銃を持つ少女たちと死に損ないのブルーアーカイブ   作:蒼雲しろ

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教室を抜けて

 砂の上を歩くが、足が沈んで歩きにくい。

 道路や家、どこを見ても砂に覆われている。

 多少、人が住んでいた面影が残っているくらいだ。

 

 家は立っているものの街は閑散としていて、植物すら少ない。

 

 都心部まではまだ距離があるので、人と会うことなどないだろう。

 ここまで誰もいないと、怖くなるな。

 

 音すらもなく、聞こえるのは自分の音のみ。

 心音がうるさい。

 

 こう誰もいないと不気味に感じる。

 人がいても困るのだが、いないのもそれはそれで困る。

 いい塩梅でいてほしい。

 

 考えを振り払うように、街を走り始める。

 

 あとは、多少の不気味さを紛らわすため。

 一体何をやってるんだか、自分でもよくわからない。

 

 怖いといっても、多少だ。

 それよりも、興奮のほうが勝ってるので奇行に走った、と言われてもおかしくない。

 

 多少の余裕ができてからしっかりとキヴォトスを見るのは初めてだったが、楽しい。

 俗に言う異世界転生みたいな感じだろう。

 

 知らない土地ではあるが、迷いなく足は前へ進んでいく。

 

 俺にはなんでも無効にする力があるのだ。

 相当なことがない限りは何があっても平気に違いない。

 

 だからこその、余裕。

 足取り軽くキヴォトスを駆け巡る。

 

 ……違う。

 

 ふと考えがよぎる。

 余裕なんてものはなくて、ただ忘れているだけじゃないのか。

 

 拒んでいたこの身体を今になって受け入れ、その効果を受けるというのは都合がいいだろうか。

 黒服たちと話したとき、あれは本当に受け入れたといえるのか。

 それとも――ただ、思考放棄しただけなんじゃないか。

 

 この問いは、自分の(恐怖)向き合うとしたら、これからも考え続けることになのだろうか。

 いつか、それを手放しに喜べる日が来るのだろうか。

 

 ……やめよう。

 これ以上考えたって意味はない。

 今くらいは、純粋にこのキヴォトスを楽しんでもいいんじゃないか?

 

 意識を切り替えるように、足に力を込めた。

 一人で無駄な思考を回し、体力を使いながら高いビルが集まる街まで走った。

 

 

 その途中だった。

 

 通りに、一台の屋台が見えた。

 それほど大きなものではないが、随分と目を引く屋台だった。

 木でつくられた屋台には、昔ながらの風情が漂っていた。

 

 こういう場所でラーメンやおでんを食べている光景を、よくドラマとかで目にするが、実際に食べたりしたいとも思っていた。

 地味に憧れがある屋台飯。

 ……お金があったら、迷わず食事ができるいい機会だったのだが。

 

 今更の疑問になるが、周囲を見渡して思う。

 なぜこんなところに屋台があるのだろうか?

 

 もちろん人はおらず、何なら店にも誰もいない。

 屋台の奥にも人は見えない。

 

 だけど、そこからは湯気が上がり、空へと延びる。

 こっちまで届いてくるいい匂いに、腹の虫が無意識に鳴る。

 小鳥遊さんには申し訳ないが、非常食セットじゃあ育ち盛りの高校生の腹は膨れない。

 

 屋台のほうを見ていれば、『紫関ラーメン』と書かれた看板が目に入る。

 まさかのラーメン屋だった。

 

 お金、落ちてないかな。

 

 ラーメン屋台の前で金を探す、血まみれの服を着た高校生。

 いくら人がいないとは言え、ばからしい行動をしすぎるのはよくない。

 

 そう思い、断腸の思いでお金探しをやめる(まだ続けたいです)

 

 いつの間にか屈んでいたので、立ち上がる。

 残念ながら地面には何も落ちておらず、お金は見つからなかった。

 また機会があったら来るしかないと思い、その場を去ろうとした。

 

 その時、屋台の中から何やら視線を感じた。

 先ほども見たように、湯気は昇っているが人はいない。

 

 いるのは――犬が一匹だけだ。

 綺麗な柴犬だ。

 なかなかに体格がよく、イケている。

 特に頭に巻かれたバンダナと、顔についている傷跡。

 ダンディな柴犬だった。

 

 すると、その柴犬は屋台からでてきた。

 腕を組み、二本足で直立する柴犬。

 

 二本足で、直立?

