銃を持つ少女たちと死に損ないのブルーアーカイブ   作:蒼雲しろ

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巡り巡って、始めまして。

「だッ──」

 

 体をわなわなと震わせ、こぶしを握り締めている。

 黒い髪を水色のリボンで左右に束ねた少女だった。

 深紅の瞳がこちらを射抜くように睨みつけ、頭についた黒の猫耳が小刻みに跳ねている。

 

「誰よあんた‼」

 

 堪えきれなくなった怒号を叩きつけられる。

 手に持っていた銃──アサルトライフルと思われる黒の銃口が、迷いなくこちらを向く。

 

「何してる!ホシノ先輩から離れろ!」

 

 次の瞬間、銃弾が飛来する。

 

 乾いた銃声と共に、弾丸が胸に叩き込まれる。

 衝撃だけが残り、弾は潰れたように力を失って落ちた。

 

 カラン、と音が鳴った。

 

 それでも銃声は止まず。

 撃ち込まれる弾丸。

 次々と床に乾いた音を立てて転がっていく。

 

 ホシノは未だ、青いマットの上で顔を青くしている。

 

 このままでは完全に敵扱いだ。

 

 下手に動いて刺激しないように、その場に立ちながらホシノに声をかける。

 

「ホシノ!ホシノが話さないと!」

「──う、うん!」

 

 はっとしたホシノが、マットから体を起こすと同時に、猫耳の少女へと駆け出す。

 

 その際も、銃口は俺から外れない。

 ホシノを横目に見つつ俺に狙いを定めている。

 

「先輩!大丈夫⁉」

「セリカちゃん!この人は大丈夫だから!」

 

 ホシノが駆け寄ると同時に、銃に手を添える。

 押し下げるようにしながら、必死に訴えかけていた。

 

「え?」

「そ、そうなの……?」

 

 ホシノの説得に落ち着いてきたのか、少し勢いが落ちた。

 

 睨みつけていた目元が、ほんの少し緩んだ気がした。

 セリカさんは何度か瞬きを繰り返し、俺を見つめている。

 

「……ホシノ先輩に何かしようとしてた?」

「俺、何もしてないっす」

 

 腕を左右に振って否定し、そのまま上にあげる。

 無抵抗の意思表示である。

 

「なにさ、その口調」

「いや……ね?」

 

 初対面の人との会話と言うのは、距離感が掴みにくくてやけに疲れる。

 

 そんなやり取りの中、セリカさんはどこか疑いを捨てきれていない様子だ。

 

「うーん……」

 

 ホシノの一歩前に立ち、ジトっとした目でこちらを見つめてくる。

 猫特有の警戒心……だろうか。

 

「どうやら警戒されてるっぽいね。どうにかできない?」

「解くのは難しいかなぁ」

 

 ホシノからお手上げの声が上がった。

 それなら、俺にできることもない。

 

 諦めムードで、逃げてやろうかと思っていたとき。

 ホシノのアホ毛がまっすぐ上に立った。

 

 目が輝くホシノが、セリカさんの耳元で何かを話していた。

 

 耳元……猫の方ではない耳である。

 アホ毛と猫耳が跳ねる。

 

 やけに感情豊かだ。

 

 そして、アホ毛と猫耳の動きが止まると同時に、猫耳は下がる。

 そして、そのまま頭を下げた。

 

「……ごめんなさい……」

 

 何を話したのだろうか。

 ホシノの方に視線を向ければ、いたずらっぽく笑っている。

 

「まあ、状況的には俺が怪しくなるのも納得だから」

 

 先ほどの威勢は何処に行ったのかといった具合のうなだれ方だ。

 後でそれは、ホシノに問い詰めるとしよう。

 

「先輩思いでいい後輩じゃん」

「でしょ?自慢の後輩だよ」

 

 何よりも、ホシノを心配して立ち向かってくるほどだ。

 いい子なのは間違いない。

……突然襲い掛かるのはどうかと思うが。

 かつてない、学校におけるハプニングに遭遇した俺たち二人は、顔を見合せ笑った。

 

「なんだか感慨深いな~」

「そうだね~」

 

 二年前に比べ、賑やかになった学校。

 いつの間にか先輩になったホシノが慕われているのは、俺にとってもうれしいことだった。

 

「私……置いてきぼりなんだけど」

 

 頬を膨らませて、放置されていることに異議を申し立てる。

 本当に猫みたいな反応をする子だった。

 

「……とにかく!説明はしてもらうから二人とも一回来て!」

「拒否権とか」

「ないと思うよ~……」

 

 ホシノと二人して手を捕まれ、連れていかれそうになった時だった。

 

 横目に見えた校門。

 その方角から、大人数の影が見える。

 10……20くらいだろうか?

