転生特典は“なんか良い感じの薬が作れる”ことです   作:綾瀬~><

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舐められてメンチを切るのはヤンキーも医者も同じ

 

 オッサン…──神晃殿の話によると、お嫁さんの江華さんは『徨安』という星にアルタナの変異体として生まれたという。

 

 江華さんは徨安のアルタナがなければ生きていけない、所謂特定の環境でしか咲くことの出来ない花だった。

 根っこから無理やり引きちぎられているから、星に戻ったとしても体調が好転することはない。そして星自体も枯れ果てて死んでしまっている。

 

 

 つまり、打つ手はない──ワケないでしょうが。

 

 

 俺は薬の範疇を超える物は作れない。

 でも、それは薬の範疇を超えなければ何だって作れるのと同義だ。屁理屈なんてのは結局は捏ねたモン勝ちなのよ。

 

 ……だからさ、その余命宣告を受けたみたいな辛気臭い顔しないでくれる?

 

 

「俺が江華を星から連れ出したせいで、アイツを死に近づけてしまった。俺の責任だ…アイツをあそこから連れ出して、どうなるかを想像することも出来なかった俺の馬鹿な──」

「神晃殿。それ以上、ご自身を貶せばお嫁さんをも侮辱することになりますよ

神晃殿の話を聞いている限り、彼女は自身の末路を知っていながら貴方に着いて行ったのでしょう。水が枯れゆく星と共に枯れゆくのではなく、生命線でもある根をちぎってまで神晃殿という新たな水を求めたんです……その愛を侮辱するのはよしなさい」

「ッそうか、そうだな……すまない、緒方先生」

「そーそー、父上の言う通りだって。あんまジメジメしてっとキノコ生えるぞ、オッサン」

「誰がキノコが生えそうなくらい陰鬱なヤツだって!?」

「そこまで言ってねーよ、ジメ男!」

 

 

 言い合いができるくらいメンタルが持ち直したのは良いけど…──ここが診療所って忘れてないか?現代の病院だぞ?

 

 患者を診る場所で埃を立てちゃいけませんッ!

 

 

「二人とも診療所で喧嘩はいけませんよ、埃が立ってしまいますから」

「ご、ごめんなさい、父上……」

「どっからそんな細腕から馬鹿力が出るんだよ……」

「おや?神晃殿はもう一発欲しいと?ええ、ええ、俺は構いませんよ」

「うっそぴょーん!緒方先生は可憐で弱々しいです!!馬鹿力なんてことはありません!!」

「それはそれで腹が立ちますね。俺は将来ダンディなオッサンになりたいんで、ねッ」

「なんでッ!」

 

 

 頭を抑えて蹲ってるけど、そんなに強く殴ってないからね?ほんとだよ?ア、間違えた拳骨ね拳骨。殴ってないヨ。

 神晃殿が「めっちゃデカイたんこぶが二つできたんだけど俺も診てもらった方がいいんじゃねェの?」とボヤいてるけど気にしない気にしない。俺は力加減が上手いからね、一日すれば腫れが引くどころか痛みさえもサッパリなくなるよ。

 

 

「……何はともあれ、直接診てみないと判断出来ませんし患者の元へ急ぎましょう」

「ちょっっっと待てよ、緒方先生。夕又から洛陽までの移動距離知ってる??移動距離知ってて言ってんの???」

「ええ、もちろん知ってますが?」

「こっからここまで一年半かかるんだぞ!?なんでそんな、ちょっと近所のコンビニまで〜みたいなノリで行こうとしてんだ!?こっちとしても助かるけど、医者が診療所を開けるのは良くないんじゃねェの!?!?」

「全く、神晃殿は文句ばっかりですね……助けて欲しいと言われたからには、どれほど距離が離れていようが必ず助けるのが俺の信念ですよ

それに、貴方が住処を発ってから少なくとも一年半が経過しているのでしょう?俺が辿り着くまで最低でも三年はかかる、ならば少しでも早く向えるよう努力するのが医者としての務めです

診療所のことは穂希に任せますよ、子供といえど俺の右腕として十分やってくれてるので」

 

 

 言葉の節々に感じるんだけどさァ…神晃殿、俺が若僧に見えるからって舐めてない?

