転生特典は“なんか良い感じの薬が作れる”ことです   作:綾瀬~><

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転生特典は乱用してなんぼ

 

 ペラリと日記を捲る手を止める。

 顔を上げたと同時に軽い衝撃が来た、そう半年間の旅路を経て洛陽に着いたのだ。

 

 白衣を羽織り、髪を縛り上げる。そして、カモフラージュ用の薄い色が着いたサングラスをかけたらハイ完成。

 ネームバリューが強くなりすぎたからか、外じゃサングラスは欠かせない。俺のトレードマークは極彩色の目だからね、それさえ隠してしまえば案外気づかれなかったりする。

 

 

 ──さて、これから大仕事だ。

 せいぜい気張っていこうじゃないか。

 

 

 今まで以上に強ばった顔をした神晃殿に案内されたのは小さな一軒家、腕の良い医者を連れてきた!と大声を出して玄関の戸を思いっきり開けた。

 神晃殿に病人がいるなら静かにしなさい!と拳骨を落としたところを、声で近寄っていた子供二人に見られてしまった。やばい、もしかして泣かれる?俺完全に悪者だよね?と思っていたら、穂希と同じくらいの子供が地面に沈んでいる神晃殿を見てハンッと鼻で笑った。

 

 ……あの、神晃殿。何したらそんなに煽られるの?

 

 頭を摩りながらギャーギャー言い合いをしている神晃殿に蹴りを入れて黙らせる、早く患者の元に案内してもらっていい?ちなみに少年の方は妹に「うるさいネ」と抓られていた。また新しい喧嘩が勃発した。まるで病人がいるとは思えない環境だなぁ…。

 

 

 しかし、そう思ったのも束の間。

 

 案内された一室にいたのは薄紅色の髪をした儚げな女性で、俺はその人を見て“あまり悠長にはしていられない”と感じた。これは長年医者として活動してきた勘だった。

 神晃殿が江華さんと少し会話をして、俺に目線を向けてきたから簡単な自己紹介をする。

 

 

「初めまして、俺は医者の緒方庵です。早速で悪いですが、診察をさせていただきます。なにか気になる点がありましたら、些細なことでも構わないのでお話ください」

「あの神晃が連れてきた医者……私は江華。話せることと言っても殆どないと思うよ、どうせ神晃が赤裸々に語っているんでしょ」

「そんなことはありませんよ。第三者からの話とご本人様からの話、照合してみれば案外食い違ってる部分もあったりしますから」

 

 

 “あの”という部分に内心首を傾げながら、診察と問診を同時進行で進めていく。

 あーこれは……ウーン、確証が得られないな…アレ使うか。

 

 一旦紙を小脇に挟んでサングラスの縁の部分にあるボタンを押す。そしたら視界が若干暗くなり、人の心臓部分から炎のような灯火が見えるようになった。

 何を隠そう、このサングラスはカモフラージュだけの用途じゃない。アルタナを視覚出来ない俺専用のアルタナを可視化するサングラスなのだ。これも例に漏れずじーさんが作ってくれたんだよね、同族を問診する時とか宇宙船の残り燃料(アルタナ)を確認する時とかコレがなきゃ分からないからじーさん様々だよ。

 

 って、今はそんなこと考えてる暇は無いんだった。

 

 話を戻して、江華さんを見れば胸元に燃えているアルタナは吹けば消えてしまいそうなくらい小さかった。それでもまだ5年前後は持ちそうだけど……最低でも一週間以内にどうにかしないと手の施しようがなくなる。

 

 これはアカン(迫真)

 

 

「…一週間、あと一週間で──」

「──江華は死ぬのか!?庵先生、なぁ、どうにか出来ないのか!?医学の王者であるアンタならっ!」

 

 

 話を遮るように神晃殿からグイッと掴みかかられる。

 あばばばば、脳みそが揺れる!って、は?待て待て待て勝手に江華さんを殺そうとするな、俺の話を最後まで聞けこのハゲ!!!

