はじまりの錬金術士のアトリエ ~ 神様の贈り物 ~ 作:遊佐
一応締め切りは一週間後ぐらいまででお願いします。
名も無き村――
「……落ち着いたようじゃの」
トトリとロロナ、そしてミミの前には老婆が座っている。
ここは老婆の家。立ち位置からして村長宅であろうか?
「……はい。ごめんなさい……大声で泣いちゃって」
「構わん。当然のことじゃろう」
トトリの泣きはらした顔を見て、老婆は優しく言った。
「挨拶が遅れたの。わしはピルカ。この村のまとめ役のようなことをしておる」
「あ、わたしはトトリ……です。お母さんの……じゃなく、あのお墓の」
「トトリ、か。名前だけは聞いておる。おぬしには話しておかねばなるまい。ギゼラの事、そしてその最後のことを……」
「………………」
トトリの顔がこわばる。
「……今は聞きたくないか? ならばしばらく時を……」
「いえ、大丈夫です! 教えて、ください……」
「……わかった。もう何年前になるかの。あやつがこの村に来たのは……」
そうして昔語りが、始まった。
―――― ★ 神さまの贈り物 ★ ――――
「そもそもこの村は、よそとの交流が一切なくての。少なくともわしが物心ついてからは、ギゼラが初めての来訪者じゃったのう。あの時は村中がちょっとした騒動になったもんじゃった……」
ピルカは語る。
ギゼラが突然村の外から現れたことを。
「あやつは勝手にこの家にまで入り込んで来ての。開口一番、こう言ったんじゃ。『よ、アンタが一番偉い人かい?」とな」
「……お母さん」
「入り込んでしまったものは仕方がないと、とりあえずは応対したのじゃがな。『あたしはギゼラってんだ、よろしく』と来たものじゃ。そしてすぐに『なんか食わせてくれ』と言いおった。はじめは何と図々しいと思ったもんじゃよ」
「おかあさぁん……」
「しかも故郷よりド田舎だとか言いおっての。まあ事実じゃが……」
「重ね重ね申し訳なく……」
「いや、別に責めるわけではない。単に何しに来たか聞いただけじゃったんじゃがな。そうしたらわしのことをボケてるだのなんだのと――」
「ご、ごめんなさい……」
トトリが頭を下げる。
はて? 何故トトリが謝罪する羽目になっているのだろうか?
「こほん。話がそれたの。ギゼラが言うにはフラウ……まあ海竜か。かなり追い詰めたらしいのだが、船に穴を開けられてしまって這う這うの体でここまで来たとこのことじゃ」
「穴……」
「まあ穴が開いたところは、ギゼラが手伝った所とか言っておったの。じゃなきゃ、旦那が作った船に穴が開くはずがないと」
「………………」
「最後には飯を出してやったらおばあちゃん、アンタいい人だねと来た。どれだけ厚かましいのかと――」
「本当に重ね重ね、申し訳もなく――」
「ゴホン……すまん。まあ、破天荒な女じゃったな」
「あはは……」
「結局、船の修理が終わるまで滞在させてくれと。もうわしには断る気力もなかったわい。まあ、ああいう性格じゃからの。村のみんなと打ち解けるのも早かったんじゃがのぅ」
「でしょうね……」
「手先は相当不器用じゃったらしくての。修理は遅々として進まんかったんじゃ。そうして半年が過ぎようとした頃にの地震が起きたんじゃよ」
「地震?」
「うむ。まあそれでギゼラを追い出そうとしたのじゃが……」
「はい?」
「……この村の北にある塔が見えるじゃろ?」
「ああ、はい。でかい塔ですね?」
「地震はあの塔いる悪魔からの合図なんじゃ」
「へ?」
―――― ★ 神さまの贈り物 ★ ――――
「あの塔には昔大陸中を暴れ回った悪魔が封印されておる。あの悪魔が塔から出ようとしている時、地震となって起きるものなんじゃよ」
「悪魔……」
