銃を持つ少女たちと死に損ないのブルーアーカイブ   作:蒼雲しろ

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明け方の中で、君と

明け方の中で、君と

「おはようございます」

 

 声が聞こえてくる。

 

「なんでこんなところで寝てるんですか」

 

 背中と、尻が痛い。

 周りを見渡せば、廊下だった。

 どうやら、教室の壁にもたれかかって寝ていたようだ。

 

 ホシノを見る。

 

 ひどい隈だ。

 ぼさぼさの髪。

 疲れの取れていない目。

 

「ちゃんと、寝れた?」

「はい」

 

 まっすぐこちらを見ているが、返事に元気はない。

 

「それより」

 

 疲れ切った目で見下ろされる。

 一拍を置いて、告げた。

 

「昨日は……ありがとうございました」

 

 頭を下げられる。

 

 ――。

 

 息が詰まる。

 

「……」

 

 声にならない。

 

 違う。

 

 違うよ。

 

 俺は――

 

「なんで?」

「……カナメさんのお陰で、見つけることが出来ました」

 

 なんで……

 

 君は……

 

「感謝なんて、しないでほしい」

 

 やけに近い廊下の床には、砂が見える。

 

 砂しか、見えない。

 

「俺は……何もできてないから」

 

 助けられない。

 

 口先だけ。

 

 生きることを諦めたのに。

 

 生きている。

 

 ただの――

 

「責められるべき――」

 

 その言葉は、言い切れなかった。

 

 

「カナメさん」

 

 ホシノは、至っていつも通りの声色で告げる。

 いつの間にか、視界には桃色が映っていた。

 

 視界に映る小さな手が、俺に差し伸べられていた。

 

「これ以上は望めません」

「ここまでしてもらって、責めるなんてことはできません」

 

 咎められないことこそ――

 一番の苦痛だった。

 

「ホシノの方が、辛いのに――」

 

「――本当ですよ」

 

 体が固まる。

 

「なんで、苦しんでるんですか」

「私が苦しみたいのに」

「私のせいなのに」

「なんで、貴方が……」

 

 声が、震えていた。

 

「私のせいで……死んだのに」

「私が見つけなきゃいけなかったのに」

 

 唇を噛む。

 

「カナメさんが、ユメ先輩のことを見つけたとき」

「もっと早く見つけてくれたらって」

 

 ホシノを、見た。

 揺れる蒼と黄金が、眼前に来る。

 

 雫が、こぼれる。

 

「なんで」

「もっと早く」

 

 前に倒れてきたホシノを、支える。

 

「こんなこと……」

「ごめんなさい」

 

 腹部に熱を感じる。

 涙が、シャツに染みて。

 

「俺は」

「ホシノを救えなかった」

「何もできない」

「足手纏いだった」

「自分が嫌いだ」

 

 喉が、詰まる。

 

「自分に、力があればって」

「この身体の力が、誰かを救えるものであればって」

「思った、思ったよ」

 

「なんで……外から来たのに」

「自分だけには、使える」

「いらない力が」

 

 何度も呪った。

 

 死にかけた自分に与えられた力。

 

 ただ、死なないだけの。

 

 それ以外、何もない。

 

 自己中心的な力。

 

「俺じゃなくて、ユメさんにこの力があったらって」

「思って……」

「そしたら、もっと状況は変わってて」

「きっと、誰も苦しまなかったよ」

 

 

 

 

「そうかもしれません」

 

「でも」

 

「私を助けてくれたのは、カナメさんです」

 

「あの時、アビドスを逃げ回っても追いかけてきてくれたのはカナメさんです」

 

「ユメ先輩を見つけてくれたのは、カナメさんです」

 

「それじゃあ、ダメなんですか?」

 

「なんで――そんなに自分を痛めつけるんですか?」

 

 やけに静かな問いが、胸に沈みこんだ。

 なぜ、痛めつけるか。

 考えるよりも、口が動く。

 

「痛くても、治るから」

「どんなに傷つけても、この身体なら」

 

 

「痛いんですよね?」

「なら、やめれば――」

 

 

「できない……」

「できないよ」

「俺には、これしかできない」

 

 

「そんなこと――」

 

「そんな事言わないで……ください」

 

「私が、どれだけ救われたかも知らずに――」

 

「わからない」

 

「そんなこと、わかりっこないよ」

 

