頭がバケモノな勇者部 作:たこ焼きたこ焼きたこ焼きたこ焼きたこ焼き
耳の奥が痛くなる程の沈黙。
甘い香りが肺を満たして気持ち悪い。極彩色の空と、不自然な柄で飾られた大量の根。遥か遠くには霧を纏う大木が鎮座する異界――
久々の樹海だ。つまり三度目の勇者の御役目、バーテックス退治。実に一ヶ月ぶりだろうか。
「何だか久々ね〜」
呑気な声で遠くを眺める先輩。アホな犬面が一段と駄犬だ。大きな剣を軽々と肩に担いでいるが、自分や樹には出来ない芸当だ。
勇者によって武器の種類や数に差があるのは今更だが、身体性能も例外ではないらしい。男の自分よりも先輩の方が勇者時の筋力は上なのだから、ゲームで言うところのパラメーターの振りが違うのだろう。
気を引き締める為にも端末に視線を落とす。
――マップを見る限り、敵影は一体。
山羊座――カプリコーン・バーテックス。遠すぎて姿は朧気だが、錆色と純白の図体で、姿格好は乙女座に似ている気がする。四本のドリルのような脚部をぶら下げ、身体そのものは角張った逆雫型だ。
機械のような外皮はカプリコーンの硬さを物語る。硬いだけならば友奈や風先輩が格好の的にするのだが、他のバーテックスと同様にギミックは当然あるのだろう。
……まあ、一体ならば負けたりはしないだろう。三度目ともなれば余裕も生まれる。
然し油断は出来ない。
皆に、自分が先に突っ込んでカプリコーンの翻弄と拘束を担当する旨を伝える。
「んー、まあ。それが一番確実かしらねぇ。東郷、援護頼める?」
「勿論です」
「残りはアタシに着いてきてちょうだい。どうせ直線移動はアイツに追い付けないんだし」
別に自分の身体性能が他の勇者よりも優れているのではない。自分は伸縮自在な鎖鎌の伸縮を利用して高速移動をしているので、"移動"に関しては他よりも素早いだけだ。
皆が円陣を組んでいるのを背景に、自分は柄ではないのでとっとと移動を開始する。
いつも通り、勇者の筋力で鎌を投擲し、遠くの根に深く突き刺し。鎖を収縮させた反動で飛び出す。線となって過ぎ去る景色は存外爽快だ。
二回、三回と繰り返して速度を増し、弾丸速でカプリコーンに蹴りをお見舞いする。
『――――――ッ!――――!!』
ん?誰かの声が聞こえたような気がする。
だが先輩達はまだ遥か後方。バーテックスの鳴き声か何かだろうと結論付けて、さっさと攻撃を開始した。
蹴りによって後ろに吹き飛ぶバーテックスに、変幻自在な投擲具を投げ付ける。形状は拳大の玉だ。外見からして硬いのだから、刃や刺突系は刺さらないだろうと見切りを付けた結果だ。
一投目は軽く外骨格に罅を入れ、二投目は少しめり込む。弾丸のような速度で放ち、命中と同時に手元に戻して再び投擲する。
全身の外骨格に罅が入る。これで後から来る皆もダメージを与えやすくなるだろう。投擲具を花弁に返し、次に緩急自在の大槌を呼び出す。
高く跳躍し、カプリコーンの頭部に向けて振り下ろす。速度はゆっくり、山羊座が
手を離しても大槌は下がり続け、カプリコーンも地面と大槌に挟まれる。決して止まらず、同時に決して動かず。それが可能な大槌は地面にカプリコーンを縫い付け、仮の拘束をする。
………さて。後は追加で鎖鎌での拘束もしようか。
大槌は完全に停止させ、手元に鎖鎌を呼び出した刹那――
「なぁにしてくれんのよ!馬鹿!!」
……聞き覚えのない声。
その方向に鎌を向けて警戒すると、
不審者か?と思うが、身体は紅い勇者服で、身体つきは少女だ。つまり勇者だ……頭がオッサンな勇者だ。
「人の初陣を邪魔するなんて……最低よ!反省しなさい!!てかそこで見てなさい!完成型勇者の力を!!」
なんだこいつ。
完成型勇者さんは両手に刀を持ち、自分が拘束したバーテックスに勇ましく雄叫びを上げて斬り掛かる。パシパシと斬り、なんか子太刀を投擲して爆発させて。
バーテックスからも毒ですよー、と言いたげな霧が噴射されるが、爆風で吹き飛ぶ。てか此方に流れてくる……鎖鎌の伸縮で回避し、人の手柄をハイエナする完成型勇者さんを遠巻きに眺める。
オッサンがでっかいバーテックスを蹂躙してる……絵面が酷い。とても酷い。もう帰っていいかな……?
