銃を持つ少女たちと死に損ないのブルーアーカイブ 作:蒼雲しろ
今年は何卒ご容赦を。
変なタイミングで書き始めた自分が悪いのですが、勉強しないとならぬのです。
ちょこちょこ書きますので。
来年にはいっぱい書けるように今ガンパりますね……
「契約……ですか。まさか貴方から持ちかけられるとは思いもしませんでした」
そういいながらも、予想外といった様子は見えない。
先程から一切態度を変えることのない黒服。
揺れる光は、心なしか普段よりも強く見える。
ホシノを攫った時点で俺がここまで来ることは想定済みに違いない。
だからこそ、契約が予想外という言葉は嘘。
俺が目的か、俺を利用したその先が目的か。
はたまた、別の何かを求めているのか。
一先ず、ここまで来ること自体看破されているわけだ。
俺が望むことを理解されている上で、交渉が進むということになる。
黒服の目的がはっきりしないからこそ、どう転ぶか分からないが。
「して、カナメさん。貴方が望むことはなんでしょうか?」
「わかっていることを聞く必要あるか?」
「はて、何のことでしょうか?」
とぼけるように首を傾げた黒服。
それに、と黒服は告げた。
「貴方の口から聞かなければ事実は知りえませんからね。それ相応の対応はしていかなければ」
つまりはこう言いたいのだろう。
要求を通すなら筋を通せ、と。
小さくため息をつき、次の言葉を紡いだ。
「俺の望みは、ホシノの解放」
「おや? それでよいのですか?」
返ってきたのは、あっさりとした回答だった。
特に突っかかってくるわけでも、こちらをもてあそぶようなそぶりもない。
ただ、一言。
それでよいのか。
てっきり、拒否されるもんだとは思っていたので、少々予想外ではある。
……断らなければホシノを攫った意味が無くなるのではないか?
つまり、ホシノ自体はあまり目的では無い……?
だからこそ、ほかに願うべき事柄があるかのような言葉に思える。
いや、ただの揺さぶりだろう。
俺の目的を知っているからこそのその言葉。
ここで少しでも決断が揺らげば、後の流れはどうとでも持っていけるだろうから。
そのためのジャブ。
……それ以外の可能性を深く考える、それ自体が黒服の術中にはまることになる気がした。
適当なところで思考を中断する。
「それでいい」
「たとえ──」
光の揺れが、わずかに変わった。
興味深げに光を放っていたそれが、ゆっくりと弧を描くように歪んでいく。
「彼女から望んでここに来ていたとしても、ですか?」
間髪入れず、口にした。
「それでも、解放してくれ」
「それは、彼女の意思を──」
「お前に――」
「お前に、何が分かるんだ」
別に、黒服の口からホシノのことを聞くために此処へ来たわけじゃない。
ホシノの意思だとか、そんなのは後で本人から聞けばいい。
話を逸らすような、あからさまな黒服の言葉に耳を傾ける訳がない。
まともに話す気がないのなら、こちらがまともに会話する義理もない。
「クックック……」
黒色の罅からこぼれでる光は、大きさを変化させながら、揺れているように映る。
瞬間的に間が生まれるが、すぐに言葉が飛んできた。
「お話をするような気分でも無さそうですね」
「当たり前だろ」
仲間を攫った張本人とのんびり会話できるわけが無い。
まして、まともに会話をする気がないならなおのことだ。
というより。
「逆に、ここで危害を加えてないことに感謝して欲しいくらいだ」
そのように告げるも、黒服の態度が変わるようなことはない。
むしろその逆で、再度口元が楽し気に歪んだ。
