頭がバケモノな勇者部 作:たこ焼きたこ焼きたこ焼きたこ焼きたこ焼き
彼を初めて見たのは、讃州中学校の入学式だった。
皆が意気揚々と新生活に心躍る中で独り……擦れ切った瞳をしていた。ドクンと心臓が跳ねて、でも意味が分からなくて自分自身に疑問符が生じた。
泣き方を知らない子供が、必死に何かから目を逸らしている――漠然とした、言葉の追い付かない感性が拙くそう告げている。
きっと、友奈ちゃんと出会う前の私も同じ顔をしていた。事故で記憶と脚の自由を喪った私は、何も分からないままに受け入れて赦す事を強要されていたのだから。
理不尽だと思い、でもその
きっと彼は何も受け入れられてない。私には知り得ない『理不尽』に抗い続けている……ような気がする。だから擦れてしまった、環境に心が追い付かなくて。妙に気になった男の子に、私は不思議と理解を示していた。
「東郷さん、どうかしたの?」
友奈ちゃんが私の車椅子を押しながら聞いてくる。少しだけ思考を巡らせて、でも隠す事でもないので話した。
「彼、何だか不思議な雰囲気だと思ったの」
「彼?……えーっと、名前は…確か"ぐん"くんだっけ?」
「ふふっ、惜しいわ」
名前の読み間違いは人によっては失礼にあたるので、そっと友奈ちゃんに正しい苗字の読み方と、ついでに名前も教えてあげた。
まだ入学式も終えたばかりで、クラスでの自己紹介もやっていない。黒板に貼られた座席名簿だけを見たら、確かに見間違える事もあるのかもしれない。
友奈ちゃんは覚えるの早いねと褒めてくれたけど、大半の級友の名前は覚えていない。彼だけは、印象的だったから覚えていただけ。
「うーん、不思議な雰囲気かぁ……たしかに?」
「無理に同調しなくても大丈夫だよ?」
「ううん!東郷さんの言ってること、何となく分かるかも。クール?って言うのかな……何だか仲良く出来そうな気がする!多分!」
……ちょっと友奈ちゃんと私の考えは違うみたいだった。
私は彼と自分を比べて、似ていると思ってしまった。似ているのに、私がもっと違う選択肢を選び続けた先の"もしも"が彼であるように思えた。
他人との繋がりが薄い訳ではない。拒絶もしていないし、今だって不慣れそうにも笑って対応している。
自分の境遇を受け入れられなくて。私にとっての
それがどうしようもなく、悲しい。もしかして喪った記憶の中に彼はいるのだろうか。
……時折、
友奈ちゃんも同じらしい。私達に興味のあるような視線であれば、特に気にはしなかった。でも親近感を覚えていたからか、私には彼の視線の意味が理解出来てしまった――
――
まるで慣れ親しんだ日常にモノノ怪が介入しているみたいで、自分だけが視えているような。恐怖と孤独感。勿論、私も友奈ちゃんも普通に人間なので、例え話でしかないけれども。
結局、私は彼に話しかける事はなかったし逆も然り。私達を隔てる『恐怖心』を蔑ろに出来るほど、私には勇気がなかった。
暫くして。
私と友奈ちゃんは『勇者部』に入部した。先輩から勧誘を受けて、友奈ちゃんが同調してしまって。私も他の部活には興味が無い……と言ったら嘘になるけれど、こんな身体だ。入れる部活も酷く限られるし、大好きな友達と同じ部活ならなんでも良かったのかもしれない。
数日は雑談や地域の掃除、たまに教員の手伝いとか。平和的で何事もない日常が過ぎた。そして――『彼』が誘拐されてきた。
「…………」
「そ、そんなに睨まないでよ…」
いつもの冷たい瞳を強ばらせて睨む彼と、そんな彼を縄で縛って申し訳なさそうにしている先輩。部室に入った私達が見た光景には残念ながら理解が及ばなかった。
あまりの光景に私は固まってしまう。でも友奈ちゃんはすぐに声を上げた。
「風先輩!?な、何してるんですか!?」
「え、やっ……ち、違うわよ!?変なことしてるんじゃなくて…ッ!」
「警察に電話を――」
「東郷ストォォップ!!洒落にならないから!!」
部室が騒がしくなる。彼だけが押し黙り、私達を観察している。赤みがかった茶色の双眸。強がっているのに困惑と恐怖が入り交じったモノ。
………二人が騒ぎ立てる中で、きっと私だけが聞こえていた。彼が呟く、酷く覚めた声――
「…………バケモノ」
その意味を、私は知らない。ずっと、ずっと、知らなければ良かった。
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さて、連日樹海に出勤したわけだが。
ずっと遠く、三体の化け物が居るわけでして。世界の終わりかな?一体でも面倒臭いのに三体も同時に来られたら普通に手が足りない。
即座に勇者アプリを起動し、変身する。ウラシマソウの独特な花弁が身体に纏わり付く……黒に近い紫紺と、他の勇者同様の白で構成された勇者服。身に満ちる全能感は良く馴染み、溺れそうになる。
強化された視力で改めて戦場を俯瞰する。
敵は三体。
青で飾られたリング状の巨体。特徴的な歯茎と、その下に生えた落書きのような人面。口が上と下に二つあり、ガチガチと慣らす音が気味の悪いバーテックス――
ホームベースにも似た板を幾つも浮遊させ、本体も其れを重ねた様に機械的。二本の触腕を力無く垂れ下げ、赤い巨体に白の装甲を重ねたバーテックス――蟹座《キャンサー》。
一層巨大な球体を三本の触腕で包み、前方に掲げられた黄色の装甲板。其れらの細長い身体から連なる球体が幾つも重なり、尖端の針も相まって蠍に近しい姿のバーテックス――
……明らかに前衛の蟹座、中衛の蠍座、後衛の射手座だ。
さてどうするか。夏休みの宿題を最終日にまとめてやるみたいな、形容し難い脱力感と虚無感が胸に巣食う。せめて此方にも遠距離を担う勇者がいればよかったのだが、友奈と先輩は前衛で自分と樹は中距離寄り。ギリギリのバランスだ。
まずは合流しないと――と、再度マップを見ようとして。
「あら、奇遇ね〜♡サボり魔くぅ〜ん♡」
サボり魔……はて?人違いでは?
