先アリです、先生の性別は不詳です。先生の性格の解釈不一致は見逃してください。
少し前までは暖房をつけても手足の指先が悴み、仕事にも集中できない程に凍えるように寒い日が続いていたが、今となっては暖房器具の類には見向きもする事無く、近付くだけで全身に冷気を感じさせていたガラス窓から身を乗り出し外を見下ろせば、少し前までは枯れ木に雪化粧をしていた街路樹が自分たちの生命を主張し合うかの様に満開の花を咲かせつつあり、雲が無い筈なのにどんよりとしていた空には、澄んだ蒼が一面に広がっていた。
そんなある日、腕と背筋を軽く伸ばしながら仕事の準備をする一人の大人の姿があった。見慣れてはいけない高さに積み上がった書類の山、それを見上げながら今日もいつも通りだな……と心のなかで呟く。そんな心情とは対を成す様に穏やかな日差しが差し込む窓から離れ、席へ向かおうとしたその時、来客を知らせるベルが鳴る。
浮足立った様子で、先程窓の外を見た時の様な澄んだ蒼い瞳をインターホンのカメラ越しにこちらに向ける少女は今日、当番の生徒、天童アリスだった。
「勇者アリス、先生の当番クエストに来ました!今日も一日よろしくお願いします!」
"おっ、とと……おはようアリス、今日もよろしくね。"
玄関のロックを外してドアを開けた瞬間突撃してくるアリスをなんとか受け止めつつ挨拶をする。その後、とても元気で明るい笑顔でついてくるアリスにつられて私まで笑顔になりながら一緒に執務室へと戻った。
執務室に戻ると、一人であれば家に帰るどころか睡眠時間すら怪しい量の書類の山が再びその姿を見せる。
「相変わらずすごい量です……ですが、アリスはケイから新たに書類整理スキルを教えてもらいました!──今のアリスなら書類の山だって敵じゃありません!」
アリスは元からとても素直で教えた事はその通りに実行してくれるので頼りにしていたのだが、──ケイちゃんから仕込まれた書類整理スキルは確かに効果があったようで、書類の山は瞬く間に量を減らしていく。朝には見上げるほどに積み重なっていた書類の山は最強の勇者に倒されるボスのHPバーのようだった。
全ての書類を片付け、今日終わらせる必要のある業務を全て片付けた事を確認し、一息ついてちらりと横目で窓の外を見ると、今朝は少し晴れていたのが嘘のように激しい雨が降っていた。私もアリスも、激しい雨音に気を向ける事なく集中して仕事をしていたのだ。
"すごい雨だね……。"
「はい……でも大丈夫です!……でも大丈夫です!いざという時にケイが折り畳み傘をアイテムバッグに入れてくれていました!」
"あれ?アリス、今日は光の剣しか装備してきてなかったような……。"
「あーっ!アリス、アイテムバッグをおいてきてしまいました!」
"あはは……。"
結局日が沈み始める時間になる前に仕事は終わったのだがもう既に日が沈んでしまったかのように外は真っ暗、年に一度あるか、という勢いで雨が弾丸を撃つような勢いで地面に打ち付けられている。私は今更になってようやく天気予報を見ることにした。
どうやら明日の明け方頃までずっとこんな天気になるらしく、今日は仮眠室で寝泊まりするしか無いと結論づける。生徒と先生が二人きりで寝泊まりするというのはかなり世間的にはよろしく無い状況だったが、今日はシャーレに泊まり込むしかない状況だ。それに、アリスは私とゲームをするために今日は頑張ってくれたのだ。私としてはそんなアリスを仕事が終わったからと帰す方がどうかと思う
"アリスが良ければ今日は帰れそうにないしシャーレに泊まっていかない?どうせなら寝るまで一緒にゲームしようか!"
