転生特典は“なんか良い感じの薬が作れる”ことです   作:綾瀬~><

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真実の愛のキスが愛する人を救うのはお約束

 

 そうして一週間にも及ぶ準備が整い、治療が開始される。

 

 結局の所この治療は本人たち次第で、医者である俺はほんの少しの手助けを終えたら祈ることしか出来ない。特に問題もなく順調に進んでいき、ついに工程は最後のキスに移る。

 俺は後ろを向いて、時を待つ。

 

 

 

「起きろ、江華──…」

「…──ほんとうに泣き虫だね、神晃は」

 

 

 

 ……やっぱり耳も塞いどいた方が良かったかな。

 なんだろう、すごく居た堪れない気持ちになった。無事成功したことは嬉しいんだけど、前世を含めて彼女いない歴=年齢だった身としては猛烈に殴りたい。

 

 そんなことを考えながら後ろを振り向けば、泣き崩れる神晃殿を優しく抱きしめる江華さんの姿があった。

 うん、そうだな…この光景が壊れることがなくてよかった。非リアにはキツい光景だけど、きっとこれは何よりも尊いものだと思う。それにしても、神晃殿泣きすぎだな。脱水症状出るよ。

 近くに置いてあったペットボトルの水を投げ渡して、サングラスを通して江華さんと神晃殿を見る。

 

 

「うん、ちゃんと成功してますね。はァ〜〜〜〜、よかった……失敗する可能性は限りなくゼロに近かったけど、もしもがあったらどうしようかと…」

 

 

 ア、なんか安心したら胃が痛くなってきた。これもしかしてアドレナリン出てて気づいてなかっただけかな。

 胃をさすっていれば、突然神晃殿に肩を掴まれる。驚きながら顔を上げれば、デジャブを感じるべしょべしょの泣き顔にギョッとする。エ、なになに?何か不満な点でもあったの??何でさっきよりも泣いてるの???

 

 

「──ありがとう、どれだけ感謝してもしきれねェ…どんな名医の元へ行っても、諦めろと首を振られ不治の病だと匙を投げられた江華を救ってくれて、ありがとう…!!

お前がいなかったら俺たち家族はバラバラになってかもしれない、それこそ取り返しがつかねェことにもなっていたかもしれない…!全部お前のおかげだ……!!」

「私からも、本当にありがとう。もう十分生きたと思っていた、死を受け入れていた私を家族と共に生きる道へ引き戻してくれて……まだ生きていたいと思わせてくれて、ありがとう」

 

 

 思わずキョトンとして、それからじわじわとした喜びが胸いっぱいに広がる。

 俺が医者を今の今まで続けているは勿論お金もあるけど、こうやって誰かを救った時にかけられる感謝の言葉が原動力の一つになっている。前世じゃ得られなかったモノを一つ一つ尊んで、辛いことも少なくはない医者という人生を歩んでいる。

 

 無意識に笑みがこぼれる。

 医者も患者も救い救われの関係性なんだ。感謝を告げるのは俺も同じ、そうでしょ。

 

 

「これは俺の自論だけど、不治の病なんてのは治す方法を見つけることが出来ない医者の言い訳でしかないんだ

江華さんの病を不治の病だと言って匙を投げた医者は、ただ自分の責務から逃げただけの愚か者。現に、荒療治だとしても俺は治療に成功した

──この世に治せない病は、世界中のどこを探したとしても見つからないんだよ。これは正真正銘、諦めなかった貴方たちが掴み取った結末なの。感謝を言うのは俺もだよ、諦めず探し出してくれてありがとう」

 

 

 じっと見つめあって、誰からかフフッと笑い出す。

 その声が聞こえたのか扉が吹っ飛んだ。エ、待って吹っ飛んだ?扉があった場所を見れば、片足をあげた状態の神威と目が合う。すると、その後ろからするりと部屋に入ってきた神楽が江華さんに抱きついて涙をこらえる。

 

 

「マミー!本当に治ったアルか!?もう元気いっぱいヨロシ!?」

「…母さん、治ったの?もう大丈夫?」

 

 

 そうだよね、子供のうちから母親を失う不安に駆られてたんだもんね。そりゃ、治ったって知ったらいても立ってもいられなくなっちゃうか。

 本当に疲れたけど、これは間違いなく今までで一番達成感に満ち溢れた出来事だ。江華さんに慰められ、一通り落ち着いた神楽と神威が不意に俺を見る。なんでまた俺を…?と首を傾げていたら、二人して俺の腹に突っ込んできた。グフっ、なかなかの衝撃……。

 

 

