銃を持つ少女たちと死に損ないのブルーアーカイブ   作:蒼雲しろ

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Endless Carnival(終わらない黒の狂乱)

 お姫様抱っこは長時間移動には向かないと思い、おんぶすることにした。

 荷物は前に、ホシノを背中に背負う。

 初めて出会ったときは何かと冷たい少女だと思っていたが、こう見るとまだまだ子どもに見えるな。

 

 周りを見渡し、忘れ物がないことを確認する。

 

 銃は――ない。

 

 ん?

 

 違和感。

 銃がない。

 あの白と黒のツートンのショットガンが――。

 

 もう一度周りを見渡すが、どこにも見つからない。

 心臓の鼓動が速くなる。

 

 その場で立ち止まり、よくよく考える。

 ここに来るまでにホシノの銃は――見ていない。

 手をつかんだ時も、持っていなかった。

 

 つまり、ここにあるわけではない。

 何処にあるか……。

 俺が考えてもどうしようもないので、とにかく進む。

 

 足を進める。

 

 地平線の色が紺から青くなった。

 もうすぐ、夜が明ける。

 

 スピードを落とすことなく、進んでいく。

 

 住宅街を抜け、足元の舗装が途切れる。

 地面の感触が変わり砂が混じる。

 やがて、それは完全な砂へと変わっていく。

 

 ホシノを追いかけた時は、砂漠を迂回した跡を追っていたが、今は必要が無い。

 

 背中には、力の入っていないホシノがいる。

 後で疲れても困るので、今だけでも休んでほしい。

 普段から疲労を溜め込んでいるのだ。

 こういう時くらいは休ませなければ。

 

 揺れる乗り物なのは我慢して欲しいところだが。

 

 その時。

 

 少し離れたところから、気配を感じた。

 まだ遠くにあって、目視では違和感がない。

 ただ、それには覚えがあった。

 

 そして、段々と近づいてくるにつれ地響きが鳴る。

 

 視線を前方に向ければ。

 月光を受けた砂が、波打つように広がっていた。

 その海は、揺れていた。

 

 

 この砂漠は、見覚えがある。

 

 あの、

 

 ビナー(白亜)が住まう、砂漠。

 

 

 揺れは強まる。

 台地そのものが何かにおびえているように揺れている。

 足の裏が砂ごと沈んだ。

 膝から力が抜けそうになり、跳ね上がった砂が頬にたたきつけられた。

 

「まじか……」

「ん……」

 

 ホシノの起きた声が聞こえた。

 背中でモソモソと熱が動いている。

 

 俺だけなら攻撃を食らってもどうにかなるけど……。

 流石にホシノがいる状況だと逃げるべきだろう。

 背中でまったりしているホシノに声をかける。

 

「お休みのとこ悪いけど、敵襲だ」

「――敵?」

 

 起きたのだろうか。

 背中をタップしてくるので、そのまま手を離して地面に下ろした。

 砂を踏みしめた音が聞こえる。

 そして、桃色の髪が視界に映るのと同時に、さらに揺れを察知する。

 

「これ、何が起こってるんですか?」

「この後、すごくでっかい蛇が来る……はず。それも頭のおかしい攻撃をしてくる奴」

「なんでそんなことが……まさか」

 

 逃げるために、ホシノに声をかけようとした。

 

「ホ――」

 

 瞬間。

 

 目の前の砂が、盛り上がった。

 地面が膨れ上がる。

 

 そして、山のように隆起したそれは、爆ぜる。

 竜巻のような砂柱が紺色の天に昇る。

 

 砂が吹き荒れ、世界を埋め尽くす。

 

 目の前で起きたその現象を見ていることしかできず、足が動かない。

 

 だがしかし。

 

 腕を掴まれた。

 そのまま後ろ方向に力がかかり、身体に打ち付ける砂が少なくなった。

 気づいた時には、さっきまで立ち尽くしていた場所が砂に飲み込まれているのを見ていた。

 