 

「ちょっと待って」

「なに?」

「……」

 

 二人を止める。

 セリカさんは呆けた表情をしているが、ホシノは気が付いたようだった。

 目を細めて校門の方向を見ていた。

 

「敵襲だ」

「セリカちゃん、みんなに伝えてきてくれる?」

「わかったけど……先輩たちは……?」

 

 こちらを見るホシノ。

 

「みんなが来るまで、門で待ってようかな〜」

「え?戦うの?」

 

 思わずこれが漏れ出る。

 それもそのはず、今日はいつもの銃とは違うのだ。

 今日という日に限って戦う準備をしてきていない自分が恨めしい。

 

「いや〜?待つだけだって」

「……言ったね?」

 

 後ろで口を開けたり閉めたりしているセリカさんに、みんなを呼んでくるようもう一度頼む。

 

 次の瞬間、迷いなく屋上から空へ踏み出す。

 視界が一気に落下し、風が頬を叩いた。

 

 隣のホシノは、いつも通りの気の抜けた顔で落ちていた。

 

 

 ────────

 

 

「みんな!」

 

 勢いよく扉を開けたセリカに、皆が目を丸くする。

 乱暴に開け放った扉が壁にぶつかり、鈍い音を立てる。

 何事かと身構える中、扉を開けた勢いのままで言葉を発した。

 

「敵襲!校門からくるって!」

「なんでわかって……というかホシノ先輩はどこですか?」

「外!……その、あ、とにかく来て!」

 

 なんだか落ち着かない様子のセリカを宥めようとするアヤネ。

 セリカは深呼吸を一度だけし、多少落ち着いた声色で説明を始めた。

 

「ホシノ先輩が屋上で知らない男の人と話してて、敵が見えたって言ってたの。先輩とその人はもう行っちゃったから、私たちも急がないとって」

 

 一瞬、全員の思考が止まった。

 ホシノと男の人というある意味でも結びつくことのない言葉の関係性を理解するのに時間を要してしまった。

 

 流石に、このままではまずいと思ったセリカが皆に声をかけたことで、正気を取り戻したアビドスの生徒。

 

「よくわからないですけど……」

「外にいる先輩に加勢しないとですね!」

「ん。とにかく行こう」

 

 各々準備を進める中、()は声を発する。

 

「皆」

「私が指揮を執ろうと思う」

 

 まだ、自己紹介すらままならない状況ではあるが、ここは一度問題対処に専念しよう。

 己の持つタブレットを握り締め、姿勢を正す。

 

「これでもシャーレの先生なんだ。戦う力はない。でも、指揮は任せてほしい」

 

 教室の雰囲気が、変わる。

 引き締まった声に呼応するように、皆の表情も真剣なものに変わった。

 

「お願い。先生」

「私は先生のサポートを!」

「みんなで出撃です☆」

 

 快く受け入れてくれた生徒たちに、心が温まる。

 銃を持った皆と共に教室を去って、外に向かうと。

 

 校門の先。

 そこにある光景は、信じられないものであった。

 

 

 ────────

 

 

「結局戦うじゃん」

「しょうがないでしょ~?あっちから攻撃してきたんだし」

「こうなることはわかってたんだろうに」

「さぁ~。なんのことだろうね~」

 

 二人して話しながら、敵の銃弾を避ける。

 そして、握っている一丁の拳銃でヘルメットのシールド目掛けて、一発。

 砕けると同時に、地に倒れる。

 

 ホシノはあまり攻撃せずに、持っていた盾で攻撃を防ぐことに専念している。

 

 殆どをいなし終える。

 地面を見やれば、倒れる24のヘルメットをかぶった生徒。

 

 

 残るリーダーと思しき人物に近づく。

 弾丸を、一発。

 

「いだっ!なっ、やめ!」

 

 続けて、一発。

 もう一発。

 一発。

 一発。

 

「いだだだだ‼」

「痛くないよー。早くおうちに帰ろうねー」

 

 割れたシールドから覗く表情を見れば、今にも泣きそうといったところだった。

 自分たちから攻めてきたので、特に容赦することもないと思いながら、拳銃を撃っていた。

 

「何……これ」

「これは……」

 

 不意に背後から声が聞こえてくる。

 四人の生徒と思われる人と、一人の大人。

 一人が先ほどのセリカさんなのはわかったが、他の四人はわからなかった。

 

 特に、その中でも頭一つ抜けている大人の男性。

 明らかに生徒ではないことが分かるその風貌が、一際目立っている。

 

「あの二人はアビドスの生徒かな?」

「ピンク髪の人は私たちの先輩です。ですが……」

 