 

 犬が、立っている?

 

 

 ……

 

 

 とんだマスコットだ。

 いや、看板犬か?

 人生において、二足で立つ犬などテレビくらいでしか見たことない。

 

 こんなところにいるような犬ではないだろう。

 早めにテレビ出演をすることを進めたい。

 

 しばらくその様子を見ていた。

 すると、次は声が聞こえ始めた。

 

「おーい!」

 

 男の声だ。

 声から感じる気配は、大人のそれだ。

 でも、大人なんてどこにも見つからない。

 

「おーい!そこの兄ちゃん!」

 

 ……どこから声が聞こえているんだ?

 俺には、あの柴犬の口が開いたと同時に声が聞こえているようにしか思えないんだけど。

 

 ヘルプミー。

 

 誰か助けてくれ。

 このままだと犬が喋ってるってなっちゃうよ。

 

「そこの血塗れの兄ちゃん!大丈夫か⁈」

 

 やっぱり声が聞こえる。

 

 そう言って、俺と柴犬は見つめ合った。

 もしかしたら見えない誰かに話しかけている線を考慮して、自分を指さしてみる。

 「俺ですか?」と、口パクで伝えてみると。

 

 犬は、ブンブンと縦に頭を振る。

 「お前だよ」って顔で頷いてる。

 

 ……ゆっくりと、一歩一歩屋台に近づく。

 

 そして、屋台の前に辿り着くと。

 

「兄ちゃん!どうしたよその血!」

 

 倒れそうになるのを、間一髪で耐える。

 犬が、喋った。

 ヨンって言ってないのに。

 めちゃめちゃ流暢に話してるよ。

 助けてほしいな、本当に。

 

 このキヴォトスに来てから……何回目かもわからない驚きである。

 

 

 このまま黙っていても仕方ないので、一度会話を試みる。

 

「大丈夫ですよ。血は止まってるんです」

 

 そう言って、固まり切ったシャツをヒラヒラする。

 固まった血が剥がれて、粉がこぼれる。

 

「そうなのか――そりゃ良かった、良いかは微妙だが……どうしてそんな格好なんだ?」

 

 至極当然の質問が飛んでくる。

 ここで回答を間違えれば、一瞬で変人となる。

 いや、もう変人であるの間違いでした。

 すみません変人で。

 

「替えの服がなくて……」

 

 これに関しては投げつけたバッグにも入っていないので、本当に元から持っていないものだ。

 

「服がない?」

 

 その言い方は非常に誤解を生む気がしますが、それでいいでしょう。

 そうです。服がないのです。

 

「なんでそんな……」

 

 柴犬さんは怪訝な表情をしている。

 年上の雰囲気を感じ取ったので、しっかりとさん付けをして即座に敬意を向けます。

 

 そんな時、向こうから猫の様な方がやってきた。

 犬とか猫とかフツーに立ってますけど。

 キヴォトスでは、これが普通なのか……?

 

 銃で喧嘩する世界だもんな、なんでもありか。

 気にしないこととする。

 

 猫の人をみるに、ここの客なのだろう。

 大将を見ると口を開いた。

 

「大将!ラーメ――」

 

 言い終わる前に、柴犬さんの傍にいる俺に気が付いた。

 

「ん⁉︎どうしたんだお前さん⁉︎」

 

 目を見開き、小走りで近寄ってくる猫さん。

 

 お見苦しい姿を見せてしまい申し訳ないです……。

 気にせず、ラーメンを食べてもらっていいので。

 

 そうは思っていても、どうやら俺のことが気になるようで。

 

「俺にもわからねぇ……なあ兄ちゃん。もしあれだったらよ、事情を聞いてもいいか?」

「私からもお願いしたい。君は、学生のように見える。私たちにもできることがあるかもしれない」

 

 なんだ、この二人は。

 

 心の底から感じる、初めての感覚。

 

 ……人格者だ。

 いや、神かもしれない。

 偶像崇拝OKですか?