 

 

「医者の話は最後まで聞きなさい!!」

「イッテェ、何すんだ!!!」

「ゴホン、根本的に原因を解決したいなら数年以上はかかるでしょう。ただ、それでは治療法を確立するまで江華さんの命が持つか分かりません

──なので、少々手荒な手段を使わせていただきます。その場合であれば一週間でケリをつけられるので」

 

 

 アンタが俺に助けを求めたんでしょ。

 助けを求められて、それに応えたなら最後まできっちりやりきるのが俺なりの誓いなんだよ。

 旦那ならドシッと構えときなさい。そんなんじゃ、一番不安と恐怖でいっぱいなはずの江華さんが泣くに泣けないでしょ?まあ、俺が来た以上不安や恐怖で泣くことは有り得ないけどね。

 俺が来た……ってワケじゃあないけどさ、緒方庵にかかったらもう安心だと思われてたら良いなっていつも考えてる。頼りがいのある見目じゃあないけど、実力はこの宇宙随一だって自負してるから。

 

 もう安心していい、恐怖を押し殺さないでいいんだ。

 だって、ここにいるのは医学の王者たる緒方庵だからね。

 

 

「…もう終わりだと思っていたのに、そんな啖呵切られたら生きたいと思ってしまう……死への恐怖心なんて無かったはずなのに…」

「生きたいと思うのは罪ではありませんよ、江華さん

死に近づいて恐怖を感じない者は他の何かで一時的に誤魔化されているだけで、死への恐怖心は全人類共通で持っているものなんです。ソレは人として正しい感情です、そう言った心の本音を吐き出すのは大切なことですから」

 

 

 ダムが決壊したように本音を零す江華さんに微笑む。

 

 病は気から、なんて言葉があるように気持ちが体調に影響するのはあながち間違いじゃない。病人は心を病みやすい、特に不治の病とされている人たちは。

 そういった人たちにささやかな楽しみや安心感を与えて、ポジティブな感情や思い出をあげれば途端に体調を持ち直すということも少なくない。それほどまでに気持ちは体調に影響を与えるのだ。

 一人で不安を抱え込んでいれば、余計に体調が悪化するのも道理。周囲が戸惑っていたり焦っていたりすれば、意図せず不安を口にしずらい環境が出来上がってしまう。

 

 お互いを思いやった結果が悲しい結末を迎える……それを阻止するのも、医者である俺の役目だ。

 

 さて、そろそろ視界の端にチラつく静かーにべしょべしょと泣き崩れる神晃殿を無視するのも限界だな。めちゃくちゃ顔が汚い、モザイクいるくらい顔面が土砂崩れを起こしてる。

 

 

「で、さっきからさめざめと泣いてる神晃殿は何か聞きたいことはありませんか?」

「すまん、江華の口から生きたいと聞けて嬉しくて……んん゙ッ!それで、“少々手荒な手段”ってのは一体なんなんだ?」

 

 

 嘘でしょ、一瞬で戻ったんだけど。目元の腫れもなく元通り、ちょっと人体の神秘を感じる。

 えーっと、何だっけ。ああそうだ、“少々手荒な手段”の詳細か。

 

 

「簡単な話、アルタナの代わりとなるものを作ればいいんです。今の江華さんは徨安のアルタナが無ければ生きられません、ですがソレにとって代わるモノを作れば命を繋ぐことができるでしょう」

 

 

 医学もへったくれもない強引すぎる荒療治だけど、ずっと前から考えてた延命方法でもある。まだ一度も試したことがないとはいえ、何百通りのパターンをシュミレーションしたんだ。

 神晃殿と江華さんなら、ほぼ確実に成功する。それは断言出来る。

 

 

「そんな魔法みたいなこと出来るのか!?」

「一度たりとも試したことのない方法(荒療治)ですが、色んな可能性を考慮した上で言わせてもらうと理論上は出来ます。もしかしたら副作用など起きてしまうかもしれませんが……」

「少しでも可能性があるなら何だっていい!」

「そうですか……嗚呼、それと神晃殿。一つだけ言いたいことがございまして」

「まさか、まだ江華の身体になにか…!」

「いえ、そうではありません。これは魔法ではなくれっきとした薬での原因療法です、お間違えのないようお願いします」

「エ、それだけ?確かに魔法って言ったけどそんなことで??」

「そんなこと???俺にとっては重要過ぎる程ですが????」

 

 

 俺は薬なら何でも作れるけど、薬の枠組みを超えたものは作れない。だからこそ『これは薬これは薬これは薬これは薬これは薬』と半ば洗脳のように思い込む必要がある。

 万が一あれこれ薬じゃなくね……?と思って失敗したら目も当てられないことになるんだぞ!だからこれは薬での原因療法!いいね!?

