頭がバケモノな勇者部   作:たこ焼きたこ焼きたこ焼きたこ焼きたこ焼き

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変わらない日常

 

窓際から春風が通り過ぎる。

 

……良い心地だ。アレからバーテックスの襲来もなく二週間が経った。初日からの連日出勤は何だったのか…別に戦いたい訳でもないけど、来なければ来ないで不安が先立ち安眠も出来ない。

 

とはいえ、流石に慣れた。昨日も普通に学生としての責務を終えて直帰し、休日へと突入したワケだ。バケモノとの日常を過ごし、心臓が鍛えられたのだろう。

 

一人暮らしのアパート。読みかけの漫画を広げてボーッと外を眺めていると、後ろから声を掛けられる。

 

「何だか、眠くなっちゃうね」

 

同意を返すと、クスクスと淑やかに笑った。

 

青坊主こと東郷だ。座る自分に背中に背を預け、互いに漫画やら小説やらを読んでいる。声だけは綺麗なので目を瞑ればチルい。目を開けて後ろを見たら怖いので、前だけを向きます。

 

後ろからも紙の擦れる音が止んで久しい。春の風と背中の温かさが眠気を誘う。欠伸をすると同時、背中側も自分と同様に大きく息を吸い、緩やかに吐くような動きをした。

重なる欠伸に、また東郷はクスクスと笑う。何とも馴染みも感じてしまう瞬間だ。

 

麗らかな日常に釣られて軽くなる口。フワフワと取り留めのない雑談をしていると、台所からの音が止む。

そろそろか、と其方に目を向けると。引き戸が開けられて出汁の匂いが部屋に流れ込む。

 

「お待たせ〜。肉ぶっかけうどん、出来ましたー!!」

 

友奈が三つの丼を盆に乗せて持ってくる。この前は自分がカルボナーラを作ったので、今日は友奈の番だったのだ。なお、友奈に任せると九割はうどんになってしまうが。

 

「ありがとう、友奈ちゃん。いつもごめんね?」

 

「ううん!私も東郷さんにお世話されてるもん。寝癖直してもらったりとか、宿題を手伝ってもらったりとか」

 

そも、足の不自由な東郷では料理は難しいだろう。適材適所だ、と伝える。自分だって私服を選んでもらったり、友奈同様に寝癖を直してもらったりしているのだ。自分の身嗜みは東郷と風先輩に丸投げなのだ。お陰様で、自分では見えないが、見て呉れは悪くないらしい。少々彼女達の趣味が入っているが。

 

友奈が来たので、東郷の背を支えながら座椅子を手繰り寄せ、彼女にあてがう。東郷の私物だ。因みに机や時計は犬吠埼姉妹が持ってきてるし、インテリアは友奈と買い物に行った際に選んでもらっている。部屋の隅に転がっている木刀とトンファーもヤンチャな友奈の趣味だ。花の栞と木刀が同居している部屋とは……?

 

それぞれの固定席に座り、手を合わせて昼食を食べ始める。基本的には友奈が喋り、東郷が返し。自分は相槌を打ちながら食事に集中する。うん、普通に美味しい。

 

……自分の部屋は二年組の溜まり場だ。

 

本棚には自分の読まない少年&少女漫画や歴史書が並び、台所には各々の茶碗と箸、歯ブラシまである始末。距離感が同性の親友なのでは、とも思うが。異性と意識してるって勘違いされるのも癪なので受け入れた。そして慣れてしまった……互いに。若い男女がうんぬんかんぬん、と言っていた東郷も二日で堕ちたのだから、自分達は互いを心の底から異性として意識していないのだろう。

 

「そう言えばさ。来ないねー、バーテックス」

 

「そうね……不定期とは風先輩も言ってたから、何年も先になる……って事も、有り得なくはないのかもね」

 

「そ、卒業してからもバーテックスと戦うのは嫌だなぁ……数もわからないし」

 

バーテックス……最初は乙女座を倒して、次の日に射手座と蟹座、蠍座を討伐した。星座がモチーフなのは今更だが、何体いるのだろうか。星座の数は80を超えるが、黄道十二星座ならば12…つまり、あと8体だ。

どっちにしろ多いが、80以上が攻めてくるよりは後者の方が何倍もマシだ。

 

「あんまり時間が経つとなまっちゃいそうだなー。あ、でも最近はトレーニングしてるんだよ?とりゃー!あちょー!って」

 

