はじまりの錬金術士のアトリエ ~ 神様の贈り物 ~ 作:遊佐
アーランドの街――
エリーが戻ってくるのは実に2ヶ月ぶりであった。
「あの馬車、意外に揺れなかったね」
「そう? 普通じゃないの?」
「……私が前に乗った馬車は、本当に荷馬車だったからね」
ザールブルグからカスターニェへ向かう馬車を思い出して、エリーが苦笑した。
「んじゃ、俺はここにいるから、帰る時に必要なら呼んでくれ」
「ありがとう、ペーターさん」
「お世話になりました」
「んじゃな、ペーター兄ちゃん」
「おう」
そうしてペーターと別れた3人。
「さて、どうしよう?」
「うーん……まずはアトリエに行って、誰もいなければ冒険者ギルドかなぁ」
「そうだね……あ、アトリエやってる」
エリーが指差す先には、人の出入りが激しいアトリエがあった。
「あ、先生がいるからかな?」
「とりあえずアトリエで話を聞いてからにしようか」
「そうだね」
「あー腹減った」
トトリとエリーの後ろでジーノが頭の後ろに腕を組みながら、腹を鳴らしていた。
―――― ★ 神さまの贈り物 ★ ――――
「せんせー! いますかー?」
「うん?」
アトリエの扉をくぐると、そこにいたのは12~3歳ぐらいの少年だった。
「あ、あれ?」
「こんにちわ。君たちはどういったものをご依頼かな」
「あ、クライスさんだ」
トトリと応対する少年に、昔の面影を感じたエリーが呟く。
「うん? 確かに私はクライスですが……はて? 君たちと合うのは初めて……おや?」
「あ、どうも。エリーです」
「なっ!」
ぺこりとお辞儀するエリーに、クライスが驚愕する。
「お久しぶりです、クライスさん」
「え、ええええエリーさ……あああああああああああああ」
「え、ちょ、クライスさん!?」
クライスがひどく慌てふためいて動揺する様に、エリーが戸惑う。
「す、すみません!」
「へ?」
「わ、私が賢者の石など作らなければ、こんなことにはならなかったのです!」
「……えーと?」
「いや、私だって検証が必要だから作ったわけで、それはマルローネも納得していたはずなんです! ちゃんとできて、数日置いておいても変化しないから安全だと思っていたのに! なのに……なのに!」
「あー……」
クライスは、狂ったように頭を抱えて天を仰ぐ。
エリーは、何となくいたたまれずに頬を掻いた。
「なのに君を蘇らせてしまった! 本当にすまない!」
「あ。いいんですよ、もう。正直、それほど悲観してませんし……」
「しかし……」
「そりゃ寝たきりのまま生き返ったなら大変でしたけど、こうして若い体になってますし。むしろ得した? みたいなもんですから」
「………………」
「だから気にしないでください、ね、クライスさん」
「エリーさん……」
逡巡するクライスに、エリーは手を差し伸べた。
「……そうですか、わかりました。ありがとうございます」
「はい! あ、それと……」
「?」
クライスの手を取るエリー。
エリーはにこやかに笑った。
「お久しぶりです。クライスさん」
「……ああ、お久しぶりです。エリーさん」
―――― ★ 神さまの贈り物 ★ ――――
「ええと……もう、いいですかね?」
「あ、ごめんね、トトリ。クライスさん、紹介ますね。彼女はトトリ。ここの……多分オーナー? のロロナさんのお弟子さんです」
「ああ……ロロナさんの」
「はじめまして! トトゥーリア・ヘルモルトと言います。トトリって呼んでください」
「はい、クライス・キュールです。よろしくお願いします」
トトリとあいさつを交わすクライス。
「ええと……それで、ロロナ先生はどうしてますか?」
「ロロナさん、ですか……彼女は今、マルローネと一緒に冒険者ギルドで働かされていますね」
「え? 働く?」
「ええ……まあ、エリーさんの件もあって、その事後処理とそれを広めた件で懲罰だそうで」
「あー……」
「まあ昼間だけですから、そろそろ帰ってくる頃だとは思うのですが……」
「あ、それでクライスさんが代わりに……」
「はい。まあアトリエの仕事の代理は、ずっと任されていますし」
「……ご苦労様です」
トトリが苦笑する。
「トトリ。目上の人に対しては『お疲れ様です』って言うんだよ?」
「あ、そうなんだ」
「ははは。この見た目で目上と言われてもわからないでしょうしね。君同様、私も若返ったのですから」
「あ、そういえば、お二人ともおじいさんとおばあさんでしたね」
「……何気にひどいですね、君は」
「素なんですよ、この子」
クライスとエリーも苦笑した。
「あの師匠にして、この弟子あり、ですか。ロロナさんも割と天然に失礼なこと言いますからね……」
「わ、わたしと先生を一緒にしないでくださいよぉ!」
「……多分、どっちもどっちなんじゃないかなぁ?」
「ひ、ひどい!」
と、そんな風に話しているところだった。
「ただいマリー、クライス。ちゃんとやってる?」
「つーかーれーたー」
ドアを開いて帰ってきたのはロロナとマリーだった。
「お、噂をすれば、ですか」
「あん、なに、が……」
そして、そこにいた小さいエリーを見て言葉を止めるマリー。
「エリー!」
「マリーさん!」
マリーがエリーに飛びつく。
ただし、二人とも幼児である。
「マリーさん! 会いたかったです!」
「あたしもだよ……ああ、本当に久しぶりだね!」
なつかしさに、手を取り合う二人。
ただし、繰り返すが2人とも幼児である。
6歳と8歳ぐらいの。
「わー、トトリちゃんだー! おかえりー」
「た、ただいまです。ロロナ先生!」
こちらの師弟は大人である。
23歳と14歳ではあるが。
「うんうん。双方とも旧知に会えてよかったですねえ」
そう独り言ちるのは12歳ぐらいの老人であった。
「……つか、腹減ったんだけど、俺は無視か?」
1人、ジーノだけが置いてけぼりで壁にもたれて呟いたのだった。
うーん……
クライスの言葉遣いを原作のままにするか、老齢なものにするかで何度か消しては直し、消しては直し……
やはり原作のままにしました。
ですます口調じゃないクライスは、クライスじゃない気がして。