 グイッと身を乗り出して、問いかける。お前が助けを求めた男は誰だ?ちゃんと見ろ、俺は評判が高いだけの若い医者じゃない。

 

 宇宙一の天才医師、医学界を大きく塗り替えた王者…──緒方庵だ。

 

 

「神晃殿は俺を誰だと思っているんですか?

あなたの目の前にいるのは、宇宙一の天才医師 緒方庵サマですよ。心配は無用の長物です、どーんと大船に乗った気持ちで任せてください」

 

 

 二ッと口角を上げて笑いかける。

 少しでも安心してもらえるように、もう大丈夫だと思ってもらえるように。頼りがいがない見た目でも、実力はあるんだと信じてもらえるように俺は笑うんだ。

 普段表情筋が仕事してなくても、いざって時には笑みを浮かべる。そうすればきっと、余裕のない心に安心が生まれるはずだから。

 

 神晃殿は息を飲み、そしてドッと息を吐いた。

 ポリポリと頭を掻いて、神妙な面持ちで見つめてくる。

 

 

「……なんでもお見通し、ってワケか。若造に言わせといて、何も返さないのは情けねェ!分かったよ!行く末はお前に任せた。嫁のことを、江華のことを救ってくれ!」

「神晃殿に言われずとも、ソレが医者としての勤めなので」

 

「それに──…」

 

 

 アルタナ、ね……。

 患者ということを抜きにしても他人事じゃない話だ。

 

 俺は言葉を区切って、扉の近くにある鏡を見た。

 そこには、ここ20年で見慣れた顔といつまで経っても見慣れない異彩の瞳が写っていた。この赤と青にパッキリ分かれた彩は一族の中でもかなり珍しいと自負している。

 

 

 ──夕又に住まう者は異星の者を除き、全てがアルタナ生命体だ。

 

 

 江華さんのような突然変異ではなく、文字通りアルタナにより生まれた生命体『鉱嚀族』。

 突然アルタナからコロッと生まれる者もいれば、俺みたいに鉱嚀族同士の愛の結晶として生まれる者もいる。生まれ方に差異はあっても、どちらも最期には必ずアルタナに還る。肉体も何もかも遺さず、星のアルタナに還ってしまう。

 

 持っているアルタナの量はそれぞれ違って、肉体に宿しているアルタナが多ければ多いほど、俺たちの瞳は鮮やかな色彩を放ち、ひとつの硝子に二色の異彩を秘める。

 そして、鉱嚀族は自身が持つアルタナを自在に操ることができるようで、各自が持ち合わせているアルタナを自身の美学や技術、発明に費やしている。

 その為、他の天人よりも遥かに上を行く発展力を持っている。

 

 しかし、力には何かしらの代償はあるというもの。

 

 アルタナという膨大なエネルギーに外殻(肉体)が耐えきれず、鉱嚀族の殆どは50年前後の生命となる。

 その限られた時間の中に彩りを与えるように、鉱嚀族は自身の美学を生涯極め抜く。同族以外には興味のある物事を除いて関心を向けず、美学を汚されれば苛烈な一面を見せる酷く冷淡な種族とも言える。

 だからこそ、寝食を忘れることなんて日常茶飯事だし、ふとした瞬間に病気でぶっ倒れるなんてこともザラにある。多分、それもあって短命なんだと思う。

 

 

 俺は最初、短命の原因は不摂生な生活だと思っていた。

 

 

 唯一、鉱嚀族の中でオッサンくらいまで歳をとった長老ポジのじーさんがいた。大抵の鉱嚀族は童顔で50歳くらいでも青年に見える、だからこそじーさんがオッサンに見えるということはそれだけ長生きしているということ。

 何か知っているんじゃないかと俺はその人に話を聞いて自分の種族や短命の真実を知ったんだ。

 

 

『つまり、俺たちが短命な理由は身を巣食うアルタナが原因ってワケか……』

『そういうこった。俺ァは運が良かったのか悪かったのか、この身に宿したアルタナの量が極端に少なかった……だから、この歳までしぶとく生き残っとるんだ』

 

 

 なんだそれ。

 最初は困惑が強かった。急に厨二病設定をぶち込まれたとか、また俺は早死するのかとか、両親の遺体がなかった理由はそういうことだったのかとか、どちらかというと健康体な者がある日突然姿を消すのはそういうことかとか。

