頭がバケモノな勇者部 作:たこ焼きたこ焼きたこ焼きたこ焼きたこ焼き
――浮上する意識。
朝焼けがカーテンを透かし、紺と紅が妖しく混ざる。普段よりも早く起床してしまったらしく、時計の差す時間も二度寝には余裕がある。
なのに身体を起こし、憂鬱に溜息を吐く。昨日は意識を失うように早く寝たので、その分だけ早く目が覚めたのだろう。
思い出すのは『勇者』と『樹海』。バケモノと一緒に化け物を倒した記憶は未だ瞼の裏に鮮明に浮かぶ。
あの後は、世界が解けるように花弁に還り。自分達は学校の屋上、小さな社の目の前に帰された。神樹の力で行き来しているので、社は一つのワープ地点のような扱いなのだろう。或いは帰還点か。
先輩は明日――つまり今日の放課後に色々と今後の説明すると言っていた。今後、と言うのであれば暫くはバーテックスの討伐は続くのだろう。一体なら問題ないが、複数体の相手は考えたくもない。
日常生活ですら頭部がバケモノな女子ばかりなのに、全身異形まで生えてきたのだ。溜息が止まらない。
気分が晴れない儘にベッドから起き上がり、掛け布団を畳む。二度寝と洒落込むような気分でもないので、せめて登校まではゆっくり過ごそうと決める。
まずは手早くシャワーを浴びて、まだ朝食には早いので牛乳を飲みながらボーッとテレビでニュースを見る。天気予報ばかりで、何の面白味もない。当たり前だが、バーテックスについてニュースで語られる事は無いようだ。
……昨日の戦いを思い返すが、存外、落ち着いていた。自分だけでなく『勇者』になった皆も同様に。子供の適応力とは馬鹿に出来ない。
……………うん、暇だ。
話し相手でもいれば気も紛れるのだが、生憎と一人暮らしだ。記憶喪失で、色々と自分の事で手一杯だったので家族とは距離を取っているのだ。
幸い、自分の実家は大きいらしいので一人暮らしは認められた。名家、とも言えるのだろうか。西暦の時代から続く家で、大赦でも発言力があるだとか。
しかし自分にはあまり関係ない。家族から離れて一人暮らしをしていて、家柄故の御役目なんかも無い。『勇者』が其れだと言われれば、それまでだが。
兎も角、今の自分には代々続く家を動かすだけの責任感も義理もないのだ。せめて、記憶が戻れば何かが変わるのかもしれないが。
………やはり朝方のテレビはつまらない。
「…………ッ」
画面を消すと、黒い液晶モニターに自分が映る。深く笠を被る靄。黒い靄が七つ、自分を覗く。
――『勇者』がバケモノに見える。
犬吠埼風、犬吠埼樹、結城友奈、東郷美森。素質のある彼女達と同様に、
自分の名前にも違和感がある。
身体にも違和感がある。
これまでの日常にすら、違和感が蔓延る。
鏡のないアパートの一室で、唯一画面の中。自分を写すモニターは睨むように此方を覗く。七つの影、重なる笠。
それは奇しくも昨日、自分の前に出現した『精霊《七人同行》』と酷似していた。果たして自分や『勇者』はバケモノなのか、それとも自分が異常なだけなのか。
寝転がりゲームをしている内に、生産性のない思考は何処かに掻き消えてしまった。
なんだかんだで登校時間になり。
着慣れた制服に着替えてさっさとアパートを出る。たまに面倒臭くなってサボるが、親に一人暮らしを許してもらってる手前、怠惰が過ぎると連れ戻されて世話係が斜め後ろにスタンバってる居心地の悪い生活に後戻りだ。
叶うならゲームでもしながら過ごしたい。ゲームは好きだ。『主人公』が決まっていて、性格も設定も使命もある。焦がれるほど羨ましくて、自分にとっては一種の現実逃避なのだ。それはそれとして、娯楽としても好きだが。
……持ってくか、ゲーム。
鍵を閉める刹那、ふと思いついて部屋に戻り。エナメルバッグに携帯ゲーム機を忍ばせてから再度アパートを出る。
別に深い意味はない。単にサボった際の暇潰しが欲しいだけだ。
慣れた道をいつも通りの時間に歩く。昨日の非日常とは一転、何処までも日常の延長線上に在る光景だ。一歩間違えばこの日常もなくなっていたのだ。何とも、中学生に背負わせるには過多な責任に思える。
「あっ、おはよー!」
後ろから挨拶されて振り返ると、友奈と東郷が居た。ピンクの牛鬼とおどろおどろしい双眸の青坊主。目に毒。とても。
挨拶を返すと、東郷がじっと此方を見てくる。顔に何か付いているだろうか?生憎と自分の顔なんて見たことがないし、見ようとしても見れないのだが。
首を傾げると東郷は何を思ったのか、鞄からスプレーボトルと櫛を取り出した。
「……ふふっ、また寝癖ついてるわ。直すから屈める?」
寝癖?朝はシャワーを浴びているから付いていない筈だ……と、考えてから思い出す。今日は妙に早起きで、その分だけ早くシャワーを浴びた。
それから登校時間まで、寝転がりゲームをしたり漫画を読んだりとダラけていたのだ。その際に髪に変なクセがついたのだろう。
東郷には授業中に寝た時や部活を寝て過ごした際に、よく寝癖を直してもらっている。断言するが、別に頼んではいない。彼女もまた、偶々寝癖直しを持ち歩いているからと言うが。彼女が出先で寝癖を付けることなんて有り得ないので、自分や友奈に使う用に常備しているのだろう。
