銃を持つ少女たちと死に損ないのブルーアーカイブ 作:蒼雲しろ
こちらの作品の制作中に、改めて見直したところ、自身の見切り発車による部分もあり、物語の流れに納得しきれていない点がありました。
本作を読んでくださっている皆さまに、より良い形で物語をお届けしたいと考え、このたび制作途中ですがリメイクすることにいたしました。
なお、旧作の内容とは一部異なる展開になる可能性がありますので、あらかじめご了承ください。
今後とも本作をよろしくお願いいたします。
1:疑問と忘却について
「おい!!死んでんのか?」
鼓膜を揺らす、棘のある声。
すぐ傍に人がいるようだ。
覚醒したとは言えない意識の中、感じとる。
直後。
右脇腹に衝撃が走った。
硬質な靴が肋骨に割り込むように、鈍く重い衝撃をもたらした。
「……が、はっ……」
肺から無理やり空気が絞り出される。
地面の上を数回転がり、うつ伏せで止まる。
アスファルトの冷たさに顔を押し付けたまま、泥のような意識を急浮上させた。
「おめぇ……見ねぇ顔だな、所属は何処だ?」
二度目の声が耳を打つ。
所属……を聞かれているようだ。
体に走る痛みと、混乱する頭で、言葉を理解しようとする。
状況が呑み込めない。
目の前に立つ二人の少女は一体誰なのだろうか。
何故、俺は脇腹を蹴り飛ばされたのだろうか。
少しずつ冷静になり始めた脳を必死に回転させた。
まずは、答えなければいけないことを絞り出す。
「
腕をついて体を起こす。
体勢を整えて目の前にいた二人を見上げる。
しかし、俺の回答を聞いた二人は顔を見合わせ首を傾げた。
「白神……?聞いたこともねえな」
「駅の近くって?駅の近くに高校なんかねえぞ?」
見下ろしてくる少女たちの反応は冷淡であった。
「ここの自治区じゃねえってことか?」
「自治区……?市じゃなくて?」
「は?何言ってんだお前」
……話が噛み合わない。
何を言っても、俺がおかしいかのような反応を示す。
ため息が漏れた。
話が通用しないタイプだったみたいだ。
このまま話していても何もわからず仕舞いだ。
思わず、視線を下に落とす。
服装はセーラー服のようなものだった。
そして、手に持っているのは――
銃。
だった。
……モデルガンや、ソフトエアガンだろう。
それでも、珍しいと思い目を見開いた。
「……それは?」
速まった鼓動を落ち着かせるために、質問する。
念のため、だ。
「は?見てわかんだろ。銃だよ。銃」
「どうした?そんなこともわかんなくなっちまったか?」
下に下げていた銃を持ち上げ、見せつけるように目の前に持ってくる。
脅し、だろうか。
モデルガンで脅しというのもどうかと思うが。
見た目からして、所謂スケバンという見た目をしている。
改造された制服に、手に持つ銃。
カチャリ、と金属が噛み合う不吉な音が響いた。
「さっきからなんだお前。私らの質問に答える気がないってことか?」
「あ~。舐めてんだな?」
「ヘイローもないし、変な奴だと思ったんだよ」
目の前の少女たちが当然のように手にしている銃。
迷いなく、俺の右太ももに銃口を合わせ――
引き金を引いた。
乾いた破裂音。
直後、右脚を熱い鉄塊が貫く衝撃。肉が弾け、神経が焼き切れるような激痛。
「 は……?」
モデルガンから鳴るよう――
「がぁぁっ……!?い、 痛……!?」
足に力が入らなくなる。
崩れ落ち、尻餅をついた。
そこで視界に入ったのは、地面に飛び散った自分の内側から溢れた「赤」だった。
モデルガンでは、ない。
漂う火薬の匂いと煙。
心臓が跳ねる。
呼吸が浅くなり、嫌な汗が滝のようにあふれてくる。
その赤を見た瞬間、脳の奥が無理やりこじ開けられた。
知らない――いや。
忘れていた、記憶。
目の前に広がっていたのは灰色の空と地面。
地面には赤々とした水たまり。
生暖かい赤が顔に張り付いて離れない。
体が重い。
ついでに、頭がやけに痛む。
何度か動かそうとしている腕は動かない。
顔を顰める。
視界ははっきりしない。
動かない身体に、嫌気がさしていた。
しばらくすれば、落ち着いた視界。
嫌悪感から、血を手で払おうとする。
手は動かなかった。
足でもいいから動かしてみようとした。
やけに軽く動いた。
