頭がバケモノな勇者部   作:たこ焼きたこ焼きたこ焼きたこ焼きたこ焼き

3 / 9

感想、評価、感謝です!



女子力バケモノとパワー系勇者

 

ウラシマソウの花弁が舞う。

 

紫紺よりも深い暗紫色が折り重なり無垢な白衣を染め上げ――自分を『勇者』として形作る。自分の為の勇者で在ると決めた。だから、不思議と強大な力にも抵抗はなかった。

 

変身した自分の手元に花弁が集まり、何かを形成する。暗紫色の鎖鎌だ。無骨で、先輩の大剣よりも毒々しい印象を受ける鎖鎌。

『勇者』なのだから剣と盾を勝手に想像していたが、勇者とは飽くまでも御役目の役名を指すのだろう。きっとゲームにおける戦士や武闘家、変わり種の忍者であろうとも樹海では総じて『勇者』だ。

 

「樹……アンタも、ありがとね。心強いわ!!」

 

「言ったよね?私は、お姉ちゃんに着いて行くって!」

 

犬と木霊の姉妹は仲良しらしい。自分は何処までも自分の為に戦うつもりなので、少し眩しい。

 

気まずさを誤魔化すように、携帯端末に視線を落とす。マップ上におけるバーテックスには『乙女座』と表示されていた。バーテックスは星座を冠するらしい。

聞き齧りでしかないが、星座は八十以上あるらしいので、もしかしたらあの化け物はその一体でしかないのかもしれない。気が遠くなる話だ。

 

乙女座――ヴァルゴ・バーテックス。布のような触腕に蛸に似た頭部、砲台ですよと主張する尾。アレの何処が乙女なのか問い質したいが、身近な乙女が駄犬と苔むした丸い木、ピンクの牛に青い卵なので案外的を射た命名なのかもしれない。

 

 

――先陣を切ったのは風先輩だった。

 

身の丈以上の大剣を肩に担ぎながら飛び出し、軽い跳躍で遥か遠く、姿が小さくなる。真似て地面を蹴ると、意識を飛ばす勢いで風景が線を描く。

投げ出された空中では姿勢制御に努め、必死に先輩の背を追う。グルグルと回る視界、離れた横側には自分よりも高く飛び、過剰に身体が傾いている樹が叫んでいた。

 

有り余る身体能力。戦う覚悟は決めたが、素人である事には違いない。このままだと頭から地面に落ちる。落ちオチなんてサイテー。

 

樹よりは幾分かマシなので、着地と同時に鎖鎌の分銅部分を樹に巻き付け、抱き寄せる。

 

「きゃっ!?」

 

これも危険行為には違いないが、頭から落ちるよりはマシだ。

 

ギシギシと鳴る木製の頭が肩にぶつかって痛い……痛くない?苔のおかげか、意外と人間っぽい感触だ。触れた事はなかったが案外柔らかいのかもしれない。

 

「せ、先輩…!?」

 

頭がバケモノだとしても、身体は女の子だ。なんか温かい。別に他の女子を知ってる訳でもないが……というか身体接触が多いのは勇者部のバケモノ共だけだが。

そう考えると生温かいのもちょっとヤダなぁ……気持ち的な問題として。身内のバケモノでよかった。他所様のバケモノだったら普通に嫌だったかも。

 

「……先輩って女の子に慣れてますよね。他の子にもこういう事をしてるんですか?」

 

とても心外だよ。

 

「おいゴラァ!アタシの妹になにシとんじゃあ!!」

 

人命救助だよ。

 

てか戻ってくるな。はよヴァルゴさんと戯れてきなさい。……顔怖っ。黙れ小僧な顔じゃん。二秒後には食べられそう。

 

「いや……なんか、妹が誑かされてる現場を横目に見てたらさ。世界よりも優先しちゃわない?」

 

しちゃわないで?

