銃を持つ少女たちと死に損ないのブルーアーカイブ   作:蒼雲しろ

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ちょっと遠くに

「ありがとうございます。先生」

「いいや、このくらい大したことないよ。アヤネもお疲れ様!」

 

 皆で紫関ラーメンを食べた翌日。

 シャーレから届いた補給品を整理しながら、アヤネは少女らしい柔らかな表情で照れたように笑っている。

 

 朝から校内を回っているとき、教室に影が見えたので入ってみれば、補給品を整理している彼女を見つけた。

 手伝いを申し出たところ了承を得たので、こうして共に作業をしていた。

 

 作業もひと段落ついたとき、教室の扉が開いた。

 

「お、いたいた。アヤネさんと先生、おはようございます」

「お、おはようございます!」

「カナメくん、おはよう!」

 

 教室の入り口に現れたのは、カナメくんだった。

 扉から顔を覗かせて、室内を見渡していた。

 

「急で悪いんですけど、ホシノがどこに居るか知ってます?」

「えっと……私もわからなくて」

 

 アヤネが困ったように眉を下げ、力なく笑う。

 

「今日、返済だよね? 早めに準備させないとと思って探してるんだけど」

「……そうですね」

「何かあるのかい?」

 

 重苦しい沈黙が流れる。

 カナメくんもアヤネも、視線を逸らしている。

 

 私には言えないことなのだろうか。

 

「遅かれ早かれ言うことにはなるだろうし、どうする?」

「そう……ですね。私は準備をするので、カナメさんが──」

「いや。俺が準備してくるから、アヤネさんは説明をお願い」

「え……ですが」

「俺が説明するより、現状を知ってる人の方がいいと思うから、お願いします」

「鍵が……」

 

 アヤネが何かを言い終える前に、カナメくんは歩きだしていた。

 手に持った鍵を見つめたまま、アヤネは小さく呟いた。

 

「渡しそびれました」

「多分、開けられるんじゃないかな?」

「そうですね、話の雰囲気的には詳しく知っていそうだったので」

 

 彼女たちは何かを抱えているのだろうか。

 それを訪ねるべく、アヤネの方に向き直る。

 

 視線が交差する。

 暫しの逡巡の色が見えた後、意思を灯した強い瞳がこちらに向いた。

 そうして、口を開いた。

 

「何が起こってるか分からないですよね……なので、お話します。私たち対策委員会が抱え続けている問題について」

 

 そこから告げられたのは、予想だにしていない出来事と数字だった。

 

「アビドス──いえ、対策委員会には、現在返済しなければいけない莫大な借金があります」

「借金?」

 

 思わず、聞き返していた。

 

「はい。正確な金額は──『9億6235万円』。これを返済できなければ、学校は銀行の手に渡り、廃坑手続きを取らざる負えなくなります」

 

 数字が、頭の中で反響した。

 ──9億。

 大人でも、一生かけて手にできるかどうかわからない額だ。

 それを、高校生が背負っている。

 

「9億……?! 何が……いや、そもそもどうしてそんな──」

 

 言葉が途中で霧散した。

 後半はほとんど独り言になってしまい、アヤネには届いていなかった。

 それでも、アヤネは淡々と続けた。

 

「実際に完済できる可能性も0に等しく、ほとんどの生徒はあきらめてこの学校と街を捨てて去ってしまいました」

 

 この二日間の記憶がフラッシュバックする。

 砂漠に覆われた郊外。

 誰もいない住宅街。

 廃墟のような街並み。

 

 あれは、ただの自然現象ではなかったのだ。

 人が去り、街が死んでいく。

 その根っこには、負債による原因があった。

 

「アビドスの現状は……この借金がすべてにおいての原因だとも言えます」

「……どうして、そんなに莫大な借金があるんだい?」

 

 話すのを躊躇っていた程の内容だ。

 あまり聞かれたくない内容かもしれない。

 しかし、ここで聞かないことには、私に出来ることもはっきりしないのだ。

 できることがあるならば、助ける。

 そのために、ここにいるのだから。

 

