騎士王は迷宮都市でひっそり暮らしたいけど、エクスカリバーのビームの撃ち方とかわかりません 作:meiTo
「……もう、嫌だ。帰りたい……アパートに帰ってストロングゼロ飲んで寝たい……」
夕暮れ時。
俺は人気の少ない路地裏の木箱の上に座り込み、両手で顔を覆っていた。
ギルドを出てから数時間。
ロキやらフレイヤやら、アニメの知識が薄い俺でも知っている超大物(そして超ヤバそう)な神様たちに連続でエンカウントし、精神的ヒットポイントはすでにゼロだ。
あの人たちのファミリアに入ったら、絶対に平穏な生活なんて送れない。
もっとこう…ノルマもなくて、アットホームな職場で、スライムやゴブリンを倒して日銭を稼ぐような…そんなスローライフを俺は望んでいるのに。
「……ぐすっ。誰も、ボクのファミリアに入ってくれない……」
その時、すぐ隣から、鼻をすする声が聞こえた。
見ると、路地裏の地面に体育座りをしている小柄な少女がいた。
黒い髪をツインテールにし、白いワンピースに青いリボン(例の着けると目の錯覚なのか巨乳補正になる紐だ!)を巻きつけた、童顔で……先ほどのロキとは対極に位置する豊満な胸部装甲をお持ちの少女。
「ぐぅぅぅぅぅぅ……」
彼女のお腹から雷鳴のような盛大な音が鳴り響いた。
少女は顔を真っ赤にしてうずくまる。
(……この子、ヘスティアさんだ。主人公が最初に入るファミリアの神様……)
アニメで見た記憶と合致する。
貧乏で、ファミリアの団員はゼロ。
神様なのにバイトをしていてとても神様とは思えないほど人間臭くて、親しみやすい存在。
俺は残っていたもう一つの『ジャガ丸くん(冷めかけ)』を紙袋から取り出し、彼女の目の前にそっと差し出した。
「……食べる?」
「えっ……い、いいのかい!? ボク、お金持ってないよ!?」
「いいよ。俺も……その、色々あって胃が痛くて、あんまり食べられそうにないから」
ヘスティアは目を輝かせ、「あむっ!」とジャガ丸くんにかじりついた。
「おいひぃ! あったかくておいひぃよぉ……!」と涙ぐみながら食べる姿は、小動物のようで庇護欲をそそる。
先ほどの二柱の女神から受けたプレッシャーなど微塵も感じない。
圧倒的なまでの『隙』と『無害さ』。
(……ここだ)
俺の直感が告げていた。
この神様なら、俺に無茶なノルマを課すこともないだろう。
派閥争い(社内政治)に巻き込まれることもない。
俺の理想とする「細々と迷宮(ダンジョン)で日銭を稼ぐ生活」を実現するには、これ以上ないホワイト企業(ファミリア)だ!
