銃を持つ少女たちと死に損ないのブルーアーカイブ   作:蒼雲しろ

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旧作と同じ内容です。


閑話 砂集め

 夏と秋の境。

 まだまだ砂の国は暑さを手放す気はなさそうだった。

 

 学校というものがない俺にとっては、相変わらず暇な日々が続いていた。

 結局は学校にいるか砂漠か紫関ラーメンに行くかの三択しかなかったのだ。

 そして、今日は学校にいる日だった。

 やっぱり何もやることがないので廊下で歩き回っている。

 

 ホシノのおかげで、絶賛学校暮らし中の俺。

 ここ数日過ごしてみて、少し気になったことがある。

 

「流石に校舎が汚すぎじゃないか?」

 

 砂に覆われた廊下。

 下に見えるはずの青い床は、殆ど見えない。

 

「……仕方ないじゃないですか。私しかいなかったんですから」

 

 唇を尖らせ、視線を外すホシノ。

 掃除しないといけないという気持ちはあるようなので、提案してみる。

 

「掃除するか」

「……」

 

 返事がない。

 視線は窓の方へ向けられ、額から汗が流れる。

 

「嫌なのか?」

「いえ」

「実はめんどくさがり屋だったり?」

「違います」

 

 あまり乗り気ではなさそうだ。

 顔を覗き込もうとすれば、そっぽを向かれる。

 

 このまま聞いていても、答えてくれそうにない。

 ひとまず気にせず進めることにした。

 

「やるよ?」

 

 変わらず渋い顔のまま、小さく一言だけ発した。

 

「ど……うぞ」

「りょーかい」

 

 返事が聞けたので、腕をまくる。

 

 傍の教室にある掃除用具入れから、箒と塵取りを取り出す。

 学校で使っていた道具たちが、随分と久しぶりな気がしてしまう。

 そんなに日数は経ってないけども。

 

「掃除も久しぶりか」

 

 息を吐いて、廊下の突き当りまで向かう。

 

「やるかぁ。結構砂たまってるし、やりがいありそうだな」

「一人で何喋ってるんですか」

 

 後ろから声がかかってきた。

 驚いて振り返ってみれば、箒を持ったホシノがいた。

 

 あんな反応をするものだから、やらないだと勝手に思っていた。

 

「掃除やるの?」

「誰もやらないとは言ってません」

「なんかやりたくなさそうだったからやらないのかなーって」

 

 やはり少し黙り込んでしまう。

 しかし、今度は話をしてくれた。

 

「……1回だけ掃除をしたことがあるんですよ」

「そうなの?」

「はい。その時はユメ先輩もいて、二人でやってたんですけど――」

 

 窓から見える空を、遠い目をしながら見つめている。

 乾いた笑いが零れ落ちる。

 

「掃除した途端に、砂嵐が起こってですね」

「砂が校内に入ってきたんですよ」

「え」

「掃除しても結局汚れると思うと、別にいいかなって……」

 

 それは……

 

「ただのめんどくさがりじゃないか」

「違います。効率的に考えて、やらなくていいことだと思ったのでやってなかっただけです」 

「え、だから――」

「違います」

「お顔が怖いですよ……」

 

 表情は笑っているのに、目が笑ってない。

 こうして見ると、結構な頻度で表情が険しくなってるように思えた。

 出会ったときからただでさえ眉間にしわが寄っていたのだ。

 険しい表情がデフォルトに感じてしまう。

 

 俺のせいでないことを祈っておく。

 

「別に怒ってるわけじゃないですから」

「……ほんと?」

 

 ため息をつきながらそう告げた。

 怒ってないなら、特に問題はない。

 

「可愛くない顔ですみませんね」

 

 ……?

 

「誰もそんなこと言ってないので、1回落ち着いて鏡でも見てきたらどうでしょうか。きっと美少女が見えますよ」

 

 箒を掃こうとする手が止まった。

 窓の方を見たと思えば、次は床を見て掃除を始めた。

 

 視線が右往左往する中、言葉が飛んでくる。

 

「――うるさい黙って掃除してください」

 

 箒の強めの一撃が背中を襲う。

 

「……うす」

 

 背中を摩ろうとしながら、気づく。

 桃色の髪の隙間から、赤く染まった小さな耳が覗く。

 

 もしかして、照れてる?

 照れ隠しの攻撃?

 

 これだけで照れるなんて……案外ちょろいのかもしれない。

 

 必死に砂を集めるホシノが面白く見えた。

 

 そうして、二人で廊下の砂を集め始める。

 箒を使って集めては、塵取りで窓から捨てる。

 

 始めの方は、塵取りだけで砂を集めて捨てられるほど砂で覆われていた。

 世間話をしながら掃除を続ける俺とホシノは一、二時間に及ぶ格闘の末、砂を殆ど取り除くことができていた。

 

「結構きれいになったな」

 

 廊下を見渡せば、砂は殆どなくなっている。

 掃除が思ったよりもハードで、汗が額を流れ続けていた。

 

「ありがとうございます」

「こちらこそ。いつも使わせてもらってるからね」

 

 こちらから何か返せている気がしないので、こういうタイミングで手伝っておかないと。

 機会を逃すのだけはごめんだ。

 

 そんなことを思っていたら、思わぬ問題を叩きつけられる。

 

「そうですよ。いつまで使うんですか」

「そうだよね~」

 

 いつまでもここにいる訳にはいかない。

 早いうちに住める場所を見つけて、お金を稼がなければ。

 となれば、砂漠探索をする時が来るだろう。

 

「早いうちに出ていくよ」

「――別に、良いんじゃないですか」

 

 ホシノはそう告げた。

 いつまで使うのかと責めてきたと思えば、次の瞬間には使ってもいいと。

 

「どうせ人なんて来ないんですから、使いたいだけ使えば」

 

 何ともないといった顔で、こちらを見つめてくる。

 

「いいや。流石にここに居座るのも申し訳ないし、自分の部屋が欲しいよ」

 

 ……もの置いたりさ、買ったご飯だけだと健康に悪いし。

 いい加減床は痛くなってきたので、ベッドとかも欲しいよ。

 

「……」

 

 表情が少し曇ったような気がした。

 先ほどから、俺がここにいる方が都合のよさそうな反応を示す。

 どうなのだろうか。

 

「住むならこの辺だから」

「それなら……」

 

 

 思ったよりも反応が返ってきた。

 もしや。

 

「心配なくても、勝手にどっか行くことはないよ」

 

 茶化すつもりで言ってみた。

 

「心配してません別にどうでもいいです」

 

 急変したように冷たい態度になった。

 そっぽを向いて、横を歩いて行く。

 

 だが、通り過ぎる瞬間に見えた表情は、いつもより少し明るい。

 心なし揺れているように感じる背中を見ながら思った。

 

 言葉とは裏腹な表情に見えた照れ隠しが。

 なんだかかわいく思えた。

 

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