「加えられない、ではなくて?」
「加えてないだけだ」
「それは恐ろしいですね」
特段変わらない態度に、見透かされていることを思い知らされる。
未だに未知数な黒服。
それが戦闘ともなれば尚のこと。
何も情報がない状態で、無策に突撃するようなことだけは避けなければいけない。
ホシノがあちらの手の中にある状態なら、こっちは強制的に成り下がることになる。
少しでも黒服が余裕を崩してくれればいいと思ってはいるんだが……。
逆効果だっただろうか。
「あまり、焦りすぎるのもよろしくないといったところでしょうか」
やはり、見透かされているみたいだった。
余裕がない。
焦りが目に見えてわかる。
それだけで、状況としては更に不利になる。
よく思い知らされるし、こういったところまで抜けなく観察している相手のやりづらさを実感する。
話の主導権を握れないことに唇を噛みながら、ホシノを解放する話へと引き戻そうとする。
「それで、さっきの答えは──」
「焦りは禁物です」
諭すような声。
「何事にも順序というものがあります。それを理解できないあなたではないでしょう」
その瞳に、多少なりとも冷静さを取り戻した。
怒りや焦りが前面へと押し出されすぎていたみたいだ。
らしくない、とまでは言わないが、普段ならもう少しマシな対応ができていただろう。
「先ずは話をしましょう。もしや、ですが」
「自分の要求だけが通るなどとは、思っていないでしょうから……」
そう呟く黒服。
それに対して、俺は視線を逸らすことなく黒服に向け続ける。
黒服もまた、こちらを見つめる。
いい加減、話を終わらせたい。
ホシノを助けてから問題はいくらか残っている。
こんなところで──
「黒服、いい加減答えを聞かせてくれ」
「私としてはもう少し……」
「そこまで余裕があるわけじゃないのはお前もわかってるんだろ、要求があるなら御託はいいから早く伝えろ」
俺の言葉を聞けば、揺れる光が幾分か落ち着いた。
落ち着いた、と言えば聞こえは良いが。
それどころか、口角は元の位置に戻り、表情から色がなくなった。
「何故」
小さく呟いた。
それは、この閉鎖的な空間に酷く重く響いた。
「何故、そこまでして助けようとするのですか?」
繰り出されたのは、単純な疑問。
心の底から、理解ができないといった声色。
人の形をした化け物は、そんなことを聞いてきた。
「幾ら助けられたことがあるといっても、所詮は他人。自身の安全さえも投げ打って救出を試みる。その、動力はなんなのでしょうか。何故、あなたはそこまで彼女に固執しているのですか? 貴方をそこまで駆り立てるのは、彼女のなんですか?」
疑問、疑問、疑問。
絶え間なく続く問いは、俺の脳へと伝わる。
何故、ホシノに固執するのか。
何故か。
俺を見つめる視線は、一切の揺れがない。
黒服は、俺の返答を待ち望んでいるようだ。
ホシノを助ける理由、か。
「さあ?」
「……」
珍しいことだった。
黒服の動きが止まる。
瞳の位置で揺れる光は大きさを増し、まるで見開いているかのような様子へと変化した。
あっけに取られているような、その様子に。
優越感を感じた。
「答える気がないと、そのような解釈で構いませんか?」
「いや、ちゃんと答えた。俺にはその問いの答えがわからない」
険しくなる表情。
ここにきて、表情の移り変わりが激しい。
それほど、想定外であったようだ。
「明確な目的も、損得も考えたことがない。助けたいと思ったから助ける。それ以上のことを深く考えるつもりもないし、余裕もない」
黙りこくった黒服。
助けたい。