「おいコラ、目を逸らすんじゃないわよ。セクシーお姉さんの目を見なさい」
は?セクシーお姉さん…?人違いだろ。
なんか黙れ小僧系の駄犬が空から降ってきた。他の部員は居ないので、何処かでまとまっているのだろうか。その旨を聞くと、先輩は気まずそうに顔を逸らした。おいコラ、ダンディボーイから目を逸らすんじゃない。
「その……アレよ、さっきまで樹とは一緒に居たわよ!」
今は?
「ふ、二手に分かれてるのよ。色々あって、その……まあ。東郷と友奈とは、別行動になってたから。樹はそっちに合流して、アタシはアンタと」
色々って……東郷を怒らせたんすか、この人。友奈は怒らんし。東郷に米国かぶれのコミュニケーションでも図ったか、或いはセクハラしたか……嘆かわしい生き物だ。
まあ、どうせ『勇者』関係の何かだろうけど。昨日の時点で様子がおかしかったので予想はしていたが。だから部活をサボったし。
そこは大赦からの使者として、自分でどうにかして欲しい。それを言うなら大赦が直々に謝りに来いという話にもなるが、勇者が大赦の中でどのような立ち位置なのかも不明瞭だし騒ぎ立てるだけ不利になるかもしれない。
わりとどうでも良い話だ。
まずはどう動くのか。命がかかった現状ではそれが最優先だ。
一応先輩に聞いてみる。
「片っ端から御魂を破壊するしかないわね」
作戦を聞いているんだが?その脳筋思考を作戦と言うのであれば、東郷に部長の座を譲ったれ。
「はぁ!?さ、作戦ならあるわよ!!ええっと……アンタと樹が縛って、アタシと友奈が斬ったり殴ったりする!!ふふん、完璧ね」
その工程を説明せよ。
「………………」
ダメかもしれない。
本当ならば緻密に作戦を決めてから挑みたいところだが――
「――ッ!来るわよ!!」
これは漫画でもアニメでもないので、長々と敵が待ってくれる訳もなく。
遠くでサジタリウスが輪状の身体を回転させ、下方に開かれた口部を上に向ける。ガチガチと鳴る口は次第に光を収縮し――放つ。
刹那、光の雨が降り注ぐ。自分の武器では長時間防ぐのは不可能な為、跳んで避けようとしたが。先輩が地面に大剣を突き立て、巨大化させた。
即席の盾らしい。やはり先輩の大剣は便利だ。形が変わるだけの投擲具と交換してくれないだろうか……いや、変幻自在な投擲具も便利だけど。
「アレ反則じゃない!?バリアあるっていっても無限じゃないのよ!!」
近付けば攻撃手段もなさそうですけどね。問題は針の雨のせいで単独では近付けない事と、近付いてもキャンサーとスコーピオンが立ち塞がる事だけど。
取り敢えず近付かなければどうしようもないので、先輩に守られながら遠くに鎌を投擲し、渋々と先輩を担ぐ。
「ほわっ!?な、何すんのよ!!」
とりま引っ付いて、大剣を傘にしててください。
「は?どゆこと――うぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!??」
鎖を収縮させて自分達ごと高速移動する。色気もクソも無い声で先輩が叫んでいるが、ちゃんと攻撃は防いでくれているのでモーマンタイ。
数秒で針の雨の範囲から外れる。そのまま何度も鎖鎌で跳び続けて――風先輩、お許しください!!
「え、何!?ちょっ、ぎゃあぁぁぁ!!??こんにゃろォォォ!!」
蟹座が立ち塞がったので、風先輩を落として先に進む。なんか背中に罵詈雑言をぶつけられるけど、どうせ先輩なのでモーマンタイ。
まずは射手座から行動不能に………したかったけど、蠍座の尻尾が迫っできたので鎖鎌を花弁に還し、投擲具を槍にして尻尾の針の挙動を逸らす。
根に着地して見上げると、蠍座の尻尾が高々と此方を見下ろし明らかに毒っぽい液を垂らす。あ、液が付いた地面が煙を上げて変色してる……毒じゃん?やっぱり毒じゃん?