「数十年前、この学校の郊外にある砂漠で砂嵐が起こったのです」

「私も、ここに来る前にアビドスでは砂嵐が起こったことで人が少なくなったとは聞いていたよ」

「そうだったのですか。……以前からこの地域での砂嵐は珍しいものではなかったのです。しかし、その時の砂嵐は想像を絶するものでした」

「その自然災害を克服するためには、我が校は多額の資金を投入するしかなかったのです」

 

 自治区を運営する高校にのしかかる、責任の重さ。

 逃げることも、見なかったふりをすることも、できなかった。

 それがわかるから、余計に胸に来るものがあった。

 

「銀行に融資を募るも、このような片田舎の学校なのでなかなか集まらず……」

「──結局は悪徳な金融業者にお金を借りるしかなくなっちゃったってわけです」

 

 ドアを開けて戻ってきたカナメくんがそう言った。

 

 つまりは、不可抗力による最終手段が、今もなおこの子たちにのしかかり続けている。

 

「始めのうちはすぐに返済できる算段だったのでしょう。しかし、砂嵐は毎年着々と規模を増していきまして……」

「努力も虚しく……ってことだね」

「はい……」

「最終的に、今のように砂漠化して、借金が返せないほどになってしまった。ということです」

 

 しかし、頭の中では数字がまだ鳴り続けていた。

 9億。

 解決しようにも、簡単には手をつけられない話だった。

 

 私がお金を払えばいいという単純な問題でもないのだろう。

 そもそも、シャーレ自体がお金をそこまで一学校に費やすことができるのか、だ。

 それに関しては、分からない。

 ……ただ。

 

 それをこの子達は望まないと思う。

 

「カナメくんがいた時は、この借金についてどういう方針をたてていたんだい?」

「……まともな方針は立ってないですよ。そもそも、今よりも少ない人数だったので、お金を稼ぐことすらままならない状況でしたから」

「それでも、何とか利子には少し届かないくらいまでは貯めて返済できる分はしてました」

「そうだったんだね……」

「私たちも、自分たちの力だけでは、毎月分の利息分を返済するだけで精一杯で……」

「それでも十分凄いことだよ」

「そうですね、高校生五人が──何百万も返済できるのはあり得ないことだと思うよ」

「……ありがとうございます」

 

 力なく微笑んだアヤネ。

 彼女達にとっての精一杯の力を振り絞っても、返済までほんの1ミリも近づくことはできない。

 それが、どれだけのもどかしさや苦痛に繋がっているかなど、経験していない私には理解しえないことだと。

 そう思わせるほど、痛々しい笑い方だった。

 

「ですので、弾薬などの補給品をいただけたことには本当に感謝しています。購入する余裕もなかったので」

「このくらいならいくらでもやるよ。なにせ、シャーレの先生だからね」

「頼もしいですね」

 

 その言葉は素直に嬉しかった。

 でも、このくらいしか、まだできていない。

 もっと、彼女たちの力になれる方法を探さなければ。

 今すぐではなくても、必ず。

 

「そろそろ、業者が来るから校門まで行きますか」

 

 カナメくんからの声掛けで、校舎を出て校門まで歩いて行く。

 校門付近で暫く待っていると、車が前に止まる。

 運転席のドアが開き、一人の銀行員(ロボット)が下りてきた。

 大量のお金をカナメくんとアヤネが積み込み、銀行員が確認をする。

 

「……お待たせしました。変動金利等を諸々適用し、利息は788万3250円ですね」

「カイザーローンとお取引いただき、毎度ありがとうございます。来月もよろしくお願いいたします」

 

 それが終わればそそくさと車に乗り込み、去っていった。

 

「行ったね」

「そうですね……」

「こんな額を支払うのも骨が折れるね……」

 

 校門から去っていく車の背を見ていると、途中で破裂音のようなものが聞こえた。

 そのまま車体は右に傾いていき、横転した。

 

 ……どうやらパンクしてしまったようだった。

 助手席側から這い上がってきた銀行員は、何とか車を立て直そうとしているが、全くもって動く気配がなかった。

 その後は諦めたのか、車にもたれかかってどこかに電話をかけているようだった。

 

「あれ……」

「まあ、日ごろお金を取られてる分、あのくらいの不幸があったっていいと思いますよ」

「……そうですね」

 