「ふふっ、友奈ちゃんの武器は篭手だからね。私は銃だから、訓練っぽい事は出来ないかな……流石にゴム鉄砲と勇者の武器だと感覚が違い過ぎるから」

 

「キミは?何か訓練とかやってる?」

 

……伸縮自在な鎖鎌、変幻自在な投擲具、緩急自在な大槌。これらの訓練法を述べよ。

 

「ええっ!?ええっと……く、草刈り鎌を……投げる…?」

 

「通報されちゃうよ、友奈ちゃん……彼の場合、風先輩と同じで武器そのものより、能力が主軸だから。似たような物で訓練してもあんまり意味は無いんじゃないかな?」

 

実にその通りだ。武器そのものなら、その気になれば用意は出来る。鎖鎌も適当な投擲武器も大槌も、実家に行けば蔵の中に何かは眠ってるだろう。

でも、伸びないし変わらないし動かない。なら無駄だ。自分は武芸を極めたいのではなく、勇者として安全にバーテックスを倒したいのだ。自由過ぎる武器だから尚更、座ってイメージトレーニングでもしていた方が実用的だし有意義だ。

 

「難しいなぁ、勇者って……」

 

「……もしかしたら、本当に訓練を詰んだ勇者も今後増えるかもしれないわ」

 

「えっ?東郷さん、どーゆーコト?」

 

「私が大赦の大人ならね……素人の子供達に、世界の命運を託したりは出来ないかなって。風先輩が言ってたこと、覚えてる?私達は勇者の適正値が高くて、だから神樹様に選ばれた」

 

………東郷の言いたい事が分かった。

 

つまり、大赦が何処かで勇者候補を揃えて訓練している可能性があると言うことだろう。勇者の適正値というのが何を指すのかは分からないが、つまりは自分の目で見えるバケモノ共の事だ。彼女達の適正を大赦にも感知する何かがあって、世界の為にも合理的な手段に出ていてもおかしくは無いという話だ。

 

「うん。どんなに大きな力でも、扱う側が未熟だと必ず綻びが生まれる………最初に、私が戦えなかった様に」

 

「でも東郷さんは戦ったよ?」

 

「ありがとう、友奈ちゃん。でもね、それは二人が居たからなの。大切な友達を守りたいから、勇気を降り絞れた。逆に言うと……もしも二人が勇者に選ばれてなかったら、私はきっと戦えなかった。他の勇者だって、バーテックスに怯えて戦えない可能性は十二分にあった筈よ」

 

「それは……」

 

友奈は否定しなかった。彼女の価値観だと戦うのは当たり前で、最初から選択肢なんてなかったと決め付けが入る。だが目の前に、怯えて戦えなかった親友がいる。だから否定出来なかった。

 

東郷に感化されて、勇者の歪さ……いや、不安定な部分が自分にも見えてくる。

 

戦えなかった可能性を第一に。勝てなかった場合、勇者が神樹を裏切る場合、戦闘を放棄した場合……世界が滅ぶと言うのに、大赦は『勇者部』に託し過ぎだ。未だに接触はないのに。

だから考えてしまうのだろう。訓練を積んだ()()()()()の存在を。自分達の代わり、或いは完成系の勇者がいるのでは、と。

 

「無償の信頼………どう思う?」

 

東郷は敢えて此方に聞いてきた。無垢が過ぎる友奈ではなく、リアリストで自分自身の俯瞰が得意な此方に。

 

だから軽く答えた――子供向けの御伽噺じゃあるまいし、と。

 

何かある。それこそ、最初に言った増援。予備の勇者。最強の切り札。

 

或いは――()()()()()が最初から戦場を見守っていたかもしれない。今の勇者が負けた場合、バーテックスを抑える第二にして最後の刃が。

 

「それが合理的ね。中学生の私たちが全てを背負ってる、って思うよりは」

 

「うーん……む、ムズカシイ…………結局さ!私達が全戦全勝したらイイってコトだよね!!」

 

「ふふっ、友奈ちゃんらしいね」

 

死にたくないから、そうするしかない。先日の戦闘で痛感した。勇者は死ぬ。きっと、軽い間違いで死ぬ。自分達は決して物語の中の最強無敵な勇者ではないのだ。

まだ自分達は知らないことが多すぎる……正義の逆は、また別の正義とも言う。果たしてバーテックスを倒し続けることは善なのか、倒した末に何があるのか。いつかは知らないといけない。