それ以上のナニカを、考えたことはない。
それだけで、十分だから。
それ以上のことを考える余裕なんか。
俺にもホシノにも、残っていないから。
「そうですか…………」
目を瞑ったまま、何度か頷くような仕草を見せる。
俺の言葉を咀嚼していた。
しばらく心臓の鼓動を聞いていた。
静寂を打ち破ったのは、黒服の笑い声だった。
「クックック……成程。これはまた、俄然面白くなってきましたね」
「楽しんでるとこ悪いんだが、早くホシノを返してほしいんだが」
その問いに。
ずっと返ってこなかった答えが、漸く耳を打った。
「構いませんよ。ここまで付き合ってもらったお礼も込めて、ホシノを解放しましょう」
「……ここまで貯めた割には、随分あっさりしてるようで」
「逆ですよ」
椅子に座り続けていた黒服は、初めてその腰を上げた。
ゆっくりと歩みを進めて。
俺の目の前で止まった。
「ここまで貯めたからこその結果です。私も貴方も、損なく徳を得て終わる。平和的ではありませんか?」
「ホシノを攫っていない状態での会話であれば、極めて平和的だったと俺も思うよ」
「私がホシノに危害を加えていないとしてもですか?」
「攫った時点で俺が交渉不利になるだろ。それの何が平和的なのか」
「誰も傷つくことがないのは平和的では?」
「だから……なんでもない、もういい」
黒服は、そうですか、とだけ呟く。
ようやくだ。
これ以上、ここに残る意味もなくなったわけで。
あとはホシノを回収して学校に戻れば終わり。
ホシノからたんまりと訳を聞いて、皆が納得するまで話し合いをすればいい。
……そんなことすれば、いつまでも終わらなくなるだろうが。
「契約だ、黒服」
そう口にして、黒服に再度視線を合わせる。
「俺が求める条件は、ホシノの解放」
「私が求める条件──すでにある程度のモノは貰いましたが……強いて言えば、貴方とホシノの観察を行うこと」
互いの条件は出揃った。
これで目的を達成できる。
敵に囲まれた時はいよいよ終わりかと感じたが、最終的には何とか運とメイのお陰でホシノの解放をこぎつけられた。
多少なりとも肩の力が抜けそうだ。
ようやく、ホシノを取り戻せる。
今はそれだけが、心を満たしている。
それにしても。
やっぱり、こういうところがあるから黒服の完全な敵にはなれないなぁ。
「ええ。それでは」
「契約成立──」
握手を交わそうとした時だった。
左腕に振動が伝わる。
慣れ親しんだその震えは、収まることがなく。
黒服にも振動音が聞こえたのか、動きを止めていた。
「何やら反応しているようですが」
「……後で大丈夫だ、先に契約を」
と口に出せば。
軽い電気ショックが腕を流れる。
「痛──」
「お先に確認されては? 握手に関しては形式的なものなのでそこまで気にされなくても問題ありませんので」
「じゃあ……」
なんだか気を使われたようだ。
二度目となるが、こう言うところなのだ。
左腕を胸の高さあたりまで持ち上げ、確認する。
画面に表示されているのは、二行の文だった。
『配管内の不規則な流れを感知……。原因特定進行中』
黒服が側にいるからか、音声を発することはなかった。
画面に映る文面を確認すれば、何やら不穏な空気を感じとる。
黒服が何か企んでいる可能性……
「黒服」
「はい?」
「配管に何か罠でも仕込んでるか?」
「……配管、ですか」
反応的には、知っているそぶりも、隠しているようなそぶりも感じ取れなかった。
演技でなければ、黒服の可能性は低そうだった。
考え込む黒服と俺。
配管の不規則な流れ……基地に張り巡らされた配管?