 カナメくんとアヤネの目は、動くことなくそちらを見つめていた。

 一見すれば、普通に見ているだけだったが、眼力が半端じゃない。

 

「念のため聞くんだけど、カナメくんがやったわけではないんだよね?」

「当り前じゃないですか。そんな危険なことしませんよ」

 

 さわやかスマイルを向けられる。

 ……どっちだろうか。

 

「ありがとうございます、カナメさん」

「どういたしまして。俺はホシノを探したらちょっと用事あるので」

 

 そう言って、カナメくんは校門の方へと歩いていく。

 少し離れたところで振り返り、軽く手を上げた。

 

「先生も、また」

「うん。ありがとうね」

 

 その背中はすぐに砂の道に紛れ、見えなくなった。

 それを見送って、私とアヤネも対策委員会室に向かっていく。

 相変わらず静かな廊下には、私たちの足音が響くのみだった。

 

 対策委員会室の前にたどり着き、ドアをスライドして開けると。

 

「お疲れ様です~」

「お疲れ。アヤネ、先生」

 

 対策委員会室では二人が椅子に座って待っていた。

 今日姿を見るのは初めてだったことを思い出す。

 

 どこにいたのか話を聞けば、少し遠くへ朝からアルバイトに行っていたようだ。

 朝からのアルバイトも、セリカのアルバイトも。

 どれもが借金返済に繋がることだと思うと、この子達の献身がより一層感じられた。

 だからこそ、私も手伝いたいと心の底から思う。

 

 対策委員会室に集まる生徒は三人だけだった。

 この二日間で最も少ない人数。

 ただでさえ少人数なのに、こうも少ないと寂しさを感じる。

 

 そんな中アヤネは、ホワイトボードの前に立った。

 手に持っている水性ペンをボードに叩きつけ、声を張り上げる。

 

「そろそろ本格的に借金返済の方法について考えなくてはいけません!」

 

 席に着く生徒たち……ノノミとシロコはアヤネを見つめ、真剣な表情で頷いている。

 

「それにしても、なんだか人数が少ないですね……」

「ホシノ先輩は?」

「カナメくんが探しに行くって言ってたけど、見つからなかったのかな」

 

 五人中二人が行方不明の状態で会議が始まるかと思っていたが。

 ノノミとシロコの二人から質問が来た。

 

「そう言えば、先生は借金のことについては──」

「ついさっき聞いたよ」

「……聞いたんですか?」

「うん。朝、アヤネとカナメくんと三人で話していた時にね」

「それなら、先生」

 

 こちらを向く2人の表情は、取り繕った様な不格好な笑顔に見えた。

 

「別に、無理に手伝わなくてもいい」

「私たちはヘルメット団の問題を解決してもらっただけでも大助かりですので☆」

「だから、顧問になってくれても、借金は気にしなくていい」

「そうですね! これ以上迷惑をかけるのも申し訳ないですからね」

 

 そんなことを言われる。

「部外者は手を貸さなくていい」、そう思ってると考えてしまうのは、捻くれすぎだろうか。

 

 捻くれすぎだ。

 きっと、善意から来る言葉だろう。

 純粋にこれ以上迷惑をかけたくない、手間をかけさせたくないという思い。

 

 だからこそ、私は彼女達に伝えなければならないことがある。

 私だけハブるのは寂しい、と言わなければ行けない。

 

「顧問になったら、私も対策委員会の一人になるわけだよね。なら、手伝わせてほしいな。一員として」

「それって……」

「うん。対策委員会の顧問になってもいいかな?」

「わ~☆こちらこそです! よろしくお願いします! 先生!」

「ありがとう。よろしく、先生」

 

 こうして、晴れて対策委員会に対して、正式にシャーレとして協力をすることを誓った。

 あとはセリカとホシノにも拒否をされなければいいのだけれどね。

 

 話は横道に逸れてしまったが、アヤネ主導の元、また借金の話に戻ってくる。

 

 返済方法に関しては皆で考えるも……まともな案は出ず、全てを説明し切る前にアヤネによって却下されてしまった。

 

「中々案が思いつかないですね……」

「ん、やっぱり銀行を襲う」

「それはダメです! さっき却下しましたし」

「じゃあ、私のゴールドカードで支払いましょう!」

「うーん……」

 