投擲具を放ち、刃のついたブーメランにする。尖端の針だけでも切断しておきたかったが、当然ながら避けられる。相手だって木偶の坊ではないのだ。
………仕方ない。この際、射手座は後回しにしよう。他の勇者が対応してくれる事を願い、自分は単独で蠍座を行動不能にする。
再び投擲具を放ち、然し今度は円盤を型どる。
放ち、スコーピオンに命中したのを確認してから花弁に還す。また放ち、当てて花弁に還す。放ち、還す。放ち、還す。放ち、還す。放ち、還す。放ち、還す。放ち、還す。
何度も何度も、投擲しては手元に戻し、同様の行為を繰り返す。勇者の筋力で行われる投擲は弾丸速であり、繰り返す様はさながらマシンガンだ。
跳び、跳び、跳び。放ち、放ち、放ち。鎖を巻き付けながら機械的に続ける。
一撃一撃は友奈や風先輩には敵わないだろう。だが、その分だけ数を重ねる。範囲を広げる。チリを積もらせて山を超えてやる。
蠍座は鬱陶しそうに尾を横薙ぎに振るうが、幾重にも巻き付いた鎖のせいで動きが鈍い。
――収縮しろ。
命じると、鎖鎌はギギギッと異音を生じさせて収縮を始める。一人の力では乙女座の御魂同様の破壊は不可能だが、巨体に喰い込み縛り上げる程度は可能だ。
変幻自在な投擲具で削り、伸縮自在な鎖鎌で拘束し――決定打を与えるのは
両腕を振り上げ、虚空を掴む。いつの間にか其処には花弁で構成された柄が在る。風が吹き荒れて花弁が更に収縮し、柄の先に大きな円柱状の打突部を構成する。
独特なウラシマソウの香りが止む頃、自分は大槌を掲げていた。
振り下ろされた大槌は自分が最も危険視していた『針』を無惨にも正面から打ち砕く。打ち砕き、
一つ、二つ、三つ、中世の拷問のように端から徐々に破壊し続ける。
御魂を破壊しない限り、バーテックスは樹海に残り再生を続ける。ならば、自分に出来るのは皆が集まるまでスコーピオンを破壊し続けるのみ。
相手が動かないのであれば、この大槌に破壊出来ないモノはないだろう。
――緩急自在な大槌。
不自然に止まる。不自然に動き続ける。一方向に対して緩急自在な大槌にとって、動けない巨体は格好の餌でしかない。
最初に変幻自在な投擲具で安全圏から装甲を潰し、身を固めて再生に努める隙に伸縮自在な鎖鎌で拘束し、動けない所を緩急自在な大槌で破壊する。
相手が単独だから可能な策だ。生憎と自分は正面から正々堂々と戦い撃ち砕くような勇者気質ではないので、策を凝らすしかない。
後は定期的に破壊しつつ他の勇者がバーテックスを順番に撃破するのを待つのみ。
マップに視線を落とすと、他のバーテックスと勇者の交戦具合も何となく分かる。さっき落として囮にした先輩は、樹と合流したみたいだ。
蟹座が先程から動かないので、自分と同じように適度に破壊してるか。或いは樹のワイヤーで拘束しているのだろう。
問題は射手座だが……先程から景色の奥と反対の奥からパチパチと何かが光り、弾けている。片方は無論射手座だが、反対の位置を地図で参照すると東郷だ。友奈は物凄い勢いで射手座に向かっているので、考えられるのは一つだけ。
東郷が勇者になったのだろう。
端からサジタリウスと撃ち合っているのだから遠距離の武器に違いない。何ともバランスの良い構成だ。前衛に友奈と先輩、樹はワイヤーで援護して東郷がスナイパー的な感じだろうか。自分は手数が多いので遊撃手だ。
………あ、再生した。はいはい、もう少しだけお寝んねしましょーね。ハンマーどーん。
何だろう。意外と楽勝だったな……って気を抜いてると死ぬんだよなぁ、多分。今、東郷に撃ち落とされた射手座の太い矢……あれ、当たれば即死だ。蠍座の毒針もそうだし、蟹座は……………とっても硬そうだし。
今回は運良く個別撃破出来たけど、もし上手く連携されていたら危なかった。蟹座で足止めされて射手座から撃たれて、避けても蠍座の毒針。
……誰だよ楽勝とかいったやつ。綱渡りじゃないか、マジで。最初に先輩を囮にしといて良かった。先輩には後でジャーキーでもあげよう。
間もなくして三体のバーテックスの御魂も破壊された。増えたり避けたり回転したり、多種多様な御魂に少し手こずったが、皆が頑張った。自分は回転する御魂に鎖鎌を巻き付けて収縮し、自壊させたので充分頑張っただろう。
後、先輩にどつかれた。部活をサボったり囮にした事でブチ切れてました。黙れ小僧系駄犬が更に犬歯を剥き出してて怖かった。