「!本当ですか!?アリス、とても嬉しいです!!」
アリスにそう声を掛けると、少しだけ不安そうな顔から満面の笑みに変え、こちらに抱きつき全身で嬉しさを伝えてくる。先生と生徒の距離感としては近すぎるのだが、その眩しい笑顔を目にするとどうしても咎める気にはなれなかった。
ミレニアムサイエンススクールにいるユウカやケイちゃん等アリスの保護者たちにも連絡を済ませてから、休憩スペースに収納してある私物のゲーム機を取りに向かった。私も元はそれなりにゲームを嗜む身だったので、年甲斐もなくワクワクしていた。
今日一番の笑顔を見せてくれたアリスを見て、なおさら頬が緩むのを自覚しつつ、ゲーム機をモニターに繋いで少しへたった休憩室のソファに座ると、まるで定位置と言わんばかりに私の膝の上にアリスが座ってきた。今日の私はいつもより浮かれており、可愛らしさのあまり無意識に頭を撫でてしまった。そのまま数秒が経過して、手をコントローラーに戻しつつアリスの様子を見る。私の都合の良い解釈かもしれないが、嬉しそうに目を細めていた。
その後、アリスはこのゲームをやりたいです!と選んでくれたカセットを挿入したゲーム機が、モニターに懐かしいタイトル画面を映し出す。昔、私が友人達の中でも一番上手になる程度にはやり込んでいた格闘ゲームの画面だった。
──レトロゲームも格ゲーもやり込んでいるであろうゲーム開発部の一員らしいチョイスに柄にもなくニヒルな笑みを浮かべつつ、キャラクターの選択画面を開く。久々に遊ぶので、少々大人気無いかもしれないが私が一番使い慣れたキャラクターを選択する。
まもなくして試合開始の合図となるベルの音がなると同時にアリスは動き出す。
「……ふっ、せいっ、やぁ!」
"……いきなり攻め込んでくるね!"
まずは様子を伺いつつ構えていると、アリスの使っているキャラクターが私の使っているキャラクターに突っ込んでくる。
──咄嗟に受け身を取り攻撃を耐え凌ぐ。私のキャラクターはバランス型で相手の動きに対して対応を変える事ができる柔軟性が売りだ。一方で、アリスのキャラクターはとにかく攻撃し続けて、ここぞという場面で必殺技で相手を倒し切る攻撃に振り切ったキャラクターだった。
現状だと防戦一方に見えるが、アリスのキャラクターは必殺技を外すとかなり大きな隙が生まれる。ここは慎重にアリスが必殺技を使うタイミングを読みつつ余計な被弾を減らす事に徹する。
「今です!光よ!……あーっ!やられてしまいました!」
~♪
私は見事に読み合いに勝ち、必殺技を避けた後の無防備なアリスのキャラクターにとどめを刺す。
"昔はこのゲームは結構やり込んだからね、身体が覚えているみたいだ……!"
「むむむっ、アリス、次は負けません!」
すぐに二ラウンド目を始める。私は一度勝った勢いで最初から攻撃的な立ち回りをした。──悪く言えば調子に乗っていた。このゲームではモーションや発動のタイミング、後隙の長さに差はあるが全てのキャラにカウンター、──俗に言うパリィが存在する。
日々の仕事の疲れもあってか、すっかりその事を忘れたまま攻撃を続けていた。……勿論、アリスはその隙を見逃すことはなかった。
"えいっ、えいっ!……ここ!"
「……カウンター発動!」
"何ぃ!?"
「──光よ!」
~♪
「やった!アリス、今度は先生に勝ちました!リベンジ成功です!」
"くぅ~、まだまだ負けないと思ってたのに……。"
その後、気を引き締めて何戦かやり合った後、少し疲れてきたタイミングでアリスがミネラルクラフトをしたいと言ってきた。……もしかしたら気を使わせたかな?と思い、アリスに訊いてみたが「格ゲーはお互い万全な状態で戦ってこそです!それにモモイがチルい時はとりあえずミネクラって言ってました!」と言って部屋に置いてある予備の端末を起動し始めたので、私も一緒にミネクラを立ち上げて遊ぶ事にした。
その後、しばらくアリスと二人でミネクラを遊んでいたら段々と眠たくなってきた。今日はアリスのおかげで早く終わったけれど、シャーレに暇な日は無く、徹夜で翌日を迎えることも多い。日々解消されることのない疲労や睡眠不足は、以前に彼女たちと向かった氷海地帯に降り積もる雪の様に溜まる一方だった。