 アヤネを納得させられる方法はなかったようだ。

 後、ノノミ。

 ……カードは、やめなさい。

 カードで一括払いとかロクなことにはならないよ。

 

「二人とも方法が大分突飛というか……」

「え〜? そんなこと言う先生は何かいい案があるのですか~?」

「銀行を襲う以外に何かあるの?」

「シロコに関しては頷けるけど。うーん、良い案か」

 

 楽に稼げる方法なんかないが、皆が楽しみながら稼げるものがあるのならそれを考えたい。

 要するに、危険が少なく比較的お金を稼げる。

 さらには五人全員でできるもの……。

 

 タブレットを取り出す。

 何か良い案がないか探してみることに。

 

 過去の学園データを見てみる。

 どの学園がどんなことを行っていたかを記した記録が連邦生徒会には残っている。

 それに書かれていることがアイデアにつながればいいと思うのだが。

 

 これは──

 

「アイドル……?」

「え?」

「おお!」

「アイドル?」

「みんなでアイドルをやってコンサートすれば──」

 

 過去、学園祭などのイベントでアイドルをやっていたという記事を見つけた。

 

 銃を使うような目に見えた危険は少なく、五人という丁度良い人数。

 更にはみんなの良さも活かせるような職業。

 ……コンサート代に、グッズ代、ファンクラブに。

 稼げる……稼げるぞ……!!

 

 思わず前のめりになりかけた、その時だった。

 

「おじさんにはちょっと厳しいかなー。それ」

 

 ふと、教室のドアの向こうから声が聞こえた。

 それと同時に、音を立ててドアが開いた。

 

 顔を覗かせたのは、桃色の髪を持つ少女──ホシノだった。

 登場と同時に、まだ眠そうな声で私の案をはっきりと否定した。

 

「ホ、ホシノ先輩?!」

「ホシノ先輩、どこ行ってたんですか?」

「また昼寝?」

「まあ、そんなとこかなぁ」

 

 ゆらゆらと歩いてきて、席につく。

 机に上半身を預けながら、視線だけはアヤネを向いている。

 

「返済の話? というか、先生にしたんだー」

「はい……隠すことでもないかなと思いまして。あとはカナメさんが『いずれ知ることになるだろうし』と」

「カナメさんがね。成程。……セリカちゃんはどうかねぇ」

「……そうですね。あの様子だと、納得はしてくれないんじゃないでしょうか」

 

 薄々感じてはいたことだが、セリカは私に対して強い警戒心を持っている。

 それは、部外者が来たことに対するものでもあり、大人という存在に対してもだろう。

 

「まあ、先生なら大丈夫だよ」

「……そうだといいけどね」

「おじさんたちのことをここまで気にかけてくれた大人は、先生が初めてだからさ。セリカちゃんももう少しすればわかってくれるよ」

「そうですね!」

「ん。今は辛抱」

「セリカちゃんも悪気は無いので」

「そうだね。ありがとう、みんな」

 

 言うは易し、先ずは、行動で示そう。

 それでもダメなら、また考えればいい。

 少しずつでも進んでいくことが大事なのだから。

 

「それでは、続きを考えたいのですが」

 

 アヤネの声に、明るい返事は返ってこなかった。

 

「これ以上は思いつかないですね……」

「ん……頭が回らない」

「どうしましょう……」

 

 行き詰ってしまった。

 机の上でうなだれる様子に、ひとまず気分転換の提案をしてみた。

 

「気分転換にさ、またラーメンを食べにでも行かない? セリカに聞いたら何か良い案があるかもだし!」

「……そう、ですね。少しリフレッシュしましょうか」

「ええ。お腹が空いていては戦えないですからね☆」

「早速行こう。ホシノ先輩も」

 

 一足先に教室を出ようとしていたシロコに誘われたホシノは、視線をそらしながら頬を搔いている。

 

「──ちょっと私は用事があるからさ。ごめんだけど、みんなだけで行ってくれる?」

「……ん、わかった」

「残念ですね……」

「うへ~。じゃあ、先生お願いね? おじさんがいない間は頼んだよー」

「わかった。任せて」

 