「大丈夫ですか!」

 

 ホシノがこちらに視線をやりながら、前方を警戒するように立っていた。

 彼女の言葉にすぐさま言葉を返す。

 

「大丈夫だ!それより」

 

 このままでは、俺らはビナーへの対抗策がないわけであって。

 ホシノがビナーと戦ったことあるなら、ホシノに任せるのが一番な訳だが。

 

「ホシノ!銃はどこだ⁈」

 

 何処かで落としたとかだったら最悪なんだが。

 

「……銃⁉︎わから――」

 

 竜巻は周囲に四散した。

 砂が目に入らないように、目を腕で覆う。

 

 体に当たる砂が少なくなり、砂煙が晴れる。

 

 

 月光に照らされた白亜の巨体。

 

 砂漠に潜む絶望の使者。

 

 ビナーが、()()()()()()()()()降り立った。

 

 

 威嚇するような駆動音を響かせる。

 こちらに狙いを定め、上から見下ろす。

 

 前回は俺の目の前でチャージしていた筈なのに。

 機械で作られた口腔は見えない。

 白に覆われていた。

 

 ホシノは、いる。

 

 桃色が視界下側に広がる。

 俺の目の前で、手を広げ構えていた。

 

 ダメだ。

 

 それだけは。

 

 いくらビナーと戦ったことがあろうと。

 

 それだけは、させてはいけない。

 

 俺の役割だから。

 

 ホシノの肩を掴み、前へ躍り出る。

 

 ホシノの方を向き、目を合わせる。

 見開いた目。

 

 一応動けないように、左腕で引き寄せる。

 

 さっき使ったばっかだからわかる筈だ。

 

 この前も、ビナーの攻撃に耐え切ったのだ。

 

 あの、恐怖(テラー)を使え。

 

 これなら、攻撃を耐えられる。

 

 ホシノの時とは違って、吸収じゃない。

 放出だ。

 無意識にやっていたことを意識的にする。

 

 身体の中にある何かが共鳴する感覚。

 全身に巡っていた恐怖(テラー)が右手に集まり、蒼い炎のように揺らめいている。

 

 

 恐怖(テラー)を――

 

 ビナーの攻撃へ……!

 

 

 そして、光が弾けた。

 

 世界は白に塗りつぶされ、左にいるホシノ以外感じ取れない。

 

 

 やがて、ゆっくりと光が晴れる。

 身体から何かを抜かれたような倦怠感が、体に遅れて押し寄せてきた。

 

 

「怪我は⁈大丈夫ですか⁈というか何で前に――」

「元気‼それと詳しいことは後‼︎」

 

 やはり、一度では終わらない。

 

 またもや視界に光が集まる。

 金属をこすり合わせた不快な音を鳴らしながら、口を広げている。

 右腕を少し前に出し、ビナーを見つめる。

 

 それにしても……。

 

「こいつなんでこんな五月蝿いんだよ⁉︎」

「――ビナー‼」

 

 左側から、鋭い目でビナーを睨みつけている。

 何かを知っているような口ぶりに、思わず聞き返す。

 

「ビナーのこと知ってるのか⁉︎」

「はい!生徒会の文献にも載ってましたし、私も戦ったことがあります!」

「その時は⁉︎」

「撤退させました‼︎」

 

 ビナー、ホシノにも負けてたのか。

 というか、あんなビーム出せるやつを撤退させられるとか、ホシノは相当の実力者なのでは。

 

 銃を持っていないというのに、俺を守るように一歩前へ踏み出している彼女を見つめる。

 

「というか、彩依さんも知っているんですか⁉」

「砂漠で遭遇した‼」

 

 ……遭遇しただけであって、詳しいことは本当にわからない。

 何か話していたような気もするが、何も覚えていないのだ。

 