 まじで、家に祀るんで像をください。

 

 人の心の温かさを感じた。

 こんなに良くしてもらったのはいつぶりだろうか。

 こんな心配してくれる様な言葉を聞いたのは……。

 

 暖かい水が、頬を流れた。

 

「兄ちゃん⁉︎なんか辛いことがあったのか?それなら無理して喋らなくていいからな?」

「大将、ラーメンをこの子に頼む。会計は私につけてください」

「いんや。料金はいいさ。こんな状況で金を取るほど落ちぶれちゃいねぇさ」

 

 涙が、止まらない。

 それにさらに慌てる二人。

 そして、さらに優しさを見せてくる。

 二人の優しさに泣く。

 

 このループは何度か続き、ラーメンが出来上がった時には、少し落ち着いていた。

 

「すみません……」

 

 鼻を啜れば、隣からティッシュを渡される。

 ここでも泣きそうになるが、ぐっと堪える。

 俺はもう高校生だ。

 いつまでも泣いて、話が進まなくなっては迷惑になる。

 

 一息ついて、呼吸を整えてから話し始める。

 

「ありがとうございます」

 

「おう。このくらいなんてことないさ」

「私もだ」

 

 声、言葉、表情。

 どこをとっても、優しさに溢れた二人だった。

 

 いかん、涙が。

 気が抜けないな。

 

「それでだが、兄ちゃん。何があったんだ?」

「話せる範囲でいい。お前さんの力になれることはあるか?」

 

 ここで本当なら、服をくださいと望みたいところだが。

 

「ラーメンまでご馳走してもらって、とてもありがたいです。これ以上を望むのは欲張りでしょう」

 

 何か言いたそうにする二人には申し訳ないが、そのまま話を続けた。

 現状だけは説明しないと、ここまでしてくれた二人に失礼だろう。

 

 そんな思いから、話し始める。

 

「それで、何があったかと言われると、この辺のスケバンに絡まれたんです」

「なるほどな……そりゃ災難なもんだ……」

「最近は治安も酷くなった……」

 

 しみじみとした話し方になった。

 昔はもっと活気があったって黒服も言ってたな。

 

 砂漠化の原因は目に見える以上の大きさのようだ。

 

「それで、荷物も無くなってどうしようかと彷徨ってたんですよ」

 

 大分コンパクトにまとめた説明になった。

 自分を褒め称えたいと思っていたが、1つ忘れていたことを思い出した。

 

「自己紹介が遅くなりました。俺は、彩依枢(あやいかなめ)と言います。それで、お二人のお名前は?」

「俺はこの紫関ラーメンの大将、柴だ。よろしく頼むよ、カナメくん」

「私は不用品買取をやっている三郎(さぶろう)というものだ。よろしく、カナメくん」

 

 微笑む二人は手を差し出してくる。

 俺は二人と固い握手を交わした。

 

「よろしくお願いします。柴さん、三郎さん」

 

 三人で笑いあう。

 なんて気のいい人たちなのだろうか。

 

 思いやりにあふれた空間。

 居心地がよくて、この人たちと一緒に居られれば、楽しく過ごせるのは間違いない。

 こんな風に思えるくらい、優しさが伝わってくる。

 

「麺が伸びちまうさ。まずは飯にしな!」

 

 柴さんが、席に座るよう促してくる。

 俺と三郎さんは席に着くと、その黄金を目にする。

 

 きっちりと盛り付けられたメンマ、もやし、コーン、卵、海苔にチャーシュー。

 どれも朝日によって光り輝いていた。

 

 本当においしそうだ。

 もう我慢できない。

 

「はい!ありがとうございます!」

「私もいただくよ、大将」

 

 いただきます。と声を出して食べ始める。

 シンプルな醤油の味付けが体に染みる。

 美味い。

 それを感じた瞬間。

 無我夢中で食べ尽くした。

 チャーシューの柔らかさが。

 卵のとろみが。

 心に染み渡る。

 

 ボリューム満点のそれは、すぐに胃に吸い込まれた。

 

「ご馳走様です!」

「いい食べっぷりだなぁにいちゃん。足りたか?」

 

