騎士王は迷宮都市でひっそり暮らしたいけど、エクスカリバーのビームの撃ち方とかわかりません   作:meiTo

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第8話:休日出勤(モンスター脱走)は勘弁して!

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……アイズさん……」

 

 

オラリオが年に一度の熱狂に包まれる祭典『怪物祭(モンスターフィリア)』当日。

 

 

 

エルフの少女『レフィーヤ・ウィリディス』は、賑わう大通りを歩きながら深い溜息をついていた。

 

 

彼女はロキ・ファミリアに所属する魔導師だ。

 

同性でありながら、圧倒的な実力と美しさを持つ『剣姫』アイズ・ヴァレンシュタインに強い憧れを抱いている。

 

 

今日のお祭りも勇気を出してアイズを誘おうとしていたのだ。

 

しかし、結果は惨敗。

 

主神であるロキにアイズを取られてしまいレフィーヤは今、アマゾネスの双子——ティオネとティオナに両脇を抱えられるようにして歩いていた。

 

 

 

「もー、レフィーヤってばいつまで落ち込んでんのさ! せっかくのお祭りなんだから楽しもうよ!」

 

「そうそう! ほら、あそこの屋台の串焼き、すっごく美味しそう!」

 

 

 

底抜けに明るいティオナとティオネに引っ張られながらも、レフィーヤの心は晴れない。

 

 

(私なんて、まだまだアイズさんの隣を歩けるような実力じゃないし……。この間のダンジョンでも、足手まといになっちゃったし……)

才能の差、実力の差。圧倒的な壁を前に、エルフの少女の心は鬱屈としていた。

 

 

 

この直後、彼女たちがこの祭りの『裏』で起きた、恐るべき脱走劇に巻き込まれることなど、知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃。

 

 

 

 

「……最高だ。休日の食べ歩きマジで最高」

 

 

俺——アルトリアは、広場に立ち並ぶ屋台を片っ端から制覇していた。

 

右手には特大の肉串、左手には甘いクリームがたっぷり乗ったクレープ。

 

青いドレスの胸元(鎧は重いので今日は外してきた)を少しだけ汚しながら、俺は至福の表情で咀嚼を繰り返していた。

 

 

今日はヘスティア様とベル君も祭りに出かけているが、俺はあえて別行動を取らせてもらった。

 

前世のサラリーマン経験が告げていたのだ。

 

「休みの日に上司(神様)や後輩(ベル君)と一緒にいると、絶対に仕事の延長みたいな空気になる」と。

 

 

それに新入社員と社長には、二人きりの親睦を深める時間が必要だ。

 

俺という『先輩』がいては、ベル君も気を遣うだろう。

 

 

 

 

「んん〜、この果実水も美味い! やっぱり労働(ダンジョン)から離れて過ごす休日は命の洗濯だな〜。ストーカー女神(フレイヤ)の視線も、今日は人混みのおかげで紛れてるし」

 

 

 

 

完全に油断しきった三十路のおっさん。

 

 

 

 

しかし、平和な休日は唐突に終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『——キャアアアアアアアッ!?』

 

『ば、化け物だ! 闘技場からモンスターが逃げ出したぞォォ!!』

 

 

 

 

遠くの闘技場方面から、悲鳴と怒号が爆発するように波及してきた。

 

 

(……は? モンスターの脱走?)

 

俺はクレープを咥えたまま、そちらの方向を見た。

 

 

『直感:I』のスキルが、ビリビリと肌を刺すような危険信号を発している。

 

しかも危険な気配は一つや二つではない。

 

街のあちこちに、中層レベルの凶悪なモンスターが解き放たれているのが分かった。

 

 

 

(ウソだろ!? 休日出勤イベント発生!?)

 

俺は慌てて残りのクレープを胃に流し込み、次なる獲物(チョコバナナ)を買おうとしていた手を止めた。

 

 

(ベル君とヘスティア様は!? まずい、あの二人は俺と違ってまだヒヨッコだ! もし中層のモンスターに襲われたら……!)

