はじまりの錬金術士のアトリエ ~ 神様の贈り物 ~ 作:遊佐
ですから長いんです……
アーランドの街。
トトリがアランヤ村からマークに連れられて帰って来てから、すでに三ヶ月が経とうとしていた。
ジーノの特訓ののちに、トトリが何をしていたかというと――
「ちむ!」
「なあ!」
「えー! 私の勝ちー?」
「ちむ!」
イクセルと料理勝負をしていたのである。
「なんでだ! なんで俺が負けたんだ!」
きっかけは、トトリがイクセルに料理を習った所からだった。
イクセルの出す宿題になんなくトトリが応え、オリジナル料理を作ったところでイクセルが勝負を申し込んだのである。
その審査員はちむで、彼女がどちらが美味いかの判定を出したのは、トトリだった。
「ちむー……ちむ、ちむち、ちむ、ちむむむー!」
「いや、ちむちゃん。何言ってるかわかんない――」
「そうか……確かに俺は勝負にこだわるあまり、料理の本質を忘れていた!」
「え……なんで今のわかったんですか?」
「俺の料理は小手先の技術ばかりだった! だーちくしょう! 負けだ負けだ! また負けたー!」
「また?」
イクセルが叫ぶ内容に、トトリが疑問符を浮かべて首をかしげる。
と――
「イクセルさんは、ロロナさんにも負けたことがあるそうですよ」
皿を拭いていたクライスが呟いた。
「あ、いたん……んんっ! そうなんですか?」
「……君たちが営業そっちのけで勝負しているので、必然的に私が仕事していたんです。それはともかく。以前彼はロロナさんとも勝負して、負けてから猛特訓してたそうですよ」
「あ、そうなんですね。知らなかった……」
「まあ、そう言う事でこれが賞品です」
そう言ってクライスに渡されたのは、「生命の水」「ベヒモスの心臓」「ゾンネフルーツ」「賢者のハーブ」だった。
「これって……」
「心臓は珍味。ゾンネフルーツは珍しい果物。賢者のハーブは調味料に使うために仕入れたやつです。それと……」
「この赤いのは……」
「前にロロナさんに研究用に渡されていた『種』の残りです。正直、私ではあまり有効活用できませんでしたので、返却します」
「いいんですか?」
「大体の研究はできました。正直、未完成というか劣化品だったみたいで、私やマリー達とはあまり関わりがないみたいでしたので」
「あー……」
「材料が特殊ですが絶対に複製できないほどでもないので、それは返却します。多分、ロロナさんなら何かしらに使うでしょう」
「……わかりました。先生に渡しておきますね」
「はい……というか、イクセルさん。悔しがってないでいい加減仕事してください」
クライスがため息交じりに、イクセルへと苦言を呈する。
「だー! うっせ! 俺は特訓だ! 営業はクライスがやってくれ!」
「まったく……」
「つか、トトリはさっさと帰れ!」
「えー!? 料理はー!?」
「自分で作れー!」
―――― ★ 神さまの贈り物 ★ ――――
「……というわけで追い出されてきました」
「あはは……イクセくんは、負けず嫌いだから」
ロロナのアトリエで、帰宅したトトリがロロナに話していた。
「あ、これクライスさんからです」
「あー……そういえばいくつかばらまいたっけ。よかったーこれでちむちゃんが増やせるね」
「え? これがその素なんですか?」
「そうだよ。貯めておいた材料がなくなっちゃったからどうしようかと思ってたけど、ばらまいた奴を回収すれば何人かは作れるね」
「ああ……でも直ったんですか?」
「機械はばっちし。問題もクリアしたからいけるよ」
「じゃあさっそく……」
ロロナが用意したちむちゃんホイホイを起動する。
「今度は男の子? 女の子?」
「今度は男の子にします」
そうしてピーという音ともに出てきたのは、新しいちむだった。
「名前はどうするの?」
「えーと……ちむくん、だとあんまり。ちむさん、ちむお、ちむどん、ちむまる……」
「ちょ、ちょっと、トトリちゃん?」
「うん! ちむどらごん、ちむどらごんです!」
「ええ!?」
「ちむ!?」
無茶苦茶なネーミングに、ロロナだけでなく生まれたばかりのちむが驚く。
「ちむどらごんくん! 格好いいでしょう!?」
「ええ……それはどうなの」
「ち、ちむ……」
「ちむー……」
あんまりなネーミングセンスに、ロロナが驚愕し、ちむ――ちむどらごんは膝から崩れ落ちた。
その肩をちむちゃんが慰める。
「よろしくね! ちむどらごんくん!」
「……ちー」
「うわああ……」
新しいちむは、目がレイプ色にどんよりとしている。
ロロナは、恐怖した。
―――― ★ 神さまの贈り物 ★ ――――
「ロロナ先生。それでばらまいたちむちゃんの素って、どこにあるんです?」
「ちむちゃんの素というか、正式名称は生命の水だから。えーと……ああ、確かパメラにも一つ渡したなぁ。多分まだ持ってるんじゃない?」
「あ、そうなんですね。それじゃあ……あ」
「あ?」
「……そういえば、マリーさんとエリーちゃん。まだ帰ってきませんね」
「ああ。そういえば……どこにいるの?」
「……アランヤ村に」
「え”っ」
ロロナの顔が蒼白に染まる。
「で、でも先に帰るってお姉ちゃんに伝言頼んで!」
「うわあああ……それってもはや死刑宣告じゃ」
「えええ!?」
「ヤバい! やばいよ、トトリちゃん! すぐに迎えに行かなきゃ!」
「えええええ!? そ、そうなんですか? なんで!?」
「ツェツィさんにおもちゃにされているに決まってるじゃない!」
「うあああああああ! そうだったぁ!」
今更気づくトトリ。
というか三か月経って気づかぬのはどうかしている。
「す、すぐに行くよ! 馬車はまだあるよね!」
「ジーノくんが一度アランヤ村に帰るって言ってたんですが……」
「ま、まだいるの!?」
「確か、今日出発で……」
「い、急いでー!」
「はい!」
大慌てで外に出ていくトトリ。
運よく出発する直前に止めたおかげで、彼らは馬車に乗れたのだった。