「いおりんセンセー、マミーのこと助けてくれてありがとネ!!」

「約束ちゃんと守ってくれたんだ。庵センセー、本当にヤブじゃなかったんだネ」

「うんうん、どういたしまして」

「ちょっと待てェ、二人とも!力強すぎて庵先生、顔真っ青になってるだろ!夜兎の力舐めたらダメだぞ!!」

 

 

 嬉しいんだけど、じわじわと締まってるんだよね。

 マジで肋骨折れる、助けて……若干顔が青くなっていたのか、神晃殿が引き剥がしてくれた。ありがとう、本当にありがとう。

 また神楽は江華さんに引っ付いて、神威は神晃殿の足をゲジゲジ蹴っていた。ウーーン、自由。

 

 それにしても、と前置きをしてから神晃殿がしみじみとした声色で呟く。

 

 

「医学の王者と呼ばれる所以を実感しちまったよ。一度も試したことがない荒療治ってわりに副作用とか何にも……ああ、いや大食漢になったことを除いたら本当に無いし、本当にスゲェよお前」

「いや、あれは神晃殿と江華さんだから出来た治療法だよ」

「俺と江華だから?それってどういうことなんだ?」

「二人じゃなかったら半分の確率で失敗するかもしれなかったし」

「それ初耳なんだけど????」

「だから言ったじゃん、荒療治だって。あれは二人の間に深い信頼関係があったから出来たことで、少しでも疑念があったりしたら失敗するかもしれなかったんだよ」

「それでも言えよ。今更変な汗が出てきたじゃねェか、オイ」

「元々一か八かなのに「お互いが信頼し合ってなきゃ失敗するかもしれません」なんて言ったら、成功するものも成功しないでしょ?」

「それはそうだけど!事後報告ほど恐ろしいもんはねェよ!?」

「ちゃんと『おふたりは、ただお互いのことだけを考えてくださいね』って言ってたでしょ」

 

 

 目を釣り上げて「そんなんで分かるかァ!!」とキレながらぎりぎりとほっぺを抓ってくる。いちいち細かいなぁ、いいじゃん成功したんだから。ってイタタタタタ、ほっぺ取れる!

 何してんのハゲと神威が助けてくれた。良い子、神晃殿も神威を見習ってよね。あー、ほっぺがヒリヒリする…。

 

 間違いなく赤くなっているであろう箇所をもちもちしながら、俺は元の活気が戻ってきた家族を眺める。

 

 

 

 

 治療が終わってからずっと胃が痛い。

 これは流石に薬を飲まなきゃダメだな、と思って一度宇宙船に戻ってきた。ちなみに全員の総意により今日は家にお邪魔して寝させてもらうことになった、布団持ってくの忘れないようにしないと。

 

 さーて、胃薬胃薬……って、ないじゃん。そういえばふれあい動物園系の星に止まった時、胃をやっちゃった人に胃薬を渡した気がする。あれから補充するの忘れてたんだった、俺は空っぽの棚を見つめて肩を落とす。

 

 

「……面倒だけど作るしかないかぁ」

 

 

 さっさと薬を作って戻ろう。

 ガサガサと材料を取り出して薬を作る。それにしても今日までの半年間、楽しかったなぁ。今まで何回も宇宙を放浪してきたけど、これまでより何倍も楽しくて有意義な時間だった。仕事から離れた旅行ってのも悪くなさそうだ。

 まあネームバリューが着いてきちゃってるせいで、なかなか出来そうにないけど。それこそ血でも吐いて雲隠れ〜みたいな流れがないと今はもう表から隠れることはできなさそうだ。

 

 ヨシっ、完成。

 

 一気に飲んでいざ戻ろうと椅子から腰を上げて──、胃がひっくり返るようなそんな違和感に襲われる。なんだこれ、何が……胃の違和感と喉のイガイガに思わず咳き込めば、空気が吐き出される音ではなく水気のある音と共に手元がぬめっとしたナニカに濡れる。

 

 

「っは、ゲホッゴホッ……!!」

 

 

 いやにテラついた赤、少し泡立っているから喀血か…?

 でも毎朝の検診に異常はなかった、むしろ健康体すぎて俺ホントに鉱嚀族ですか?ってくらいだったのになんで……ア゙っ!!

 

 “──それこそ血でも吐いて雲隠れ〜みたいな”

 

 全然、俺の自業自得だったわ。

 原因がわかってしまえば焦りや不安もなくなる、俺はペッペッと口の中に残った血を吐き出して手や口周りを拭いた。

 若干白衣にも着いてるし着替えた方がいいな、なんで着替えたのか聞かれたら「後は寝るだけなんだから白衣はいらないでしょ」とでも言えばいい。

 

 部屋を出ようと扉の方を向けば、唖然とした表情をした神威がそこには立っていた。

 

 

「……庵センセー?」

 

 

 やっべ、今のもしかして見られてた?

 

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