 

「先輩もお姉ちゃんも!まずはバーテックスだよ!!」

 

後輩は今日も元気いっぱいだ。とても同意なので一刻も早くヴァっさんを討伐したい所存。

 

本当は風先輩を手本にしたかったのだが、此方から樹をぶんどって威嚇してるので仕方なく自分が先陣を切る。

 

どうやらこの鎖鎌は伸縮自在らしいので、鎌を遠くに引っ掛けて高速で収縮させる。結果、弾丸速でヴァルゴ・バーテックスに蹴りを叩き込む事となる。

勇者の身体能力はバーテックスに対抗可能な程だ。何百倍もある巨体を横転させ、然し明確なダメージは無さそうに見える。

 

「派手ねぇ…アイツ。よし、アタシも!!」

 

またフワフワとヴァルゴが浮遊し始めると、上からグレータードッグ……じゃなくて風先輩が縦回転しながら降ってきた。

 

大剣を更に巨大化させ、布のような触腕を両断。

 

負けじとヴァルゴが身を回転させて先輩を弾く。吹き飛んだ先輩は神樹の根に激突するが、バリアのようなモノが展開している。先輩の能力か、勇者全員に搭載されているシステムなのか。

 

なんか……うん、あんまり言うべきではないが。バケモノと化け物が殺しあってる絵面が酷い。

 

……と。見ている場合ではない

 

「先輩!合わせてください!!」

 

樹が腕に装着された輪から無数のワイヤーを展開し、ヴァルゴを縛り始める。自分も樹に合わせ、鎌を喰い込ませ伸縮自在な鎖で拘束する。樹のワイヤーほど自在には動かせないので、根を足場に四方を跳び回り何重にも重ねる。

 

これで簡単には動けないだろう。咄嗟の連携としては及第点を貰いたいところだ。無論拘束だけでは何も起きないが、ここまでお膳立てしたら後は単純だ。

 

「――ぶった斬る!!」

 

戦線復帰した先輩が限界まで巨大化させた大剣で横に薙く。刃も厚くなった為両断は出来ないが、巨体は拉げてボロ雑巾のように成り果てる。

 

 

――勝てる。

 

 

確信を得て、直後に()()()()()

 

「っ!お姉ちゃん!避けてぇぇぇ!!」

 

ごぽっ、と大きな異音が鳴る。ホースに詰まった何かを無理矢理排出させる、それに似た音だ。腹の底に響く異音は重なり、重なり、重なり――

 

刹那、先輩が爆風に呑まれる。

 

最初に被爆したのは一番近くにいて、避けようがなかった風先輩だった。そして少しだけ距離があり、故に自分と樹には視えた。

 

――()()

 

より正確には卵型の爆弾だろうか。

 

ゆったりとした動作から、下腹部が異様に膨らみ。尾のような砲台から高速で放たれたのは球体の爆発物だった。

それが銃を連発するように、一定の感覚で放たれて先輩を呑み込む。一度、二度、数えるのも億劫になる回数だった。

 

果たしてバリアは機能するのだろうか。機能したとていつまで耐えられるのか。

 

………嫌に現実的な想像に区切りをつける。ソレは生産性がない思考だ。今、何をするべきか。この瞬間にもヴァルゴ・バーテックスは此方に砲台を向けている。

 

鎌を投擲し、遠くの根に刺す。樹を担ぎ、鎖を収縮させて戦線離脱を図った。先輩の無事も確かめたいが、まずは樹を安全地帯に逃がさないといけない。

詳しく知ってる訳でもないが、彼女達には両親が居ない。たった二人の家族、それも樹は庇護の対象。この状況でマトモに動けるとは思わない。

 

「お、お姉ちゃん……!先輩…お姉ちゃん、が……」

 

鎖鎌で移動中、樹は震えながら此方を抱きしめる。後ろからはヴァルゴの爆弾が無数に爆発し、此方が狙われ続けている事が見なくともわかる。

 

