はじまりの錬金術士のアトリエ ~ 神様の贈り物 ~ 作:遊佐
名もなき村――
「……もう行くのか?」
ピルカが村の出口まで見送りに来る。
「はい。おねえちゃんやお父さんにも、早く教えてあげないといけないし」
「そうか……」
つらい役目にピルカは目を伏せる。
「お母さんの事、教えてくれてありがとうございました」
「またいつでも来ると良い。村の皆も喜ぶ」
「はい、絶対にまた来ます」
トトリたちは、そう言って船へと向かいだす。
その様子をじっと見ていた、一人の女の子のことを気づかずに――
―――― ★ 神さまの贈り物 ★ ――――
船上――
「………………l
トトリは海のかなたをじっと見ている。
そこに自分の母親がいるかのように――
「トトリ」
「ミミちゃん……」
そんなトトリにミミか近づく。
「お母さんの事……残念だったわね」
ミミの声に、トトリは思わず涙を拭いた。
「うん……えへへ。久しぶりに大泣きしちゃった……恥ずかしいな」
「恥ずかしいわけないじゃない」
「ミミちゃん……」
ミミがトトリの隣に立つ。
「恥ずかしいわけないわよ。あんな時ぐらい、泣いて当たり前だもの……私だって」
「え?」
「私だって……泣いたんだから」
ミミの言葉にトトリが振り返る。
「それって……もしかして、ミミちゃんのお母さん?」
「ええ。あんたと違うのは、最後まで一緒だったからマシだってことぐらいかしらね」
「そっか……」
ふう、と溜息をつくミミ。
「私、さ。小さい頃は凄く体が弱くていじめられっ子だったのよ」
「うそっ!?」
「……なんでそこで即座に反応するのかしら」
「あ、えと……ごめん。だって、今のミミちゃんからは全然、まったく、これっぽっちも想像できなくて……」
「あんた、あいかわらず毒舌治ってないわね……いいから黙って聞いていなさい」
はあ、と再度溜息をつくミミ。
先ほどとは違い、呆れた様子だったが。
「その頃は毎日のようにいじめられてね。よくお母さまに泣きついていたわ」
「………………」
「その時にお母さまが言ったのよ。ミミは立派な貴族なんだから泣いちゃダメだって」
「貴族……」
「生まれた時から偉いんだから、周りに誰もが尊敬するような立派な振舞いをしなくちゃいけない。だから、今度泣きそうになったら『私はシュヴァルツラング家の娘なんだ』って思いなさいって。そうすれば力が湧いてきて、きっと我慢できるわってね」
「そうだったんだ……」
「ふふ……まあ、そんな私でも、お母さまが亡くなった時は泣いちゃったって話よ」
「だからミミちゃんは家のことを、いつも……」
「……まあ、さすがにね。この歳になれば貴族の名前が大した意味なんてないってわかってる。でも……それを認めたら、お母さまが嘘をついたことになる。だから私は言い続けるのよ」
「そっか……」
トトリはミミの優しさに触れた気がした。
彼女は今、自らの本心を語ってくれている。
「ありがとう、ミミちゃん」
「……別に、お礼なんていらないわよ」
「ううん。ありがとう。だって、元気づけてくれたでしょ?」
「………………うああああああ」
突然、ミミが頭を抱えてうずくまった。
「ど、どうしたの!?」
「な、なんで私はこんな話を……無茶苦茶恥ずかしくなってきたわ」
「えー……? あ、でもすごい。ミミちゃん顔真っ赤」
「ぐううううう………………わ、忘れなさい! 今すぐに!」
「無理で~す」
「くっ……いい? 絶対に、誰にも話すんじゃないわよ! ロロナさんにもよ!? そんなことしたら絶交だからね!?」
「……うん。誰にも言わないよ。私だけ、ミミちゃんとの秘密♪」
「秘密……………………えへっ♪ って、じゃない! ああもう!」
「あはははははは! なんか今日のミミちゃん可愛い」
トトリの笑顔に、ミミは顔を赤くしながら苦笑する。
「……まあ、笑えるぐらい元気が出たなら、話した甲斐はあったかしらね」
「……ありがと。ミミちゃんが一緒で、本当に良かった」
そう言って二人は笑いあった。
―――― ★ 神さまの贈り物 ★ ――――
「ちむ……」
「しーっ! 今は静かにしててね。まったく……私たちがいるというのに二人だけの空間作っちゃって」
ちむとロロナが物陰でこそこそとしている。
「……でもよかったね。トトリちゃんにも、私とくーちゃんみたいな友達がいて」
ロロナは二人の様子に、自身の昔を見ているようで懐かしくなった。
「……私も、なんだかくーちゃんに会いたくなっちゃったな」
「ちむー……」
ロロナは優しく二人に微笑む。
ちむは空気を読んで大人しくしていた。
―――― ★ 神さまの贈り物 ★ ――――
アーランドの街――
「へっくしゅ!」
「うわ、びっくりした!」
盛大にくしゃみをしたクーデリアに、書類を落としたフィリーが叫ぶ。
「変ね。風邪かしら……ちょっと、フィリー! 書類はちゃんと揃えなさい!」
「わかってますよぉ……クーデリア先輩のせいなのに」
「ほっほう? じゃあ、その優しいクーデリア先輩が、あなたに残業を渡そうかしら……?」
「いっ!? いいいいいやです!」
「遠慮しなくていいのよぉ? はい、これ、あなたのお姉さんが渡してきた始末書」
「きゃー!」
「さっさとチェックして上に回してきなさい! 本当に残業になるわよ!?」
「わーん! 先輩のいじわるー!」
バタバタと書類を持って、駆け出していくフィリー。
「はあ、まったく。それにしても……ロロナはまだ海の上かしら? 早く帰ってきなさいよね」
親友であるロロナと似たようなことを、同時期に思い合っていたクーデリア。
彼女はそのことをまだ知らない。
アンケートは明日あたりで締めきりますが……い~い塩梅です。
これは……うん、やったか?(謎)