騎士王は迷宮都市でひっそり暮らしたいけど、エクスカリバーのビームの撃ち方とかわかりません   作:meiTo

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第6話:業界最大手からの「圧迫面接」

 

 

 

「……はぁ、やっぱりこうなるのか」

 

 

酒場での『クソ狼説教事件』から数日。

 

 

俺はオラリオの北西、静かな公園のベンチに座って山盛りの「ジャガ丸くん(キャラメル味)」を頬張りながら遠くの空を見上げていた。

 

あの日以来、街を歩けば冒険者たちから「あのベートを黙らせた青い美少女」として指を差されるようになった。

 

目立ちたくない、スローライフを送りたいという俺のささやかな「経営計画」は、創業(転生)早々に破綻の危機に瀕している。

 

 

 

「おぉ、自分。えらい景気ええ食いっぷりやな!」

 

聞き覚えのある、軽薄ながらも底知れない重みを含んだ声。

 

俺の背筋に前世にも感じた、冷たい「社畜の直感」が走った。

 

ゆっくりと振り返ると、そこには赤髪の女神——ロキがいた。

 

 

一人ではない。

 

その左右にはロキ・ファミリアの双璧。

 

『勇者』フィン・ディムナと『九魔姫』リヴェリア・リヨス・アールヴ。

 

 

(うわぁ……出たよ。執行役員と専務、それに会長が揃い踏みかよ……!)

俺は慌てて口の中のジャガ丸くんを飲み込み、反射的に立ち上がって「営業用スマイル(騎士王ver.)」を張り付けた。

 

 

 

「これは、ロキ様。それにフィン殿、リヴェリア殿まで。……何か、私に御用でしょうか?」

 

「ま、そう固ならんでええよ。今日はちょっとした『お詫び』と、ご近所付き合いの挨拶や!」

 

 

ロキがニヤリと笑う。

 

フィンが一歩前に出て紳士的な、しかし隙のない礼をした。

 

 

「先日は、我々の団員であるベートが大変失礼な振る舞いをした。この街の最大派閥の一つとして新進気鋭の冒険者に不快な思いをさせたことは、団長として深くお詫びする。……申し訳なかった」

 

「いえ、 滅相もありません。 此方こそつい口が滑ってしまいまして……」

 

 

トップの謝罪! 前世なら「いえいえ、弊社としても確認不足でして」と頭を下げるところだが、今は騎士王のガワだ。あまりヘコヘコしすぎると逆に怪しまれる。俺は必死に理性を保ち、毅然とした態度を装った。

 

 

「謝罪は受け入れます、フィン殿。……ですが、わざわざ『勇者』が足を運ぶような案件でもないはず。本題をお伺いしても?」

 

「話が早うて助かるわ!」

 

 

ロキが細い目を開き、俺を射抜くような視線を向けてくる。

 

 

「自分……名前はアルトリア言うたんやったな。ヘスティアのとこの『唯一の団員』にして、ステータス更新前の初陣でミノタウロスを撲殺した規格外のルーキー」

 

 

(うっ。やっぱりギルドの換金所から情報が漏れてる……! 情報漏洩対策はどうなってるんだ、あの組織!)

 

 

「酒場で見たあのプレッシャー…あの立ち居振る舞い……とてもやないけど『昨日今日、田舎から出てきた新人』には見えへん。自分、一体何者や? どこの国で、どんな修羅場を潜ってきた…?」

 

 

リヴェリアが静かにしかし鋭く問いを重ねる。

 

 

「貴殿の放つ魔力の質もその身に纏う『気配』も我々の知るどの冒険者とも違う。……失礼ながら、貴殿をこのまま放置するにはその存在が巨大すぎるのだよ」

 

 

 

来た。

 

「敵か、味方か」を見極めるための実力査定。

 

 

俺の中のおっさんが叫ぶ。(「私はただの、リストラを恐れるしがないフリーランスです!」と)。

 

しかし、口から出た言葉はセイバーの肉体に引きずられた「騎士としての正論」だった。

 

 

「何者かと問われれば……私は、ただ一人の主に仕える剣に過ぎません」

 

 

俺は、背負っていた布巻きのエクスカリバーを軽く指し示した。

 

 

「私はこの街に、争いを起こしに来たわけではない。ただ…温かい食事と雨露を凌げる屋根と……私を拾ってくれた主(ヘスティア)の隣で、穏やかに過ごしたいだけです。それを『修羅場』と呼ぶなら、私の過去にはそれしかなかったのかもしれませんが」

 

 

(よし、いいぞ。暗に『過去に色々あったけど今は引退したベテラン』っぽさを出して煙に巻く作戦だ!)

