転生特典は“なんか良い感じの薬が作れる”ことです 作:綾瀬~><
紆余曲折ありつつ、二年の時を経て穂希は『夕又』という星に馴染んでいた。
余所者を嫌うこの星で穂希がこうして過ごしていけるのは、一重に彼のおかげだ。彼が広げた人脈と甘ったれた人柄が、穂希に対する信頼を作る重要な下地となっていた。
もちろん、穂希の真面目な態度が評価を上げたのもあるが。
「穂希〜、じーさんのところに行くけど一緒に行く?」
「……!うん、行く」
「あれ、珍しいね。いつもは渋るのに」
「今日はそんな気分なの!」
常に日光が燦々と輝く夕又じゃ、夜兎にとっては辛いものがあるけど、父となった男が作った“日焼け止め”を塗って日傘をさせばそれも大して気にならない。住めば都というやつだ。
とはいえ、積極的に浴びたいわけではないので必ず出る必要がある時以外は極力避けている。
しかし、そうも言ってられない理由があった。
父が“じーさん”と呼ぶ夕又の君主 名嶋彰。
穂希はどうしてもソイツに聞きたいことがあるのだ。
「じーさん、来たよ〜」
「あァ、お前か。もうそんな時期だったか……ん?なんだ、仔兎も着いて来たのか。子どもが好むような菓子なんざ家にねェぞ」
「お菓子欲しさに着いてきたワケじゃねぇから!!」
「バッカ、子どもは年がら年中菓子を貪り食ってるのが役目なんだよ。とりあえず煎餅でも食っとけ」
「駄目だよ、じーさん。アンタが食べてる煎餅カッチカチじゃん、穂希の歯が折れちゃうでしょ」
「ア?こんくらいの硬さがねェと食ってる気がしねェだろうが。煎餅は硬くてなんぼの食いモンだぞ、お前もちっさい頃は食ってたじゃねェか」
「限度って知ってる???」
「アレだろ、“
「ちげーよ!」
コントのようなやり取りをしつつも、ちゃんとやるべきことはやっているようで、父は慣れた手つきで診察をしていた。処方箋を渡したところで、ピリリッと父の携帯がなった。
どうやら緊急の患者が来たらしい。そのまま家に直行するようで、好都合なことに穂希はじーさんの家に残された。これは今聞かなくてどうする、見せ時だろ。
「じーさんはさ……」
「ア?」
「父上がたまに思いつめた表情する理由、知ってるんだよね。子どもだからっていう誤魔化しは要らないからさ、ちゃんと教えてくれない?」
ジッと目を見つめて、話すまで動かないぞと圧をかける。
するとじーさんはデカいため息を吐いて、ポリポリと頭を搔く。そして「言っとくが、長くてつまらん話になるぞ」と前置きをしてから話し始めた。
そうして打ち明けられたのは残酷な真実。
鉱嚀族はその輝かしい才能と引き換えに50年の命を奪われ、遺体さえ残らず星へと還る。刹那の生き物だった。
父はその事実を医者になってすぐの頃に知って、理不尽な運命を変えるべく、穂希が来る前まではある星を拠点として頻繁に宇宙を放浪していたようだが未だ方法は見つかっていないという。
結局、父の思いつめた表情の原因は生き急ぐように探し求めて、自分よりも他を心配する自己犠牲な面から来ていた。
かといって、それで穂希が安心できるはずもない。
このまま行けば、父はあと20年ほどで星へと還ってしまうのだ。そんなの許せるはずもない。父が大満足!とも言えないような理不尽な最期を迎えるところは、息子である穂希が阻止しなければならない。絶対に。
「アイツは鉱嚀族にしては珍しいくらいお人好しなんだよ
鉱嚀族っつーのは、基本的に人に対して興味はないし好きな事以外には関心がない生き物だ。ソレは俺だって例外じゃねェ、ある意味“本能”のようなモンだからな
でも、アイツは
砂漠から一粒のダイヤを探し出すような、そんな途方もないことをアイツは息をするようにやれる。ソレを間近で見て何も思わねェヤツは、いくら他人に関心の薄い鉱嚀族でもいねェよ」
そこで言葉を区切り、カチリとライターに火をつけた。