 

俺は血相を変え、二人が向かったであろう路地裏の方向へと駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁっ、はぁっ……!!」

 

薄暗い路地裏。

 

ベル・クラネルは、主神であるヘスティアを背中に庇いながら、絶望的な体格差のある相手と対峙していた。

 

 

銀色の毛皮に覆われた、巨大な猿のモンスター。

 

中層に生息する凶悪な魔物、『シルバーバック』だ。

 

 

鎖を引きちぎり、暴走するシルバーバックの瞳は明確な殺意を持ってヘスティアに向けられていた。

 

 

(ダメだ、逃げきれない……! 僕が、僕が神様を護らなきゃ……!!)

 

「ベル君! これを使って!!」

 

 

ヘスティアが、胸元から黒い短刀を取り出し、ベルへと放り投げた。

 

それは、ヘスティアが土下座をしてまでヘファイストスに頼み込み、ベルのためだけに作ってもらった専用の武器——『神様の刃(ヘスティア・ナイフ)』。

 

 

ナイフを握った瞬間、ベルのステイタスとナイフが共鳴し、黒い刀身がルビーのような赤い光を放ち始めた。

 

 

『グオォォォォォォォッ!!』

シルバーバックが、丸太のような腕を振り下ろしてくる。

 

 

「うおおおおおおおっ!!」

 

ベルは逃げなかった。

 

これまではアルトリアという『絶対的な強者(先輩)』の背中を見てきた。

 

あの人はどんな状況でも涼しい顔をして(実際はパニックで棒を振り回しているだけなのだが)敵を粉砕していた。

 

(僕だって……! アルトリアさんの後輩なんだ! 神様を、護るんだ!!)

 

ベルはシルバーバックの懐に飛び込み、ヘスティア・ナイフを一閃した。

 

硬い銀の毛皮が裂け、鮮血が舞う。

 

しかし、格上のモンスターはそれしきの傷では止まらない。凄まじい反撃の拳がベルの体を吹き飛ばし、石の壁に激突させる。

 

 

「ガハっ……!」

 

「ベル君!!」

 

骨が軋み、意識が飛びそうになる。

 

それでもベルは立ち上がった。脳裏に浮かぶのは、酒場で自分を笑ったベートの顔。

 

そして、ミノタウロスから自分を救ってくれた憧れのアイズ・ヴァレンシュタインの横顔。

 

 

(強くなりたい。誰にも笑われないくらい。あの人に、追いつけるくらい……!)

 

その激闘を高台から見下ろしている視線があった。

 

 

ロキ・ファミリアの『剣姫』アイズ・ヴァレンシュタインだ。

 

彼女は血まみれになりながらも決して倒れず、格上のモンスターに喰らいついていく白髪の少年の姿に不思議なほどの『熱』を感じていた。

 

 

(あの子……この間、ミノタウロスから逃げ出した……)

 

 

 

『——おおおおおおおおおっ!!』

ベルの咆哮。その時、少年の魂の奥底で、何かが『弾けた』

 

 

彼の全存在が、ただ一つの願い——「英雄になりたい」という切実な祈りに収束していく。

 

 

後に『英雄願望(アルゴノゥト)』と呼ばれることになる奇跡のスキルの片鱗が、今まさに産声を上げようとしていた。

 

 

ベルは壁を蹴り、シルバーバックの顔面目掛けて跳躍した。

 

 

すべてを乗せた『神様の刃』が巨大な猿の眉間を深々と貫く。

 

 

『ガ、アァァ…………ッ』

断末魔と共に、シルバーバックの巨体が光の粒子となって崩れ落ちた。

 

 

 

「はぁっ、はぁっ……やった……」

 

 

ベルはそのまま膝から崩れ落ち、ヘスティアの胸の中で意識を手放した。

 

その姿をアイズは静かにしかし確かな衝撃を持って見つめていた。

 

 

(……すごい。あの子は、きっと……)

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

「ベル君!! ヘスティア様!!」

 

