頭がバケモノな勇者部 作:たこ焼きたこ焼きたこ焼きたこ焼きたこ焼き
稀に、胸の底が空虚に感じる事がある。
目覚めた瞬間に遅刻を確信した瞬間然り、起きたら部屋にバケモノが居た瞬間然り、財布に仕舞ったクーポンの有効期限が過ぎていた時然り。
自分の実家はデカイのだが、自分自身は悲しいくらい庶民的で一般的で、物語の主人公であれば壮大な何かが含まれる胸の空虚も自分には日々のちょっとしたやらかしでしか生まれないのだ。
ベッドの上で、空虚な感覚に億劫になりながら時計を見る。示された時間は、普通の休日であれば問題のない数字の羅列。だが逆に言えば、休日とて予定のある日に起きたら"不味い"時間に起きてしまった事になるワケでして。
端的に言って遅刻だ。寝坊なのだ。
携帯端末の画面を付けると、勇者部からの鬼電とメッセージの山が築かれている。
今日はボランティアで近くの幼稚園に行き、人間の幼体共と戯れたり劇をやったりする予定だった。一番最後の先輩からのメッセージには、『オマエヲコロス』と書かれている始末。バケモノに殺されるかも。
………まあ、寝るか。
別に自分は彼女達と違ってボランティア中毒の純粋無垢星出身純粋無垢星人ではないのだ。目覚まし時計はセットしてなかったし運良く起きれたら嬉々として勇者部の活動に参加するつもりだったが、現実はいつも非情だ。起きたら集合時間が過ぎていたのだ。あゝ無情。
しゃーなし、もう開き直って寝るしかあるまい。
――と、寝たのが一時間前。
流石に二度寝なので、長時間は寝れない。折角の暇なのでゆっくりとシャワーを浴びて、遅めの朝ご飯として適当にトースト四枚と目玉焼き、ウインナーを食べて。
珈琲を片手にチルい朝を満喫している。うむ、今日も良い一日になりそうだ。休日はこうでなくてはいけない……誰にも邪魔されず、惰眠の怠げを熱いシャワーで洗い流して腹いっぱいご飯を食べる。最高かな。
人生には常に余裕が欲しいモノである。
……優雅を演出していると興が乗ってしまう。どうだろうか?このままイヤホンで音楽でも聴きながら散歩にでも洒落こもうか。
普段はほとんどしないけど、別に休日は必ず引き篭もりたいワケでもない。程々に遊んで、程々に学生の義務を果たして。でも大半はサボる……それが理想だ。
あんまり意味も意義もなく外出の準備を進める。散歩とは言え人前に出れる最低限の格好はするつもりだ。先輩に見繕って貰った服とか。
友奈のファッションセンスはゴミなので部屋着になった。或いは友奈が泊まった際に使用されている。
あといつの間にか猫の抱き枕があった……尻尾を引っ張るとダンディーボイスで『
まあ、良いか。
さて、散歩とは言ってもどこまで行こうか。
外はよく晴れていた。こんな日に室内ボランティアなんてしてる場合では無い。外に出よう、健全な中学生として。
ほんのりと暖かくなってきた影響だろうか。冬から春になり、夏に移り変わる微妙な時期……街の風景も変化している。
桜は葉桜に変わり、あんなに咲き誇っていた花弁すらもう地面にすら残っていない。青空は一層青々としている気がするし、吹き抜ける風も爽やかだ。
こんな晴れやかな日の散歩。
友奈が居たら道の端に咲いている花について説明してくれるし、東郷は季節に関する豆知識を披露するだろう。勝手ながら彼女達が隣りに居ないことに物足りなさを覚えるのは、自分の記憶の大半が彼女達との時間で埋まっているからだろう。見た目はバケモノだが、それ以上に大切な友人だ。
何かもう、最近はバケモノな頭部も気にならなくなってきた。慣れって怖いね。怖いのはバケモノが闊歩している日常では……?