 いつの間にか滲んだ視界。

 そこに映るのは、目から大粒の涙を流すホシノ。

 

「なら」

「教えてやります」

 

「もうやめてくれって言うまで教えてあげるから」

 

「だから」

 

「カナメさんが、自分のことを傷つけるなら」

「今度は私はその心を支える」

 

「だから」

「泣かないで」

「お願いだから、一人で痛がらないで」

 

「もう、誰かが傷つくのも」

「何処かに行くのも見たくないよ……」

 

 ひたすら、優しさを感じさせる彼女の言葉に、更に溢れていく涙。

 ここまで、自分を見てくれる少女に、どうすればいいか分からないほどの嬉しさを感じた。

 

「……ありが……とう」

 

 二人しかいない学校には、押し殺した泣き声だけが響いていた。

 

 

 しばらくの間、どちらも口を開かなかった。

 

 しかし、泣き声は次第に小さくなっていく。

 身体にかかる圧も小さくなった。

 

 ホシノの肩の震えが止まると同時に、後ろに飛びのいた。

 

 赤に染まった目元が目立つ。

 

「落ち着きましたか」

「こっちのセリフな」

「カナメさんの方が取り乱してたじゃないですか」

「もう、大丈夫。今は落ち着いてる」

「それをいったら、私はずっと落ち着いてますよ」

 

 俺の横にホシノが腰を下ろす。

 膝を抱え、身体を丸めた。

 顔を膝に埋めたまま、言葉を発した。

 

「カナメさんには悪いですけど」

「これから、私にどんなことをしてくれても」

「私はユメ先輩のことを乗り越えられないと思います」

 

 小さな呟きだった。

 

 窓ガラスから覗く空は、やけに青い気がする。

 

「こんなこと言っていいのかわからないけど」

「それでいいと思う」

 

 そんなことは、最初からわかっていた。

 俺が何をしても、ホシノがユメ先輩のことを振り切ることはない。

 それができる存在なら、ここまで苦しむはずがない。

 

 だからこそ、俺にできることを考えたとき――

 

「自分が納得するまで、悩んで。悩んで苦しんで、その先にいい落としどころがあればそこで乗り越えたらいい」

「それか、一生背負うのも一つの選択だと思う」

 

 君に。

 その苦しみを背負うことを、勧めることだった。

 

 それでも、と思ってしまう自分がいる。

 助けたい。

 

 ヒーローに、なりたい。

 

 でも俺の役割は、きっとそうじゃない。

 

 それに――

 

「それでも」

「ホシノを支えることはできるから」

 

「一人で痛がらないで」

 

「二人で、支え合ってこうよ」

 

「俺も、もう一人で苦しいのは嫌だから」

 

 今の俺にできること、ホシノからの言葉に含まれていた支え合い。

 

 お互いに自分で思うことはあるが、それを尊重して、ただ

 

 それに、俺はこんなところで逃げ出したくなくなった。

 

「俺の力不足が招いた結末を、仕方なかったで済ませたくない」

 

 自分の罪を、忘れない。

 

 逃げるはもうやめよう。

 ホシノが立ち向かうなら。

 

「強くなるから。この世界で生きれるように」

「ビナーにも負けないくらい、さ」

「まずは、ホシノに担がれなくても走れることが目標かな」

 

 俺も、頑張るから。

 

 だから――

 

 隣にいることくらいは、許されるだろうか。

 

「手伝いますよ」

 

 隣から、手が差し伸べられる。

 

「いいの?」

「ホシノの……近くにいて」

 

 取れずにいた手は、俺の前から動くことはなかった。

 

「私は支えますよ。逆にいいんですか?」

「私、ユメ先輩のこといつまでも引きずるつもりですけど」

 

 少しだけ、口元が緩む。

 泣き腫らした目は、朝日を反射していた。

 

「そのくらいで投げ出すようなら、ここにいないでしょ。それに――」

 

 こちらを横目で見るホシノに、苦笑する。

 何度も口にした言葉を、改めて告げる。

 

「「俺は君を助けたい」」

 

 ホシノは息を漏らした。

 泣きながら、笑っていた。

 

「ですよね?」

 

 頬を伝う涙が、頬に線を引く。

 

 

「なんでわかったのさ」

「何回も聞きましたし」

 

「あと」

「こう言ってくれたら嬉しいなって」

 

 涙は止まらない。

 でも。

 穏やかな笑顔だった。

 