シルバーバックが消滅してから数分後。

 

俺は血相を変えて路地裏に飛び込んできた。

 

そこには、気を失ってボロボロになったベル君と、彼を抱きしめて泣いているヘスティア様がいた。

 

 

 

「アルトリア君……! ベル君が、ベル君がボクを護って、一人で……!」

 

「……そうか。よくやったな、ベル君」

 

 

俺はホッと胸を撫で下ろした。

どうやら、新入社員は俺という不良先輩の手を借りずとも、自らの力でとんでもない試練(大型プロジェクト)を乗り越えたらしい。

 

俺はそっと、自分が背負っていた「ただの布巻き棒」から手を離した。

 

(ベル君は無事だ。となると、俺のミッションは……)

 

 

 

『キャアアアアアアアッ!!』

別の通りから女性の悲鳴が聞こえた。

 

 

俺の『直感』が、今度はそちらに複数の危険な魔物の気配を捉える。

 

 

 

「ヘスティア様、ベル君をギルドの救護所へ! 私は他の残業(モンスター)を片付けてきます!」

 

 

 

俺はベル君をヘスティア様に託し、悲鳴のした方向へと飛び出した。

 

 

(せっかくの休日なのに! なんでこんな時に限ってトラブルが連発するんだよ! 俺が買ったばかりの『特製チョコバナナ・クレープ包み』が冷めちゃうじゃないか!!)

 

 

俺は左手に買ったばかりのスイーツを大事に抱えながら、路地を猛ダッシュした。

 

そして角を曲がった先の大通りで、俺は信じられない光景を目にした。

 

 

「いやぁぁぁっ! 来ないでぇぇっ!!」

 

 

エルフの少女——レフィーヤが、巨大な食人花(極彩色のヴィオラ)の群れに囲まれ、へたり込んでいた。

 

少し離れた場所では、アマゾネスの双子(ティオネとティオナ)が別のモンスターの群れと交戦しており、レフィーヤの救出に間に合わない。

 

極彩色のツルが鞭のようにレフィーヤに襲いかかる。

 

恐怖で魔法の詠唱も忘れ、彼女はギュッと目を瞑った。

 

 

 

 

(あ、ヤバい。あの子死ぬ!)

 

 

 

 

 

俺は考えるより先に、地面を蹴っていた。

 

 

『敏捷:S(999)』の脚力が石畳を粉砕し、俺の体は弾丸のようにレフィーヤと食人花の間へと割り込んだ。

 

 

「え……?」

 

 

 

目を開けたレフィーヤの視界に映ったのは、青いドレスの背中と黄金に輝く美しい髪。

 

 

(剣を抜いてる暇はない! ていうか、左手にはクレープ持ってるし!)

 

俺は反射的に、空いている右手——一切の武器を持たない、素手の『拳』を固めた。

 

相手は凶悪な食人花だ。

 

しかし、俺のステイタスは全項目S(999)のバグ状態。

 

 

本気で殴ったら、街の区画ごと吹き飛んで大惨事になる。

 

ここは、前世のボーリングでガターを出さないようにする時くらいの、極めて優しい!繊細な!手加減したジャブで——!

 

 

「ふっ!(※手加減のつもり)」

 

 

俺は、食人花の顔(?)に向かって、軽く右拳を突き出した。

 

——ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!

 

「…………は?」

俺の口から、間抜けな声が漏れた。

 

手加減したはずの俺の拳から、まるで大砲から放たれた衝撃波のような『何か』が迸った。

 

空気が爆発的に圧縮され、竜巻のような風圧が発生。

 

レフィーヤに襲いかかろうとしていた食人花は、打撃の直撃すら受けていないのに、その『風圧』だけで木っ端微塵に粉砕され、後方にいた数十匹のモンスターの群れごと、一直線に彼方へと吹き飛ばされて消滅した。

 

 

大通りの石畳は、まるで巨大なトラクターで耕されたかのように、幅10メートル、長さ100メートルにわたって完全に捲れ上がっていた。

 

 

「…………」

「…………え?」

 

 

静寂。

後方で戦っていたティオネとティオナもあまりの惨状に動きを止め、口をポカンと開けている。

 

へたり込んでいたレフィーヤに至っては、白目を剥きそうなほど目を見開き、ガクガクと震えていた。

 

 

 

(や、やっちまったぁぁぁぁぁ!!)