無論、医療に携わる生徒からはもっとしっかりと休息を取ったほうが良い、睡眠時間が足りてない、このままでは、何なら今すぐ救護が必要、などと言われているのもあり、寝たほうが良いのは重々承知だった。
けれど私は、この時間を少しでも長く楽しみたかった。一定間隔ごとに鳴るミネクラでブロックを採掘する時の効果音、膝の上に感じる、アリスの心地よい重さと温かな体温……。
普段であれば、先生だから──、大人だから──、と距離感が近い生徒とはそうやって諭しながら距離を保っている。それは今ミレニアムで普段アリスと一緒に生活しているゲーム開発部の子達や、恐らく心配してこちらの様子を監視したり録音している子達にも等しくそうしている。
中には私に恋慕の情を寄せている子もいるだろう。だが、先生としてそこだけは平等に線引きをするべきだ。それでも、アリスだけはどうしても、そうして突き放す事が出来ないでいる。今も、この時間を長く楽しんでいたくてアリスだけを特別扱いしている。
私はそのまま溶ける様に意識を失った──。
夢を見ている。
「先生、先生は、きっと色々な事を抱えて生きているのだと思います。アリスは今まで色々なことを体験してきました……モモイやミドリ、ユズと一緒にゲーム開発部で過ごした時、アトラ・ハシースの箱舟で初めてケイと協力して多次元バリアを破壊した時、氷海地帯でケイと再会した時、……そして、鋼鉄大陸での色んな事……。」
私が知っているアリスより喋り方が硬い、きっとこれは私の夢の中だ。
生徒の皆が思っている程私は出来た人間ではない、本来私はつまらない人間だし、シッテムの箱がないと、アロナとプラナがいないと、キヴォトスではいとも容易く死んでしまう存在だ。
「アリスは思いました。先生は誰にもバレない様に自分の気持ちを隠し続けてるんじゃないですか?」
それでも、生徒の未来を守る為、皆の笑顔の為に私は頑張り続けていた筈だった。
なのに私は──正直に言うとアリスの事が好きだ。生徒としてではなく、恋愛対象として大好きだ。もう、言い逃れが出来ない程に好きだ。
だが、私はそれだけは、誰にもバレずに隠し続けている。
当たり前だ、アリスは生徒であり私は先生。アリスは子供であり私は大人。この気持ちは誰にも知られる訳にはいかない。……私が恋して、愛しているアリスにも。
私は彼女の事をいつから好きになったのだろうか……一目惚れ?勇者になると言った時?勇者になれた時?──そんな事はわからない、いつの間にか好きになっていた。
私は彼女のどの部分を好きになったのだろうか……誰とでもすぐに仲良くなれる優しさ?どんな敵だろうと正面から向き合って最後には良き友になれる強さ?見ているだけでどんなに辛くても勇気を貰える笑顔?──そんなの全てに決まっている。
私は、先生としてあってはならない事を今も想い続けている。本当はアリスと恋人になりたい、いずれは結婚もしたい、末永く夫婦として過ごしたい。
「アリスは先生に色んな事を教えてもらいました。……だから、アリスも先生に教えてあげます!
──先生も、なりたい自分になっていいんです。……でも先生は、先生だから難しいかもしれません。なのでとりあえずアリスの前でだけでも、なりたい自分になってみて下さい。」
──ありがとう。
私は先生だから、普段は君に言えずにいてる。いや、それは言い訳でしか無いのかもしれない、勇気が無いだけなのかもしれない。でも君に、アリスに勇気を貰ったから、言うよ。
──アリス、好きだ。……起きてる時にもう一度言うよ。
「はい、起きてる時にお願いしますね──。」
──わかった、頑張ってみるよ。
──
────
──────
「……先生、起きてますか?」
先生のキャラクターが動かなくなっていることに気づいたので先生に問いかけても返事がありません。
アリスは先生とミネラルクラフトをしていました。ですが先生が睡眠状態になっててしまいました。起こそうかと思いましたがその寝顔を見たらそんな気が起きなくなりました。
先生はヘイローのない普通の人間なのでちゃんと横になって休まないとHPが回復しません。アリスは先生の膝の上から降りて、慎重に先生をソファの上で、ゆっくりと横に倒して寝かせてあげます。
きっと以前のアリスならどこかにぶつけて先生を怪我させたり起こしてしまうかもしれません。ですが、メイド勇者のジョブもカンストさせたアリスのきようさがあれば大丈夫です!