「救われた言葉なんですよ」

 

 朝日に照らされた温かい笑顔が、心に熱を持たせる。

 涙が止まらないのは、俺もだったみたいだ。

 

「それは――」

 

 君に救われた身からすれば。

 

「嬉しいね」

 

 差し出された手を握る。

 

 廊下に風が吹き込んだ。

 

 

 

 

 

 別に、自分の身体が、好きになったわけではない。

 別に、ユメ先輩を助けられなかったって思いが消えた訳じゃない。

 

 それでも。

 ホシノが居てくれるから、俺は生きていられるのだろう。

 

 嫌いな体は、助けるために使えて。

 

 ユメ先輩を救えなかった結果はいつまでも俺を蝕むかもしれない。

 

 でも。

 

 ホシノがいるから。

 支えて、支えられて。

 

 どこまでも歩いて行ける。

 

 彼女の闇を取り払って、囮としてビナーと戦えたこの身体。

 

 今くらいは、この体も

 捨てたもんじゃないって。

 

 思えるかもね。

 

 

 ――――――――

 

 

「おはよ。」

「おはようございます。」

 

「お願いがあるんですけど」

「どうした?何でも言って!」

 

「えっと……」

「ユメ先輩のことを、調べたくて」

 

 

 その日は、ユメ先輩の足取りを掴むべく、彼女に、関連する場所や物を隅々まで調べた。

 1日ではわかることも少なく、その後も調査を続けて行くこととなった。

 

 

 ――――――――

 

 

「これ、お金になるかな」

「……ならなかったら、学校で使いましょう」

 

「というか、運べるのか?」

「力仕事なら……」

「俺がやるからね?」

 

 ある日は、砂漠に出かけてお金になりそうなものを見つけた。

 砂漠探索は、定期的に行っている。

 思ったよりも掘り出し物が多くて、運がいいと結構稼げたのだ。

 味をしめた俺は定期的に行い、ホシノはそれに参加することが多かった。

 

 

 ――――――――

 

 

「誰?私に何か用?」

「わ、私は……」

 

「どこの生徒?所属と学年は?」

「別に年上だったところで容赦しないけど。」

「それくらい知ってるでしょ。私のことを、調べてたなら」

 

「そ、そういう目的で来たわけでは……」

「あれ、その校章……」

 

 

 ホシノは、新たな出会いを経験し、俺は少しずつ学校から拠点を変えた。

 ……俺には、アビドス高校に入る選択肢がなかった。

 ホシノからは何度も何度も誘いを受けたが、理由を説明して、何とか納得はしてもらった。

 

 

 ――――――――

 

 

「いやぁ、ちょっと乱暴だったかなぁ……」

「ホシノ先輩……」

「でも、下手に加減したらこっちがやられる可能性だってあったからねぇ~」

「この子、かなり強かったし」

 

「でもおかしいなぁ。こんな子がいたなんで……おじさん全然知らなかったよ」

「お名前は?」

 

「……シロコ。砂狼(すなおおかみ)シロコ。」

 

 

 ――先輩と呼ばれるようになり始めた冬。

 見捨てられたと思っていたアビドスに、少しづつ光を感じられるようになった。

 この頃から、ホシノの口調に柔らかさがはっきりと出てきていた。

 俺としては少し違和感ではあったが。

 

 

 ――――――――

 

 

「ほらほら、シロコちゃんノノミちゃん!笑って~」

「ん」

「わ、わざわざ撮る必要、ありますか……?」

 

「なに言ってるのさ、当たり前でしょ!」

「お祝いの時は、記念に写真を撮るものだから!」

 

 

 ホシノが先輩と呼ばれる頃には、邪魔にならないように自分の家を手に入れていた。

 この頃になって、家を拠点として使うように移行し始める。

 ホシノによると、俺の私物などが後輩にバレかけたので早めにどかして欲しいとの事だった。

 

 ……俺のわがままのせいで、迷惑をかけることになった。

 

 

 ――――――――

 

 

「あ、あの失礼します!皆さんがアビドス高校の生徒で合っていますか?」

「私たちも、ここに入学したいの」

「アビドスのために、何かしたいんです……!」

「たしか、復旧委員会よね?」

「対策委員会だよ、セリカちゃん」

「そう、それ!」

「とにかく、これからよろしくね、先輩!」

「よろしくお願いします!」

 

