天獄の救世主様っ!   作:弥代海月

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15話

まだ日も昇っていない早朝。

天使と悪魔は暗い部屋の中で、主人を起こさぬように小声で話している。

「最近ずっとあの子のこと探してたの?」

「まあな……」

ラファエルに聞かれ、冷蔵庫を漁りながら曖昧な肯定の返事をするルシファー。

「あの子何者なの?悪魔何人か従えてなかった?」

「俺も詳しくは知らんが響様を狙ってるらしいって噂だ」

「ふーん……今のところあっちの戦力は?」

「俺が確認した限りなら好戦的なのが二体と穏健派が一体ってとこだな。今のところはさほど構える必要は無いだろう」

おもむろに生卵を割り、そのままペロリと飲み込んだルシファーは、舌舐りをしながら卵の殻を生ゴミ入れに投げ入れる。

「あ、ちょっと〜!お行儀悪いよ〜?」

くはは、と笑ったルシファーは何処に置いていたのか、冷蔵庫から缶の酒を取り出した。

「お酒なんかいつ買ってたの!?ご主人の教育に悪い!見えるとこに置かないで!」

「見える所には置いてねぇから安心しろって」

ルシファーは片手で缶の栓を開けて飲み干した後、空き缶をビー玉サイズまで圧縮してわざとらしく消して見せた。

「証拠隠滅〜」

「何馬鹿なことやってんのよ」

呆れたように睨むラファエルを見て笑うルシファー。

「ま、警戒するに越した事はないからな。魔力温存しとけよ」

「あんたが言わないでよ今目の前で無駄使いした癖に」

「俺はお前と違ってその辺の魂やら人間食えば補給出来るからな」

「当てつけじゃん」

「お前も人間食えば良いじゃねえか。楽だぞ」

「堕天させるつもりですか〜?」

軽口を叩き合いながら、ラファエルが立ち上がる。

「さて、警戒がてら情報収集でもしてくるよ。あと魔力補給ね」

「殊勝な心掛けだな」

「何よ偉そうに。あんたはちゃんとご主人のこと見ててよ」

「言われなくてもやるよ」

朝食の支度にキッチンへと消えるルシファーを見送って、ラファエルは天界へと向かった。

 

「ねぇルシファー……」

「はい?どうされましたか?」

「どうもこうも……ルシくんは……?」

登校する響のとなりには人間の姿をしたルシファーがそのまま歩いていた。

「ルシくんはお留守番です。本日からは私がお供しますよ」

「な、なんで……」

「少しばかり事情が変わりまして、まぁ私の事はお気になさらず学業に励んでください!」

と、言われたものの授業中に教壇に立つ先生の隣で笑顔で手を振っていたり、授業参観ごっこを始めたり等、やりたい放題なルシファーに響はどんどん集中力を削がれていた。

ホームルームが終わり、大きな溜息をついた響は鞄を持ち立ち上がる。

「お疲れ様でした響様!さぁ帰りましょう!」

 

帰り道、とぼとぼと疲労を滲ませながら帰る響は隣を歩くルシファーに聞く。

「ルシくんじゃダメだったの?今日……」

「あの子では少し心許無いので」

「全然集中出来なかった……そのまんまルシファーが気になりすぎて……」

等と話していた響は、街の雑踏が瞬時に消えたのに気が付き顔を上げる。

街の風景は、教会内のような荘厳な雰囲気の建物内に変わっていた。

あんなに居た道行く人々も、誰一人姿を見せない。

何かがおかしいと感じた響は、キョロキョロと辺りを見回し「ねぇルシファー」と声を掛けながら振り返った。

響の目には地面に膝を突き肩で息をするルシファーが映っていた。

これまで見た事の無いルシファーの様子に狼狽えながら、響はしゃがみ込んでルシファーの肩を撫でる。

「ルシファー?大丈夫?」

冷や汗が床に落ちる。

余裕無さそうに奥歯を鳴らしたルシファーは、切羽詰まった様子で相方の天使の名前を口に出した。

「ラファエル!」

瞬時に教会のような建物の入口付近に舞い降りたラファエルは「珍しいじゃんルシファーが呼ぶなんて」と言いながら顔を上げた。

異様な光景に目を丸くしたラファエルと同時進行で、別室にて響とルシファーの様子を伺っていた悪魔を三体従えた少女が慌てふためく。

「天使呼ぶとか聞いてないよ……!対策してない……!」

バタバタと慌ただしくなった別室とは打って変わって、静かな建物内にルシファーの声が響く。

「今すぐ響様を連れて二人で逃げろ……!」

それを聞いたラファエルはすぐに二人に近付こうとするも、入口付近で見えない壁に阻まれる。

見えない壁を手で撫でて確認し、拳を打ち付ける。

「ルシファー!結界張られてる!そっち行けない!」

バンバンと空中を叩くラファエルを見ながら、響は不安そうにルシファーの様子を伺う。

「くそっ……!」

ルシファーは、しゃがみ込んだ響の肩を掴む。

驚いた様子の響の目を見据えて眉を寄せて笑った。

「響様、ラファエルの所まで走ってください。そしてなるべく遠くへ……!」

「待って、ルシファーは?ルシファーはどうするの?」

「いいから行け!」

余裕無さげに叫んだルシファーは『固有スキル』を使っていた。

『固有スキル』の効果で本心とは関係無く響の口からは「分かった」とだけ言葉が飛び出し、そのままラファエルの元へと走り出す。

響がラファエルの元に辿り着く頃に悪魔と少女が姿を現した。

「逃げちゃう!捕まえて!」

少女が悪魔達に命令を下した頃には、響はラファエルと手を繋いで不安げに振り返っていた。

迫る悪魔達を見たラファエルはルシファーに「死なないでよ!」とだけ叫ぶ。

間髪入れずに「誰に言ってんだよ」と笑って返したルシファー。

それを聞き届けたラファエルは主人と共にその場から消えた。

標的を失った悪魔達は減速して地上に降りる。

「探しますか?」

ダンタリオンが聞くと、少女は「別にいい」と呟き、悪魔達は影に溶けて消えた。

「あーあ、あの子も捕まえときたかったんだけど。残念……まぁサタン捕まえたし、いいかなぁ」

地面に目線を落としたルシファーの顎を持ち上げた少女は不敵に笑う。

「ルシファーって呼んだ方がいい?」

みるみる悪魔姿へと変化したルシファーは眉を寄せニヤリと笑った。

「このクソガキ……!」

途端、少女の後ろから足音が響き「ありがとう、あおい」と声がする。

その声を聞いたルシファーは一気に血の気が引いた。

目を丸くしたルシファーの瞳に映るのは、少し前に街中で見た金髪の青年。

「お兄」

あおいと呼ばれた少女は立ち上がって金髪の青年の元へと駆け寄る。

頭を撫でられ、満足そうに笑ったあおいを優しげな目で見つめて笑った青年はルシファーに目線を落とした。

「久しぶり、お互い変わっちゃったね。ルシフェル」

妹に向けた目と同じ、優しげな目で微笑んだ青年にルシファーは怒りや憎悪の入り交じった声で青年の内に宿る、かつての主の名前を呼んだ。

 

「アストリリア……!」

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