とうとう、わたしの番ね……ごめんね、ダグラス」
「いいさ……ワシも、いや俺もすぐに行くからな」
年老い、ベッドに横たわるエリーの手を握るダグラス。
「先に逝ったマリーさんやイングリド先生と一緒に待ってるわ……だから、なるべくゆっくりきてね」
「はは……厳しいことを言うなあ。そこは早く来てねじゃないのかい?」
「だって、わたしが逝った後の……ダグラスの生活を見る楽しみがなくなるもの」
「そっか……きっと向こうじゃ、しこたま酒飲まされて騒ぐんだろうなぁ」
「ふふふ……きっとそうだね」
エリーの、ダグラスの手を握る力がどんどんなくなっていくのをダグラスは感じ、自身がしっかり握る。
叫んで引き止めたい心を必死で抑えながら、ダグラスは笑った。
「そうだな……孫の結婚式を見てからゆっくり行くさ。あっちで土産話を楽しみに待っていてくれよ」
「うん……待ってる」
エリーはにこやかに笑うと。
そのまま息絶えたのだった。
―――― ★ 神さまの贈り物 ★ ――――
――アーランドの街。
かつてここは、アーランド王国とよばれていた。
今ではアーランド共和国となり、その王都であったここはアーランドの街として6年前に再出発したのである。
トトリは先生であるロロナに、アーランドのアトリエに来るように言われていた。
先行してアランヤ村を出たロロナに対して、十分な準備をしてアーランドの街に向かったトトリ。
その横には護衛として一緒に来た、幼馴染のジーノとメルヴィアの姿もあった。
「いやー実は、アーランドの街は久しぶりなのよねぇ」
「そういえば前回もジーノ君とだけで、メルお姉ちゃんは来なかったんだっけ」
「いやあ、あたしの冒険者免許は永久のままだし、来る必要なかったからねえ」
「……ずっこいよねえ。わたしは3年間の仮免許なのに」
「まあまあ。だいぶランク上がってんだからすねないの」
少しいじけたトトリに、メルヴィアが笑いかける。
「俺も新しいランクになれるぐらいにはポイント溜まってるし、楽しみだぜ」
「ジーノくんは、もうちょっとアーランドに来てもいいと思うんだけど」
「だってよぉ、こっちじゃ泊まるところもなかなかねーもん。どっかで宿屋でもやってくんねーかなあ」
「あぁ……そういえば。前回もそうだったけど、どこで寝てたの?」
「冒険者ギルド」
「あそこで!?」
「うん。男なんだから雑魚寝でいいでしょ、ってあのちっこいねーちゃんが」
「……知らなかった。ご、ごめんね、ジーノくん」
「いいよ。冒険者やってたら、どこで寝るのも同じだし」
「ああ……まあ、そうだけど」
ジーノの言葉に苦笑するトトリ。
「まあ、冒険先でベッドで寝るなんてのはまずないからねえ。せいぜい小さな寝袋か、毛布でしょ」
「メルお姉ちゃんでもそうなんだ……ううん。これはわたしが何とか考えるべきかなあ」
「別にいいぜ? 冒険者なんかどこで寝れるのも必要な技術だ―って、あのねーちゃんも言ってたし」
「そうだけど……でも、疲れが取れるのも大事かなって」
「まー疲労が取れれば、長く冒険はできるわねぇ」
トトリは、頬に手を当てながら考え込む。
その様子に二人は苦笑した。
「ほら。アーランドの街が見えてきたわよ」
「さっさと行こうぜ、トトリ」
「あ、メルお姉ちゃん、ジーノくん! まってよー!」
―――― ★ 神さまの贈り物 ★ ――――
「さて、先に冒険者ギルドに行くか?」
「うーん。ロロナ先生はアトリエに来いって言ったから、先にアトリエに向かってもいい?」
「いいぜ。確か橋渡って右の……あれ?」
ジーノがその方向を見ると、人だかりができていた。
「あれ? アトリエの傍に多くの人が……」
「お? お? なんか祭りか?」
「そう? あたしがいた頃は、あのアトリエはいろんな依頼で人気だったから、割と珍しくもないけど」
「あ、メルお姉ちゃんの頃は、そうだったんだ」
(そういえば、アトリエにはクライスさんという人がいて、アトリエを使っているって言ったっけ)
トトリがそんな考えで近づいていくと――
「あ! トトリちゃん!」
人だかりの中から、ロロナが出てくる。
「あ、ロロナせんせ―!」
「だめ! 今来ちゃダメ! こっちこないで!」
「ええええええ? なんでー!?」
ロロナの拒絶に声を上げるトトリ。
「先生が来てって言ったんじゃないんですか!」
「確かに言ったんだけど! 言ったんだけど! 今はちょっとまずいの!」
「なにが……」
と――
ボガン!