というか、あれって何が流れているんだろうか。
別に、基地のインフラ等に詳しいわけがないので、わかることなどなかった。
そんな時──
突如、声を上げたメイ。
『──カナメ様……‼︎』
この焦りように、心臓が跳ねた。
それに続き、黒服も顔を上げた。
「どうやら、不運に見舞われたようですね」
「は──」
わからずじまいなのは俺だけだったみたいだ。
だけど──
その直後、理解することとなった。
周囲の音に違和感を感じる。
説明できないような違和感。
配管の異常。
施設に張り巡らされた、管。
視線を上に向ければ。
もちろんのこと、その姿を視認した。
特に違和感は──
「カナメ!!」
「──っ?!」
急激に意識を覚醒させる。
いつの間にか横になっていた体が跳ね起きた。
初めに視界に飛び込んできたのは、銀色だった。
絹のような銀が、先程までのような基地の床ではなく、砂へと変化していた地面へと伸びていた。
それに加えて。
頭上で揺れている、銀の大きな獣耳。
銀の絹に括られた水色の十字のピン。
そこから視線を下げていくと、水色と黒色の生地が銀から覗いていた。
全体像が見えてくるに従って、目に映るものがなんなのか理解してきた。
ただ、同時に理解出来ないことにもなった。
目の前にいる人物。
それは、砂狼さんだった。
「砂狼さん……?」
思わず声が漏れ出てしまう。
何せ、黒見さんの救出へと向かっていた旨を先生から伝えられていたにもかかわらず、ここに来ている。
脳が少し熱を帯びる。
状況を理解するには少し時間が必要だ。
「カナメ! ホシノ先輩は?!」
衝撃が体を襲う。
肩を掴み掛かられ、銀髪に隠れていた顔が顕になった。
目線が交差する。
色を失った顔だった。
数時間前の様子など見る影もないようなその表情に、息を呑む。
それに加えて、掴まれている肩が熱を持ったように痛む。
「……何があった?」
明らかに通常とは異なる様子。
焦燥感を滲ませたその瞳が、こちらを睨み付けている。
「後で話す。だからホシノ先輩の場所を教えて」
会話が通じていないのか、する気がないのか。
何度目かの質問であったが、答える気はないようだった。
「教えたい気持ちもあるけど、俺が状況を把握できてないから教えようにも教えられないんだよ」
「ならいい。自分で探す」
「……なんでそんなに焦ってるんだ?」
「……焦ってない」
「そこでムキになることないだろ。一旦落ち着いて状況を説明してくれたって──」
「ホシノ先輩を助ける気がないならいい。私一人で行く」
どうであっても話を聞いてくれることはなさそうだ。
頭痛が強さを増す。
一体、これはどういった状況だろうか。
何1つ理解できないまま流れていく時間を感じ、胸の奥に澱むような感覚がする。
一人で突っ走っていく砂狼さんも──
「ちょっと待って」
「さっきからなに?」
「他のメンバーは?」
その言葉にようやく動きを止めた砂狼さん。
幾度か会話を続けているにも関わらず、他のメンバーが顔を見せることはない。
それがわからない。
「──いない。学校で待機中」
敵陣に一人で攻めに来る、それを彼女らと先生が許可するのだろうか。
……否、そんなことある訳がない。
全員で来るメリットに対して、一人で来るメリットが優っていない。
ならば、どうしてここにいるのか。
一人でここに来た理由。
他のメンバーはなにをしているのか。
この短時間で、何かが起こったのか?
……聞いたところで、答えてくれそうな雰囲気ではない。
俺が気絶してからどのくらい時間が経ったのか。
どうして外にいるのか。
……ホシノは。
「ホシノの場所を特定するから、少し時間がほしい」
「だから、それなら私一人で行く」
その言葉を告げると同時に、砂狼さんは再度背を向けて歩きだす。
しかし。
またもや一人になろうとする彼女を見送ることなどできず。
「なら、探しながら見つけるよ」
この状況で一人行動をするには危険すぎる。
それに、結局はどちらもホシノを探すための行動に移る。
だったら協力したほうが得ではあるだろう。
「勝手にして」
「了解」
振り向くこともなく、冷たい声色で呟いた。
こちらを気にかけるような様子もないままに駆け出す。
置いていかれないようついて行こうと足を動かす。
特に問題なく動くことができた。
後ろをついて行く間、左腕についているスマートウォッチに目線を送る。
『メイ──』
『申し訳ありません……私のせいで──』
『謝ってもらってるところ申し訳ないんだけど、本当に状況が理解出来無さすぎるから説明をもらいたい』
自分の責任だと話そうとするメイに状況の説明を求めた。
この移動中に、砂狼さんを追いかけながら状況を理解する。
最終的な目標は、ホシノの奪還であることは依然として変わらないけども。
改めて視界に映り込む景色は悲惨なものだった。
至る所から煙が上がり、砂の地に構えていた基地は見る影もなく。
今やどこからでも侵入を許すほど風通しが良くなっている。