俺は内心で頭を抱えた。

 

筋力Sの恐ろしさを完全に忘れていた。

 

クレープを落とさないように気を取られすぎて、無意識のうちに『魔力放出:A』のスキルまで拳に乗せてしまっていたらしい。

 

手加減なんて全く機能していなかった。

 

 

 

「あ、あの……! あ、あなたは……!?」

 

 

レフィーヤが、震える声で俺を見上げる。

 

その瞳には、恐怖とそれ以上の『圧倒的な強者への畏怖』が宿っていた。

 

 

ヤバい、これはヤバい。

 

「休日出勤でクレープに気を取られてたのとイライラして力加減間違えました」なんて言える空気じゃない!

 

ここは、何事もなかったかのように立ち去るしか

 

 

 

 

「……怪我がなくて何よりだ、名も知らぬ魔導師よ」

 

 

俺は無理やり『騎士王の威厳』を顔面に張り付け、左手に持っていた無傷のクレープをスッと背中に隠した。

 

 

「私など、ただの通りすがりの……ええと、冒険者だ。街の平和を乱す害悪は、私の『拳』が許さないという、それだけのこと」

 

 

「と、通りすがり……!? 今の、素手の、しかもただの風圧ですよね!? あなた、一体……!」

 

 

ティオネとティオナが慌てて駆け寄ってくる気配がしたが、俺はそれ以上関わるのを避けるため、再び『敏捷:S』の力を使って、一瞬で建物の屋根へと跳躍した。

 

 

 

「では、私はこれで! 祭りの続きを楽しんでくれ!」

 

「あ、待って……!!」

 

 

 

レフィーヤの制止の声を背中に受けながら、俺はオラリオの空をカエル飛びで逃亡した。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

数十分後。

安全圏(廃教会の屋根の上)に逃げ延びた俺は、冷や汗を拭いながら、ようやく『特製チョコバナナ・クレープ包み』を口に運んだ。

 

 

「……あむっ。うん、美味しい。でも、なんか疲れた……」

 

 

 

下を見ると、街は騒動の後始末で大騒ぎになっている。

 

ベル君は自力でミノタウロス(今回はシルバーバックだが)を倒し、見事に英雄への第一歩を踏み出した。

 

これからは、彼がこのファミリアの主戦力としてバリバリ稼いでくれるだろう。

 

俺はそれを後ろからサポート(という名のサボり)すればいいのだ。

 

 

だが、俺はまだ気づいていなかった。

 

 

あの強烈な「クレープ防衛拳」を放つ瞬間をロキ・ファミリアの面々だけでなく、あの『ストーカー女神』もまた、高層の塔の上からうっとりとした表情で見つめていたことに。

 

 

 

『ああ……剣を抜かずとも、あの圧倒的な蹂躙。ますます欲しくなってしまったわ、アルトリア……。あなたのその力、私の愛で縛り付けてあげる……』

 

 

 

俺の背筋に、再びゾワァッとした悪寒が走る。

 

「……なんか、明日からダンジョン行くの、もっと面倒くさくなりそうだな……」

 

ため息をつく30代サラリーマン(騎士王の姿)。

 

彼の「目立たずに定時退社する」という夢は、ベルの覚醒と自身の規格外のやらかしによって、完全に粉々に打ち砕かれたのだった。

 

 

 

 

 

 

 





※主人公は前世から本当に一般人、生きてきて碌に争い事がない人生。アルトリアさんのスペックを理解も制御も現時点では出来る筈もありません。※5歳児が核ミサイルのボタンで遊んでる状況です。ポチポチ 何しても大惨事状態
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