 

だが、フィンの瞳に宿る知性はその言葉をさらに深く「解釈」してしまったようだ。

 

 

「……なるほど。『一人の主に仕える剣』か。君にとって、ヘスティア様は守るべき絶対の王というわけだね。そして、その穏やかな生活を脅かす者が現れた時、君はその剣を抜く……ということでいいのかな?」

 

「……ええ、まあ。その通りです(生活かかってるし、クビになったら路頭に迷うし)」

 

「それは我々ロキ・ファミリアにとっても、非常に重要な情報だ」

 

 

フィンが真剣な表情で頷く。

 

 

「君ほどの力を持つ者が、野心のためにオラリオをかき回すのではなく、守備的な立場にあることは歓迎すべきことだ。……だが、アルトリアさん。質問を変えよう。君は——我々の『敵』になるつもりはあるかい?」

 

 

 

 

空気が凍りついた。

 

ロキの目が、リヴェリアの手が、フィンの指先が。

 

わずかな俺の反応を見逃さないよう、極限まで集中している。

 

 

 

 

 

(うわぁぁぁぁ! 敵か味方かって、そんな二択!? 「協力会社」とか「業務委託」みたいな、ちょうどいい関係性はないのか!?)

 

 

 

俺の心臓はバックバクだ。

ここで動揺を見せれば逆に「何かを企んでいる」と思われる。

 

 

 

 

こういう時は、営業時代の「理不尽な要求に対する逆質問」が一番だ。

 

 

 

「……逆に伺います、フィン殿。ロキ・ファミリアは私の主……ヘスティア様やベル君を傷つけ、我々のささやかな日常を奪うつもりがあるのですか?」

 

「いや、そんなつもりはないよ。我々は秩序を重んじる」

 

「ならば、私が貴殿らの敵になる理由はありません。私が剣を振るうのは私の正義、あるいは私の大切な場所が脅かされた時のみ。……それ以外では、私はただの『よく食べる食客』でしかありません」

 

 

俺はそう言って、残っていた最後のジャガ丸くんをパクっと口に入れた。

 

 

 

 

「もぐもぐ……ふふっ、美味しいですね、これ」

 

 

 

 

 

沈黙が流れる。

ロキが数秒間、俺の顔をじっと見つめていたが……やがて。

 

 

 

 

「…………ぷッ。あはははは! こら傑作や! リヴェリア、フィン、見たか今の? この状況でウチの目の前でジャガ丸くん完食しよったで、この娘!」

 

 

ロキが大爆笑しながら膝を叩いた。

 

 

「気に入ったわ! ええ根性しとる。敵になるのは堪忍してほしいやけど…味方にするには……ヘスティアが離さへんやろな。ほんまあんな貧乏神のどこがええんか知らんけど」

 

 

リヴェリアも呆れたように、しかしどこか毒気を抜かれたように息を吐いた。

 

 

「……確かに、嘘をついているようには見えないな。その食欲も含めて」

 

 

フィンが微笑み、剣の柄から手を離した。

 

「分かった、アルトリアさん。君の立場は理解したよ。君は『中立』、あるいは『ヘスティア・ファミリアの守護者』だね。今後、我々が君たちの生活を不当に脅かすことはないと約束しよう。……ただし、ダンジョンで我々の団員が困っていたらその時は協力してくれると助かるよ」

 

 

 

 

 

「——善処します(何もしないかもしれないけど一応言っておく)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

「——ということがあったんですよ、ヘスティア様」

 

その日の夜。

廃教会の地下室で俺はぐったりとベッドに倒れ込んでいた。

 

ロキたちが去った後、極度の緊張から解放されて、今も胃がキリキリと痛む。

 

 

 

「えええええええっ!? ロキ・ファミリアの幹部三人に絡まれたのかい!? 大丈夫だった!? 怪我はない!? 心臓止まってない!?」

 

 

ヘスティア様が俺の顔を両手で挟んでブンブンと揺らす。

 

 

「ええ、大丈夫です……なんとか『不戦条約』みたいなのは取り付けてきましたから。代わりにダンジョンで彼らを見かけたら手伝うことになりそうです……ハァー」

 

「アルトリアさん、すごいです!。ロキ・ファミリアの人たちと対等に話すなんて!。僕もいつか、それくらい堂々とできるようになりたいです!」

 

 

隣でベル君が、キラキラとした尊敬の眼差しを向けてくる。

 

違うんだ。

堂々としてたんじゃない。

 

腰が引けて固まってただけなんだ。

 

 

(……はぁ。でも、これで少しは静かになるかな。最大手のロキ・ファミリアが『あいつは敵じゃない』って認めてくれたなら、他の雑多な連中も手出しはしてこないだろうし)

 

 

「よーし、明日からは本当に地道にベル君の育成に専念しよう。俺は後ろから応援して、危なくなったら棒(聖剣)でちょっと助ける。それが一番だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな俺の「平穏な隠居生活」への決意。

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、俺はまだ知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

公園の植え込みの影から

 

 

 

 

 

 

 

俺とロキたちのやり取りを銀色の瞳でじっと見つめていた『存在』を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ふふっ……不戦条約? そんなもの私には関係ないわ。……あなたのその気高い魂、どうすれば私の檻に入れられるかしら…アルトリア……』

 

 

 

 

 

暗闇に溶けるようなフレイヤの呟きを、俺の『直感』スキルですらこの時はまだ捉えきれていなかった。

 

 

 

 

 

 

 





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