道すがら、メイにこれまでの状況を求めた。
『まず聞きたいこととしては、俺が気を失った原因とそれに関する状況をお願いしたい』
『かしこまりました。加えてになりますが』
そう一言告げ、なんとも厳しい状況を突きつけられた。
『
『珍しい……けど。何か不具合?』
メイに限って測定できないとのこと。
直接接触している俺の情報であるにも関わらず、だ。
……今までは、1回もなかったような。
『後でウ……マイスター様へのメンテナンス依頼を望みます』
『酷使しすぎたかな』
『ある程度の酷使は前提で作成されたはずですのでそこまで関係ないかと』
……謎が増えていくばかり。
1つずつ消していくしかないか。
『……引き続き、身体の調査も行います。情報が整いましたので此方を』
スマートウォッチに映し出される、見覚えのある地図。
基地内部のものであった。
気になる点で言えば、先刻まで俺と黒服がいた部屋のあたりに赤いポイントがついている。
『この赤いポイントは?』
『気を失った原因となる爆発の発生ポイントになります』
『配管内のガスが施設に漏れ出し、側にあった電線からの静電気により極小の火花……爆破の火種が発生しました。そのまま施設内に連鎖し、基地は半壊。カナメ様も外に吹き飛ばされた次第です』
言われてからフラッシュバックする記憶。
天井を見上げてから視界を覆ったのは、配管の一部が膨れ上がる瞬間だった。
瞬間、視界は白く覆われたところが最後だった。
施設の不備……また嫌なタイミングで起きたもんだ。
まず1つ。
施設の爆破による影響で外へと放り出された。
残る謎は砂狼さんに関して。
『黒服が消えて、砂狼さんがここにいる理由は?』
『前者に関しましては、爆発後は付近に反応がありません。おそらく逃亡したかと。後者に関しましては、十六夜様と先生からの通知があります。要約した情報をお伝えします』
時間がないので、後でしっかり読もうと思う。
メイの配慮に感謝しつつ、突き進んでいく砂狼さんについていく。
それにしても、スピードが落ちない。
躊躇することなく、煙の中を進んでは爆破によって変形した地形を乗り越える。
『十六夜様からは、砂狼様がこちらに来ていることを尋ねられています。先生からは、同様の内容に加え、カナメ様を心配する文言です』
『取り敢えず、状況だけでも報告してもらえると助かる』
『かしこまりました』
先ほども感じた異様なほどの焦り。
十六夜さんのモモトーク的に……。
『砂狼さんがこっちにいることは知らないってことでオーケー?』
『間違い無いかと』
『一旦理解。マルチタスクになるけど、これ以上は突き進むより案内したほうが良さそうだから、道案内も追加でお願い』
『お任せください』
感謝を伝えるようにスマートウォッチに触れれば、振動が伝わってくる。
同時に、表示されたマップの案内を視界に収める。
「そこ右に! 障害物があるから──」
「退かす」
端的な一言。
それに比べ、右へと角を進んだ彼女がとった行動は対照的だった。
水色の瞳が見据えていたのは、ひしゃげた天井の配管。
道を塞ぐように地面へと向くその鉄塊を。
ひと蹴り。
不安定ながらもなんとか繋がりを持っていた配管は、易々と通路の奥へと飛んでいく。
数秒もしないうちに、奥から甲高い金属音が響く。
「まじか……」
その躊躇のなさ、と言うよりか。
迷いない行動への驚き。
鉄の塊を蹴るのは、流石にである。
いくら
……昔のホシノならやっていたであろうその行動は、まさしくキヴォトス人の印だと思い知らされる。
それか、焦りから余裕がないか。
一瞬萎縮した体に指示を出し、置いて行かれないようについていく。
彼女の焦りの原因、ここにいる経緯。
残る謎としてはこの辺りだが、ホシノ奪還後でもどうにかなりはする。
……まあ一応、さっきの二人にモモトークで聞いておこう。
残りの道のりを確認する。
この速さで向かえば……十数分と言った具合で辿り着ける。
俺がついていければ、ではあるのだが。
ただ、なんだか体の調子がマシになってる。
ほんの少しだけど。
気絶していた時に眠ったからだろうか。
そんなことを思いながら、メイへとモモトークの件を再度頼もうとしたその時だった。
『身体情報の更新完了。お待たせいたしました』
一時的な不具合だったのだろうか。
調査を終えたメイからの声が届き、内容を聞こうと耳を傾ける。
『爆破による身体異常、なし。完全修復されています。
言葉が、止まった。
推定値が5パーセントとなっていたので、限りなく消費を抑えるようにはしていた。
砂狼さんとは並走せずに、後ろをついていたのもそれが理由である。
……最悪、打たれた時に使えなくて死。
とかもあると思っての行動だった。
それでも、案外保つもんだと思っていたところで──
『……
急激な浮遊感に襲われたような錯覚を覚え、呼吸が詰まる。
心臓が跳ねた。
脳内で、反芻する。
自然増加か……?