「あの、あなたは……神様、ですよね?」
「モグモグ……うん! ボクはヘスティアっていうんだ! 君は? 綺麗な金髪だね、冒険者かい?」
「アルトリアといいます。……もし、まだあなたのファミリアに誰もいないなら、私を入れてくれませんか?」
俺がそう言うと、ヘスティアはジャガ丸くんを喉に詰まらせて咽せた。
「げほっ、ごほっ! ほ、ほんとに!? 君みたいな立派な装備を持った子が、ボクみたいな貧乏神のところに入ってくれるのかい!?」
「はい。私は、アットホームでノルマのない職場……じゃなくて、温かいファミリアを探していたんです」
ヘスティアは「うわああぁぁん!」と大号泣しながら、俺の白銀の鎧に抱きついてきた。
「ありがとう! ありがとうアルトリア君! ボクが君の主神になってあげる! ずっとずっと、大切にするからね!」
こうして、俺は無事に(やたらと胸の自己主張が激しい)女神様の眷族となることが決まった。
ああ、よかった。
これでやっと安心できる居場所ができた。
この時の俺は完全に油断しきっていたのだ。
***
夜。
ヘスティアの住処である廃教会の地下室。
俺は上半身の鎧と青いドレスを脱ぎ、下着姿(さらしのような布を巻いているが、鏡で自分のスレンダーな裸体を見た時は変な声が出た)でベッドにうつ伏せになっていた。
「それじゃあアルトリア君、背中に神の恩恵(ファルナ)を刻むよ。ちょっとくすぐったいかもしれないけど、我慢してね」
ヘスティアが俺の背中に跨り、指先から血を垂らす。
ぽつり、ぽつり、と温かい雫が落ちた直後、背中が淡く発光し始めたのが分かった。
これが、能力値(ステータス)というやつか。
ダンジョンでモンスターを倒せば『経験値』が溜まり、神様にステータスを更新してもらうことで強くなる。
俺はまだ一度もダンジョンに入っていないから、当然すべて初期値の『レベル1・オールI(ゼロ)』のはずだ。
「よしッ!刻めたよ! どれどれ〜アルトリア君の初期ステータスは……」
背中で、ヘスティアの動きがピタリと止まった。
「……ん? どうかしましたか、ヘスティア様?」
「…………え?」
「あの…もしかして最弱すぎて引いてます? 大丈夫です、ここから地道にスライム狩って頑張りますから……」
「ち、ちが……え? は?? なにこれ……バグ? いや、神の恩恵にバグなんてないし……ええええええ!?」
ヘスティアが狂乱したように羊皮紙に何かを書き写し、それを俺の目の前に突きつけた。
「ア、アア、アルトリア君! 君、今まで何者だったの!? というか、人間……だよね!?絶対おかしいよ!!?」
渡されたステータス用紙(羊皮紙)を見て、俺は目を疑った。
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【名前】アルトリア
【レベル】1(#@$%&)
【能力値】
筋力:SSS(999)※限界突破枠
耐久:SSS(999)※限界突破枠
器用:SS(999)
敏捷:SS(999)
魔力:SSS(999)※限界突破枠
【発展アビリティ】
『剣士:I』『竜種:I』『直感:I』
【魔法】
『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』
『風王結界(インビジブル・エア)』
【スキル】
『魔力放出:A』
『対魔力:A』
『騎乗:B』
『カリスマ:B』
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「……………………は?」
オールS? いやいやいやいや!!?レベル1の初期値だぞ!?
それに、発展アビリティとか魔法とかスキルとか明らかにこの世界の法則を逸脱したFate用語がびっしりと書き込まれているではないか。
「レベル1なのにステータスが最初からカンストしてる!? それに魔法もスキルも、見たことない文字ばっかり! 『竜種』ってなに!? 君、竜なの!? ねえ!!?」
ヘスティアが俺の肩を掴んでガクガクと揺らす。
俺の頭の中は真っ白だった。
なんだこれ。
チートとかそういう次元じゃない。
これじゃあ、俺が目立たずに地道にスライムを狩るスローライフなんて、一瞬で破綻してしまうじゃないか。
「あ、あの……ヘスティア様。これ…ギルドには報告しないで二人だけの秘密にできませんか……?」
「無理だよ!! こんなの見つかったら、絶対他の神様たち(特にロキやフレイヤあたり)が目の色変えて奪いに来るに決まってるじゃないかぁぁぁ!!」
ヘスティアは頭を抱え、ベッドの上でゴロゴロと転げ回り始めた。
俺はそっと、部屋の隅に置いた布巻きの聖剣(エクスカリバー)に目を向ける。
どうやら30代一般男性の異世界スローライフは、始まる前に「約束された勝利(チート)」によって粉々に打ち砕かれてしまったらしい。
俺の胃痛の種は、まだまだ尽きそうになかった。
※今後の展開を考えてアルトリアさんのステータス変更してます。