紅い兜のオッサンは何か一人で封印の儀を開始した。パイセンは複数人でしか出来ないって言ってた気がするけど、オッサン型勇者……じゃなくて自称完成型勇者なので色々とハイクオリティなのだろう。
「………アレ、だれ?」
追い付いてきた友奈に聞かれた。知らん、先輩に聞けと返す。
「いや……アタシに聞かれても。何の連絡も受けてないわよ、大赦からは」
「………新しい勇者」
東郷がポツリと呟く。回想するのは先日の会話……大赦が用意した、自分達とは異なる
波乱が起きそうだ。そんな予感が胸の内を占める最中、御魂は無事に破壊されて自分達は現世に返された。
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「転校生の三好夏凛さんです」
翌日。HRの時間にオッサン少女こと三好夏凛が転校してきた。クラスメイトは綺麗だの可愛いだの言っているが、此方には渋い鎧のオッサンにしか見えないので何の感動もない。
昨日の気の強い態度とは一転、中々に上品な有り様だ。育ちが良いのか、何処かで礼儀作法でも習ったか。東郷に近しいモノを感じる。
……なのに、めちゃくちゃ睨まれる。こわい。とても。何かやっただろうか……昨日のことかな。なんか凄く罵倒されて、弱らせたバーテックスを横取りされたのは記憶に新しいが……初陣が云々言ってたのは覚えてる。
アレか?完成型勇者さまは一人でバーテックスをぶちのめして今の勇者に自慢したかったのだろうか?………まあ、うん。年相応やね。
とりま勇者関係なら先輩案件だ。自分は健やかに昼寝でもしながら次の出陣に備えよう。
……と、四時間目を終えた頃。
「屋上に来なさい」
やだ。やめて腕掴まないで?
「拒否権はないわ。来なさい」
という訳で、連れてこられました屋上に。腕を掴んで引き摺られて来た。自分は鍛えてなんかいないので、鍛えてる女子には普通に筋力で負ける。下手をしたら先輩にも負ける。てか友奈にも負けるし、東郷にも負ける。
オッサンは腕を組み、やはり睨んでくる。
「勘違いしないでちょうだい!!」
なにを?
「私は強いわ。アンタよりも、ずっとずっとね」
うんうん、そうだね。
「昨日だって余裕だったわ!アンタの助けがなくったって!!」
自分に言われましても。
「確かに……認めるわ。アンタは強い、予想外よ。血筋に偽りはない………それだけは認めるしかないわ。でも、それだけよ!才能だけで選ばれたアンタとは違って、私は
別に自分も他の勇者も、力を誇示したくて戦ってるワケじゃない。いきなり樹海に拉致されて、戦闘を強制されているに過ぎないのだ。
もし全てを知って、選択肢があれば……自分や東郷はきっと戦わない。それでも友奈なら、争いを良く思わなくとも勇者の御役目には嬉々として参加しただろうけど。まあ、友奈が戦う時点で東郷も自分も無関係ではいれないのだが。
やんわりと、自分は平穏を望んでいる旨を伝える。時には平和よりも平穏の方が尊いのだ。一時のまやかしだったとしても。
「ふんっ、軟弱ね。アンタみたいなのが勇者に選ばれるなんて……ガッカリよ。他の勇者もそうなのかしら」
嘲笑するオッサン。血気盛んなのは良いが、味方の勇者にまで牙を剥かれては溜まったもんじゃない。この時代に男だの女だのと言う気はないが、自分個人として。言われっぱなしで、友人達まで愚弄されたら多少は腹も立つ。
だから大して詳しくもなく、あんまり興味もない少女に向かって言葉を返した。
……ハイエナ勇者に言われてもね。
「はぁ!?だ、誰がハイエナ勇者よ!!」
オッサンがブチ切れた。怖い。
でも自分が弱らせたバーテックスを横取りしたのだから、ハイエナだろう。実際は協力でしかないし、もし三好が居なくとも友奈と風先輩に同じ事をやってもらう予定だったのだが。
アレだ、売り言葉に買い言葉というヤツだ。互いに中学二年生なのだから衝動的な口論だってして然るべきだろう。いつか、これも思い出になるのだろうか……初対面のオッサンと口論になる思い出とは?