足を起点に立ち上がろうとした。
動くだけで、力は入らなかった。
むしろ、何かが抜けていく感覚。
次第に冷たく、赤は黒く濁っていく。
液体は、自分がいる下の方にも跡を残していた。
鳴り響いていた車のクラクション。
それが、今になって脳を揺らす。
頭が、痛かった。
――そこで、意識が現実に引き戻された。
体の震えが止まらなかった。
体にはあの感覚が残ったままだ。
血が抜けていき、体温が下がる。
体中を駆け巡る、不快感。
それを解決することもかなわない自身の状況。
俺が体験した、あの出来事が。
感覚を、狂わせる。
銃口がこちらを向いている。
足は動かない。
想起される「一度目の死」。
あれは、俺の命が確実に潰えた最後の瞬間だった。
……終わったはずだ。
俺は。
あそこで。
……じゃあ、これは。
血が出てる。
痛い。
……なんで。
生きてるのか……死んでるのか。
ここは現実なのか……地獄なのか。
沸き上がるのは、恐怖よりも先に、耐え難いほどの嫌悪。
頭の中で、何度も否定する。
違う、そんなはずがない、と。
あれは嘘で。
そう思いたい、と。
だが、どれだけ思考を重ねても結論は変わらない。
あの光景は、本物であると。
だからこそ、なおさら気持ち悪い。
視界が揺れる。
空気を吸おうとするが、身体がそれを拒んでいる。
腹の底から不快感が爆発するようにせり上がる。
喉の奥に現れた酸味をこらえきれず、そのまま地面に吐き散らした。
ドシャリ。
「……っ」
嘔吐物は、目の前にいたスケバンの足元を無残に汚した。
少女の瞳から温度が消え、代わりにドス黒い殺意が宿る。
「……ざっけんなよ⁉」
銃口が、今度は頭部を正確に捉えた。
向けられたのは、ただ純粋なまでの暴力。
会話の余地なんてなかった。
「ひ……っ!」
逃げなきゃいけない。
なにが?
逃げなきゃ死ぬ。
痛くて死ぬ。
傍らにあったバッグを力任せに投げつけ、二人の間を強引に割って、路地の奥へと走り始めた。
右脚の痛みは、もはや感覚を麻痺させている。
背後から響く銃声と、アスファルトを削る火花。
走る。
駆ける。
早く。
なにが?
速く。
痛い。
疾く。
何度も背後からなる銃声が次第に間近に聞こえる。
1発、2発、3発。
それは、壁にめり込み、地面に埋まり、腕や足にかすりながら突き進んでくる。
腕が熱を持ち、走りづらくなる。
次第に傷が増えていき。
腹に熱が走る。
焼けるような痛みと共にまたもや体を支配する嫌悪感。
喉まで登ってきた熱を、飲み込む。
血痕をのこしたら、死ぬ。
必死に両手で口を抑え、温かい血への嫌悪感をなくすよう意識する。
体中が悲鳴を上げ、不快感があふれそうになりながら脚が動いていく。
なんで……こんなことに?
吐き出された
そうしてたどり着いた先は――
――――――――
――数分前。
「あんの野郎!どこ行きやがったぁ!!」
荒れ狂う相方を宥めながら、あのクソガキに一発鉛玉をぶち込まなければと考え走る。
異様に足が速いせいで、差が縮まらなかったが、相方が一発腹にぶっぱしたおかげで、決着がつきそうだった。
たどり着いたのはT字路。
地面に滴る血の跡は。
「右だな」
「あぁ。観念しやがれクズ!ズタズタにしてやんぜぇ!?」
右は行き止まりだった。壁際に佇む朽ちたゴミ箱があるのみ。
しかし、ゴミ箱ははたから見てもわかるほどゴミであふれていた。
「あれに入んのは厳しくねぇか?」
そのような言葉を発した直後。
ゴミ箱の下から溢れる赤黒い液体。
鉄の匂いが鼻腔をくすぐる。
「みぃつけたぜぇ!」
相方が喜々と顔を歪ませながら、ゴミ箱に向かって歩いていく。
そして。
全力で蹴り飛ばし、中身をぶちまけた。
「さあ!これで逃げ場は――」
中から出てきたのは、ただのゴミと、赤黒い液体だけだった。
――――――――
「はぁ、はぁ……っ! なんなんだよ……!」
先ほどまで口を押えていた両手は今や腹から湧き出る血であふれている。
口の中の血は先ほど、T字路の朽ちたゴミ箱で吐きつけてきた。
どうして俺は、こんな必死に逃げているんだ。
答えは出ない。ただ、足だけが動く。
迷路のような路地を抜け、不意に視界が開けた。
建物の影が消えた先に広がっていたのは――