 パッと笑う柴さんは俺の腹が満タンになったか気にしていた。

 大満足したことを伝える。

 

「もう満腹ですよ。こんな美味しいラーメン久々に食べましたよ」

「おかわりならいくらでもあるぞ?」

「いえ、これ以上は貰えませんよ。次はお金を払ってしっかり食べにきますから」

 

 お金が稼げれば、だけど。

 

「しっかりしてんなぁ。すげぇな兄ちゃん」

「ああ。私もお前さんにはとても好感が持てるよ。いい青年だ」

 

 褒められてしまう。

 恥ずかしい気持ちを抑え、礼を言う。

 

「それで、物や服をどうにかする当てはあるのか?」

 

 洗い物をしながら訪ねてくる柴さん。

 自分の表情が渋くなっているのを感じながら、答える。

 

「……ないですね」

「ってことは、アビドスの子じゃないのかい?」

 

 その質問には、しばしの逡巡があったが。

 少しだけ濁して答えた。

 

「――そうですね。ちょっとした記憶喪失みたいな物で、どこからきたのかわからないんです」

 

「そりゃまた……」

「随分辛い思いをしたのだな」

 

「ってことは、住む場所もないってことか?」

 

「住む場所はある、というか、貸してもらっているんですよ」

 

 それ、学校なんですけどね。

 

「保護してくれた者がいるってことか。……その方は服などをどうにかしてくれなかったのか?」

 

 返答に困るが……言うしかないか。

 保護者といえばそうだが。

 ホシノとの奇妙な関係性を改めて実感した。

 

「その……俺と同じ高校生で。しかも下の学年の子だったので、流石に気が引けてしまって……」

 

「まさか、アビドスの子か?」

「ああ、あの子か。あの子なら納得だな」

 

 小鳥遊さんは有名だと証明された。

 昨日の言葉、意味があったんですね。

 ごめんなさい、無知で。

 

「それでなんですけど……三郎さん」

 

 先ほどの三郎さんの言葉を聞いて、運良く閃いたことがあったのだ。

 もしかしたら、お金を稼げるかもしれない。

 

「私か?どうした」

「不用品買取って、なんでもいいんですか?」

 

 俺の質問に少し困惑している。

 持ち物が何もない少年から、物を売ることについて聞かれているのだ。

 

「ああ。基本的に、今後も使用できそうな物であれば値段をつけている」

「それじゃあ、革製の椅子、とかはどうですか?」

「どのくらいの美品かによるが、状態が良ければ言い値は付けるだろう」

 

 思い出す。

 あの革椅子を。

 ……壊れたビルの最上階にあった、あの椅子。

 

「ボロボロの場合って、値段付きますか……?」

「状態を見てみないと何とも言えないな。素材がいいなら一部だけ買取ができたりもする」

「わかりました。お店は今日やっていますか」

 

 俺の質問に、申し訳なさそうに眉を下げる三郎さん。

 残念ながらそううまくはいかないらしい。

 

「すまない、やっていないのだ。もしかしてだが……」

 

 期待が混じった声でそう尋ねられたので、もちろん答える。

 

「はい。椅子に心当たりがあるので、もしよければ買い取っていただきたいです」

 

 納得がいったようだ。

 腕を組み、考えに耽っている。

 しばらくして、返答があった。

 

「……わかった。どのくらい運ぶのに時間がかかる?」

 

 前向きな言葉をもらった。

 これならいけるか。

 

「結構遠くで見つけたので、今から四時間……いや、そうですね。十五時程でも大丈夫ですか」

 

 屋台の奥にある時計を見れば、時刻は九時を回りかけたところだった。

 壊れているかもしれない椅子を運ぶといっても、どのくらい重いのかわからないし。

 砂漠を歩くなら、なおさら時間が必要だろう。

 最悪迷ってもいいように時間はたっぷりとった。

 早く着く分には問題ないし。

 

「それでは、十五時から私はここに居よう。それでいいかい?」

「ありがとうございます。すみませんお手数をおかけして」

「なに、なんてことない。それに、力になりたいと言ったのは私の方だ」

 

 俺は、どうやってお礼を返せばいいのか。

 ……何でもやりますよ。

 




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