数日ぶりに顔を見せた響とルシファーは、別人のような雰囲気で玄関先に立っていた。
いつになく上機嫌で満面の笑みを浮かべたルシファーと、自分の家を感心したように見上げる響。
響の首元には絞殺痕と爪痕が刻まれていた。
玄関扉を開けたまま唖然と固まってしまったラファエルをよそに、何事も無かったように玄関扉をくぐってリビングでくつろぐ響と、その後を着いて回る不気味な程に笑顔なルシファー。
今までした事の無い座り方で部屋のあちこちを見回している響の目の前に、ちょこんと座り込んだラファエルは意を決して訊ねる。
「何があったの……?」
その言葉を聞いて響はラファエルへと視線を送る。
「俺も分からん。説明しろルシファー」
やけに荒々しい言葉使いにまた開いた口が塞がらなくなってしまうラファエル。
ルシファーを振り返った響に「はぁい!」と上機嫌に返事をしたルシファーは、最初から懇切丁寧に説明を始めた。
要約すると、訳あって魔界に封印されていたルシファーの封印を解き、共に旅をした魔界王。
そんな魔界王との旅の果てに側近として仕える事を許されたルシファーは、それはそれは素晴らしい日常を送っていたのだが、天界と魔界の戦争が勃発。
過激化する闘争の責任を問われた魔界王は、自身が全ての責任を負う事で戦争を終結させた。
そして魔界王は罰として、人間界での輪廻転生を言い渡され、数百年前に姿を消した。
ルシファーはカマエルと、天界と魔界における新たな秩序を取り決めた。
その後、魔界王を探しに人間界へと出向き、魔界王の生まれ変わりを見付けては仕え続けた。
しかし魔界王が輪廻転生を繰り返す中で一度もその人格が目覚める事は無く、諦めかけていたこのタイミングでようやく覚醒した、という話だ。
そして照が同じように天界王の生まれ変わりである事と、目的は分からないが魔界王を覚醒させようとしていた事をさらっと話した。
その後も魔界王の素晴らしさを懇々と語られ、聞き終えてげっそりしているラファエルと、あまり聞いていなかったらしい興味無さげな響。
「だそうだ」
爪を弄りながら呟いた響の声を聞き、ハッと我に返ったラファエルは「魔界王様〜!?」と今更の驚きを見せた。
そんなラファエルを気にも留めず、ルシファーの話に響は「面倒なことになってんな〜」と笑う。
「ルシファー、腹減ったからメシ作れよ」
とんでもなくマイペースな魔界王の突然の要求にも笑顔で返事をしたルシファーは、キッチンへと消えていった。
束の間の日常風景に若干の安心感を覚えたラファエルは、目の前の主人をまじまじと見つめる。
その視線に気付いた響は目を細めて笑う。
「お前、天使か?名前は?」
「え、あ、ラファエルです」
「ラファエルっつーと四大天使のか?この坊主ルシファーとも契約して、そんなに魔力あったのか……」
「いえ、ご主人は魔力皆無でした。私はルシファーが契約した人のバランスを保つために契約していただけですので……」
ぽかんとした顔でラファエルの話を聞いていた響はすぐに快活な笑い声を上げる。
「おいルシファー、あんま天使のこと振り回してやんなよ可哀想だろ」
キッチンから「申し訳ございません!」と声を上げながら、即席の焼きそばの入ったフライパンを持って出てきたルシファー。
「お待たせいたしましたリオ様!お召し上がりくださいませ!お口に合うとよろしいのですが……」
差し出された箸を持ち、手を合わせた響は「いただきます」と呟く。
その光景に、主人の面影を見たラファエルは胸の奥がぎゅうっと痛んだ。
焼きそばを口に入れた響は数回の咀嚼の後に感動したように「人間界のメシウマ!」と声を上げた。
「お口に合って何よりです」
嬉しそうに微笑みを向けるルシファーをよそに、話を再開する響。
「多分リリア、このままほっとくと暴れ続けるだろうから一回会って話がしたい」
その言葉を聞いたルシファーは「探し出します」と呟き指を鳴らす。
周りにルシくんが大量に生成され、ルシくん達は蜘蛛の子を散らすように外へと飛び立っていった。
それをぼんやり眺めていたラファエルが、思い出したように「あ!」と叫ぶ。
「多分皆心配してるよ!魔界王様、お姿だけでいいので貸してください!」
まだ焼きそばを食べたそうな響の手を引いて、ラファエルは外へと飛び出した。
ひとまず、緋菜の家へと契約者達を集めて事情説明をしようと試みる。
悪魔達は椅子に腰かけた響を一目見るなり、全員が跪く。
天使達も何かを感じているのか興味津々な様子だった。
改めてあの後の経緯をラファエルが皆に説明した。
「ご主人は無事では無かったけど無事でした!」
説明も終わり、契約者達に囲まれる響。
「心配したよ〜」
駿河が胸を撫で下ろす。
そんな駿河を見上げて響が口を開いた。
「おう、人間脆いからな、お前らは無茶すんなよ」
元の響の人格から想定していた返事とはかけ離れた言葉が返ってきて、契約者達は呆気にとられる。
皆がルシファーの方を振り返り「響くんじゃない〜……」 と寂しそうにすると、腕を組んで呆れたような顔をしたルシファーが「そう言っただろ」と突っ込む。
そんな人間達に注意喚起をしようと響は皆に囁く。
「いいか、金髪センター分けで青目の若い男見たら……」
そこでルシファーが弾かれたように振り返り、ある一点を見つめる。
その様子を横目で見ていた響は話をやめて、ルシファーの言葉を待つ。
「いました」
小さく呟かれたルシファーのその一言を確認した響は、ゆっくりと目を閉じて立ち上がる。
ルシファーとラファエルを両脇に従え楽しそうに笑った響は、照の元へと歩き出す。
「さて、俺様直々に人間に説教たれてやる」