騎士王は迷宮都市でひっそり暮らしたいけど、エクスカリバーのビームの撃ち方とかわかりません   作:meiTo

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第4話:ただの棒で叩いたらダンジョンが半壊した件

 

 

 

「……いいかいアルトリア君。絶対に!絶対に!目立っちゃダメだよ!!」

 

 

翌朝。廃教会の地下室でヘスティア様は俺の両肩をガッチリと掴み、血走った目で念を押してきた。

 

 

「君のステータスは異常だ。レベル1なのに全項目が『S(999)』なんて、神の歴史上ありえない! しかも謎のスキルや魔法までテンコ盛りだ。もし他の神にバレたら今度こそ君は拉致されて、解剖されるか一生地下牢で戦闘兵器にされるかの二択だよ!」

 

「ひぃっ!? わ、わかりました! 隠密行動、徹底します!」

 

 

前世(?)のサラリーマン時代、コンプライアンス研修で叩き込まれた「情報漏洩は社会的な死」という教訓が脳裏をよぎる。俺は神妙な面持ちで何度も頷いた。

 

 

「とにかく、今日は浅層(1階層)でゴブリンを2、3匹倒したらすぐ帰ってくること! 無理は禁物だからね!」

 

「はい! 安全第一、定時退社をモットーに行ってまいります!」

 

 

俺はボロボロの布でぐるぐる巻きにしたエクスカリバー(通称:ただの棒)を背負い、意気揚々とギルド経由でダンジョンへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そびえ立つ巨大な塔、バベル。その地下に広がるのが、迷宮(ダンジョン)だ。

 

薄暗い石造りの通路は、どこか地下鉄の構内を思わせる。

ひんやりとした空気が肌を撫でるが、不思議と恐怖は感じなかった。

 

 

(……なんか、体が羽みたいに軽いんだよな)

昨日は逃げ回るのに必死で気づかなかったが、俺の(セイバーの)身体能力は常軌を逸している。

 

視界は隅々までクリアで、暗闇の中でもハッキリと周囲が見える。

 

それに、頭の中で常に「チリチリ」とした微かなアラートが鳴っており、どこから敵が来るのかどの道が安全なのかが直感的に分かってしまうのだ。

 

 

(後で知ったが、これが『直感:I』というチートスキルのおかげらしい)

 

「とりあえず、ノルマのゴブリンを倒してさっさと帰ろう。今日のご飯は、ヘスティア様と一緒に奮発して肉入りコロッケだ♪」

 

 

薄暗い通路を歩いていると、前方から「ギャアッ!」という濁った鳴き声が聞こえた。

 

現れたのは、緑色の肌をした子鬼——ゴブリンだ。手には錆びた短剣を持っている。

 

 

 

「うわっ、本当に出た……! リアルで見ると結構キモいな!」

 

 

俺は慌てて背中の「ただの棒(布巻きエクスカリバー)」を引き抜いた。

ゴブリンがよだれを垂らしながら飛びかかってくる。

 

(落ち着け、落ち着け俺! 相手は最弱モンスターだ。素振りを思い出せ! メーン!!)

 

 

俺は目をギュッと瞑り、ただの棒を上段から力任せに振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

——ドゴォォォォォォォォォォォォォン!!!

 

 

 

 

 

 

「……えっ?」

目を開けると、俺の目の前にあったはずのゴブリンが消え去っていた。

 

いや、ゴブリンだけではない。

 

俺が棒を振り下ろした延長線上にあるダンジョンの石畳が、まるで大型重機でえぐり取られたかのように数十メートルにわたって完全に消滅し、深いクレバス(地割れ)が出来上がっていたのだ。

 

 

更にその先に居たであろう数匹のゴブリンやコボルトたちも衝撃波だけで塵となって消え去り、パラパラと魔石だけが宙を舞って落ちてきた。

 

 

 

「……は?」

 

 

俺は自分の手にある棒と、目の前の惨状を交互に見比べる。

 

 

 

「ダンジョン……脆すぎないか? いくらなんでも手抜き工事すぎるだろ。俺、ただ木の棒(中身は神造兵装)でちょっと地面叩いただけだぞ?」

 

 

俺は自分の『筋力:S(999)』という異常数値を完全に舐めていた。

 

限界突破した筋力で、重量のある聖剣をフルスイングしたのだ。

 

たとえ刃が布で覆われていようと、その運動エネルギーはもはや大砲の砲弾に等しい。

 

 

「あぶねー。こんな脆い壁、寄りかかっただけで崩落するかもしれないぞ。やっぱり現場(ダンジョン)は安全管理がなってないな。労基に駆け込めるレベルだ」

 

 

完全に勘違いしたまま、俺は地面に転がった大量の魔石をそそくさと麻袋に回収した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「……よし、これでノルマは達成。帰ろう」

 

わずか5分。

開始早々のワンパンチで今日の仕事が終わってしまった。

 

 

しかし、帰ろうと背を向けたその時——俺の頭の中で『直感』のスキルが最大級の警鐘を鳴らした。

 

 

(——上だ!)

反射的に後ろへ跳躍する。

直後、俺が先ほどまで立っていた天井が崩落し巨大な影が降ってきた。

 

 

ズシン! という地響きと共に現れたのは、筋骨隆々の牛頭の怪物——ミノタウロスだった。

 

 

「な、なんでこんな浅層に中層のモンスターが!? アニメの第1話で見たぞコイツ!」

 

ミノタウロスは血走った目で俺を睨みつけ、巨大な大剣を振りかぶった。

 

 

怖い! 無理! あんなの当たったら死ぬ! 元々一般男性のメンタルでは、あんな巨獣と対峙するなど不可能だ。

 

 

「ヒィィィッ! ごめんなさい許してください!!」

 

 

俺はパニックになり、持っていた布巻きのエクスカリバーを、まるでハエを追い払うかのようにデタラメに振り回した。

 

 

「あっちいけええええええ!!」

 

 

 

ブンッ! ブォン! ドバァァァァァァン!!