 ビナーは砂の海を泳ぐよううねり、砂を巻き上げる。

 鼓膜を突き刺すような金属音と、機械の駆動音。

 もしや、縄張りに入ってきたから怒ってるとかなのか。

 

 ビナーに光が集まり始める。

 

「銃さえあれば……‼︎」

 

 ホシノが叫んだ。

 

「結局どこにあるんだ⁉︎」

 

 ホシノの回答を聞く前に、攻撃が飛んでくる。

 身構えるが。

 

 視界が揺れ、身体がまたもや左に引っ張られる。

 次の瞬間には光線が砂を焼き払うの見た。

 

「さっきからいつの間にか景色が変わってるんだけど、どうなってんだ⁈」

 

 ホシノが俺を移動させてるのはわかった。

 だが、どうやってるのかがわからない。

 

「移動してるだけです!!」

「それがどうなってるのかってことだよ!!」

 

 思わず左に向かって叫ぶ。

 ホシノは少し引き下がって、顔を顰めていた。

 そして、そのままの状態で言葉を発した。

 

「それと!!銃は教室です!思い出しました!」

「マジか⁉︎あそこまで逃げ切らなきゃいけないのか⁈」

 

 おそらく学校がある方向を直視する。

 ここからビナーの攻撃を避けながらという時点で相当ハードなのではないだろうか。

 

「彩依さん‼手握っててください‼」

 

 反射的に握った。

 驚きが一瞬その顔に浮かぶ。

 だがすぐに、引き締まった表情に戻った。

 

「学校まで逃げ切ります‼」

「え――」

 

 そして、身体が宙に浮いた。

 次の瞬間、軽々と肩に担がれていた。

 

 視界は飛ぶように移動する。

 目の前にいると思ったビナーは、いつの間にか距離がはなれており、その距離はさらに離れていく。

 

 ビナーは俺たちが逃げていくと、叫びをあげて砂に潜った。

 

「居なくなった……?」

「いや!追ってきてる」

 

 砂の中を猛スピードで動き回る気配をなぜか捉える。

 まだ、諦めていないようだ。

 

「なんでわかるんですか!」

「それはわかんない!」

 

 本当に、わからないんですよね……。

 

 流石に、あの巨体のほうが早いのか。

 少しずつ気配が接近している。

 

「段々近づいてる!」

「じゃあもう少し早くします!」

 

 速度はさらに上がる。

 周りの景色は砂一色で変化しないが、ふくらはぎにあたる風が勢いを増した。

 

 それでも追ってくる。

 速度が一瞬上昇したと思ったら、目の前の砂が爆ぜた。

 攻撃体勢で、ビナーが砂を割って飛び出してきた。

 

 白が発散する。

 

「ホシノ‼」

「わかってます‼」

 

 即座に横へ避けた。

 すると、ビナーの前方が白で埋め尽くされる。

 ホシノは叫んだ。

 

「ビナーの光線は一直線です!横に避ければ当たりません‼」

「ホシノナイス!」

 

 何度も砂の中に潜り、攻撃の瞬間だけ出てくるビナーから逃げる。

 

 方法が最悪だ。

 チャージ時間もわからず、不定期間隔の攻撃は体力を削られる。

 

 ホシノには俺という荷物があるせいで、デバフがかかってる。

 それでも、ホシノはよけ続けた。

 

 俺が出てくるタイミングを知らせる。

 それをホシノが避ける。

 

 どれくらい繰り返しただろうか。

 一向にあきらめる気配がないビナーと、体力が尽きないホシノ。

 両者による砂漠耐久鬼ごっこは、終わる気配がなかった。

 

 ホシノの肩に担がれているだけで疲れが出てきた。

 あとは少しぼーっとする。

 

 そんな俺に声がかかった。

 

「彩依さん‼︎私に提案があります‼︎」

「なんだ‼︎」

 

 相変わらずうるさいビナーのせいで、大声にならなければいけないことすら疲れる。

 