取り敢えず敵対する気はない、とだけ伝える。命懸けでバーテックスを狩ってるのだから、同じ勇者と足を引っ張りあっている場合ではないのだ。
「……それもそうね。アンタからの侮辱は決して許さないけど、私だって利敵行為でもされたら溜まったモンじゃないわ。今だけは、アンタの実力に免じて"対等"でいてあげる」
……ある程度の評価はされているらしい。頭の硬いわからず屋かと思っていたが、単純にプライド高いだけの実力主義者なのだろうか。
結局、強さで自分を認めてくれたのであれば。他の勇者も同様に認めるべきだと思う。誰もが優れた点を持っている。自分の武器性能による対応力がそうであるように、友奈の近接戦闘の才も、先輩のパワーも、東郷の狙撃能力も、樹のワイヤーの緻密操作も。
勇者は皆、仲間がいて初めて良いバランスで成り立っている。その中で誰が優れている、誰が劣っている等で片付けるのはあまりにも軽率だろう。
三好は先入観だけで勇者の格付けをしてしまったのだ。彼女の初陣にて、最初にバーテックスに突っ込み軽くないダメージを与えた自分は三好夏凛に見合う対等な勇者で、その他は力不足の臆病者………勇者部の面々を知らない三好にはその認識なのだろう。
……別に仲良しこよしを推奨するワケでもないが。
やはり彼女が大赦の用意した強力な訓練済み勇者であるなら、自分が生き残る為には利用するに限る。そも自分は、自分の為に勇者をやっているのだ。利己的な理由で神樹から与えられた能力を使っているのだ。故に今から躊躇い理由もない。
放課後は暇か、と聞いてみる。
「放課後?別に暇ではないけど……まあ、他の勇者の所にも顔は出すつもりよ」
ならば都合も良い。勇者部に加入してもらおう。なぁに、当時のバケモノに死ぬほど怯えていた自分が一瞬で馴染む程度には心地良いさ。
どうせ今日も自分はサボってやり過ごすが、人誑しの友奈と誘い受けな先輩が居れば上手くいくだろう。この手の頑固ジジイ……もとい頑固少女には悪意なく距離感の近いヤツをぶつけるに限る。
上手く行けば自分の仕事の大半を三好に押し付けられるし、十分な人数がいて活動が充実していたら、自分が幽霊部員になる日も近いだろう。
「うっわ……何か悪巧みしてそうな顔ね……勇者にあるまじき表情よ」
失敬な………失敬な。うん、残念ながら反論は出来ない。
「………変なヤツね」
悲報、女子の制服を着たオッサンに変人扱いされた。自分は尊大な羞恥心と過度な自己保護精神で生きているので、頑なに否定はしておく。決して変人ではない、おかしいのは周りであって自分は至って真面目に生きている、と。
「何が真面目に生きてる、よ。色々と情報収集したから知ってるわよ?香川一のサボり魔……そう呼ばれてる事」
何処のどいつなのだろうか?そんな身も蓋もない嘘を言って周る野郎は。確かに授業の体感三割は寝るかサボるかしてるし、部活も友奈とか先輩に捕まらなければ気紛れで逃げてるけど。それだけでサボり魔と言われるだなんて、悲しい。あまりにも理不尽だ。
取り敢えず情報統制を図るので法螺吹き野郎の名前を教えて欲しいのだが。
「東郷美森よ。何かやたらとアンタに詳しいんだけど……大丈夫?ストーカーとかされてない?」
チッ、今回は見逃してやろう。
自分という人間は、基本的には東郷には敵わないように出来ているのだ。と言うか、交流を絶ったら私生活に支障が出る。ストーキング云々は知らん。記憶を喪ってからは過ごしてる時間が親よりも長いので、東郷と友奈が一番の理解者ではあると思う。それはそれとして、記憶喪失も体質に関しても言っていないが。
後半を除いた彼女達との関係を簡潔に説明すると、三好はオッサン顔を赤らめた。こわい。
「えぇ……も、もしかして付き合ってるの…?」
はんっ、片腹痛いわ。思春期の妄想も大概にして欲しいモノだ。
「いま鼻で笑ったわね!?」
当たり前だ。恋愛は外見で決めるなとも言うが、バケモノ相手に恋愛感情を持てるほど広い心はない。もしも他のバケモノ共も美少女であれば、多少は自分の心に変化も訪れるだろうけど。誠に残念ながら、自分の目には三好も含めてバケモノにしか見えないのだ。
とは言え、やはり周りの反応からして彼女達は美少女らしい。東郷に世話を焼かれて、いつも友奈に引き摺り回されている自分は"そういう目"で見られてもおかしくはない。
果たして自分は、彼女達に馴染めているのだろうか。いつも不安で仕方がない。
この眼は、明らかに『常人』とは乖離している。
自分は、自分という人間が分からない。あの病室で目覚めてから今に至るまで、身体の中が伽藍堂である気がして、怖い。
だから周りに馴染めるように体質を隠した。いつか喪った自分自身に
…………予鈴が鳴る。
そろそろ教室に戻ろう。三好に目を向けると、分かっていると言いたげにそっぽを向かれた。随分と嫌われてしまったようだ。
勇者以外では何の繋がりもない自分達。教室に戻る最中、会話は一言もなかった。