平日、午後。
学校帰りの響とルシくんは、今日の晩ご飯の献立について話していた。
そこへ、たまたま遊んでいた駿河と碧空が通りかかり、声をかけた。
「響くん、やっほ」
声をかけられて気付いた響が顔を上げる。
「駿河さんと碧空さん、こんにちは」
「こんにちは〜、学校帰り?」
「はい!お二人は……」
そこで二人と一緒にいる同年代くらいの男の子の姿を見た響は不思議そうに首を傾げる。
「その男の子は?」
男の子?と復唱した二人は響の視線の先を見つめてあぁ、と声を漏らす。
「響くんには男の子に見えるんだ」
「それってどういう……」
「彼はアスモデウス。遊園地の時かな、連れて行けない理由話したよね」
響は記憶を手繰る。
「あぁ……確か猫に見えるとか……」
「そう、碧空には黒猫に見えててね。俺はゴールデンレトリバーに見えるんだけど……」
「響くん、男の子って人間?」
碧空に聞かれ、響は首を縦に振る。
「同い年くらいの男の子に見えます」
それを聞いて二人はアスモデウスを見下ろす。
「俺たちには犬とか猫に見えてて意思疎通も出来なくてさ、もしかしたら響くんなら話が出来るかも……」
「アスモデウス、挨拶してみなよ」
碧空を見上げたアスモデウスは何回か発声練習をした後に、おずおずと「こんにちは」と響に向かって呟いた。
響はそれを聞いて目を合わせて「こんにちは」と返した。
すぐに顔を輝かせたアスモデウスが碧空の服の裾を引いた。
「碧空、碧空凄い!人間と話せたの何年ぶりだろう!」
碧空には足元に擦り寄る黒猫に見えていた。
「猫さん、お喋り出来て嬉しいみたいだ」
「ルシくんには何に見える?」
響がルシくんを見上げると、ルシくんはアスモデウスを見た。
「何ってアスモデウス……」
「ルシファー」
ルシくんの言葉を遮るように上空から声が降ってきた。
響が見上げると、空中に座るようにして浮かんでいる少年がいた。
「ミカエルか」
言いながらルシくんはルシファーへと姿を変えた。
地面に降り、腕を組んだルシファーを見てミカエルも地面に降り立った。
辺りを見回し、駿河達を見つけたミカエルは軽く謝るようなジェスチャーをした。
「ラファエルは一緒じゃないのか」
「学校帰りだからな、呼ぶか?」
「いや、いい。警告だけしに来た」
それを聞きルシファーは眉を顰める。
「悪魔を召喚しまくってる奴がこの近くにいる、動きがかなり怪しいから注意だけしとけ。標的は恐らく……」
目線だけで響を見たミカエルを見て、目を瞑るルシファー。
「なるほどな……」
「なんか不穏な会話だねぇ……」
聞いていた駿河が口を挟む。
碧空も駿河に続いて付け足す。
「僕でも役に立てることあったら言ってね」
「俺も……というか人間に出来ることは無いかもだからアズリーが必要だったら言って」
ルシファーは二人に微笑む。
「お気遣いありがとうございます」
そこへラファエルが駆けてくる。
「あ、お〜い!ルシファー!」
「何だラファエルお迎えか?珍しいな」
「帰り遅いから心配になっちゃって!駿河たちと話してたんだ」
やっほ〜と二人に手を振るラファエルを見て、二人も小さく手を振り返す。
「じゃあそういうことだから。なるべくサポートには入るようにするが気を付けろよ」
「あぁ」
ミカエルが飛び去ったのを見送り、その場で駿河と碧空とは別れることになった。
「そういえばミカエルはなんて?」
「何でもない」
ラファエルがルシファーを覗き込むも、ルシファーは目線を下げずに微笑を浮かべるだけだった。
ふ〜ん、と興味無さげに視線を外したラファエル。
そこでふとルシファーが立ち止まり、それに気付いた響が振り返る。
「ルシファー?」
見たこともない程目を見開いて、ある一点を見つめていた。
動揺からか瞳は揺れている。
視線の先の人混みで、ルシファーを見つめる金髪の青年がいた。
青年は微笑み、次の瞬間には人混みに紛れ姿を消していた。
冷や汗が頬を伝ったルシファーの目の前で、ラファエルが「お〜い」と呼びかけながら手を振る。
ハッと我に返ったルシファーがラファエルを見下ろす。
「何ボーッとしてんの?帰るわよ」
「……あぁ、悪い」
夕焼けが辺りを赤く照らし、ルシファーは喉につかえた嫌な思い出を飲み下した。