 気の抜けた声だった。

 アホ毛が揺れ、口元は笑っている。

 

 でも。

 

 教室を出る直前、ホシノは一度だけ振り返った。

 対策委員会室の中を、ゆっくりと見渡すように。

 シロコを。

 ノノミを。

 アヤネを。

 そして最後に、私を。

 

「──お願いね」

 

 それだけ言って、扉を閉めた。

 

 何かが引っかかった。

 でも、うまく言葉にならなかった。

 気のせいかもしれない。

 

 口を開きかけて、止める。

 

 結局は勘違いだと流し、残ったメンバーで紫関ラーメンへと歩みを進めた。

 

「というわけで、ここで考えることになったんだ」

「なんでよ?! 邪魔だからかえって!」

「まあまあ、そう言わずに~☆」

「ちょ、ちょっと! ノノミ先輩!」

 

 みんなでラーメンを食べ。

 今日は私がしっかりと支払いをした。

 生徒のためとは言え……お金が、無くなるなぁ。

 

 わかっていたことだが、話が進むことはなく。

 笑い声だけを残して、アビドス高校へと引き返すのだった。

 

 

 ────────

 

 

「ホント、みんなめんどくさいんだから」

 

 バイトが終わった夕暮れの帰り道、私は地面に転がっていた石を蹴りながらそうぼやいた。

 何度も何度も人のバイト先に来ては茶化して帰る。

 恥ずかしい気持ちと、騒がしい気持ちと、嬉しい気持ちと。

 綯い交ぜになって、結局いつも怒鳴ってしまう。

 

 それにしても、みんなして先生先生って、チヤホヤしちゃって。

 ホシノ先輩のことだし、わざと連れて来たに違いないわ。

 

 ……ふざけないでよ。

 私は、簡単には折れてやらないから。

 

「……帰ろう」

 

 一歩踏み出したとき。

 

 目の前に数人の最近見たようなヘルメットをかぶった族──ヘルメット団がぞろぞろとやってきた。

 

「何よ、あんたたち」

「黒見セリカ……だな?」

「あんたたちまだこの辺をうろついてるの?」

 

 銃を構える。

 

「ちょうどよかった。虫の居所が悪かったの。……二度とこのあたりに足を踏み入れないようにしてやるわ!」

 

 銃声が鳴り響く。

 音の方向は──背後。

 それを理解すると同時に、体に衝撃が走った。

 

 背後にも敵?!

 こいつら、最初から私を狙って──

 

「捉えろ!」

 

 その声が聞こえると、またもやどこからか音が聞こえてくる。

 何かの発射音。

 

 直後、背後から強烈な衝撃が全身を貫いた。

 肺から空気が根こそぎ抜けていく。

 膝が砂を叩く。

 崩れ落ちそうになる身体を、両腕でどうにか支えた。

 

「これは──Flak49改……?」

 

 火力支援用の、対装甲兵器。

 それを、対人に使った。

 

 頭の中で、最悪の答えが出揃う。

 

 最初から。

 私を、狙っていた。

 

「あ……」

 

 どうにかしなければと思う気持ちだけが、身体より遅れて浮かんだ。

 

 そのまま私の意識は、完全に闇に飲まれた。

 

 

 ────────

 

 

 夜も深まってきた頃。

 対策委員会室は静かな波にのまれていた。

 

「電話はしてみました?」

「……はい。でも数時間前から電源が入っていないみたいで……」

「──シロコちゃんも、つながらない?」

「ん……どうして……」

 

 慌てるアヤネとシロコを、ノノミが宥めているとき。

 対策委員会室の扉が開いた。

 

 奥からやってきたのは、先生一人だった。

 

「ごめん、遅くなったね。位置情報を調べていたんだけど……カナメくんは?」

 

 三人の視線が、一点に集まる。

 つい先ほどまでここにいた、もう一つの椅子へと。

 椅子は、床に倒れていた。

 

 シロコが口を開いた。

 

「……さっき、連絡が取れないってわかった瞬間に」

 

 誰も止める間もなく。

 誰も声をかける間もなく。

 カナメは扉を開け、廊下に消えていった。

 振り返りもしなかった。

 

