はじまりの錬金術士のアトリエ ~ 神様の贈り物 ~ 作:遊佐
忘れられた村――
「ここは……」
「廃村、だね。なんで捨てるようになったんだか」
トトリの言葉に、マリーが応える。
かつて人が住んでいたような廃墟に、盗賊たちがちらほらといるのが見える。
「雨風がしのげるから巣くってるんだねェ」
「……なんかヤダ」
「トトリ?」
「なんか許せない! 先生、マリーさん、エリーちゃん! 倒しましょう!」
「おおっと!?」
「どうしたの、トトリちゃん……?」
マリーとロロナがトトリの剣幕に驚く。
「トトリ、落ち着いて」
「でも!」
エリーがトトリをなだめるが、トトリは怒りをあらわにした。
「落ち着いて! どうしたの? こういう廃村だって珍しくないはずだよ?」
「……なんでだろう。ただ、なんかすごく……悔しくて」
捨てられ朽ちた村を見た時、トトリの胸にあったのは言い知れない寂しさと怒りだった。
「もう消えてしまった人の営みを、我が物顔でその跡地に住み込むあの盗賊に怒りを覚えたのかもねェ」
「……わかりません。でも、でも!」
「……トトリは、アランヤ村がああなったらとても悲しいから、だからこの村の現状に怒っているんじゃないかな」
「………………」
マリーの考察にトトリが応え、それをエリーが補足する。
ロロナは、黙ってトトリの頭を抱いた。
「ロロナ先生……」
「トトリちゃん。あなたが寂しく思う気持ちはわかる。けど、理不尽に怒ってもどうしようもないんだよ。ここはもう……捨てられた場所なんだから」
「……はい」
「まあ確かに、あの盗賊たちを倒しても新しいのがすぐに戻ってきそうだしね。それに誰もいなければ魔物に荒らされるだけさね」
「………………」
「ある意味、あの盗賊がこの廃墟を廃墟として守ってるようなもんだね。だから盗賊は居ても魔物がいない」
「そんな……」
「この大陸の先はこんな場所がまだあるんだろうねェ。今のうちに慣れておかないと」
「アーランドが王国でなく共和国になったのも、ある意味王国として各村を支えきれなくなっていたからかもしれませんね……」
「……あれだけステルクさんとか騎士団が治安維持に回っていたのに。それでもやっぱり足りなかったんだ……」
「機械文明が発達したとしても、地方じゃ取り残されちゃっていたんだよ。だから王国は民に現状を見せるために共和国にしたのかもね」
「共和国にすれば、その責任は民にも降りかかりますからね」
「良し悪しでしかないけどね」
どんな政治体形でも、必ずどこかにひずみが生まれる。
極論すれば王制でも共和制でも、それは責任の所在の場所が少し変わるだけだ。
「まあ冒険者が現状を報告して、それをギルドに伝えて、ギルドが問題視すれば……かな。ただ、今は圧倒的に人手が足りないからねェ」
「急速に発達した国は、どうしてもそういう所が顕著に出ますね」
「だからザールブルグの王様は、田舎をあんまり発展させようとしなかったのかもね」
「人の生存圏が小さい方が統治しやすかったと……?」
「人口が増えて行けばそれに応じて拡大はしていくんだろうけど、あっちにはオルトガラクセンはなかったからね」
アーランドも旅の錬金術士が来るまでは、ザールブルグと変わらなかったのだとすれば。
今のこの国が未来のザ-ルブルグになっていたのかもしれない。
そのことに、マリーとエリーは言い知れぬ郷愁を抱く。
トトリは、ロロナの胸にその顔を押し付けた。
「トトリちゃん……」
「………………」
「よし。ならトトリ。とりあえず、盗賊たちは殲滅しよう」
「……マリーさん」
「そして廃屋を探索して遺品とか回収して、外に墓地を作って埋めてやろうじゃないか。あたしたちにはそれぐらいしかできないよ」
「……はい」
「んじゃ、手分けしよう。あたしとエリーが向こうをやるから、ロロナとトトリはこっち側を殲滅しておくれ」
「大丈夫? 一緒に回っても……」
「大丈夫だよ、ロロナ。この辺りならあたしたちの敵じゃないさ。エリーの戦闘のリハビリにもちょうどいい」
「そうですね。このパチンコ使い勝手がいいですし。やろうと思えばもっと改良できそうです」
「だ、そうだ。んじゃ、そっちは頼むよ」
マリーとエリーが武器を手に走っていく。
「トトリちゃん……やろうよ」
「……はい!」
ロロナの声に、トトリは胸から顔をあげて頷いた。
―――― ★ 神さまの贈り物 ★ ――――
ほどなく村中の盗賊を殲滅したトトリたちは、廃墟を探索して人の営みのあったものを回収していた。
トトリは捨てられていた人形を手に取った。
ロロナがその手元を見る。
「こういう人形がまだあるってことは、数百年経ってるってことはなさそうだね」
「………………」
「……トトリちゃん。こういう服とかも一緒に埋めてあげよう」
「……はい」
ボロボロになった人形を抱きしめるトトリ。
そうして回収した人の営みのあった物を、村に残っていた墓地に集めた。
「ふう。穴はこんなもんかね」
「ですね。ここに埋めて、後は小さなお墓を作ればいいかと」
マリーとエリーが穴の中に遺品を入れていく。
「マリーさん、エリーちゃん。ありがとうございます……」
「気にすることはないさね、トトリ。あんたはあたしらが気づかなかったことに気づかせてくれたんだ。感謝こそすれ礼を言われることじゃないよ」
「マリーさん……」
「あ、そうだ。トトリ。こんなの見つけたよ」
「え……これって?」
マリーが見せてきたのは、瓶の中に入っている白い塊だった。
「霊的なものさね。本来は見えないんだけど、こういうものは人の思いが残るような場所に存在していたりする。村の人の思いが呼んだのかもね」
「村の人の魂とかでは……」
「それはないねェ。この世界霊魂自体に魂があるわけじゃない。いうなれば残滓が呼び寄せた霊的な塊が物質化したものさ」
「魂ではないんですね……」
「ああ。こういうのは他の場所でもあるからね。これ自体に意思や思いはないよ」
「そうですか……」
トトリは、マリーから世界霊魂を受け取ると胸に抱いた。
「……大事に使いますね」
「村の人からの贈り物さ。トトリが使うなら村の人も本望だと思うよ」
「……はい」
マリーの言葉に、トトリは大事そうに世界霊魂を見つめる。
その世界霊魂は、エリーに何も伝えてはくれなかった。