 

 色々と頭に思考が駆け巡って……次に感じたのは怒りだった。

 

 だって、そんなの理不尽じゃないか。

 勝手に肉体を与えておきながら、その力で自壊して何もかも遺さず星に還るなんて理不尽極まりない話だ。肉体がある以上、俺たちは心を感情を持っている。

 泣いたり怒ったり笑ったり楽しんだり……他のものたちより薄くとも心があるんだ。綺麗なモノを美しいと尊んだり、コレと決めたら譲れなかったり、侮辱されれたら烈火のごとく怒り狂い、大切なモノが壊れたら悲しんで涙を流す、普通の生き物なんだ。

 

 それを宿命だなんだと、50年という短い時間で終わらせてしまうのはちゃんちゃらおかしいと思わないか?

 

 

『俺たちは命を持って生まれて来たんだ

…──自分の身に宿ったチカラで自壊して星に還る運命なんてクソ喰らえだね!人生百年時代、なんて言うだろ?

そんな運命、この天才医師 緒方庵サマがぶっ壊してやる』

 

 

 俺は全くもって身に宿ってるらしいアルタナを知覚してないし操ることもできてない。

 ただ単に珍しい色の瞳を持った一般人じゃない?と思ってしまうほど、少なからず同年代がちょくちょく体調を崩す中、ビックリするほど健康優良児で鉱嚀族か疑わしいんだけど──……。

 

 そうやって油断して早死してしまうくらいなら、俺は手がかかりも何もない病を治す方法を見つけ出してみせる。

 

 

『それに、死に紐づく全てが病に収束しているとするなら…──医者である俺に治せないはずがないだろ?』

 

 

 そうやって勢いのままに啖呵を切って、数年前まで頻繁に宇宙を放浪してきた。

 人一倍アルタナに関して詳しい自負はあるし、他の鉱嚀族みたいに操ったりすることは出来ないけどアルタナに作用する薬も作ったことがある。

 

 結局、そこまでしても鉱嚀族が早死しない方法を見つけることは出来てないけど。

 

 でも、アルタナを調べまくってきた俺にとってアルタナが枯れて死にゆく患者を助けることなんて造作もないことだ。

 本当に見つけたいモノは見つかってなくとも、他の誰かを助けるモノがこの手にあるなら俺はソレを使うことを惜しまない。

 

 

「それに、アルタナに関する症例には少し覚えがありますから」

 

 

 今までのことや、言いたいことを全て飲み込んだ上で俺は当たり障りのないことを言ってお茶を濁した。

 




★緒方 庵(28)
 医者としての矜恃はしっかりある、むしろ高い。
 転生特典を使うこともあるけど、血のにじむような努力をして自分の腕でのし上がってきたからこそ舐められると「はァ???」と喧嘩腰になる。
 だからこそ舐められがちな童顔がコンプレックス。将来の夢はダンディなオッサンとのこと。
 実は人間じゃなかった。でも心持ちは人間だし、全然100歳まで生きるつもり。
 何故かアルタナを知覚出来ない体質。アルタナ生命体としても、鉱嚀族としても出来損ないの部類。瞳は鉱嚀族には珍しいくらい鮮やかな色彩なのにね。

☆緒方 穂希(8)
 庵の事は大好きだけど拳骨の威力は理解不能。
 自分も人のことは言えないけど、その細腕からあの威力が出るのは本当に不思議。
 実は「子供といえど俺の右腕として〜」のくだりから黙ってたのは照れて話すどころの騒ぎじゃなかったから。きゃー!って感じでテレテレしてた。かわいいね。

★神晃
 みんな大好き星海坊主。
 二児の父だからどうしても子供には気を使ってしまう、未熟だから見た目に惑わされる。が、地雷を踏んだ時の圧ですぐに考えを改められるくらいには柔軟。
 最後の含みを孕んだ言葉にはもちろん気付いてる。大人だから聞かなかっただけ。


☆じーさん
 夕又の長老ポジなイケおじ。
 身に宿っているアルタナの量が極端に少なく、鉱嚀族にしては珍しく長生きしている。その証拠に瞳の色は限りなく白に近い灰色と黒色の無彩色である。
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