「さっきのやつってもう1回できますか⁉︎」

「攻撃耐えるやつね⁈」

「はい‼今から学校まで戻ります!学校が近くなったら、全速力で銃をとりにいくので!」

「一度だけ、攻撃を耐えてください‼︎」

 

 何かを覚悟したような声だ。

 そして、察した。

 

「もしかして囮‼︎」

 

 漸く俺の出番のようだ。

 

「……やっぱりやめましょう‼︎」

 

 一瞬足が止まった。

 その声は先程のような響きがなく、弱々しく聞こえた。

 

「いや、いい‼︎行ってくれ‼︎」

 

 光が砂を焼き尽くそうとする。

 俺は合図をし、砂を蹴って避けるホシノ。

 

 結局は……。

 

「……わかりました」

 

 少し不服そうな声色だった。

 そして、その場に俺を置く。

 久しぶりの地面で、少しふらつく。

 

「すぐに戻りますから!!絶対耐えてくださいね⁉」

「できる限り頑張る!だから早く返ってきてくれ!!」

 

 それを聞いた途端、なんとも微妙な顔をしていた。

 でも、早く行かなければいけないという葛藤に負けたようだ。

 

 桃色の流星は砂漠を流れる。

 

 それを見送ってから、目の前で攻撃準備をしているビナーと対峙する。

 

「ビナー‼︎」

 

 攻撃を受けきったことのある相手だ。

 恐怖(テラー)の力で対抗できることは知っている。

 

「来いよ‼︎1回負けたからってビビってんのか‼︎」

 

 ギチギチと金属の噛み合うような音がする。

 身体を駆け巡る不快感を飲み込む。

 

 更にビナーの身体から鳴る音量が増す。

 周囲の砂が竜巻のように震撼する。

 

「挑発とかしたことなかったけど、案外いけるな」

 

 機械蛇との、唯一無二の砂漠一騎打ちだ。

 

 恐怖(テラー)を放出する。

 この力があれば、俺はビナーに負けない。

 

 今日だけで2回も自分の体に感謝することになるとは。

 あの時から考えればあり得ないことだろう。

 

 それもこれも、ホシノが俺を助けてくれたから。

 

 白の煌めきは膨れ上がる。

 何度も見た、あの光線だ。

 

 ここを耐えれば、ホシノが来る。

 

 目線はビナーから逸らさず、腕を前に突き出す。

 

 光が視界を埋めつくした。

 

 膨大な熱量が押し寄せる。

 目の前の敵を焼きつくそうとする光と、恐怖(テラー)のせめぎあいが起こる。

 

 恐怖(テラー)を放出し続けなければ、一瞬で体が焼き切れるだろう。

 つまりは、焼き切れては修復される地獄のループになる。

 

 それだけは耐えられる気がしないので、全身に力を込めて砂を踏みしめる。

 

 もし。

 心臓や脳が攻撃で消えたら、治るのだろうか。

 わからないが、もし治らなかったら終わりだ。

 つまりは、耐えきる以外の道はないということだ。

 

 だけど……。

 

「思ってたより苦しくなってきた‼︎」

 

 たった数秒。

 されど数秒。

 砂を焼き尽くすほどの熱量をただの人間が堪えられるわけない。

 

 下を見れば、自分の足で抉った砂の跡が伸びている。

 曲がりかける腕を全身の力で支える。

 

 心だけでも負けないよう、声を上げていた。

 どうせ、ビナーの音で何も聞こえないのだ。

 

 体力的には何ら問題がないが、精神的にきつい。

 なぜか異様に長く感じる攻撃が、着々と影響していた。

 

「ホシノォ‼︎そろそろ来てくれぇ‼︎」

 

 目が眩み、腕が焼ける。

 熱と光が身体を壊し始めた。

 

 焼ける身体が痛む。

 ……痛む?

