はじまりの錬金術士のアトリエ ~ 神様の贈り物 ~ 作:遊佐
アーランドの街――
「ぶはははははははははは!」
腹を抱えて盛大に笑っているのはマリーである。
「うははははははははは! うひひひひひひひひ! ひーひーひー……あはははははははは! うっ、ゲホッゲホッ! あははははははは!」
「……マリーちゃん、笑いすぎ」
「マリーさんが壊れた……」
ロロナのアトリエで、ステルク一連の話を聞いた途端にこれであった。
ロロナはジト目でマリーを見て、エリーは目が点になっている。
「ぐっ……はっ……ぐぅ……あははははははは! ひーひー……」
「もう……笑い事じゃないよ、本当に」
「はーはー……ご、ごめん。いや、でも……ぶっ! くくく……」
「……ええと。マリーさんもステルクさんって人を知っているんです?」
大笑いしているマリーにトトリが問いかける。
息も絶え絶えなマリーは、腹を抱えながら肩で息をしていた。
「はー……ああ、笑った。まあね。彼にはかなりお世話になった仲だよ。昔は王国依頼の伝達役で、国とアトリエの折衝もやってた人だね」
「あ、そんな偉い人だったんですね」
「そうなんだよ。そんな偉い人相手にトトリちゃんはもう……」
「ぶはははははははははは!」
マリーの笑いは止まる事がない。
「……トトリ。本当に、その毒舌をやめないといつか大変なことになるよ。本気で気を付けなさい」
「うう。はい」
「考えが口に出る前に、一旦口を閉じて、それが言っていいことかどうか考えてから口にしなさい。いい?」
「………………はい」
エリーに滾々と説かれて、さすがにへこむトトリ。
「あー……ふう。にしても久しぶりだね。スーくんも」
「スーくん……?」
「ステルクさんのあだ名だよ」
「ああ……」
「スーくんは国家元首であるジオさんの護衛官みたいなもんだよ。良く失踪する国家元首を唯一追いかけられるのがスーくんしかいない……というか、ほとんど執念で探し当てられる唯一の人だね」
「そ、そんなにいなくなるんですか? 国家元首なのに?」
「まージオさんの放蕩癖は、王様だった頃からだからねェ」
「それって仕事しているんで……」
「トトリ!」
「………………ごめんなさい」
早速エリーに怒鳴られるトトリ。
「まったくもう……」
「あはは……一応、ジオさんもちゃんと仕事はしているよ。本来は議会とか調整で動いているんだけどね。ただ、ふとした時に誰にも言わずに抜け出すことが多くてね。それを捕まえるのがステルクさんの仕事なわけ」
「ジオさんだからねえ……」
ロロナとマリーは、あの人を縛り付けるのは無理ととっくに匙を投げていた。
「ともかく! トトリちゃん! 次にステルクさんに会ったらまずは謝りなさい! いい?」
「はい……」
「しかし、あの顔相手に開口一番に無職……ぶふっ! ぶはははははははははは! あーははははははははははは!」
その日一日、マリーの笑いが止まる事はなかった。
―――― ★ 神さまの贈り物 ★ ――――
「はあ……」
「よートトリ」
「ジーノくん……」
肩を落として街を歩いていると、食べ歩きしていたジーノと出会うトトリ。
「ん? 元気ねーな。どした?」
「ああ……うん。……ジーノくんにも言われたけど、わたしって本当に口が悪かったんだなぁって」
「え? いまさら?」
「うっ……」
がくっとさらに肩を落とすトトリ。
「まー俺とかメル姉はもう慣れているからいいけどよ。アランヤ村と違っていろんな人に会うんだから、もうちょっと考えて口にした方がいいと思うぜ?」
「……ジーノくんに言われると、本気でへこんじゃうなぁ」
「ほら、それ」
「あううう……」
「まあ、すぐ治るようなもんでもねーだろうけどよ」
……ジーノがこういう性格になったのは、地味にトトリの影響が強いのかもしれない。
「……それで、ジーノくん。今日は食べ歩き?」
「まーな。あとミミにも言ったけど、俺は俺の師匠を探している最中だ」
「師匠……ああ、剣の?」
「ああ。やっぱり必殺技は使いて―しな」
「……まずは先にスキルを考えた方がいいんじゃないの?」
「スキルか……そうだ、トトリ。俺に技考えてくれ」
「技……ええ? 技ぁ!?」
「そうだよ! まずは先に技だよ。必殺技は技を磨いてからだよな! んじゃ頼むぜ!」
「あ、ちょっと!」
ジーノはそう言って駆け出していく。
「技って……なんでわたしがー!?」
―――― ★ 神さまの贈り物 ★ ――――
「……? トトリちゃん、なに、そのノートの落書き」
「落書き……まあ、落書きみたいなものかなぁ」
アトリエに帰って、ノートに色々書いていたトトリに、帰ってきたロロナが声をかける。
「……というわけで、ジーノくんの技を考えることに」
「あー……なるほどね。でもそういうのって、まずは訓練とか特訓して身に着けるんじゃないの?」
「あ、そっか。となると……鍛錬道具作った方がいいのかなぁ」
「まー個人の技なんて自分で身につけるか、師匠から教わるようなものだしね」
「そうですよねぇ。とりあえずジーノくんに師匠はいないので、まずは特訓用の器具を……」
―――― ★ 神さまの贈り物 ★ ――――
「ということで、これでまずは特訓だよ。ジーノくん!」
「はー……なるほどな。まずは地力をつけろってことか。あんがとな!」
「あ、あとね。剣の師匠は探した方が……」
「む?」
「いい……ああ!」
と、そこに通りかかったのはステルクだった。
「ステルクさん!」
「……君か」
「トトリです! あの、こないだは、本当にすいませんでした!」
「む、あ、うむ……まあもういい。さして気にしていない。まさかあまり知らない女の子にまで無職とか言われたのが心に刺さっただけだ」
「無茶苦茶気にしてるじゃないですか! じゃない、本当にごめんなさい!」
「ああ。もういい。気にするな」
「おっさん、誰だ?」
「ジーノくん!」
「おっさん……やはり君ぐらいの子にはそう言われるような年になったか」
「あわわわわわわ……」
―――― ★ 神さまの贈り物 ★ ――――
「おっさん、元騎士なのか、すげー!」
「というか、ジーノくん。わたしたち、ステルクさんに助けてもらったじゃない。わたしもこないだ思い出したけど」
「いつだ?」
「アーランドの街に冒険者登録に来た時」
「ああ! そういや、あの時助けてくれたおっちゃんか!」
「今度はおっちゃんか……」
「そうだ、おっちゃん! 俺を弟子にしてくれ!」
「はあ?」
「ジーノくん?」
「俺、おっちゃんみたいに強くなりたいんだ!」
「強く……いや、しかしな」
「頼む! このとーり! 俺、強くなってみんなを守りたいんだ!」
「………………守る、か」
どうやらジーノの口から出まかせの言葉がクリティカルヒットしたようだ。
「そうか。まあいい。少しは手ほどきしてやる」
「ほんとか! ありがとう、師匠!」
「師匠はやめろ。まあいい、ついてこい」
「はい!」
「……なんか急展開だけど、道具も師匠もなんとかなったみたい?」
人、それを結果オーライと呼ぶ。