突然、アトリエの窓が吹き飛んだ!
「な、なにー!?」
すわ、錬金術の失敗で爆発か! と思ったトトリは悪くない。
というかアトリエでの爆発など慣れっこでもある。
だが違った。
「うぉわあああああああああああああああああああああああ!」
その声とともに男が飛び出してくる。12~3歳ぐらいのローブを着た男の子だった。
そして――
「アンタが! アンタが悪いんだあああああああああああ!」
その後ろから8歳ぐらいの幼女が飛び出してきたのである。
「ま、マリー! マルローネ! 爆弾は、爆弾はまずいです!」
「ならこっちでいいだろお!? さっさと撃たれな!」
と、パチンコで小さい球をバシバシと打ち出す幼女。
それを避ける男の子。だが、その避けた弾が当たった所が小さく弾ける。
「だから! 不可抗力だって言ってるじゃないですか!」
「やかましい! アンタが! アンタがあんなもん作らなきゃ、こんなことにならなかったんだー!」
そう言って、必死に逃げ出す男の子を追いかける幼女。
パチンコで追い立てながら、アーランドの外へと出ていく。
「え? え? な、なにー!?」
「あはは……」
その様子に唖然とするトトリ。そして苦笑いのロロナ。
「せ、先生。今のって……」
「あー……うん。クライスさんとマリーちゃん。紹介したかったんだけどね」
「あ、あれが!?」
まさかの会いたかった人たちの醜態に、唖然とするトトリ。
「いやー今日もすごかったな」
「久しぶりの大立ち回りだったな」
「まあ、アトリエが吹き飛ぶような爆発じゃなくてよかったな」
「……なに、このみんなの慣れてる感」
「あー……あたしがいた時も大体こんな感じだったなぁ」
通行人が散っていく中、その様子に目を丸くするトトリと、こちらも慣れている様子のメルヴィア。
「……ちらっとしか見えなかったんですけど、あの人たちがロロナ先生の先生、なんですか?」
「ああ、うん。クライスさんは従業員みたいなもんだけどね」
「校長先生だったって言う人……でも、どう見ても子供でしたけど」
「まーいろいろとね」
本人たちを見ても、何一つ状況がわからない。
トトリがそんな状態の中、一人の女性がこちらに向かってくる。
「まったく……毎度毎度、冗談じゃないわ」
「あ、くーちゃん」
「あ、くーちゃん、じゃないわよ! あんなの押し付けて先に外に出ないでよ。あんたが出た瞬間に歯止めが利かなくなったんだから」
「私だって無理だよ。もう完全にマリーちゃんが、お怒りモードだったもん」
「まあわかるけど……さすがにあたしも頭痛いわ」
ロロナと話すのは、冒険者ギルドの受付嬢であるクーデリアである。
「これから上に報告しなきゃ……ああ、もう。今日は帰れないわねえ」
「ご苦労様です……」
「あんたもたまには一緒に来て、説明しなさい。というか、来い!」
「ええええ!? なんでー!?」
「あんたの知見が必要なのよ! というか前回のこともあるんだし、今回のことも実際に見たあんたが説明しなさい!」
「私にわかるわけないでしょー!」
「あんたにわかんないことが、私らにはもっとわかんないのよ! その説明のためにも一緒に来いって言ってんの!」
「ああああ! そんなー!」
クーデリアに首根っこをむんずと捕まえられ、ロロナが声を上げる。
「と、トトリちゃん! アトリエで待っててー! すぐ帰るからー!」
「すぐ帰れるわけないでしょうが! 国主にも説明してもらうわよ!」
「わあああああああああああああああああああああああああ!」
そうして叫びながら冒険者ギルドへ向かっていく二人。
「………………」
「あー……まあ、嵐のような感じだったわねぇ」
「すごかったなー……さすが都会」
「……メルお姉ちゃんはともかく、ジーノくんは違うと思う」
「で、どうすんの?」
「……とりあえず、アトリエ行って片づけした方がいいかなぁ」
トトリの言葉に二人は頷き、アトリエに向かう三人。
と、そのアトリエでは、小さな人影が掃除していた。
「あ、あれ? 誰だろ?」
トトリが首をかしげて声をかける。
「こんにちわー! あの、あなたはこのアトリエの人?」
「あ、こんにちわ……ええと、そうなります、かね?」
その幼女は、トトリを見て言った。
「私、トトリって言います。このアトリエ使わせてもらっているんですけど……あなたは?」
「あ、申し遅れました」
そう言って、ぺこりと頭を下げる。
「私、エルフィール……と申します。エリーって呼んでください」
まだ先は長いし、気長に行きまっしょい