なんの慰めにもならないが。

 

空いてる片手で苔蒸した頭を撫で、大丈夫だと囁く。やはり、手に伝わる感触は見た目とは異なり人間の頭に近い。自分には違いが分からない。

何の確証も無いのに、自分は先輩が無事である理由を話す。バリアがある事、大きさをいじれる大剣は盾になる事、そもそも先輩は頑丈だ、と。風を切り鎌の投擲と鎖の収縮を全て空中で行い、残った脳のリソースを適当な理由付けに使った。

 

「……そう、ですよね…きっと、お姉ちゃんは無事、ですよね…!」

 

願わくば、その希望が損なわれないように。

 

何をするにせよ、まずは弾幕から逃れる必要がある――が、それには問題ないだろう。

 

自分は樹の頭から手を離し、やっとフリーになった右手に()()()()()()。他の二人とは違い、自分には()()()()()が使用可能だ。

手のひらに顕現した()()はなんの変哲もない『玉』だ。暗紫色のそれを握り締め、爆弾へ投擲するの同時。玉は煌めき『短槍』へと姿を変える。

 

玉型爆弾を複数貫き、誘爆させる。そうして爆炎に紛れた短槍は、然し次の瞬間には玉の形状になり手のひらに戻っていた。

 

――変幻自在な投擲玉。

 

薄らと頭に浮かぶ武器の使用方法は、端的で。そして難解に流れる。剣でも槍でも、手裏剣でも苦無でも。質量に限界はあるらしいが、自由度もそこそこ。初陣で工夫を凝らすのは難しいが、今後があれば他にも使い所を考えたい。

 

……ところで、そろそろ離れて欲しい。一旦は誘爆で余裕が出来たとはいえ、この後も樹を抱えながら逃げ続けるのも楽じゃないのだ。その旨を伝えると、はっと気付いたらしく、慌てて離れた。

 

「ご、ごめんなさい!……その…お、重くなかったですか……?」

 

これでも男だから……と、言いたいところだが。勇者の筋力では人の一人二人、重量的な意味では苦にもならない。

それよりも、()()を見てほしいと伝えて、ヴァルゴを指差す。射程範囲外に出た為か、砲撃が止んでいる。だが指を差してまで見て欲しかったのは其れではない。

 

ヴァルゴ・バーテックスの背後。遠くからでも分かる程の花弁が煌めき、集まる。収縮した其れは大剣だった。人の存在しない樹海にて、バカでかい大剣を更に巨大化させて戦う脳筋なんて、きっと一人しかいない。

 

「……あっ、お姉ちゃん…!!」

 

「痛いわよコンニャロぉ!!おりゃあ!アタシの女子力をくらえ!!」

 

「あ、すっごく元気……」

 

やっぱり無事だった。女子力(物理)で乙女座に対抗しているのだから、我らが部長はやはりバケモノだ。

 

それに――

 

 

「勇者パァァァンチィッッ!!」

 

 

ピンクの牛が鉄拳制裁しに飛んできた。そしてヴァルゴさんに大穴が空いた。流石に墜落するバーテックスを眺めながら、樹の横で呟く。もう分かんないね、何が何だか。

 

「……ご、合流します……?」

 

阿鼻叫喚というか百鬼夜行というか。あの場所に行くのは目に毒だが、帰れるのかも分からない樹海で単独行動するのも嫌だ。

渋々と樹の言葉に肯定を返し、まずは穴が空いて墜落したヴァルゴ・バーテックスの近くに行く事にした。マップを見る限り先輩と友奈もそこに居るらしいので。

 

◆◆◆◆◆◆

 

◆◆◆◆◆◆

 

◆◆◆◆◆◆

 

◆◆◆◆◆◆

 

なんか乙女座の図体が再生していた。

 