道の横に寄り、黙って彼女に頭を任せる。不思議な話だが、彼女達には自分が人間の頭で見えているらしく。バケモノをバケモノとして見えるのは飽くまでも自分だけだ。自分も知らない自身の容姿を他の人は知っている、というのも妙な感覚だ。
軽く髪を梳くわれ、引っ掛かる所は手櫛で解かれる。何度か繰り返し、櫛の通りが良くなったらシュッ、とスプレーボトルから髪の表面を濡らされる。
嗅ぎ慣れたクリアマスカットの香り。上からまた梳くわれて、最後に撫でながら手で整えられる。
「東郷さんのブラッシング、気持ちいいよね!私もよくやってもらうんだ〜♪」
残念ながら自分には彼女の髪は見えないので、毛皮を櫛で掻く姿しか確認できない。
「うん、よし。一先ずはこんな感じかな」
取り敢えず感謝の言葉を伝える。東郷には身嗜みを任せっきりなので頭が上がらない。因みに自分の私服も東郷と風先輩プロデュースによるモノだ。顔の系統が分からず何が似合うのかも確認出来ないので、仕方ない。
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放課後になった。
校舎からは生徒の談笑と掃除の騒音が鳴る。箒で雑に床を掃き女子に怒られる男子、黒板消しをクリーナーにかける音、スマホでゲームをする生徒。ずっと前から変わらない、然し今日しかない放課後だ。昨日の今日だから少しばかり深く考えてしまう。
自分の所属する班は今週は掃除当番から外れている為、真っ直ぐと下校する事が可能。
自分の足は自然に、とある場所へと向かう。教室を出て、階段を登り。人通りが少なくなるに連れて騒音も背から離れてより一層他人事になる。
やがて着いたのは屋上だった。空が青く暖かい春風が穏やかな幸福感を演出する。年がら年中春だったら多少は過ごし易いのに、と思う。何とも安易で安直で、なのに大人も子供も同じ事を言う。両方とも結局はレッテル張りでしかないのだろう。知ってるから大人、知らないから子供。そんな考えこそが幼いのだろう。
欠伸を一つ。
備え付けの倉庫を開け、先週辺りに体育館から盗んできた体操マットを引っ張り出す。敷くのは先程経由した踊り場とドアの上、梯子を設置されたスペースだ。
今日は天気が良い。風も気持ちよくて、ピクニックでもしたい放課後だ。なのでサボります。曇りとか雨なら部活に参加していたが、麗らかな昼寝日和なので仕方ない、仕方ない。
まあ、昼寝日和とは言ったがゲームをするつもりだ。携帯ゲーム機を持ってきたのだから使わなければ勿体ないお化けが出てしまう。
体操マットに寝転がりゲームをやっていると、勇者アプリからメッセージが流れてくる。
《風 : アホ!何処でサボってるのよ!!》
《風 : 昨日の説明するって言ったわよね!?》
電話が鳴る。切る。電話が鳴る。切る。電話が鳴る。切る。
《風 : でろ》
電話が鳴る。切る。あ、野生の色違い出た。嬉しいけど、年々色違いの価値が減ってる気がするなぁ……持ってれば嬉しいんだけどね?電話が鳴る。切る。
《友奈 : こちら友奈です!体育館の倉庫には居ませんでした!》
《樹 : 靴はあったから帰ってはいないと思う……前みたいに偽装工作だったら分からないです》
《東郷 : 此方東郷、此方東郷。今朝の荷物を確認した結果、靴の偽装工作はないかと。これ迄の傾向からして空き教室か屋上の可能性大です》
………まあ、ここは死角になってるし見つからないよね。おっと青甲羅が出たぞ。でもなぁ…下位に下がってまで欲しいモンじゃないな。団子状態ならぶっぱして気持ちよくなるけど。
電話が鳴る。切る。
暫くして通知音も電話コールも止まる。今日は自分の勝ちの様だ。どうせ今日は『勇者』の御役目の説明しかしないのだし、後で東郷に聞くつもりだ。
何だか動くのも億劫になってきたのでゲームも手放しボーッと空を眺める。良い天気だ……無駄に早起きした弊害か、眠気が訪れる。このまま睡魔に身を任せて瞼を閉じて――
《――樹海化警報》
また激しいアラーム音が鳴る。雲は止まり世界から樹海化警報以外の音が無くなる。四国の端から中心に向かい煌く花弁の波が押し寄せて樹海に書き換える。
また、バーテックスが攻めてくる。寝る体勢だった所を起き上がり、神樹を眺めながら呟いた――
…………アンタの敵、こんな頻度で来るの?
■■オマケ■■
武器一覧
『伸縮自在な鎖鎌』
・伸びる暗紫色の鎖鎌。二話では鎌を遠くに引っ掛けて鎖を縮小させ、高速移動に利用した。 鎌や分銅部分での攻撃は勿論、伸びた鎖で相手を縛り、縮小する事で拘束、場合によっては両断可能。
『変幻自在な投擲具』
・暗紫色の玉。質量には限度があるが、基本的には投擲する際に変幻自在に形を変えれる。投擲後も自由なタイミングで手元に戻せる。
『????』
・三つ目。
『勇者』はみーんなバケモノに見えるお話。無論、主人公くんも『勇者』なので例外ではありませんね。