銃を持つ少女たちと死に損ないのブルーアーカイブ 作:蒼雲しろ
大変なことになった。
迷子になりました。
経緯を説明しよう。
三郎さんと柴さんと別れたあの後。
とりあえず、あの黒服とマエストロと出会ったビルのことを思い出すことにしたのだ。
そこで気が付いた。
俺はそのビルまでの道のりを覚えていなかった。
とーってもまずいことになった。
このままでは俺の完璧な計画がおじゃんになる。
そんなときに閃いた。
いきなりビルに向かうんじゃなくて、アビドス高校にたどり着くまでの道のりを逆戻りすればいいのではないかと。
はっきり言って天才だ。
これを閃いたときは、自分自身が怖くなったさ。
とまあ、こんな感じで。
一度アビドス高校へ帰ろうかと思っていた。
そして。
――冒頭に戻る。
迷子になりました。
困ったな。
これはひじょーにまずいのです。
アビドス高校からはそんなに離れていないはずなのに、どうしてこんなことになるのか。
彷徨っていたとき、一度だけ校舎を見つけたこともあった。
最初はアビドス高校かと思ったのに、遠目で見てもわかるほど規模が違った。
あの校舎は相当綺麗だったな。
そんなわけで、アビドス高校ではないと判断し、歩き回っていた。
いっそのこと三郎さんのところまで戻って、「やっぱりさっきのなしで!」と言いに行こうかと思っていたその時。
声がかかった。
「あの……」
腰に届くほど伸びた金色の髪を持つ女性だった。
身長もぱっと見は160くらいはありそうだ。
高校生らしい彼女は制服を身に纏っていて、おそらく登校中だと思われる。
時間的にもちょうどだろう。
その緑の瞳が、俺を見つめてくる。
「えっと、どうかしました?」
「どうかしましたと言うのはこちらなんですけど……その、お怪我されてますか?」
彼女は俺の服を恐る恐る指さす。
乾いた血が付着した制服だ。
「ああ!えっとこれは……なんというか、深い訳がありまして……」
正直に、「撃たれましたー」とは言いにくいので誤魔化すしかない。
どうにかしてこの状況を脱しなければ、変人認定は避けられないだろう。
「大丈夫なのですか?」
「血は止まっていて特に問題はないんですよ」
というか、別に会話をする必要もないのか。
アビドス高校の位置を聞いて早めに逃げ去るのがベストだろう。
お礼というか、何もできないのが申し訳ないが。
「すみません、こんな状態で申し訳ないんですが1つ聞きたいことがありまして」
「えっと、私で答えられることなら」
「アビドス高校ってどこですか?」
その瞬間、少し彼女の表情が変化したように見えた。
次の瞬間には元の表情に戻っていたので、多分見間違いだろう。
「えっと……案内しましょうか?」
控えめに提案してくる少女に、申し訳なさを覚えながら首を横に振る。
「流石に申し訳ないので、方向だけでも教えていただければ」
「あちらの方角にあります。結構……遠いのでお気をつけてください」
そう言って指を指した彼女は俺の方を向き、微笑む。
なかなかに大人びていて、なんというか、余裕があるように見えるのだ。
「ありがとうございます」
頭を下げ礼をする。
大丈夫ですよと言って彼女はあの綺麗な学校の方へと歩いて行った。
俺も急がなきゃいけなそうだ。
彼女曰く、遠いらしいし。
柴さんのところにたどり着くまでに適当に歩いて二時間以上はかかっていた。
早く行かないと、約束の時間に間に合わない。
――頑張るか。
気を引き締め、再び歩き出した。
――――――――
アビドス高校まで歩いて行き、途中で一度見たことのある道に合流することができた。
そのまま進んでいき、アビドス高校に着いた時にはすでに時刻は十一時を回っていた。
その足で、砂漠と街の境に向かっていた。
このままでは遅れてしまいそうなので、今は歩きから走りに切り替えている。
道を覚えているわけではないが、感覚でただ進んでいる。
時折振り返りながら、アビドス高校の位置を確認する。
こんな感じで見えてた気がする……と思いながら、少しずつ砂漠へと向かっていく。
そうして、砂漠と街の境にたどり着いた。
先を見渡せばもちろん砂の海。
日もちょうど頂点に差しかかっているところだ。
黒服たちと会話したビルを探す。
迷うことなく、見つけられた。
地面に積まれた瓦礫の山、もとい崩壊したビルの跡が見える。
近くで見ていた時はその時点で実感がなかったが、相当大きなビルが崩れていたようだ。
あとは、椅子ができるだけ無事……もしくは一部だけでも残っていれば儲けものなんだけど。
砂漠を駆ける。