筋肉というモノがあるのかは解らないが、ソレがボコボコと脈動して友奈の空けた穴や先輩が斬り落とした触腕を少しづつ再生している。

先輩が言うには、バーテックスは『御魂』を破壊しない限り再生を続け、神樹の領域である樹海を穢し続けるらしい。じゃあ御魂ってどこにあるのか、と聞くと。弱ってるバーテックスを囲み、祝詞を読めば出てくるとの事。

心臓部でありながら器官ではないのだろう。ならば全身を消し飛ばしたらどうなるのかも気になったが、そも自分達にはそんな火力はないので考えるだけ無駄だろう。

 

取り敢えず。

 

祝詞の内容は勇者アプリにあるらしいので、友奈や樹とバーテックスを囲みたどたどしく読んでいると――

 

「大人しくしろこんにゃろぉ!!」

 

先輩がボロボロなバーテックスに斬りかかった。なんだこの駄犬。

 

「アレよ。別に読まなくても気持ちが籠ってれば良いのよ!」

 

先に言えや。

 

後輩全員をドン引きさせた駄犬だが、封印の儀式は問題なく執り行われているらしく。樹海の地面に模様が浮き出て光が満ちる。

 

やがて光は収縮し、ヴァルゴ・バーテックスの頭部が模様の形に従って開き、逆四角錐型のコアが出現する。

 

「……お姉ちゃん。アレを壊せばいいの?」

 

「そうね。時間内に御魂を壊さなきゃアタシ達の負けよ」

 

「えぇッ!?」

 

クソゲーかな?

 

どうやら封印の儀式には相当な神力?的な、神樹の力を使ってるようで。長時間は耐えられないとの事。神樹は四国に結界を張り、勇者に力も与え、ついでに豊穣やらもやってる存在だ。つまり色々と手一杯という事。神にも世知辛い世の中だ……。

 

何はともあれ。さっさと御魂の破壊をしなければいけない。

 

「よーし!結城友奈、いきます!!せぇぇい!!………こ、これすごく硬いよ!?」

 

友奈が拳を抱えながら叫ぶ。

 

身の丈ほどはある御魂。乙女座自体が柔らかい為に甘く見てたが、御魂の破壊は一筋縄ではいかない様だ。自分も友奈に続いて変幻自在な投擲玉を槍に変形させて放つが、軽く傷を付ける程度。

なるほど、これは硬い。時間をかければ破壊は可能だが、その間に樹海は侵食されつづける。

 

………が。硬いだけで動かないのであれば()()()()はある。

 

「……何か思い付いたのね」

 

先輩は不敵に笑う。

 

思い付いた。だが、皆の協力は必須だ。ゲームオーバーまでのカウントが進む中、果たして信じて任せてもらえるか……愚問だろう。一年と少し、伊達に過ごして来た訳ではない。

 

彼女達も疑う気は微塵もないらしい。ならば此方から言葉を重ねる気もない。

 

作戦を端的に説明して、即座に実行する。

 

まずは伸縮自在の鎖鎌を伸ばし、自分と友奈、反対側は先輩と樹が持った状態で御魂に巻き付ける。鎌は危険なので地面に突き立て、準備完了だ。

 

後は互いの方向に全力で引っ張ると同時に鎖を縮小させれば――

 

「ぐんぬぬぬぅ!!じょーしぃーりょぉーくぅぅぅ!!」

 

「ふんぬぬぬ!!勇者パワァァァー!!」

 

女子力バケモノとパワー系勇者が煩いが、刹那の拮抗の末に何か致命的な、パキッと小さな異音が響く。一度ヒビが入れば、あとは簡単だ。

勇者四人分のパワーを加えられた御魂に鎖が食込み、ヒビ割れ――煌くと同時、荒く両断された。

 

御魂が砕かれ、何かが空に呑まれて。

 

巨大な化け物は音もなく砂となって崩れた。まるで抜け殻のように、大きいだけの図体には意味も執着もないと言わんばかりに。

 

――斯くして、初陣は終わった。

 





  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。