ミラージュラインがチーム・アルナイルに加入して2週間が経ったある日、練習前にチームのクラブハウスで北条と三嶋が口論している姿を他のサブトレーナーやチームのウマ娘たちが目撃していた。
ミラージュラインの隣りにいたネリーヴェイルが不安そうに呟く。
「私の担当さん………」
気まずい雰囲気の中、三嶋は北条に何かを言うと踵を返し彼の前から立ち去っていく。唇を噛み悔しそうに俯きながらこちらへ向かってくる。
三嶋はネリーヴェイルに気がつくと、彼女とミラージュラインの前で立ち止まり声をかけてくる。
「ごめん、ネリーヴェイル、私………あなたの面倒を見れなくなっちゃった」
「三嶋さん、どうして?」
「ごめん、ごめんね」
三嶋はごめん、ごめんと繰り返し2人の前から立ち去っていく。
その日以降、チーム・アルナイルから三嶋はいなくなった。病気で引退したトレーナーが受け待っていたチームを引き継ぐという形で移籍してしまった。
ネリーヴェイルの担当は他のサブトレーナーとなり、他の新入生と一緒に指導してもらうことになる。
ミラージュラインは練習の合間に北条に三嶋のことを尋ねてみた。すると北条は笑顔で答える。
「お前は気にしなくてもいい、いなくなった人間のことなんかな、そんなことよりも自分の事だ、早ければ6月すぐにデビューできるからな」
言われてミラージュラインはその通りだと三嶋のことを考えないようにした、どのみち自分の担当だったわけでもないし、ほとんど話をしたこともない。不安そうにしていたネリーヴェイルの事はちょっと気になったが、自分にできることはない。
それよりも早ければ6月にデビューできると言われてその方が気になった。
それから5月いっぱいはデビュー戦に向けての練習へと励む。北条の指導はかなりのものでミラージュラインは自分がどんどん力をつけていることを実感していた。
北条の方も教えた事をどんどん吸収していくミラージュラインに期待を膨らませていく、流石は10年に一人と言われた逸材だ。来年のクラシック戦線の主役になることは間違いないと思えた。ミラージュラインを3冠ウマ娘、もしくはトリプルティアラウマ娘にすることが出来れば、チーム・アルナイルは更に躍進して、自分の評価も高まるはずだと北条はミラージュラインの走る姿を見ながら胸を躍らせていた。
そして、6月に入りミラージュラインのメイクデビューの日が決定する。チーム・アルナイルの新入生の中で最も早いデビューとなる。
その事がうれしくもあり、誇らしくもあり、そして他の新入生に対する優越感もあった。自分が特別なんだという思いがあった。
この時のミラージュラインは自分の未来は光り輝いていると信じて疑っていなかった。