「この村はの。ただの村ではないのじゃ。生贄の村なんじゃよ」
「生贄……?」
「数十年に一度、あの悪魔が塔から出ようとした時に、悪魔の腹を満たすための生贄を捧げるために出来た村なのじゃよ」
「そんな!?」
「どうあがいても封印は週十年に一度ほころびができる。そして悪魔は周辺を荒らしまくる。だから最初から犠牲を塔の前においておけば防げると作られたのじゃよ」
「ひどい……」
「そうすることでしか悪魔を大人しくさせる方法がなかったのじゃ。わしらはそのための贄なのじゃよ」
「………………」
「だがギゼラはそれが許せなかった。よし、いっちょ行ってくるか。それがギゼラの言葉じゃった」
「お母さん……」
「二人の子供を持つ母親としては、黙って見過ごせないとも言っておったの。名前もその時に聞いたんじゃ。たしかツェツィとトトリとな」
「………………」
「そうして止める間もなく塔に向かって行ってしもうた」
「そんな……じゃあ。じゃあ、お母さんは悪魔にやられて……?」
「ただやられただけなら、わしらはこうしてお前さんと話してはおらんよ。ギゼラは、引き分けたのじゃ」
「引き分け……」
「倒すことはかなわなかったが、封印を破り出てきた悪魔を塔に押し戻したのじゃ。はるか昔に、いくつもの国が総力を挙げて行ったことをたった一人での。じゃが……」
―――― ★ 神さまの贈り物 ★ ――――
過去――
「ははは……いやあ、まいったね。二戦連続で引き分けかあ。いや、マリーも入れりゃあ、三戦かね。天下のギゼラさまもヤキが回ったもんだ……」
「しゃべるな! こんな時ぐらいは黙っておれ!」
「どうせ黙っていても死にそうなんだ。ならしゃべるほうがいいだろ」
「死なさん……お前はこの村全員の命の恩人なんじゃ。絶対に助けて見せる」
「できないことは言うもんじゃないよ。手当の仕方すら碌にわからないだろうに」
「くっ……」
「せめてマリーがいればね……こんな傷、すぐに治してくれただろうに。だけど、こりゃもうダメだね」
「諦めるな! ワシにあれだけ啖呵を切っておいて!」
「一緒にするんじゃないよ。あんたは諦めていただろ。あたしは好き放題やった結果さ」
「くっ……血が止まらん」
「ねえ、おばあちゃん。最後に一つ頼まれてくれない?」
「……なんじゃ」
「あたしが乗ってきた船に連れて行ってくんないかい? 一人じゃいけそうもなくてね……」
「連れて行ってどうするんじゃ」
「置いて行ってくれていいよ。こんな村で墓に埋もれるのはごめんなんだ」
「おぬし……」
「どうせ死ぬなら惚れた男の船で死にたいんだよ。乙女だね、あたしも」
「……わしにできることはそれだけか」
「もういっこあるよ。ギゼラさまの伝説を語り継ぐってね。もしマリーや家族が来たら、伝えられるようにさ……」
「………………」
「頼むよ。もうあんまりもちそうにないからさ……」
「すぐに村のものを集める。すまん……」
―――― ★ 神さまの贈り物 ★ ――――
現在――
「じゃあ、あのお墓は……」
「村の者がギゼラへの恩を忘れぬために建てたものじゃ。当の本人は今頃どこかの海を漂っておるじゃろう……」
「そう、ですか……」
「すまぬの……おぬしの母にはなんと礼を言っていいかわからん」
「ふ、ふふ……」
「……? おぬし、笑っておるのか?」
「すいません。すごく悲しいんですけど、でもなんか……おかあさんが、おかしくて」
「そうじゃな……あやつはいつもふざけていて、わしらが悲しむ間すら与えてはくれんかった」
「ふふ……あはは……ぐすっ、あは、あははは……うっ……あは、あはは……お母さん、お母、さん……っ」
トトリは泣き笑いのまま涙を流し。
ピルカは静かにその様子を見て、目を閉じた。