煙草の独特な匂いが鼻を掠める。そうしてふっと息を吐いてから、じーさんが柔らかく笑った。それはいつもの男らしい笑みではなく、慈愛に満ちた微笑みだった。
ガシガシと穂希の頭をかき混ぜるよう撫でる。
「まァ安心しろよ、仔兎…──アイツは俺たちと違って、
「……それ、ってどういう」
意味?と聞く前に、バタンと乱雑に扉が開けられた。
言うまでもないだろう、患者の対応を終えた父が帰ってきたのだ。
「ぁあー!疲れたぁーー!!……って、ア゙!じーさん、まァた煙草吸ってる!!吸うなっていっつも言ってるでしょうが!!」
「俺にとっちゃ煙草は酸素と同じなんだよ」
「全然違うから!酸素は生命維持に不可欠だけど、煙草の煙は有害物質の塊で健康を害する物質だから!全くもって別物だからァ!!」
結局、話は有耶無耶になって終わってしまった。
聞く機会が巡ってこないまま、気づけば数ヶ月が経過していた。明確な解決方法なんて出てくるわけもなく、二度目の運命の分かれ道がやって来た。
酷く焦った様子で飛び込んできた同族を見て。
「──すまん!!まだやっているか!?!?」
これだ、と本能的に思った。
強迫観念のような自己犠牲的献身から少しでも遠ざけさせる、いちばん手軽で身近な方法だと思った。
夕又という四方八方に同族がいる環境で過ごしているから、余計考え込んでしまうのだ。ならば、いっそのこと思い切って離れてしまえばいい。
でも、宇宙を放浪しながら他所の星に目をかけざるをえない難儀な性格をしているんだ。特に滞在期間が長く、現地の者に通信機を渡している星から不吉な連絡が来れば、きっとその事でも思い悩んでしまう。
穂希は父の安寧と、他所の星の安泰を天秤にかけて──…
──特別保護指定惑星『地球』との通信を遮断した。
それが、どんなことを引き起こすのか何も分かっちゃいなかった。
ただ、父が思い悩みすぎて寿命を縮めてほしくなかった。あまりにも優しすぎるせいで、悩まなくてもいいことに頭を痛ませてほしくなかった。全ては、親を思う子の行動だった。
「穂希?どうしたの、そんなところで」
「ううん!なんでもないよ、父上!それより、そろそろ出発時刻だよね?忘れ物ない?大丈夫?」
「昨日しっかり確認したから大丈夫だよ」
謎の達成感を胸に秘めて、いつも通りの笑顔を浮かべながら穂希は父の後を追った。
──嗚呼!クソッタレな神様!
俺をこの人と巡り合わせてくれてありがとう!
★緒方 穂希(8)
誕生日プレゼントの赤い日傘がお気に入り。夕暮れ時という太陽が常時燦々と輝く夕又では日焼け止めは欠かせない。日焼けどめがあるのと無いのとじゃ全然違うけど、日光を浴びたくはない。それとこれは別な主義。
庵の種族を知ってショックを受けた。自分が何とかしなければ……という偶然にも親子で同じ思考に至りかけたが、じーさんによって阻止されてしまった。
とはいえ庵を休ませたい気持ちに変化はなく、遂には善意でやってはならないことをしてしまった。今はまだ気づいていない。
☆緒方 庵(28)
じーさん曰く「人一倍鉱嚀族として完成されている」らしい。
思い詰めた表情は患者の病状に憂いてるのもあるけど、今世も早死したくない!という利己的な考えが大半。早死に対する恐怖心が天元突破してるせいで、100歳以外は早死判定になってる。
ほとんど利己的な思考が原動力になっているけど、外面は良いしお人好しでもあるせいで好意的に捉えられがち。良かったね。
★名嶋 彰(?)
自称、煙草と酒と煎餅が大好きなじーさん。
その実態は夕又の政権を握る君主という超重要人物。なぜ街中に住んでいるのか緒方親子は甚だ疑問に思っているが、本人曰く「この目で俗世を見通さねばならん」とのこと。
何か色々と知ってそうなムーブかましてるけど、殆ど何も話してくれない。今はまだその時じゃない。
☆特別保護指定惑星『地球』
かつて庵が宇宙を放浪していた頃、高頻度で滞在してた星。
現地の人間に通信機を渡して夕又による特別保護指定惑星へと認定するほど入れ込んでいた。