アリスは先生を寝かせるミッションを達成した後、すぐにゲームを再開しようと思ったのですが、なんとなく先生の寝顔を見ているとなんだか胸の奥がキュッと、締め付けられるような、そんな気持ちになり、そのままじっと先生を見つめていました。
締め付けられると言ってもダメージを受けるようなことではなく、優しく持続回復スキルを受けているような、それでいてやっぱり少し悲しい?……とにかくなんだか複雑で、それでも全てがとても大切で、ケイのように叫んでしまいたくなるような、ユズのようにロッカーに隠れてしまいたくなるような……。
アリスは前からよく先生に抱きついたり、頭をナデナデしてもらったり、先生の膝の上に座ってゲームをしたりしていました。先生の優しさや勇気を分けてもらえるようでそれがとっても幸せでした。
でも最近、一つだけ出来なくなったことがあります。先生に向かって好きと言えなくなりました。それは何故か気軽に言ってはいけないと思うようになったからです。
アリスはずっと先生のことが大好きです!そして先生も特に変わっていません。なのにそう思うのは変な気がします。
「……先生」
アリスは改めて先生を見ていると先生の体勢がつらそうなことに気が付きました。ソファは先生がそのまま横になれるくらい大きいですが、枕はないしクッションとかもありません。
ピコーン!アリスはひらめきました!アリスが膝枕をすれば先生は首にダメージを受けることはありません!
すぐに先生の頭を慎重に持ち上げてアリスがその下に座って、ゆっくりと先生の頭から手を離します。
……少しだけ先生の顔が楽そうになりました!パンパカパーン!アリスのメイドスキルがレベルアップしました!……ってもうカンストしてましたね。
"……あり、す……。"
「先生、どうかしましたか?……って、寝言ですね……ふふっ♪」
先生は夢の中でもアリスと一緒にいるみたいです!なんだかとっても嬉しいです!
先生は普段からステータスが低くても頼れる大人でした。ですが今こうしてみるとなんだか子供みたいで……可愛いです。
いつも先生にナデナデしてもらっているのに、アリスの身長では先生をナデナデしてあげることはできません。ですが今なら先生をナデナデしてあげることができます。
先生をナデナデしているとなんだかアリスも幸せになってきました。
──色んなゲームをして、色んな人とお話して、色んな人と友達になってアリスは思いました。先生はずっと一人で何もかもを抱え込んでいます。
アリスやみんなは何かがあれば先生を頼ることが出来ます。ですが先生は、仕事では今日のアリスのように当番の生徒に手伝ってもらったり、お金の計算はユウカに頼ったりしていますが、本当にしんどい時、疲れた時に頼る人はいません。
もしかしたら先生は大人なので弱い所を見せてはいけない、と考えているかもしれませんが……先生も大人である前に人なのですから、言いたいことや本音があれば言える相手がいた方がきっといいはずです。
アリスは勇者なので、先生のことも守りたいです。それにアリスは──。
「……先生……アリスは、先生のことが……」
──好きです。大好きです。なので……アリスにだけでもいいので、先生の考えてる辛いことや苦しいことも、聞かせて欲しいです。
"……あり、がと……ぅ……。"
もしかしたら、先生の夢の中のアリスも同じことを考えていたのかもしれませんね。
"……アリス……好……き……。"
────。
これって──。
前にケイに相談したことがありました。その時ケイは先生に対して怒った後私に、──アリスは先生の事が好きなのはわかりました。大変不本意ですが先生ならアリスを任せられます。……ですが、アリスの先生に対する「好き」という感情がどう変わったのか私が教える訳には行きません。自分で考えて下さい。──とはぐらかされてしまいました。
あの時はケイがイジワルを言っていたわけではないのはわかっていても八つ当たりしてしまいました……改めて謝ったほうがいいですね。それとお礼も言いましょう!
とにかく、やっとアリスの先生に対する「好き」がどう変わったのかわかった気がします!
アリスは、先生と両想いなんでしょうか。だとしたらそれは誰かと友達になった時よりも、どんな難しいゲームをクリアしたことよりも、何よりも嬉しいです。
──でも。
「嬉しいです!……でも、アリスはわがままなので、起きてる時にもう一度言って欲しいです。」
"……わか、った……。"
「──はい、約束です!」
その後アリスはとっても嬉しい気持ちでそのまま先生と一緒に寝たくなったので寝ました。
──────
────
──
いつの間にか寝落ちして夢を見ていた。とても、勇気をもらえる夢だった。
段々と意識がハッキリしてくる。顔がくすぐったい。
目を開くとアリスが私の方を向いて寝ていた。ここでようやく自分が膝枕されている事に気がついた。
くすぐったいのはアリスのとても長い髪が重力に従って私の顔に掛かっているからだった。今日は私と同じ休憩室に備え付けられているシャワールームのシャンプーを使ったからだろうか。少しだけ私と同じ匂いがして、上から掛かるアリスの髪の隙間から見える常夜灯の光は私の心に灯る薄暗い背徳感を表しているかの様に思えた。
しばらくしてアリスも目を覚ました様だ。
「おはようございます!先生!」
"おはよう、アリス。……その、膝枕はそろそろ恥ずかしいし起き上がるね、ありがとう。"
既に窓から見える外は、明るくなり始めていた。普段より少し早い時間だが寝直すのも難しい時間だった。
とても名残惜しいが色んな意味でそのままというわけには行かないのでアリスにお礼を伝え、起き上がって予定を確認する。
今日は偶然休みだったのでアリスをミレニアムに連れて帰ったら午後は久々に何かしようかな──そんな事を考えながら給湯室に向かいコーヒーを、アリスには温かいココアを入れる。
お湯を注いで休憩室に戻るとアリスが笑顔でとんでもない発言をしてきた。
「ありがとうございます、先生!……アリス、こういうシーンミドリがやってたゲームで見たことあります!朝チュンってやつですね!」
"ぶふぉぅーーー!!!"