 

俺の乱れ打ちに合わせて空気の壁が圧縮され、目に見えない真空の刃となって射出された。

 

(これも後で知ったのだが、スキル『魔力放出:A』がパニックによる過呼吸で暴発した結果らしい)

 

 

「モゴォォォォォ……!?」

ミノタウロスは一歩も動けないまま、俺が適当に振り回した棒から放たれる不可視の衝撃波を全身に浴びた。

 

 

強靭な肉体は紙くずのように切り裂かれ、巨大な大剣は粉々に砕け散り、最後は呆気ないほど簡単に「パンッ!」と弾けて灰になった。

 

跡に残ったのは、巨大な魔石とミノタウロスの角(ドロップアイテム)だけ。

 

 

「……あれ? 倒した?」

 

 

肩で息をしながら、俺はきょとんとした。

 

あんなに強そうだったのに、適当に棒を振り回しただけで勝ててしまった。

 

 

「なんだ……アニメだとあんなに苦戦してたのに。実はミノタウロスって見掛け倒しなのか? それとも、俺の持ってるこの棒(聖剣)が、打撃武器としてめちゃくちゃ優秀なのかも」

 

 

うん、きっとそうだ。

この布巻きの棒、適度な重さがあってすごく振り抜きやすい。

 

きっとこれ、「初心者救済用の隠しアイテム」的なやつなんだな。

 

Fateの知識はないけどこのアルトリアって子は、実は鈍器の扱いが得意なキャラクターなのかもしれない。

 

 

「よーしッ!なんか調子出てきたぞ!これなら、もう少し奥に行っても安全に稼げるんじゃないか?」

 

 

社畜特有の「ノルマが早く終わったなら、今のうちに明日の分のタスクも前倒しで終わらせておこう(そして明日は有給を取ろう)」という悲しい習性が発動してしまった。

 

 

俺はスキップ混じりで、ダンジョンの奥へと進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

それから数時間後。

 

冒険者ギルドの換金所は異様な静寂に包まれていた。

 

 

「……あの、アルトリアさん。これは、一体……?」

 

 

 

受付嬢のエイナさんが引きつった笑顔でカウンターの上を見つめていた。

 

そこには、小山のように積み上げられた魔石の山。

 

しかも浅層で取れる小さな魔石だけでなく、中層でしかお目にかかれない大型の魔石やミノタウロスの角などの高価なドロップアイテムがゴロゴロと転がっていた。

 

 

「あ、はい! 今日は運良く、モンスターの群れに遭遇できまして。ダンジョンの壁が崩れたりして危なかったんですけど、私が持ってるこの護身用の棒でペシペシ叩いてたら、なんか勝手に倒れてくれたんですよ! 初心者ボーナスってやつですかね?」

 

 

 

「…………ペシペシ、叩いた?」

 

 

エイナさんのメガネの奥の瞳が、スッと光を失った。

 

 

「アルトリアさん。あなたが登録したのは今日の午前中ですよね? まだ半日も経っていません。……それなのに…この魔石の量は熟練のパーティーが丸一日かけて中層を探索したのと同じ……いえ、それ以上の成果です」

 

「えっ!? そうなんですか!?」

 

「それに、ミノタウロスはレベル2以上の冒険者が挑む相手です。それを……無傷で? しかも棒で叩いて……?」

 

 

エイナさんの視線が、俺の背中にある「ただの棒」に向けられる。

 

やばい!目立つなって言われたのに完全にやりすぎた。前倒しで仕事(狩り)をしすぎたのだ。

 

「あ、いや! 違うんです! これはたまたま……そう、たまたま上からミノタウロスが降ってきて自滅したというか! 私はただ、落ちてた魔石を拾い集めただけで……!」

 

 

しどろもどろに言い訳をする俺。

 

しかし、周囲の冒険者たちの視線はもはや「素人の美少女」を見るものではなくなっていた。

 

 

 

『おい、聞いたか……。あの金髪の娘、一人でミノタウロスを狩ったらしいぞ……』

『しかも武器を抜かず、ただの布巻きの棒で撲殺したって話だ……』

『お、恐ろしい……。あんな可憐な見た目で、狂戦士(バーサーカー)みたいな戦い方をするなんて……』

 

 

(ちがーーーーう!! バーサーカーじゃない! セイバーだ! いや、どっちでもない、ただのビビりのおっさんだ!!)

 

心の中で血の涙を流しながら叫ぶが、もちろん声には出せない。

 

 

 

「……アルトリアさん。あなた、本当に何者なんですか?」

 

「へ、ヘスティア・ファミリアの、ただの下っ端ですぅぅぅ……」

 

換金されたずっしりと重いヴァリス(お金)の袋を受け取りながら、俺は逃げるようにギルドを後にした。

 

 

今日の夕飯は豪勢な肉入りコロッケが食べられる。

 

でも、どうしてだろう。ちっとも味がしそうにないや。

 

 

「……ヘスティア様に怒られる……絶対に怒られる……」

 

夕日に照らされるオラリオの街を歩きながら、俺は(中身の)胃の痛みに顔をしかめ、一人トボトボと廃教会への帰路についたのだった。

 

 

 

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