 そんな声が聞こえてくる。

 よくわからない状況になってしまった。

 

 そう思っていると、男の人がこちらに歩み寄ってくる。

 

「ちょっといいかな?」

 

 俺たちに話しかけてくる。

 といっても、今の状況では落ち着いて話ができない。

 

 話しかけてくる彼を制止して、足元で痛みに耐えているヘルメットの子に声をかける。

 

「ほれ、今日は見逃すから。これに懲りたらもうこないでね」

 

 銃口を下げ、敵対意思をなくす。

 それに怒りを覚えたのか、元々怒っていたのかはわからないが。

 体を小刻みに震わせ、若干見える顔は赤みがかっていた。

 

「クソッ!覚えてろよッ!」

 

 暴言を吐いたと同時に立ち上がり、周りの仲間を叩き起こしていく。

 そのまま慌てふためきながら全員逃げていくのだった。

 

「覚えておくから、来ないでね」

 

 

 ────────

 

 

 一息つくため、場所を変えた。

 対策委員会室には七人が集まり、不思議な空気が漂っている。

 生徒が五人と男が二人。

 男の方は成人したと思われる一人と、まだ19の俺だ。

 

「みんな、落ち着いた?」

 

 教室にいた、大人が一声かける。

 ここにきてから時間は経っていたので、皆の気分は落ち着きを取り戻している。

 

 冷静になってから思ったのは、この場所にいることに違和感が強くて、居心地が悪いということだった。

 

「えっと……状況を整理すると?」

 

 彼の取り仕切りの元、情報を整理していくことに。

 

「私が、屋上にホシノ先輩を呼びに行ったら、そこの男の人……先生じゃない人がいて」

 

 俺に視線が集まる。

 別にやましいことはないが、なんだか罪人の気分だ。

 

「ホシノ先輩が男の人を連れて……?」

「連れ込み……?」

「ホシノ先輩……?」

 

 絶対によくない捉えられ方をしているであろう単語が聞こえる。

 ……やけにノリのいい、後輩に恵まれたようで。

 それらの呟きを聞くや否や、ホシノが顔を真っ赤にして叫ぶ。

 

「違うよ!!!!!」

 

 なんなんだか、とても新鮮な状況だ。

 見たことのないホシノの一面に目を丸くしつつ、俺も話をしなければと思う。

 

「どちらかというと、俺が今日は訪ねてきた感じですね」

「会いに来た……?」

「今日は……?」

 

 ダメだった。

 確実に面倒ごとを増やした気がする。

 変な部分を拾われた。

 

 ほら、ホシノの顔がさっきよりもリンゴみたいに。

 これはもはやトマトと言った方がいいくらいだ。

 ……みずみずしさと大きさの関係でね。

 

「言葉の綾だからあんまり疑い深くならないでください⁈」

「後でお話、ね……」

「……うーっす」

 

 俺たちが会話すれば、アビドスの生徒たちは目を輝かせて聞いている。

 本当に何か変な誤解をされておりませんかね?

 

 収集のつかない状況を終わらせるのは、勿論彼だった。

 

「今の状況じゃ、みんな何もわからないと思う。まずは自己紹介をしよう」

 

 彼が話をすると、彼女らは落ち着いて先生の言葉に耳を傾ける。

 人をまとめる才能──カリスマ性とでもいうべきだろうか。

 セリカに先生と呼ばれただけあって、生徒の扱い方には目を見張るものがある。

 

 先生の行動に驚きながら、アビドスの生徒から自己紹介が始まった。

 

「私は二年の砂狼シロコ」

「先生は一番最初にあったからわかってると思うけど」

「そっちの人は初めまして」

 

 肩まで届く銀色の髪には、水色の十字架の形をしたヘアピンがついている。

 水色の目の瞳孔は左右で異なる白と黒、所謂オッドアイというやつだろうか。

 セリカさんと同様に、頭には耳が生えているが、こちらは狼の耳のよう。

 季節外れのマフラーが異様に目立つ少女だ。

 

「私は黒見セリカ」

 

 さっき屋上に上がってきた、ホシノ大好きっ子だ。

 チャームポイントの黒い猫耳が揺れていた。

 

「私は二年の十六夜ノノミと申します☆」

 

 腰辺りまで伸びる淡い金髪、その一部を黒いヘアゴムでくくっていた。

 薄緑の瞳と髪色が相まって、全体的におっとりとした雰囲気の少女だった。

 ワイシャツの上に黄色のカーディガンを羽織っていて、どこか大人っぽく感じる。

 

 ……なんか、引っかかるというか。

 ――ああ。

 

「改めまして。一年の奥空アヤネです」

 