「……嘘、だろ」
見渡す限りの金色の砂漠。
……知らない土地だった。
代わり映えしない景色と、砂の地にふさわしい焼けるような暑さ。
その場に力なく崩れ落ちた。
そのまま仰向けで砂の上に寝る。
腹からはとどまることを知らない血液たちが滝のように逃げていく。
どこまでも透き通る、蒼い空。
太陽が、明るい。
眩しい。
――吐き気がする。
砂を掴み、力のない呟きが漏れた。
「……暑い」
口から言葉が漏れた。
撃ち抜かれた腹と脚も。
砂に寝そべる全身も。
逃れることのできない灼熱に焼き尽くされている。
知らない土地。
俺、どこに迷い込んだのかな……
なんで、撃たれたのかな……
苦しくて、痛くて……
訳が分からなくて
「は、ははっ――」
一度死んだ上にもう一度死にかけて。
脚も動かないのに、灼熱の砂漠に放置されてる。
何も理解できていないままに銃を撃たれ、血を流す。
ここがどこかも、誰も教えてくれない。
どうしようもないほど、絶望的な展開。
俺は――
……いや。
わからない。
わかりたくも、ない。
「誰かー」
なんとなしに助けを求めてみる。
しかし、何も起こらない。
このまま、死ぬ。
空が青い。
砂がさらさら。
息が苦しい。
これを知ってる。
この感じ。
この、どうしようもない感じを。
自分の中から血が、気力が、抜けていく感覚。
俺は、これを知ってる。
――嫌だ。
……虚しい。
……なんでだ。
空が、青い。
こんなに痛いのに。
こんなに血が出てるのに。
どうして、こんなに普通なんだ。
どうして――
何も、変わらない。
砂が、さらさらと音を立てる。
その音が、やけに遠く感じた。
……俺だけが、ずれているみたいだ。
「俺だけが……」
目から飲みたくて仕方ない水があふれる。
しょっぱい。
これで、終わるのだろう。
人生最悪の一日で、人生最後の一日。
何も理解できずに、終わる。
何もできずに、終わる。
と思っていたら。
地響きが起こり始めた。
次第にそれは大きくなり、とどまることを知らない。
そして次の瞬間、地面が爆ぜた。
砂が舞い上がり、津波のように押し寄せてきた。
動く気力が残っていなかった俺は無事に砂の波に飲み込まれる。
このまま何もしなければ生き埋めになる。
悟ったと同時に、残りの全力を振り絞って、正面から迫ってくる砂に対して横方向に走る。
しかし、すでに逃げられる状況ではないため、砂が口や鼻に入らないように覆う。
砂が足を飲み込んだ。体が倒れないように、何とか砂に対抗する。
しかし、抵抗むなしく足はもつれ、砂に飲み込まれていく。
体に砂の重みがのしかかる。
肺がつぶれる。
……十秒ほどして。
砂をかき分け、這い上がる。
一目散に空気を肺に送りこむ。
そして。
ぼやけ始めた視界を取り戻す。
目の前に見えた、大きな物体。
脳が、理解をしてくれない。
そんなものじゃない。
理解するのを、あきらめている。
あれは――
……違う。
形が、合わない。
音が、違う。
生き物の音じゃない。
あんなもの、知らない。
これは――
見てはいけないものだ。
視界を満たした突然の「絶望」に。
体の力が抜け――
生存の糸を手放した。
砂の海に佇むのは偉容を誇る白亜の蛇だった。
生物とはかけ離れた咆哮をあげるソレは、金属を無理くり捻じ曲げたような、断末魔じみた音だった。
体の芯から不快感を煽るその無機質な不快音は、この砂漠、ひいてはどこまでも蒼い空に響き渡った。
「――はッ」
口からは空気が漏れ出る音しかしない。
これ以上、体から何か出てしまえば死んでしまうというのに。
自分がどこに立っているのか、忘れさせるほど。
自分が生きていることさえ、疑わせるほど。
いや。
始めからそんなもの理解などしていない。
理解、できない。
できるはずがないと。
何度言えばいいのだろうか。
――――その絶望の名を引き連れてきた使者は天高く佇む。
閲覧ありがとうございます~!
リメイクに関しては正直悩みました。
しかし、1編の内容を考えていくごとに、0編の荒が出てきてしまいました。
このままにしておきたくない、と思ってしまったので、身体が勝手に動いています。
大変申し訳ございません。
早めに旧作と同じところまで持っていきます!