 

 この身体になって、今まで感じたことのない感覚。

 だが、これは一時的なものですぐに治ると思っていた。

 

 数秒が経過しても、腕が治ることはなく。

 徐々に焼けた箇所が増えていく。

 

 痺れが、痛みが。

 身体を脅かす。

 

 これは、まずい。

 こんなことになるとは思っていなかった。

 

 これまでとは違うと受け取った身体から、発信される危険信号。

 徐々に扱いづらくなる恐怖(テラー)

 残量が、殆どなくなっていく感覚。

 

 恐怖(テラー)に残量などないと思っていた。

 こんなに使ったこともないし、そもそも意識的に使用したのは初めてだった。

 

 何もわからない状況で。

 攻撃を無効化できるという一面だけを見て、慢心していた。

 てっきり、無敵になったものだと。

 

 夢を見てしまっていた。

 死なない身体を手に入れて、どんな攻撃も通用しないものだと思ってた。

 

 そんなに都合はよくなかった。

 焼けていく身体。

 

 湧き上がってくる――恐怖。

 死への、恐怖。

 

 絶対的な自信は、ただの過信で。

 その誤算が、全てを狂わせた。

 

 

 歯を食いしばって、腕を力いっぱい伸ばし続ける。

 

 

 ホシノ――。

 

 こんな時も頼ることしかできないけど……。

 

 頼む。

 

「間に合ってくれ……!」

 

 機械音は薄れ、視界は徐々に黒になる。

 周囲の状況も確認できなくなった。

 徐々に押し負ける恐怖(テラー)

 前に伸ばしていた腕が、少しずつ焼けるような痛みを訴えてくる。

 

 

 そのまま、意識が――――

 

 

「カナメさん‼︎」

 

 小さく、声が聞こえた。

 焼けた腕から血が流れ出るが、構わず力を込める。

 

 ここで倒れてはいけない。

 あと、少しだけ。

 

 ほんの僅かな銃声が耳を打つ。

 

 一発。

 

 二発。

 

 三発。

 

 

 しばらく、静寂が場を支配した。

 

 そして。

 

 地が揺れる。

 目と耳が使い物にならなくなったのか、何も聞こえないし、見えなくなった。

 でも。

 

 もう大丈夫だろう。

 ホシノがいる。

 身体が揺れるのに従って、膝をついた。

 

 次第に揺れは収まっていく。

 少しだけだが、視覚と聴覚が戻ってきた。

 

 銃を持った桃色の少女がこちらに駆け寄ってきた。

 

「……‼︎」

 

 悲痛な表情で、何かを話していた。

 残念ながら聞き取ることは叶わなかった。

 

 相変わらず、腕は痛む。

 恐怖(テラー)がほぼ残っていない今、身体の状態は酷いものだった。

 今まで感じたことのないほどの痛みに、動く力さえ残っていない。

 

 それでも。

 彼女のために声を発する。

 

「ホシノ……よかった。間に合ってくれて」

「……‼︎」

 

 後悔の滲む表情と共に、銃を握りしめていた。

 そこまで悔やんでくれるのはありがたい。

 何はともあれ。

 

 終わりよければすべてよし、だな。

 

「……!!」

 

 ホシノの方を見やれば、こちらを心配そうに見つめていた。

 忙しなく動く両手は、上下に移動している。

 何をすればいいかわからずアタフタしている様子を見て、思わず笑ってしまった。

 

「ありがとう」

 

 一息ついて、深呼吸する。

 目を瞑る。

 体に残るほんの僅かな恐怖(テラー)を捉え、全身に循環させる。

 

 身体の疲れが和らぐ。

 腕の痛みが引いていく。

 それと同時に、身体を這い回るような違和。

 

 2つの対極的な感覚が襲い掛かり、言い表せない怒りに似た何かがこみ上げてくる。

 

 

 声が聞こえる。

 

 

 光が入り込む。

 

「カナメさん‼︎大丈夫ですか⁈」

 