「飛び出てった」

「──そうか」

「先生……」

「うん。今、連邦生徒会が管理するセントラルネットワークに接続して、端末の最終位置情報を調べてみたんだけど──」

 

 先生の視線は彼の持つタブレットに向いていた。

 電気のついていない教室で青白い光を発するそれは、先生の顔を照らし出した。

 

「セリカは、数時間前から接続が途切れている。最後の位置情報はここだったみたいだ」

 

 そう言って、先生が見せるマップには一本のピンが立っていた。

 そこは……。

 

「……砂漠化が進んでいる市街地の方ですか?」

「住民もいないし、廃墟になったエリア」

「このエリアは、以前危険要素を確認したときにカタカタヘルメット団の主力が集まっていると確認できたエリアです」

「情報から考えるに、帰宅途中に拉致されたようだね」

 

 教室には、重い空気が漂う。

 しかしまだ、話は終わっていなかった。

 

「先生……」

「──ホシノ先輩は?」

 

 シロコの言葉に、先生は険しい表情を一層強めた。

 

「端末の位置情報は、数時間前に切れていた。だけど、切れる前数十分は位置が変わっていなかったから、もしかすればまだ同じ場所にいるかもしれない」

「セリカちゃんとホシノ先輩……どちらも行方不明になるなんて……」

「……とにかく、助けに行かないと」

「そう……ですね」

 

 タブレットを操作する。

 モモトークを開く。

 

 画面に映し出されるのは、先日好感したばかりのカナメくんとのトーク画面。

 

「カナメくんに連絡を取る。彼には……ホシノを探してもらおう。そして、私たちでセリカを救いに行こう」

「わかりました」

「ん。取り返しに行く」

「絶対に助けましょう」

「ホシノもセリカも救って、何があったかちゃんと話を聞かないとね」

 

 

 ────────

 

 

 走る。

 

 この二年間でアスファルトよりも、土よりも――何よりも走り慣れた砂漠を。

 

 日はとっくに沈み、明かり一つない砂漠を走り回っているとき、コール音が鳴る。

 通話相手は先生だった。

 

 応答する。

 電話越しに聞こえてくる声は、普段よりも引き締まった声だった。

 

『ホシノの最後の位置情報が分かったよ』

「どこですか?」

『その……モモトークでは一人行動をお願いしちゃったけど、大丈夫?』

「まあ、セリカさんも行方不明なら手分けしたほうがいいでしょうし」

『ありがとう。危なそうだったらいつでも連絡してほしいのと……位置情報は今送る。確認した感じ砂漠で、更にはどこかの基地っぽいんだけど……』

 

 先生から座標が送られて来た後に、自動でピンが刺さったマップが表示された。

 ピンの近くには位置情報も記載されていた。

 

「カイザーPMCの基地って書いてありますね」

 

 カイザー。

 この土地に侵略してきている企業の一つ。

 

 何度か、対面したことがあった。

 

 ローンの返済相手もカイザー。

 街へと進出してきているのもカイザー。

 

 正直、良い印象もないし、悪い話を聞くことの方が多い。

 

「後は、俺が行くんで。先生はセリカさんをお願いします」

『気を付けてね』

「先生も」

 

 そこで、電話は途切れる。

 

 ホシノが、そこに行く理由に関しては確実な予想はできないが。

 凡そ、何らかの取引だとかを持ち掛けられているのだろう。

 

 奴らがホシノに関わる理由なんか、それ(アビドス)が目的でしかない。

 

 

 まあ。

 どうであろうと、俺のやることは変わらない。

 

 ホシノさえ救えれば、それでいいから。

 

 

 先ほどまで先生と会話をしていた端末──スマートウォッチに声をかける。

 月光に照らされ黒く輝く機体が特徴的だった。

 

「マップの表示ありがと」

『このくらいお安い御用です』

「頼もしいなぁ。それじゃあ、ついでに案内、お願いしてもいい?」

『お任せください』

「スーパーAIの力を見せてよね」

『勿論です。──カナメ様』

 

 その呼び方には、まだ慣れない。

 でも今は、それどころじゃなかった。

 




閲覧ありがとうございます~!

文字数が増えてしまって投稿がゆっくりに。
これからもゆっくりになります。
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