 

自分も友奈ほど能天気で、覚悟ガンギマリな性質で在れれば少なくとも今よりは楽に生きれるのに。世界も神も、自分には厳しいらしい。

 

「明日は何する?」

 

一段落がつき、友奈が話題の舵を切る。

 

自分としては家で怠けるのも悪くないのだが、活発な彼女には物足りないらしい。

また散歩がてら花見に行こうにも、もう桜は散ってしまった。海や山は東郷の足では難しいので、いつも通り無難に買い物やカフェ巡りになるのだろう。

 

「友奈ちゃんは何処か行きたいの?」

 

「うーん…二人と一緒なら何処でも楽しめるよ?あ、でも映画館とかカラオケもアリかな?最近は色々あって行けてなかったし」

 

カラオケは兎も角、映画は三人揃って趣味が異なるだろうに。堅苦しい日本史が好きな東郷、猫のアニメやら王道バトル系が好きな友奈、自分は感動系の動物映画やコメディ系が好みだ。

毎回毎回、揉めたり譲り合いになるクセに飽きないモノだ。前回は間を取って誰の趣味でもないB級サメ映画を観たが、在り来りな展開とCGが雑過ぎて普通にクソ映画だった。

 

一応、東郷にも聞いておく。行きたい場所はないかと。

 

「私は……そうね。こうして家でゆっくりと過ごすのも、悪くないかなって…」

 

さては青坊主め、ここが誰の家か忘れてるな?犬吠埼姉妹が家に来る時も当たり前のように常駐して寛いで二人の帰りを見送ってるから、未だに同棲疑惑が晴れていないというのに。泣くぞ、君たちの親が。

 

「将来は三人でシェアハウスする?」

 

「気が早いわ、友奈ちゃん……その話は追々と、ね」

 

目の前で自分の将来設計が勝手に組まれてる件について。自分達、出会って一年と少しだけなのだが。

 

「あはは、こんなに仲良しなのに出逢ってからまだ一年だもんね。スゴく相性が良いんだよ、きっと!」

 

言葉にはしないが、勇者部の皆とは無駄に長い付き合いになりそうな気がする。バケモノではあるが、存外気疲れがしないので居心地も良い。

大切なのは容姿ではなく性格だ……と言い切るには、人生経験が豊富なワケでもないが。自分の周りで容姿が褒められるヤツは十中八九頭が異形なので、バケモノ…もとい勇者の適性のあるヤツと自分は相性が良いのかもしれない。

 

将来の生活を楽しそうに語る二人を尻目にうどんを食べ切り、ベッドに寝転がる。

 

「食べてすぐ寝ると牛になっちゃうよ?」

 

牛鬼が何を言うか。

 

生憎と自分の部屋なので、好き勝手にさせてもらう。午後の紅茶は午前に飲むし、コアラのマーチは絵柄を見ずに食べる。どんな大罪だろうと、此処では自分がルールなのだ。基本的には自分の機嫌次第で許される。

 

「はい、先生!」

 

なんだね、友奈くん。

 

「食前のアイスは許されるでありますか!」

 

許されるぞ。ただし一個だ、食べ過ぎはお腹を壊すから。

 

「理性的な暴君ね………はい、先生」

 

なんだね、東郷くん。

 

「この部屋での異国語を禁止するべきかと」

 

黙れ小娘。現代日本で生きずらい法を作る愚か者め。貴様だけ、語尾にポヨを付けることを義務化する。

 

「なっ!?お、横暴よ!」

 

横暴ポヨ、だろう?

 

「ぐっ、ぬぬ……お、横暴……ポヨ………殺しなさい」

 

よし、いい動画が撮れた。東郷を脅す際に使わせて貰おう。

 

「わぁ…すごく生き活きしてる」

 

人の弱みをね、握るとね。とてもとても嬉しいんだ。親からは血筋のダメな部分を全て受け継いだハイブリッドってよく言われる。

 

その後、暴走した青坊主に襲われる事件はあったが。概ねいつも通りのバケモノとの日常だった。

 

 

バーテックスが襲来しても、日常はあまり変わらないらしい。ずっと、これからも……そうなのだと思っていた……あ、別に何か変わる不穏な伏線とかじゃなくて。本当に変わらないと思ってます。

 






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