走りにくいうえに、靴の中に入り込んでくる砂に軽く舌打ちをする。
この二日間で砂が嫌いになりそうだ。
そして、三十分ほど歩いたり走ったりを繰り返して。
ようやくたどり着いた。
思ったより遠かったのが誤算だった。
体に張り付いたワイシャツを剥がす。
少し休憩して、今度は瓦礫の中から椅子を探す作業に移った。
最上階に置かれていた椅子なので、比較的瓦礫の中でも上の方か周囲にあるはずだ。
瓦礫の山を登って、頂上辺りで探す。
持ち上がる程度の小さな瓦礫をどかしては、下を覗き込む。
別に、身体の傷が治るからといって、力が上がったわけでも、疲れなくなったというわけではない。
疲れにくくはなっているが、それもこんな砂漠のような環境ではそこまで関係ない。
そういう点では、中途半端な身体ではあるが。
キツイ……。
帰りがあるというのに、身体から溢れる汗は徐々に増している。
瓦礫の上に座り込む。
休憩ぃ……。
このままだと砂漠で倒れる。
水も……持ってきていなかったので、あまり長いもできない。
瓦礫の中に埋まっていたらどうしようもないので、とりあえず上部全体を見回ることにした。
これまた砂より歩きにくい場所で、足元が崩れる可能性を考えると緊張感が強まる。
時折躓いたり、足元の瓦礫が滑り落ちていきながら探していた。
そうして、見つけた。
瓦礫の隙間から覗く、茶色の艶がある物体。
瓦礫をどかそうとする……が、大きめなので退かしづらい。
退かしたい奴の下側もわざわざ避けて、滑らせるようにして退かした。
下にあった革製の椅子。
大きな外傷がないと思ったが、思いっ切り足が折れていた。
後は、椅子の裏や背もたれ部分にもコンクリートによる切り傷が付いていた。
これは……売れない気がする。
いやまあ、それでも万が一があるから持ってはいくんだけど。
帰れるかなぁ。
椅子の足は持てないと思ったので、おいていくことにした。
多少軽く……ほんとに多少軽くなった椅子を運ぶ。
革製の椅子だ、結構な重量に最初はふらついた。
瓦礫の上で何度か倒れそうになりながらも、何とか砂の上まで運ぶことができた。
額の汗を拭う。
これが熱さからくるものなのか、緊張からくるものなのかはわからない。
本当に体力が持っていかれてキツイ。
二度とやりたくない、と言いたいところだが。
これでお金が稼げるなら、考えなくもない。
……これが一番今の俺向きな気がするなぁ。
もうちょい近場なら楽そうだし。
この辺に落ちてる物だったり、使われていない物を集める仕事。
どうせ誰も使ってないなら俺が有効活用しましょう。
体力が少し戻ったところで、出発の準備。
今度は来た道を戻る。
別に行きが楽だったわけではないが、帰りはただの地獄だった。
疲労がたまっている上に、革の椅子が想像以上に腰に来る。
更に。
思い出したかのように体が脱水を訴え始めた。
喉は痛むほど乾き、視界が揺れるような気もする。
少しずつ気持ち悪さが増していく。
三郎さんのところへ着く前に倒れるんじゃないかと思った。
なんとか。
本当に全身全霊をかけて運ぶ。
砂漠を抜け。
アビドス高校前を通り。
住宅街を進む。
もうすぐ目的地だ。
そろそろ……見えてくれても……いいんじゃないか。
最後の最後でやけに遠く感じる紫関ラーメン。
目の前の角を曲がる。
その瞬間、目に飛び込んできたのはあの屋台。
やばい。
倒れる。
最後の力を振り絞って叫ぶ。
「三郎さん‼」
何とか振り向いてくれた。
安心し、膝から力が抜け落ちる。
「おお!――おい!大丈夫か!お前さん!」
というか。
アビドスで水飲んどけば……よかったよなぁ……。
何してんだ……馬鹿。
駆け寄ってくる三郎さんが見えて――
――――――――
「おーい!」
「大丈夫か!」
声が、聞こえる。
まだ、耳がこもったように上手く聞き取れない。
吐き気も酷い。
「柴……さん」
「兄ちゃん‼これ、水だ!早く飲んでくれ!」
水の入ったコップを押し付けてくる。
震える手で受け取り、喉に流し込む。
呼吸も忘れ、水を飲み干す。
冷たい水は、死ぬほど美味かった。
飲み終わった時には、苦しくてせき込んだ。
「大丈夫か?」
三郎さんが覗き込むようにこちらを見る。
今更気づいたが、横になっているようだ。
「はい……水を飲んでたら苦しくなって」
「まあ無理もないか。熱中症のようだ。しばらくは安静にしてなさい」
まずは、水も持たずに行ったのが良くなかった。
まあ、水筒なんてないからどうしようもないけども。
その次に、途中でアビドス前を通ったのに完全に水を飲むという発想が沸かなかった。