 聞こえていた声は徐々に大きくなり、聴覚が戻った頃には大音量になった。

 思わず仰け反り、耳をさする。

 せっかく治った鼓膜が、もう一度イカれるかと思った。

 

「近い近い!それに耳元で叫ばないで」

 

 返事を返すと、ほっと胸を撫で下ろしていた。

 下がっていた眉も少し元に戻った。

 

 心配してくれていたみたいだ。

 俺としても、一難乗り越えて一息つける。

 漸く、終わった気がした。

 

「なんか変な感じがしたと思ったら、腕の傷が治ってますし……」

「ちょっとした……化け物の特製だよ。ほら、凄いでしょ?」

 

 そう、言ってみるとみると。

 

 腕を叩かれた。

 

「馬鹿なこと言わないでください。……大丈夫そうでよかったです」

 

 声が出なかった。

 

 例え、深くは理解してなくても。

 その反応をしてくれるだけで、涙が出そうだった。

 

「――やっぱり、大丈夫じゃないですか?」

「ああ、いや。大丈夫だよ、ありがとう。ホシノ」

 

 夜は明ける。

 

 黒に染まっていた夜は、紺碧へと至り、いつの間にか黄金となった。

 

 地平線の向こうから、光が覗く。

 暖かく、柔らかい光。

 

 太陽が俺とホシノを照らす。

 

 

 一難去った。

 ビナーはいなくなったし、ホシノは銃を手に入れた。

 まだ今日は始まったばかりだが、早いうち行動できるだろう。

 

「ん……なんか変な感覚が」

「?」

 

 ホシノが少し近づいてきて、1歩下がる。

 

「なんか、さっきまでのカナメさんと少し変わった気が」

「俺はなんも感じないけど」

「なんでしょう……」

 

 唸りながら、何か違和感の正体を探ろうとしていた。

 身体には異常はなく、しいて言えば恐怖(テラー)が少なくなっていると思うくらいだ。

 

「まあ、とりあえずさ」

 

 仕切りなおすように手を叩いた。

 

「はい?」

「1回、学校に戻ろうと思うんだけど」

 

 そう告げると、二つ返事で言葉がってきた。

 

「賛成です。準備をしてから行ったほうが何十倍もいいです」

 

 意見が合致したので、立ち上がる。

 そして、駆け足で進む砂漠の中。

 言葉を投げかけた。

 

「やっぱり、なんか変ですね」

「さっきからどうしたんだ」

 

 目を細めて下から覗き込んでくる。

 どちらかというと、様子がおかしいのはホシノの方ではないか。

 昨日と今日では明らかになんか、距離感が変わった?のか?

 

「違和感がなくなったというか」

 

 手を顎に当て、首をかしげていた。

 前より少し、感情表現が多様になっていた。

 今はもうどこにも見当たらないあの闇が、ホシノの心に影響を及ぼしていたのだろう。

 そういうことであれば、昨夜のことが間違っていなかったのだと思える。

 

「さっきは少し圧みたいなのがあったんですけど……消えた気がします」

「今までは感じてたのか?」

「いえ、初めて会ったときは()でしたね」

「そうだったのに、砂漠に来てから怪しくなくなったというか……」

 

 意外な返答だった。

 初めて会った時は圧がなく、途中で増えて、また減った……?

 恐怖(テラー)の量と関係ありそうだ。

 砂漠に来る前に、ホシノから吸収した分を考えれば、途中で怪しくなったか圧が強くなるのに納得がいく。

 

 申し訳なさそうな顔をしながら、そう話している。

 

 何にせよ、原因は間違いなく俺の恐怖(テラー)のせいだろう。

 

 こうは思うものの。

 ……一応、さっき信じていたことがただの過信だったという体験をしたので、これが正しいとは思えないのが現状だ。

 

 恐怖(テラー)の圧がなくなった。

 それは、俺の中の量が薄れてきているせいだ。

 

「あー」

「色々、話さないとかな」

 




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