 さらに時が過ぎて、ホシノは三年生、俺は卒業の歳が近づいてきた。

 相変わらず、夜のパトロールを共に行ったり、紫関ラーメンを食べに行ったりと、何かと会うことは多かった。

 

 

 ――――――――

 

 

 二年で習慣となった砂漠探索から帰ってきたので、ホシノに会うべくアビドス高校に寄った。

 今や生徒は一人だけではなく、五人となった。

 

 部外者が出入りしているのがばれると、良い印象を生徒に与えないので、いつも通り裏口から入り込む。

 

 あとは、生徒にバレる訳にも行かないので、ホシノがすぐに見つからないなら帰ることにしていた。

 

「カナメさん~」

 

 耳を澄ませば、屋上から声が聞こえる。

 思ったよりもすぐに見つけることができて、胸を撫で下ろす。

 

「ここは定位置なのね?」

「後輩たちが学校にいるからね~」

 

 寝ころんだままふにゃけた返事をしていた。

 大体学校に来る時、ホシノはこの屋上か、生徒会室にいた。

 

「それなら、夜に持ってくるって言ったじゃん」

「んー……」

 

 何か悩むような声を出してから言葉がない。

 寝たのか?

 

「ホシノ?」

「まあまあ。細かいことは気にしないで行こうよ」

「……わかりましたよ」

 

 マットの上で寝ころぶホシノの横に腰を下ろして、太陽を浴びる。

 

「暑くない?」

「これだからカナメさんは。このくらいで暑いなんて言ってたら溶けちゃうよ?」

「俺は暑さを感じないって言ったじゃんか」

「うへ~。そうだったね~」

「どちらかというと、先に溶けるのはホシノじゃないか?」

 

 随分と気持ちよさそうに寝ころんでいる。

 両手を広げ、大の字で寝ころぶホシノの横腹を指でつつく。

 

「うへ!」

「前も言ったけどさ、眠いなら夜のパトロールくらい俺がやるって」

「いやぁ……」

「ホシノは学校あるんだし」

 

 二年前の秋からだった。

 アビドスの治安を見かねて、夜間パトロールを行うことにしていた。

 その時は俺も学校にいたし、ここの生徒もホシノだけだったから、寝たって良かったのだが。

 今は立派な先輩となったホシノに、堂々とさぼりをさせる訳にはいかない。

 

 そんな思いから、何度か夜間パトロールは俺だけでやるといっているのだが、いつも断られるのだ。

 その理由が――

 

「折角、カナメさんと話せる時間だし……」

「……それは昼間のこういう時間とかでさ」

「たった今、学校があるといった人は誰だったかなぁ」

「寝なければいいんだよ」

 

 そういわれてしまえば、断りづらく。

 結局はズルズルと先延ばしにしていた。

 

 他愛もない軽口を言い合う。

 日常となったこの会話は、今でも心地よさを感じる。

 

「今日も平和だねぇ……」

「最近体なまってるんじゃない?久しぶりに組手でもやる?」

「私に合法痴漢したいってこと?」

「え?誰が言った?」

 

 この二年間で強くなることを目標に、頑張っていたのだ。

 勿論、ホシノは組手やら銃の訓練に付き合ってくれた。

 今では銃も体の使い方も随分と慣れてきた。

 そこには、恐怖(テラー)の影響も大きかった。

 

「痴漢の件は考えておくねぇ~」

「痴漢とかしたことあったかい?」

「女子高生の身体を触ったらもう痴漢だよ」

「今からでも間に合うかな、ヴァルキューレ」

「冗談だって~」

 

 非常に心に悪い嘘だ。

 高校生ではなくなった俺には、効果抜群の脅しだった。

 

 くだらないことをいつものように話していた。

 

 そんな時。

 

「ホシノ先輩!またこんな所で――」

 

「「あ」」

 

「は?」

 

 屋上の扉を開け放った少女がいた。

 

 いつもなら、扉が開く前には隠れられていた。

 だが、今日は気を抜いていた。

 その原因のホシノは、真っ青な顔をしている。

 

 口を見ていれば、何やら動いていた。

 よく観察すると。

 

 ゆ

 

 だ

 

 ん

 

 し

 

 た

 

 やはり、夜間のパトロールは俺だけでやろう。

 寝不足のせいで油断していた、そう思いたい。

 

 

 俺とホシノが出会ってから二年後。

 

 ホシノと俺の関係がばれたのは、この日だった。

 

 




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