こんなタイミングで……そもそも、使用中ではあるぞ?
可能性としてはほぼない。
ならば、他の可能性……。
元の
『メイ──』
『増加原因、対象者:砂狼シロコ』
その一言に、これまでの記憶があふれ出てくる。
焦り。
違和感。
状況の混迷。
体調の緩和。
色のない表情。
爆発後の身体状態。
若干の会話のすれ違い。
──ホシノ先輩は?!
──私一人で行く。
──色のない表情をしていた。
──「わからない……わからないよ」
──暖かくて。
──見覚えのある波動。
心臓を締め付けられるような記憶の想起と共に。
ピースがハマったように、視界の色が変わった。
『増加前の残量は』
『爆発の防御、修復に殆どを使用していました』
『じゃあ、俺が砂狼さんと会った時に
『砂狼様からの伝達と推測』
今になって、いや。
状況を分析したからこそ見えてきた問題。
接触のタイミングは──覚醒直後。
……だとしたら、なんで今になって回復?
伝達量が少量だった、うまく伝達されていない……とかだろうか。
そもそも、何故砂狼さんは
その思考の中。
先ほどよりもよく目を凝らして観察するのは、目の前を走る彼女。
肩が揺れる。
丸まった背中に、揺れる足。
そのまま──
「あ──」
傾いた体が──
「何を焦ってるのかわからないけどさ」
──腕に収まる。
「よくない方向に行ってることだけはわかるからさ。少し、深呼吸しよう」
そう、声をかけた。
目に映る銀の彼女の瞳は……水色なんかじゃない。
影を丸ごとのみ混んだような、闇。
いつか、見たことがあるような。
漆黒だ。
ぐったりとしている彼女から湧き出る汗をいくらか拭い、言葉を待つ。
歯を鳴らしては、定まることのない視線を懸命にこちらに向けようとしている。
次第に──。
やたらと小さく感じられる腕の中の存在。
自身の体をナニカから守るように腕で抱きながら、こんなことを呟いた。
「ホシノ先輩を……」
「ホシノ先輩さえ、助ければいいって」
「そ……そう言った」
「──そう言われたのに」
腕の中の重みが増す。
力が抜けた、否、意識を手放したようだった。
つくづく、上手くいかないというか。
切っても離れない因縁には程がある。
彼女から漏れ出す、微かな闇が──
腕に伝わってきた。
展開が進まないのは、焦らすのが好きだからです。
好きな食べ物は後で食べるタイプですども。
以降
ちょっと2部のネタバレがあるので、ブルアカ本編を見てない方は見ないように!!
後、2部が出ましたねぇ。
(まだロアの二章は見ておりませんけども……)
まさかまさかの出来事で心臓が飛び出たものですよ。
それに、シャーケードの杖、スマートウォッチでしたね。
……おや?