三郎さんのところまで行けば、水が飲める!と思いこんでたのだ。
終始水を求めていたが、それよりも三郎さんのところに時間内につくことを考えすぎて、それ以外のことが疎かになっていた。
つまり馬鹿、やってしまった。
「落ち着いたかい?」
柴さんの言葉に、頷いて返事をする。
続けて、三郎さんが話しかけてきた。
「調子はどうだ、といっても今は疲れているだろう」
「結構疲れましたね……思った以上に重かったので」
「私もここまで運んだが、中々に重かった。お前さんはよくここまで運んでこれたな」
それは本当にそう思う。
乾いた笑いが出た。
「それでだ。回復してすぐで悪いのだが、先に見積もりは済ましておいた。その話をしてしまおうと思うのだが、どうだい?」
「お願いします。それより、あれってお金になったんですか?」
「椅子としての値段にはならなかったが、革の素材として買取りをさせてもらおうかと思う」
そう言うと紙に書いていた値段を見せてきた。
10,000円……。
通貨は円なのか……。
1、10、100、1,000、10,000……。
10,000。
1万。
「マジっすか?」
クスッと微笑んだ三郎さん。
「ああ。マジだ。これは嘗てアビドスで流通していた本革製品を扱う会社の椅子でね。アビドスが衰退してから出回らなくなってしまった一品だ。それに、本革は再利用してほかの製品にも使用しやすい。椅子としてではないが、革の素材として買取りをしよう」
「こりゃ良かったな、カナメくん」
頑張りが報われた。
そう思うと喜びが体を駆け巡り、思わず大きな声で返事をしてしまった。
「本当に良かったです!こんな値段になるとは!」
「俺もびっくりさ!よく見つけてきたな」
「まったくだ。初めは革製の椅子と聞いて、合皮かと思っていた。そしたらまさかの本革だったとは」
なんと運がいいことか。
ここまでうまくいくとは思っていなかった。
「お金が必要だったな、現金引換がいいだろう?」
首肯する。
拳を握り締めて、喜びを感じる。
一日でお金を稼ぐことができるとは……!
「よし、これで1万だ」
手渡された1万円を見つめる。
そして、柴さんの方を向く。
「さっきのラーメン代っていくらですか?」
「おいおい、まさか支払おうってことか?」
「当り前じゃないですか。折角稼げたんですから、返さないと」
「いんや。今回受け取るのは気持ちだけだ」
そういった柴さんは、手に持っていたものを渡してきた。
それは、黒のパンツと紺のシャツがそれぞれ二枚。
服だった。
「これよ、適当に服を買っておいたんだ。あんまり遅くなると店が閉まっちまうからな」
「柴さん……」
この人たちはどこまで優しくしたら気が済むのだろうか。
柴さんは、にかっと笑う。
「またラーメン食いにきてくれ!それでチャラだ!」
どうせ、払おうとしても受け取ってくれないのだろう。
それなら、柴さんのお願いをかなえるべきだろう。
「毎日来ますよ!」
「おう!それとよ、風呂も貸してやるから入ってけ」
「何から何まですみません……」
「客を逃すわけにいかねえからなぁ」
俺と柴さんは笑いあい、それにつられた三郎さんも頬を緩ませる。
俺も、こんな人になりたい。
もし、小学生に戻れるなら。
将来の夢は柴さんと三郎さんだと大声で叫んでやりたい。
「ありがとうございます!」
どうやら、俺が寝ていたのは柴さんの家だったようで。
そのまま脱衣所に案内された。
脱衣所に着いたとき、1つ話をされた。
「もしよかったら、今度バイトとかしてくれないか?給料は出すからよ!」
その言葉に、勿論肯定する。
扉を閉め、制服を脱ぐ。
乾いて固まった血が付着したジャケットを脱ぐ。
これ、捨てるしかないのかね。
風呂を借りスッキリした後、柴さんが買ってくれた紺色のワイシャツに黒のスラックスを身につける。
どちらも汚れが目立ちにくい色で助かる。
こう言うところまで気が回る。
本当に気が利く人だなぁ。
時刻は気づけば二十時を過ぎていた。
倒れた後から、相当寝込んでいたようだ。
お風呂の後、三人で紫関ラーメンの店まで戻った。
そのとき、三郎さんが「プレゼントだ」と言ってリュックサックをくれた。
三郎さんのところにも、今度お手伝いに行くことを約束した。
屋台で、制服と替えの服を詰め込む。
そうして。
夜の街を駆け抜け、アビドス高校まで走ることとなった。
手に入れたお金は、結局使う機会がなくなったが。
……小鳥遊さんにお返しするか。
すぐさま使い道が決まった。
少し涼しくなったアビドスは、走りやすかった。
閲覧ありがとうございます~!