「あーっ!先生がコーヒーを吹いて部屋中が汚くなってしまいました!……アリス、変なこと言っちゃいましたか?」
"……朝チュンは今後言わないようにね……。"
思わずコーヒーが喉を通る前に床に撒き散らしてしまった。咄嗟にアリスがいない方向を向いたので必然的にベッドにも被害は無かったのだが床は雑巾がけした方がいいだろう。
「アリスも一緒に雑巾がけをします!メイドのレベル上げをしている時にたくさんしたので手伝わせて下さい!」
"そっか、じゃあお願いしていいかな?"
「はい!」
しばらく他愛もない雑談をしながら雑巾がけをしたりカーペットを洗って干したりしていたが、普段仕事に追われている私がやけにのんびりしている事に不思議に思ったアリスに、今日は仕事が無いのか聞かれたので今日は休みだという事を伝える。
「じゃあアリスと一緒に今日発売の新作ゲームソフトを買いに行くクエストをしませんか?」
"いいよ、じゃあクエスト受注するね。"
「パンパカパーン!先生がパーティに加わりました!」
アリスの可愛らしいファンファーレを聞いた後、支度をして二人でD.U.シラトリ区の近くにあるショッピングモールまで行くことにした。
……冷静に考えると完全にデートだったのだが、傍から見ると親子か年の離れた兄妹に見えたのかもしれない、特に周囲から気に掛けられる様子もなくショッピングモールの最寄り駅に到着した。
朝はのんびりしていた事もあり、なんだかんだお昼前でそこら中の飲食店が混雑する少し前、という時間になっていた。
"アリス、ちょっと早いけど混む前にお昼にしよう。"
「アリス、あのお寿司屋さんがいいです!」
"ははっ、しょうがないなぁ。"
そう言ってアリスが指差したのは少し高めの回転ずし店だった。正直、あまり笑っていられない価格帯だったのだが、とても楽しそうなアリスを見ているとお金の事なんてどうでもよく思えてくる。
ミレニアム近郊にはそもそもこういう飲食店自体がそう多くないのもあってアリスには物珍しく感じたのか色々な種類のお皿を取って食べていた。……金色や銀色のお皿はあまり手を出さないで欲しかったが。
私が出来るだけ青色や緑色のお皿を取ればそこまでの値段にはならないだろうかと希望的観測を抱いていたが、会計はギリギリ4桁だったとだけ言っておこう。
その後、ショッピングモール内の家電量販店に併設されたゲームショップまで行くと今日発売ということもあり目立つように陳列棚に配置されていた。
「あっ!ありました!先生、これです!……店員さん、これ二つ下さい!」
「はい、13,960円です。」
「えっと……あーっ!そういえばアイテムバッグごと忘れていました!」
そういえばそうだった。……正直私がゲームを遊んでいた当時の感覚で言えばソフト2つ分にしては高すぎると思うし、昼食代
と合わせれば優に2万円を超える。だけど今日はアリスがゲームを買うためにここまで来たのだ、それに──
"……アリス、先生が買うよ。"
「いいんですか!?……でも先生の所持金がとんでもないことになってしまいます……!」
"安いもんさ……ゲームソフトの一本や二本くらい……。"
その後会計を済ませ店を出る時に、ふと気になった事があった。アリスは何故ゲームソフトを二つ買おうとしたのか。きっと誰かと一緒に遊ぶためなのはわかる。恐らく絶賛布教中のケイか普段あまり外に出たがらないユズの為に代わりに買いに来てあげたのだろうか?
