天獄の救世主様っ!   作:弥代海月

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22話

天使と悪魔を両脇に従えた響は、人気(ひとけ)の無い川辺を歩いていた照の目の前に立ちはだかる。

腕を組んだ響が眉を上げる。

「よぉ、相当可愛がってもらったみてぇだな」

それを聞いた照は人懐っこい笑顔で立ち止まった。

「あれぇ、ようやく覚醒したの?遅かったね」

屈託の無い笑顔を向ける照に、響は目線を逸らす。

「人間界は魔力が溜まりづれぇんだよ」

「さっさと起きて効率良く回収したら良かったのに」

「そこまで必死に生きてないんでな」

照は薄く目を開けて微笑む。

「で、わざわざ会いに来て要件は何?」

鼻で笑った響は照へと向き直り、軽く首を捻る。

「それはこっちのセリフだ。俺をわざわざ起こして何企んでやがる」

その言葉を聞いた照は貼り付けた笑みを崩さずに響へと歩みを進める。

「企むなんてとんでもない!あの頃の天界と魔界を取り戻したいだけさ!」

響の前に守るように立ちはだかる天使と悪魔は、響にいなされ、後ろへと戻った。

そのまま照に両手を握られた響は興味無さげな顔で照を見上げる。

「どうかなリオ、僕とまた天界と魔界を……」

顔を輝かせ無邪気に笑う照の言葉を遮る形で響は口を開いた。

「くっだらねぇ」

照は口元にだけ笑みを湛えたまま響を見据える。

明らかにピリついた空気の中、ものともしない響が両手を振りほどいて照の事を鋭い目付きで見つめ返す。

「天界も魔界も俺らが居なくてもやっていけてるじゃねぇか。お前天界の様子見に行ったのか?上手いこと回ってるぞ。どうせ魔界の現状を悪魔数匹から聞いた程度だろ?とんだ情弱じゃねぇか」

冷たい目を向ける照に、響は畳み掛けるように言葉を続ける。

「それに天界も魔界もあの頃なんかよりずっと良くなってる。俺らが戻ったってあの頃みたいにはもう戻らねぇよ」

話を聞いていた照は表情に悲壮感を滲ませて響を見下ろす。

「どうしてそんなこと言うの?」

悲しそうに俯いた照をしっかりと見据えて、響は続けた。

「なぁ、勘違いしてるみたいだから言っとくが、お前あの頃悪魔に騙されてたんだよ」

 

それは千年程前のあの日。

天界で仕事をこなしていた悪魔は閃いた。

愚鈍な天界王を利用して、天界を悪魔が過ごしやすい場所にしようと。

魔界は完全実力主義。

弱い悪魔は淘汰される一方だが、天界は天界王の作った階級制度によって絶対的な秩序がある。

ここでなら、魔界で踏みにじられるような悪魔達だって活躍出来るはずだ。

数人の同志を募り、悪魔達は遂に行動に移した。

天界王と接触し、懐へ潜り込み、「天界をより良くしたい」などとそれらしい言葉を囁き、天界王を徐々に外界から隔離、悪魔達が過ごしやすいよう天界の環境を整えていく。

全てが完璧なはずだった。

天界王の悪い噂を聞いた天使長が運悪く、悪魔と天界王の話し合い途中に出くわすまでは。

天界王は悪魔達を信じていた。

自分の目で天界を見に行く事は出来なかったが、悪魔達が伝えてくれる天界の様子は素晴らしいものだった。

本当に天界がより良くなると信じていた。

悪魔達の都合のいい駒として使われ、愛していた天界を自分の手でめちゃくちゃにしていた事にも気付かずに。

これからどんどんと良くなっていくはずだった天界を見届ける事無く、右腕として使っていた天使長に殺され、失意の中疑問だけが渦巻く。

どうして?

 

どうして……?

 

「まぁ悪魔共の一線越えた行動に気付けなかった俺が悪かったよ。お前の性格知ってたのに。そこは悪かった」

頭を軽く下げた響の目線の先の地面にぽたぽたと水滴が落ちた。

顔を上げると、溢れる涙を拭う事もせず相変わらず笑みを湛えた口元のまま照が俯いていた。

「僕皆に酷いことしちゃった。天使にも悪魔にも人間にも。人間も一人殺しちゃった。ごめん、ごめんなさい」

溢れ続ける涙をしきりに拭いながら、嗚咽を零す照を見てふっと笑った響は「もう悪魔なんか信じるんじゃねぇぞ」とだけ言い残しその場を去ろうとする。

「僕、やり直せるかな。こんな酷いことしちゃったけど、まだ許してもらえるかな……」

背中に掛けられた声に振り返った響は眉を下げて笑った。

「謝りゃいい、俺らもう人間だしな」

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