「そういえばふと気になったんだけど、ベルゼビュートみたいに人間界で過ごしてる悪魔とか天使って他にもいるの?」
「急だねぇ」
休日の朝ご飯を食べながらの雑談。
台所で調理器具を洗いながらルシファーが口を開く。
「今後お世話にならないとも限りませんし挨拶回りでもしましょうか」
「菓子折り持って?」
ラファエルが訊ねると、ルシファーは苦笑する。
「ベルゼビュートには要らないと言われてしまいました」
「じゃあ要らないね」
茶碗に残っていた白米をかき込んだラファエルは「ごちそうさま」と手を合わせて立ち上がる。
「日本に住んでる天使と悪魔は皆この辺りに集結してて楽でいいねぇ」
住宅街を三人で歩きながらラファエルが笑う。
「まぁ人間もこの辺りに多いから必然っちゃ必然だろ」
おもむろに立ち止まったラファエルがその家のインターホンを鳴らす。
しばらく待ってみるも返事は無く、首を傾げる。
「留守かな」
「ガレージとかで練習してないか?」
門の隣、シャッターの閉まっているガレージの横に回り込んだルシファーはノックも無く扉を開く。
そのまま門の前で待っている二人に手招きをした。
二人がルシファーと同じように扉から覗くと、そこにはベルゼビュートと二人の男がいた。
「あ、唯ちゃ〜ん」
声をかけたラファエルに気付いたベルゼビュートが振り返る。
ギターをさげたまま三人に駆け寄る。
「何よ連絡も無く、どうしたの?」
「ご主人の興味本位で挨拶回りしてるの!丁度三人でいてくれて手間が省けた〜」
それを聞いたベルゼビュートは、楽器を触りながら話をしていた後ろの男二人を呼ぶ。
そして響に向き直り、口を開いた。
「前も会ったけど一応改めて。アタシはベルゼビュート。人間界では
背の高い方の男を肘で小突くベルゼビュート。
少し迷惑そうな顔で見下ろした男は面倒くさそうに響の方を向く。
「サタナキア、
小さく会釈をしたサタナキアを見上げていた小さい方の男も響に向き直る。
「僕はセーレ!
愛想良く笑うセーレを見ていた響はハッとして口を開く。
「ルシファーとラファエルと契約してる涼村響です」
頭を下げる響につられて三人も軽く頭を下げた。
ベルゼビュートは顔を上げてルシファーを見上げる。
「で?それだけ?」
「一応菓子折りも用意しましょうか?」
ルシファーはどこからか菓子折りを取り出したが、ベルゼビュートに腕を叩かれる。
「バカにしてんのか、要らないって言ったでしょ」
「そうですか……」
「え、僕欲しい〜」
菓子折りを持って俯いたルシファーの視界で、セーレがちょろちょろと動き回る。
ルシファーが菓子折りを渡すと笑顔で「ありがとう!」と受け取る。
机に広げて早速食べ始めるセーレを見てベルゼビュートは呆れたように溜息をついた。
「ま、礼は言っといてあげる。ほら、練習の邪魔になるからさっさと帰って」
三人を追い出し、扉に手をかけたベルゼビュートは響に「またね」と小さく手を振って扉を閉めた。
日差しが照り付けるお昼時に住宅街を並んで歩く三人。
「この辺で把握してるのあと二人だけなんだけどルシファーは心当たりない?他誰かいたっけ」
「俺もその二人しか知らんな……」
「んじゃ合ってるね〜」
などと話していると正面からフラフラと紫髪の女性が近付いてくる。
「ゲッ」と声を漏らしたラファエルが響の前に手を伸ばして制止する。
驚いて立ち止まった響が正面を見ると紫髪の女性と目が合う。
一瞬の沈黙の後に微笑んだ女性を見て、ルシファーは響を後ろから抱え上げて飛び上がる。
「え、な、何……!?」
「少しだけ辛抱してくださいね」
後ろからラファエルも後方を警戒しながら飛ぶ。
「念の為迂回して行こうか」
「ああ」
何が起こったかも分からずただ抱え上げられたままの響は困惑の声を漏らした。
ようやく地面に降り立った三人。
響は地面を踏みしめる感触に安堵の溜息をついた。
「急にどうしたの……?」
尚も警戒する天使と悪魔に問いかける響。
「さっきの、リリスっていう悪魔なんですけど……」
「あの人も人間界で暮らしてるの?」
「いえ……いつもいる訳じゃ無いですよ……」
「あれに関わると人間は最悪死ぬからね〜……ご主人、あいつ見かけたらすぐ離れてね」
死ぬ、という単語に怖気付いたのか響はそれ以降何も聞かなかった。
「さ、ご主人!気を取り直してここが最終目的地!」
自慢げにインターホンを押したラファエル。
先程とは違い、インターホン越しに女性の声がする。
ラファエルが名乗ると、「ちょっと待って」と返事が来た。
言葉の通りしばらく門の前で待っていると、赤髪の女性が出てきた。
「久しぶり〜!どうしたの?」
「ご主人に紹介したくて!あ、この子が私の今の契約者!」
紹介された響は「涼村響です」と名乗って頭を下げる。
「は〜んなるほど。ゆかりんも呼ぼうか」
言うが早いか、大声で名前を呼んだその赤髪の女性に響は唖然とする。
「あ、私は
手を差し出したハニエルの手を握ると、ぶんぶんと振り回されてよろける響。
そこへ玄関のドアを開けて青髪の女性が出てくる。
「もうハニー、近所迷惑になるからやめてよ……」
その姿を見た響が「あ!」と声を漏らした。
「魔界にいましたよね!あの時は助けてくれてありがとうございます!」
門まで歩いてきた青髪の女性は「え?」と聞き返す。
他の天使と悪魔もぽかんとして響を見下ろす。
「えっと、彼女は
ハニエルが首を傾げながら響に言う。
「え、でも魔界の森に……」
すると菓子折りを差し出しながらルシファーが響の言葉を遮る。
「見間違いでしょう、似たような天使と悪魔って沢山いますし。こちら一応菓子折り置いていきますね。では私達はこれで失礼します」
さっさと帰路につくルシファーを見て、響は慌てて二人の天使に頭を下げて追いかける。
「何あいつ……お騒がせしてごめんね!またね!」
ラファエルも手を振り悪魔の後を追って駆けていった。
菓子折りを受け取った状態でぽかんとしていたハニエルとライラは、顔を見合わせて笑う。
「一瞬だったわね……」
「お菓子、偶数個だといいな」
「そこの心配?」