"アリス、もう一つのゲームソフトは誰かと遊ぶ為に買ったの?"
「はい、先生と遊ぶためです!なのでそのソフトは先生の物です!今度また一緒にプレイして下さい!約束です!」
まっすぐとこちらを見ながらアリスはゲームソフトをこちらに向けて差し出してきた。
約束──私は夢の中のアリスと約束をした。私は彼女に勇気を貰った。私のことだ、きっと今日を逃せばズルズルと先延ばしにしてしまう。
なんとか絞り出すように声を出す。
"……アリス、ミレニアムに帰る前に観覧車に乗っていかない?"
「!……はい、わかりました!」
私の緊張感がアリスにも伝わってしまったのかもしれない。アリスはそういうゲームもプレイしたことがあるからか、私がこれからしようとしている事を察したのかもしれない。
お互い無言のまま観覧車乗り場までたどり着く。普段明るく天真爛漫なアリスが静かだと余計になんだか気まずく感じる。
今更になってこの後の事が不安になってきた。アリスが私のことを嫌っていたらどうしよう、もし皆に告白をしたことがバレたらどうしよう。……そうなったら私は立ち直れないかもしれない。
段々観覧車ではなく断頭台に乗っているのかと錯覚する。ドアが閉められる。もう逃げられない。
ふと手が暖かさに包まれた。アリスが手を握ってくれていた。緊張が解きほぐされる。前を向くとアリスがはにかんでいた。
「先生、アリスは、二人っきりで観覧車に乗る意味を知っています。……アリスは、先生が何を言っても受け入れます。だから──先生も、なりたい自分になって下さい!」
アリスは、どこまでも私に勇気をくれる。答えないと。ここまで言われてヘタれるなんて有り得ない。先生以前に人としてどうかと思う。なんならここまで言わせてしまっている時点でヘタレだ。でも、今はそんな事は関係ない。一呼吸置いて、私は人生に一度しか言う事の無いであろうセリフを口にする。
"ありがとう、アリス──天童アリスさん、私は、私、〇〇は貴女の事が、好きです、大好きです!……先生なのに、生徒であるアリスの事がどうしても好きです、私は、貴女と恋人になりたいです!──私と付き合って下さい。"
呼吸をすることすら忘れていた。全てを言い終えてから時間が永遠に止まったと錯覚した。アリスが涙を流して私に抱きついてきた。
「はい!アリスは、先生と恋人になります!」
アリスが、彼女がそう言葉にした後、唇に暖かく柔らかい感触がした──。
どうやら私はアリスにキスされたらしい。そう気づいたと同時にようやく時が動き出した。観覧車の一番上で私達は結ばれた。
「えいっえいっ!あーっ!アリス、大ダメージを受けてしまいました!先生助けてください!」
"えーっ!?さっきスキル全部使ってクールタイム中……ってやばい!この敵強すぎる!"
~♪
「うわーん!このゲーム難しすぎます!クソゲーです!」
"まあまあ、さっきのは私がスキル管理ミスったのもあるし……とりあえずおやつにしようか。"
あの日、私とアリスは恋人になった。彼女に言われた様になりたい自分になることが出来た。
だけど普段からなにか変わったという程ではない。
……いや、一つだけ変わったことがある。
「じゃあその前に……先生、いつものがしたいです……!」
"わかった、おいで、アリス"
「えへへ……先生、あったかいです!……ちゅっ」
あれから何とかスケジュールを調整したり仕事を早く終わらせ、時間を作ってアリスと毎日ゲームをしている。
そして一日に一回、必ずアリスと抱き合ってキスをする様になった。
……冷静に考えたら前より甘えん坊になった気がする。そして前よりアリスの甘えん坊攻撃に弱くなった私はもはや自分が甘えているのではないか?と勘違いする程にアリスに甘くなった。
もしかしたら今後私とアリスの関係がバレる日が来るかもしれない。というかこの調子だときっと時間の問題だ。
それでも、私は毎日アリスから勇気を貰い続けている。何があっても大丈夫、何とかする。そう思えるようになった。
さて、アリスとのイチャイチャタイムも大事だけど今日は大切な事があった。
"アリス、今日のおやつはバースデーケーキを用意したよ!"
「わぁ……!サプライズですね!ありがとうございます、先生!」
"お誕生日おめでとう、アリス!"
最後まで読んでいただきありがとうございました!
もしかしたらまた何か投稿するかもしれませんがその時はよろしくお願いします!