 赤縁メガネをかける、黒髪の少女。

 見た目から受ける印象はまさしく真面目そのもの。

 肩上で揃った髪型に、シンプルな着こなしの制服を見てもそれが伝わってくる。

 

「小鳥遊ホシノだよ~。よろしくね、先生~」

 

 そして、最後に挨拶したのがホシノ。

 このメンバーの中では随分と背が小さく感じるが、彼女も少々コンプレックスに感じているようなので、触れないでおく。

 髪は腰まで伸びていて、俺が出会ってから変わらずにアホ毛が揺れている。

 

「以上五人が、アビドス高等学校廃坑対策委員会」

「よろしくね」

 

「よろしくお願いします」

「うん。よろしく」

 

 彼女たちの自己紹介を聞いていた時、ふと思い出したことがあったのだ。

 

 ノノミさんの方を向く。

 視線を向けられていることに気が付き、頭に疑問符が浮かんでいる。

 

「私になにか……?」

「言い忘れていたというか、思い出したことがあって」

 

 前置きをつげてから、頭を下げる。

 

「昔、助けられたことがあって。あの時はありがとうございました」

「昔……」

「2年前くらいかな?血まみれの──」

「ああ!」

 

 ぽん、と手を打ち、一気に表情が明るくなる。

 

「あの時は大丈夫でしたか……?」

「はい。おかげさまで」

 

 漸く、お礼を伝えられた。

 

 二年前……。

 柴さんと初めて出会い、アビドス高校までの帰り道を忘れてしまったとき。

 彼女が道を教えてくれた人だった。

 

 あの時とは少し変わっているが、髪と体格……いや、身長だ。

 それらがトリガーとなって思い出せた。

 

「なるほど……その時から」

「まあ、そうですね」

 

 どうやら事情を察したようだ。

 随分と察しがいいらしい。

 何処までわかったのかわからないが、変なところで繋がりができてしまった。

 

「ノノミ先輩も、この方と関りが?」

「昔、道案内をしたのを覚えてくださっていたんです」

「なるほど……」

 

 俺への視線が先ほどよりも、探るようなものになった。

 その中でも、人一倍強い眼光で睨みつけてくるのが、桃色の少女。

 見た目は笑っている。

 でも、目元はどう見ても笑っているとは言えない。

 

 後で話すから、今は勘弁してくれませんかね……。

 

「お客さんが二人来るなんて……」

「先生はシロコ先輩が拉致してきたし」

「……してない」

 

 単純に、来客を喜んでいる会話だと思いきや、不穏な単語が聞こえる。

 先生、貴方拉致されたんですか?

 

「私も自己紹介をしようか」

 

 タイミングとしてはベストな場面で話し始める、先生と呼ばれる大人。

 胸元に吊り下げられたカードホルダーには、何かの記号が見える。

 

「私は『連邦捜査部シャーレ』の顧問先生だよ。よろしくね」

 

 皆一様に挨拶をする。

 

 連邦捜査部。

 聞きなれない名前である。

 そもそも、先生という存在がいたのかということに驚きである。

 この二年間で見たことがない、俺にとって「先生」は過去の存在だった。

 

「じゃあ、最後に」

 

 一言添えてから、話し始める。

 

彩依(あやい)カナメです。えっと…………よろしくお願いします」

 

 話そうと思ったが、何を話せばいいかわからず、空白の時間が生まれた。

 変にしゃべろうとしなければよかった。

 

 自己紹介特有の後悔が襲い掛かってくる。

 

「よろしくね」

 

 一人反省会中の俺にかけられた声。

 先生はこちらを見ている。

 

「お願いします……えっと、俺も先生って呼んでいいですかね」

 

 首肯した。

 よく見れば、黒服ほどではないが、随分とスーツが似合う大人だった。

 灰色のスーツはボタンを外していて、ラフな状態だった。

 

「よろしくね。カナメくん」

 

 こちらを向き、微笑んだ。

 

 その際に。

 

 胸元から覗く、()()()()()()()

 

「……」

「どうかした?」

「先生」

 

 その端末を指をさす。

 

「それって何ですか?」

「ああ、これかい?」

 

 胸元のポケットから、取り出す。

 

「私が、仕事用に使ってる端末だよ」

 

 外観があらわになる。

 胸元から見えていただけでは、核心を得られなかったが、今ならわかる。

 今の時代では見なくなった、ホームボタンが付いた銀色のタブレット。

 

 なんで。

 

 なんでそれがそこにあるんだ。

 

 

 

──シッテムの箱

 

 

 




閲覧ありがとうございます~!

第0編はこれにて終わりとなります。
あとは閑話を少々投下して、そのまま第1編に突っ込んでいきたいです。
投稿頻度は落ちるのでご容赦ください。
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