………久々に海の方にも行ってみよう。目的地のない独りの散歩も久々だ。山側も良いが、虫が増える季節でもあるので自分は海派だ。別に入ったりはしないが。
取り敢えず有明浜に向かおう。ゆっくり、ゆっくりと、暑くなる前の心地良さに浸りながら。
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――気に入らないヤツ。
そんな印象だ。最初も、少しだけ知った今も。好きとか嫌いとかじゃなくて、気に入らない。
私は特別で、最高傑作……そうでなくてはいけない。平然とバーテックスを倒して、大赦からも一目を置かれて。華々しい功績を背負って、でも平然としている……それが理想。それが
そういう意味では、アイツは私の目指す勇者に近いのかもしれない。決して認めないし私の方が強いけど。
最初に見たのは私の獲物だったバーテックスを圧倒している姿だった。三つの武器を自由自在に操り、ダメージを与えて拘束し行動不能にする戦闘スタイル。
……ゾッとした。
強さにではない。
あまりにも異質。私は勇者の戦闘データを用いて『完成型』と成ったから分かる。あの男には、私達とは
単純な話だ。
自分達の何百倍もある山のような化け物。間違えたら世界が滅ぶし、戦闘を長引かせたら現実世界に事故や災害としてのフィードバックがある。
それに、勇者になった事による全能感。誰もが持つヒーロー願望を叶えているとも言える現状。
感情を揺さぶる種なら幾らでもあった。多感な時期の子供なのだ。感情を隠せない未熟な歳だ。
それなのに……そんな状況において
その程度の
だから出遅れた。戦闘技術じゃなくて、勇者の才能でもなくて。アイツの異様な在り方に慄き、私はバーテックスへの一番槍を奪われた。
……認めるのは簡単だ。
聡明な乃木家、勇敢な土居家、優れた巫女を排出し続ける上里家――幾つも存在する大赦を動かす名家。その一つに類する
――其れが今代の一番槍。勇者同士で争うわけではないけど、私が越えるべき壁。
……だから、仲良しこよしをしている場合では無い。分かってはいた……なのに、どうして私はここに居るのだろう。
「全く……遅い!全員遅刻なの!?」
私は今、勇者部の部室に居る。先日、勝手に入部させられた部活動。本当なら空き時間は鍛錬に当てたいけど、勇者の監視も私の役割だ。仕方なく、私は勇者部に入った。
その最初の活動が子供会のレクリエーションだ。馴染みがないし参加するつもりもなかったけど、犬吠埼風に煽られたから。完成型勇者なのに子供と遊ぶ事も出来ないの、と馬鹿にされたから。
渋々、仕方なく!手伝ってやる事にした……のに。待ち合わせ時間になっても誰も部室に来ない。腑抜けた連中だとは思っていたけど、時間にルーズにも程がある。
いっそ帰ってやろうか……苛つくままに思案していると、スマホが鳴る。結城友奈からだ。
「……もしもし」
『あっ、夏凜ちゃん!私だよ!友奈だよ!!』
「ちょっ、声デカイっ!耳壊れるわよ!!」
『あはは、ごめんね。でも夏凜ちゃん、今どこに居るの?』
呑気な声質。それがまた私の心に棘を生む。こっちはずっと待ち合わせ場所に居るのに、悠長なモノだ。だけど怒鳴りつけたい気持ちを抑えて、冷静を装う。
「何処って…部室に決まってるじゃない。あんた達、遅すぎるわよ!」
『えっとね…今日の集合場所、変更になったんだけど……昨日渡したプリントにもそう書かれてないかな?一応、彼にも伝えるようにお願いしたんだけど……』
「えっ、は……?」
待ち合わせ場所が違う?……急いで鞄からレクリエーションの予定表を引っ張りして確認する。確かに待ち合わせ場所だけが変更されている。
学校に集まってから向かうとかなりの遠回りになるから、会場の近場にしたらしい。
……結城友奈の言葉を信じるなら、確かに私の確認不足もあるけど……アイツからも伝わる予定だったらしいのに、何も聞いていない。
『ごめんね!私も確認するべきだったね……そっちに彼も居るよね』
「……?居ないわよ。そっちに居るんじゃないの?」
『えっ!?も、もしかして寝坊!?どうしよう……ごめん、夏凜ちゃん!会場に直接来れる!?』
「…………」
急に馬鹿らしくなってきた。
私は何をやっているんだろう……散々、勇者の役割について彼女達に不足していると言っておいて。勇者部の連中と仲良しこよしはするつもりがないと言っておいて……馬鹿らしい。
選ばれなかった彼女の怒りと絶望を背負って戦うと決めたのに、甘っちょろい環境に浸ろうとしていた……急速にこころが冷える。さっきまでの怒りも、勇者部の心地良さも。
「……帰るわ」
『え?夏凜ちゃ――』
電話を切る。
やるべき事をやろう。ただ、それだけ。
兄への劣等感や嘗てのライバル達から託されたモノ。色々と考えて、でも何も考えたくなくて。
私は走って帰った。止まることなく、一人暮らしのアパートに帰って、荷物をベッドの上に投げ捨てて運動着に着替えた。
今、やるべき事は鍛錬だ。竹刀袋に纏めたままの木刀を肩にかけて外に出る。
場所はいつも通り有明浜だ。あそこなら誰の迷惑にもならない。本当なら大赦の保有する施設も使えるけど、近場って考えたら此処が一番だ。
「…………ふぅっ」
煩い心の声を黙らせる。
習った通りに木刀を振り下ろし、基本の『型』をなぞる。私の勇者システムに宿る武器は二本の刀。だから鍛錬で使うのも二本の木刀だ。
仮想の敵を袈裟斬りする。怯んだ敵は下がろうとするが、もう片方の木刀で深く突く。更に一撃、息を止めてもう一撃、更に、更に、剣舞のように。自分の隙を潰す為に攻撃を。
次第に滴る汗すら剣撃の勢いで空中に置き去りにして、斬る、突く、薙ぐ、二刀流の利点を仮想敵に押し付けて肉体と同時に脳も最大まで動かす。
バーテックスを倒すために。私の得意は鍛錬によって培われた二刀流の技術と、近接から中距離までの手数の多さ。
近距離は刀で斬り、中距離からは小太刀を投擲して爆発させる。つまり今の私の課題を敢えて上げるなら、相手に接近する瞬発力だ。
仮想敵が大きく跳躍して後退する。すかさず私も砂浜の砂を後ろに蹴飛ばし、両手の木刀でバツ印に斬る……が、仮想敵には届かない。だから、もう一歩。
踏み出して、投擲機のようき身体をしならせて――右手の木刀を放つ――ッ!
「………あ、ヤバっ!」
つい、夢中になり過ぎて木刀を投げてしまった。
誰かに当たったら不味い。目元の汗を拭いながら前方に視線を向けると――
「………………」
「……何で居んのよ」
酷く不機嫌そうな顔をしたヤツが居た。投げた木刀は上手く受け止めたらしく、肩に担いで此方を睨んでいる。いつか見た、郡家の人間と同じ鋭い瞳だった。