縁が集いて   作:山岡鮎太郎

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見切り発車です
具体的には逃げるディープインパクトくらいの


ここから入れる保険はない(断言)

振り返れば、何も誇れない人生だった。

 

小さな頃から周りと一緒に(はしゃ)いでいるだけだった気がする。

 

小学生中学生でもそれは変わらず、高校生の頃は少しばかり悪ぶってみたりもしたが、本質は似たような奴と一緒にいて安心したいだけのガキなだけだったように思う。その頃は親父やお袋には迷惑かけたし、妹は明らかに俺を軽蔑してたっけな。

四則演算と丁寧語が最低限できれば入れます、みたいな大学に入って遊びとバイトに明け暮れた。ばあちゃんに褒められてたまっすぐな黒髪も、わざわざパーマのプリンヘッドにしたりもした。

酒の味も覚えたし、パチンコやら競馬といったギャンブルにも手を出した。

 

中でも競馬はどハマりした。土日は友人たちと集まって、安い酒を片手に競馬のライブ配信を見て騒ぐのが常だった。

 

そんな俺も、社会人になってからはある程度マトモになった。まぁ競馬はやめられなかったけど。

親父が病気で倒れて入院したと聞いて「親孝行しないといけない」とかなり遅い決意をした。わりと真面目に働いて実家に仕送りするようになったし、連絡も欠かさないようになった。親父やお袋は俺が真面目になったのが嬉しいと言ってくれたし、妹も歩み寄ってくれるようになった。

 

やっと親孝行できるようになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……なのにさぁ

 

なんで俺はこうなってるんだよ

 

ごめんって

 

許してくれよ

 

確かにお前には悪いことをしたよ

 

こうなったのも自業自得だってのも頭ではわかってるよ

 

……でもさぁ

 

腹刺されたら痛いんだよ

 

意識が浮いたり沈んだりする感じだ

 

俺が親孝行しようとしてることなんてお前には関係ないこともわかってるさ

 

でもさぁ

 

……畜生。

 

いてぇなぁ

 

…………。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

兄さんが死んだ。

 

昔はやんちゃで、意地悪で、嫌いだった兄さん。

大人になってから優しくなって、「よくできた」兄さんになった。

 

私は兄さんを見直したし、私も見習って親孝行しようと思った。

 

なのに。

 

兄さんを刺し殺したのは元カノだという女性。

髪がボサボサで、マトモな状態ではないのはすぐにわかる風貌の女性。

 

……その女性曰く、大学時代に兄さんによって所謂「ヤリ捨て」されたということらしかった。「私はあんなに愛していたのに!!!!」だの喚いてた。

 

……タチの悪いことに、多分それは本当のことだ。大学時代の兄さんは本当にカスみたいな人間だった。きっと気さくに話しかけて関係を持って、飽きたからとフッたんだろう。大学時代に何故か自慢げに話していたのを覚えている。

あの時は「刺されて死んじまえ」と半分本気で思っていたが、まさか本当にそうなるだなんて思わなかった。

 

父さんも母さんも声を上げて泣いた。父さんは「なんで父親より先に死ぬんだバカ息子」って言ってた。母さんは「今度帰ってきたら鮎を焼いてやるって言ったのに」って泣いてた。焼き鮎は私も兄さんも大好物だ。

 

……兄さんのこと、また大嫌いになっちゃった。

なんで、いなくなるの、バカ兄さん

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

「ブフゥ(は?)」

 

 

 

 

目が覚めたら馬房だった。

何言ってるかわからねえと思うが俺もわからねぇ。

 

え?俺は昔遊んだ(文字通り。俺は最低のカス野郎だ)女に刺されて、多分死んだよな?あの感じで生きてることはないだろうし、仮に生きてたら病院だろ。少なくとも馬房にいることはねーよ。

 

目の前にはサラブレッド。改めて見るとデカいな、やっぱり。

 

で。

 

 

俺だ。

 

 

「ブフヒフゥ(俺馬になってね?)」

 

そう。

俺は馬になっちまったらしい。は?

 

 

─────────────────────

 

落ち着いた。ので状況整理である。

まず俺だが、まぁ馬に転生したってことで間違いないだろう。それも多分さっき産まれたばっかりだぞ。

 

で、いきなりの悲報ですまない。

 

 

人間の言語わかんない──

 

 

そう、牧場の職員らしき人たちがなんか話してるんだが、なんも聴き取れないんだよな。どこの言語でもない謎の音声って感じだ。冷静に考えれば馬には言語野がないんだから当たり前かもしれないが、元人間の俺的には普通にマズい。元人間であるが故のアドバンテージとして"言語を理解できる"があると思って期待してたからな。それがないということはまた一歩馬刺に近づいたってわけだ。笑えねえマジで。

 

ちなみに今は母馬(だと思う)のおっぱいにありついているところである。羨ましいか?羨ましいならとりあえず妹には関わらないでくれな。ついでに俺にも。

 

話が逸れそうになったが、まぁそんな感じで促されるままに動くしかない状況である。つーか味わかんねえけど味覚あんのかこれ。産まれたてだと味蕾が無いんかな。ついでに俺に未来はあるんかな?なんつって。

 

 

閑話休題(だまれよ)

 

 

サラブレッドとして生まれたので恐らく競走馬になると思うのだが(違った場合は運が良ければ乗馬、運が悪けりゃ馬肉。終わってる)

 

まぁとにかくやれることはやってみる。ずっと側についてくれてる母馬に恩返しもしたいしな。

 

──────────────────────

 

多分馬に転生して半年くらい過ぎた。

多分つーか、ほぼ確定だ。カレンダーが馬房の近くにあったからな。ご丁寧に俺の誕生日も書いてあったからすぐわかったぜ。あ、そうそう、文字は読める。天才馬やね。

 

にしても、最近ちょっと暇なんだよな。母馬はマジで良い人というか良い馬なんだけど、放任主義っぽいんだよな。子どもの自由意思を尊重するタイプってやつだ。ネグレクトとかじゃないよ。ただ、突然自由を与えられても何したらいいのかわからん。

 

つーわけで、そろそろ母以外の馬に話しかけてみようかと思う。つっても、日本語で話しかけても反応ないんだけどな!もしかしたら反応する奴もいるかもしれないからものは試しさ。

おっ、あの黒いとねっこ母馬から離れてるな。ちょうどいいや、ダチになりにいくか。

 

「(へいそこのボーイ!俺と遊ぼうぜ〜!)」

 

「(む、貴殿。日本語が話せるのか?)」

 

「ブヒ(え)」

 

 

え?

 




※ちなみに前世の家族もう出番ないです。遺族として俯いて生きていきます。人の心とかない(言い切り)

さっそく日本語を解する馬に遭遇!ダチになれるのか!?
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