天獄の救世主様っ!   作:弥代海月

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最終話

解散したかと思っていた契約者達は、響達の帰りを待っていた。

心配そうに駆け寄った駿河は、後ろを歩く照の姿を見て立ち止まる。

臨戦態勢に入る天使と悪魔達を制止した響は、足取りの重い照の背中を押し、皆の前へと突き出した。

戸惑いつつ響を振り返った照に笑いかけた響は「ほら」と励ます。

躊躇した照は、少し迷って目線を泳がせたが、意を決して皆の方へ向き直り頭を下げた。

「沢山迷惑かけてしまってごめんなさい。謝っても許されないことをしたのは理解してるつもりです。でも僕が間違ってたって気付けたから、謝りに来ました。ごめんなさい」

深々と頭を下げて言葉を紡ぐ照の様子をただ見詰めていた契約者達は、言葉を聞き終えて顔を見合わせる。

頭を下げたままでいる照の元へ姫莉が近付き、そのまま頭を叩いた。

突然の事に驚き、頭を押さえて顔を上げた照がぽかんと姫莉を見つめていると、姫莉は照の顔を指差して口を開いた。

「一番損害出てんのは璃玖の家なんだから璃玖に誠心誠意謝んなさい。次は無いから」

その言葉に後ろから璃玖が「そうだそうだ!」と片腕を上げる。

そのまま契約者達に囲まれ、最初こそやいやい言われていたものの楽しそうに話し始めた照。

その様子を少し離れた場所で笑いながら見ていた響に、ルシファーが横から声を掛けた。

「あの、リオ様」

「その名前で呼ぶな」

軽く小突いた響をルシファーはあまり気にとめず、言葉を続けた。

「魔界に戻っていただけませんか」

目線を逸らして黙り込んだ響を見下ろしながら続ける。

「響様として生きた記憶があるのなら、魔界の現状もご理解いただけているはずです。どうかもう一度魔界王として魔界を治めていただけませんか」

「……俺はもう戻れねぇよ、お前だって分かってんだろ」

響の、照に向けられた視線は優しかった。

すぐにルシファーに向き直り、眉を寄せて笑う。

「それに俺が居なくてもちゃんと回ってる。お前らは大丈夫だ」

「リオ様……」

寂しそうに眉を下げたルシファーを見て、すぐに視線を地面に落とした響は胸に手を当てる。

「まぁもし、どうしても魔界王が欲しいならこの坊主にでも頼め。返事はどうなるか知らねぇし、人間の寿命じゃたかが知れてるだろうが……お前は何回でも、何千回でも俺のこと見つけ出してくれんだろ?」

悪戯っぽく笑って見せた響は「待ってるからな」と呟いた後にハッと目を見開く。

本来の人格が表に出たようで、今まで存在しなかった膨大な魔力と、魔界王の記憶に混乱した様子だった。

「ルシ、ファー……」

寂しそうに笑っていたルシファーは、混乱したまま自分を見上げる響に気付き、口を引き結ぶ。

目を閉じて、最初に出会った頃と同じように目の前に跪き、主人の顔を見上げて目を合わせた。

「涼村響様、魔界王になっていただけませんか。私共には貴方が必要です」

いつの間にか談笑を辞め、契約者達はその様子を少し離れて見守っていた。

沢山の視線に気付いてたじろいだ響は、一歩だけ下がって口を開く。

「ちょっと……考えさせて……」

その言葉を聞いてやはり駄目か、と項垂れたルシファーに響が続ける。

「もう少し魔界のことを知ってから……なら……」

顔を上げたルシファーの目には少し恥ずかしそうに視線を逸らす主人が映っていた。

湧き上がる喜びを噛み締めたルシファーは元気よく返事をした。

 

十数年後。

人間界で社会人となった響の元には沢山の悪魔が集っていた。

魔界王となった響は人間界での仕事に追われ、魔界のあらゆる手続きや引き継ぎにも追われ、パンク寸前だった。

今日も仕事中に舞い込む悪魔からの相談やら叱責に頭を抱えている。

仲介に入ったルシファーに怒号が飛び、そんな悪魔達をルシファーは武力で黙らせる。

それを眺めて優しく微笑んだラファエルが一人小さく呟く。

「ほんとになっちゃうんだもんな〜、ずるいな〜」

そこへ後ろからやってきた現天界王の照が、同じように響達を眺めながらラファエルの隣に並ぶ。

「僕じゃ不満?」

ラファエルの顔を覗き込んで微笑んだ照に、ラファエルは目を閉じて顔を背ける。

「滅相もな〜い」

人間の王を据えた天界と魔界が、これからどのような変化を遂げるかは分からないが、少なくとも今は全ての天使と悪魔がこの変化を前向きに捉えている。

きっといつか、ふたつの種族が人間を介して手を取り合う平和な世が訪れるのかもしれない。

新しい天界王と魔界王はきっとそんな世界を望んでいる。

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