 

 って、まだ話は終わってないんだよ。むしろここからが重要なの。

 一度咳払いをしてから俺は真剣な表情を作って言う。

 

 

「アルタナの代わりに神晃殿のエネルギーを拝借して命を繋がせます、ですがこれは神晃殿が死んでしまえば江華さんも死んでしまうのと同義です。エネルギー供給源がいなくなってしまえば補給先も共倒れになるのは自然の摂理ですから

 

──文字通り、これは一蓮托生の仲になる原因療法です」

 

 

 倫理観ギリギリを攻めているけど、これが一番効果的で可能性が高い方法だ。

 

 もちろん嫌だと言われれば違う方法を考えるけど、その場合一週間以上は確実にかかる。むしろ数年ルート直行だ。

 俺個人としてはコレを勧めるけど、成功はほぼ確実でもまだ一度も試したことのない荒療治をやるかは本人次第。顔を合わせて十何分の初対面相手にどこまで命を預けられるか……。

 

 

「私がエネルギーを奪ってしまうことで神晃に何か影響は出ないの?」

「エネルギーは生命に直結しています。ですが、ぶっちゃけて言ってしまえばエネルギーなんてのはご飯をもりもり食べてるだけで自然と賄われていくものです

なので、江華さんにもエネルギーが流れていくということは神晃殿は二人分のエネルギーを蓄えなければなりません。つまり、めちゃくちゃお腹が減る、そしてめちゃくちゃご飯を食べる、結果めちゃくちゃピンピンしてる。というプラマイゼロ状態になりますよ、エンゲル係数は爆上がりしますが」

「つまり、神晃が腹ぺこ大食いキャラになるというだけ?」

「そうなりますね」

 

 

 江華さんは一度目を閉じて、深呼吸をしてから仕方なさそうな笑みを浮かべる。

 

 

「それで、神晃に何か異常が出るなら断るつもりだったけど……腹ぺこ大食いキャラになるだけなら、なんら問題は無いか。むしろハゲで最強で腹ぺこ大食いキャラとか情報が渋滞してるまであるけどね」

「あのー…江華サン?完全なハゲみたいに言ってるけど、まだハゲてないからね?見て?めちゃくちゃフサフサだよ??」

「そろそろ髪の毛がキてることくらい知ってるよ」

 

 

 思わずキョトンとしてしまう。

 ゆっくりと江華さんの言ったことを咀嚼して、心の中で反芻させる。

 

 

「えっと、つまり……」

「──庵先生、私は貴方に全て任せる」

 

 

 あって間もない、殆ど素性も分からない俺に対して命を預けられるのかこの人は。

 それは、なんていうか、凄く光栄なことだと思った。

 

 

「はい、任されました」

 

 

 ──絶対にこの人を助けよう。

 そう、俺は今まで以上に強く決意した。

 

 ……今アニメとか漫画なら良い感じのシーンなんだからさ、隣で爆泣きしないでもらえる?雰囲気ぶち壊しなんだけど…。

 ウオオオと男泣きをする神晃殿に俺と江華さんは二人して微妙な顔を見せてしまった。この人、本当に嫁バカだな。

 




★緒方 庵(28)
 ちゃんと変装する事を知ってる。医者としてのネームバリューもそうだし、滅多と星の外へ出ない鉱嚀族でもあるからちゃんと変装しないとえらいことになる。
 大口叩いたからって理由だけで宇宙を放浪して、色々と治療法を考えるくらい一度言った事は取り消さない有言実行スタイル。
 まだ新人だった頃、不治の病とか言われてるヤツを己の腕一つで治療法を確立させた事があるらしい。今回は転生特典に頼るけど、普通に転生特典とか無くても腕利きの医師。

☆神晃
 必然的に腹ぺこ大食いキャラになることになった。
 それで江華の命が救えるならなんでもいい。今はとにかく江華の口から「生きたい」が聞けただけで嬉しい。
 庵の前にやってきた医者の殆どが金を持ち逃げしたヤブか治せないと首を振った者ばかりで若干医者不信。極限まで達した時に噂を聞いて藁にもすがる思いで庵の元へやってきた。
 実を言うと宇宙船で共に生活するそんなに信用してなかった。でも一緒に過ごして仕事ぶりや人柄を見て徐々に心を寄せて行った。表面上変わらんヤツが一番怖い。

★江華
 沢山生きてきたし……って諦めてた。
 正直に言うと死ぬ事が怖かったし、まだ生きてたいと思ってた。でも神晃や子供たちに不安を与えてしまっては…となかなか口にすることができなかった。
 医者不信の神晃が連れてきた、自信家で何処か芯を感じさせる医者なら、と思って本音がポロリ。
 子供たちの成長、見れたらいいな。

☆神威(8)
 穂希と同い年の子だなぁ、お父さんのこと嫌い?(By庵)

★神楽(4)
 お兄ちゃんと仲が悪い…って訳じゃないよね?(By庵)


☆名嶋 彰/じーさん
 薄い色付きサングラス(アルタナ視覚可能)とかいうとんでもないモノまで作れる人。多分前世はドラえもん。
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